sect.5 作戦会議2
「ブブガナ山脈地方にある修験者たちの里をご存知かな?」
「聞いたことがないね・・・」
「そこって、ヌシ神の山?」
誰もが知らないという様子で顔を見合わせる中、ランブーがポツリと答えた。
だがその場に居合わせた他の者は、誰もが聞いたこともないという表情で首をかしげている。
「うむ・・・。だが、他の者は知らないか」
そう言いうとラガンナ院長は説明を始めた。
「今現在ではヒトの生活を脅かしているような生命体をすべてヌシと呼んでいるが、古来よりヌシという言葉は、土地や地域を護っている神がかった霊的存在の呼称であったことをご存知かな?」
「言い伝えでは百年生きているという噂の巨大魚が、湖や沼のヌシだとかいうアレのこと?」
「そう、まさにそれです」
ニトの発言にラガンナが反応する。
「残念なことに、本来は畏怖と崇拝を込めて使われていたヌシという言葉が、今では単に厄介な生物をさす言葉に成り下がってしまっておる」
「仕方がないだろうね。言葉はナマモノだから、その時期その時代で意味を変えてしまうこともあるから」
一体何の話をしているのやらといった様子でシャンネラが意見を述べる。
「そう仕方がないことなのです、言葉もまた生き物ですから、それをコントロールすることなどできはしない。だから区分することが必要なのです。なので我々限られた一部の者は、その特別な存在を区別するためにヌシ神と呼んでいます」
「限られた一部の者?」
「・・・それを話すと少し本題から離れてしまいますので、まあ今回は我々とキトトブの協力者たちということにしておきましょう。話を戻しますと、ブブガナ山脈地方にヌシ神はいます。その名を霊峰ヤムナ、またの名をヌシ神ヤマツガミ」
「ヤマツガミだって!?」
「知ってるの?オババ」
「まあ知っちゃあいるけど・・・。そんなもの言い伝えというより、おとぎ話の類じゃないか」
「おとぎ話ではありませんよ、ただ知られていないだけ。それだけです」
「なんてこった」
ラガンナは何気ない普段の調子で話しているので話の重要性を見落としてしまいそうになるが、聞き流してしまうわけにはいかない情報が多分に含まれていた。
キトトブと協力者たちがそう呼ぶというヌシ神。ランブーがその言葉を知っていたということは、ヌシ狩りの民もキトトブの協力者なのだろう。いや以前ラガンナがヌシ狩りの民の子供に戦闘訓練を施しているのはキトトブだと言っていたことからすると、キトトブとヌシ狩りの民の間にパイプがあるのはハナから暗示はされていた。
そしてブブガナ山脈地方の修験者、ヌシ神ヤマツガミと共にその地に里を構える彼らも、話の流れからしてキトトブの協力者なのだろう。キトトブが持つ情報網が優秀だということは分かっている、だが一般には知られていない情報までもを協力者たちと共有してキトトブは何をやっているのか・・・。
自分たちの持っているキトトブのイメージは、もしかすると氷山の一角だけを見てすべてを知っている気になっていたのかもしれない。まあそれもキトトブの情報戦略なのかもしれないが。
そしてそのキトトブから全面的な協力を引き出したシュカヌ。
あどけない顔で近くに座る少年の顔をシャンネラは見つめた。
もちろんそれは造られた姿だということは分かっている、だがこの少年が動かした力の大きさをシャンネラは再認識した。
「・・バ、オババ?」
「あ、ああ!ちょっと考え事をしてたよ」
ニトに声をかけられてシャンネラは正気に戻る。
「ブブガナ山脈地方に居を構える修験者たちは、山越えをしようと侵入してくるヌシ級の生き物を排除しています。特に今のこの時期は、冬を前に越境しようとする生物が多くて連日激戦状態といいます。皆さんにはこの地で、実戦訓練を繰り返してコンビネーションの精度を上げていただきたいのです」
ラガンナの言葉で穏やかだった広間の空気がざわつく。
「もちろんこの訓練には命の危険を伴います。がしかし生半可な気持ちや状態でエンゾと交戦すれば、間違いなく全員死ぬでしょう。その後はこの星の生命がヤツに食い尽くされるまで誰も止めることはできなくなります。さあどうしますか?今降りるなら誰も止めません、皆さん覚悟はありますか?」
ラガンナ院長の言葉はとても柔らかかった、だけどその奥底にあるのは気持ちのない者は去ってくれという明確な意思だったと思う。
そのときシュカヌは何を考えていたんだろう?
伏し目がちにうつむいて、君はじっとしていたね・・・。




