sect.27 疑心暗鬼
海に面した断崖に張り付くように、壁面を削って造られたザパンの村。
崖下に広がる海の水平線からは太陽が顔を覗かせ、朝日に照らされた崖をすこし肌寒い潮風が吹き付けていた。
そしてその崖の上ではユマやシャンネラたちが乗った数台のスライドボードと、ランブーやヌシ狩りの民たちが乗った狼犬が一列に並ぶ。
「3・・・」
「2・・・」
「1・・・」
「よし、いっくよ~!」
ユマの元気な掛け声で、彼女とシュカヌの乗ったスライドボードが勢いよく走り出した・・・。
ランブーとの取引で、狂牛レヴナを討伐する手助けを請け負ったシュカヌたちは、その後の昨夜ザパンに駐留するヌシ狩りの民たちと打ち合わせを進めた。
「ヌシを倒す手伝い?そんなこと聞くまでもない、なあシュカヌ」
「やるに決まってる!」
ニーガ・ルージの問いかけにシュカヌは、何をいまさらと言わんがばかりに即答する。
「僕たちには迷っている余裕もないし、ここでお互いの連携を試すには良いチャンスだからね」
各地でヌシとなって人々を追いやっている巨大生物を狩って、生計を立てているヌシ狩りの民。
しかしとはいえ彼らがどんなやり方でその狩猟を行っているのかも分かっていない中、ヌシ狩りの民と共闘してエンゾと戦うのは無謀だという懸念がシュカヌたちにもあった。
そう考えれば、このレヴナ狩りはお互いの手のうちを出し合う絶好の機会といえた。
「成程わかった。じゃあ作戦を決めようか・・・」
ランブーは一同を前に、説明を始めるのだった。
「でもさぁ・・・。ホントにこんなんで、レヴナをおびき寄せることができるのかなぁ?」
「ん?」
草木もまばらな地帯を行くスライドボードを操りながら、ユマは背後のシュカヌに語り掛ける。
「ナワバリ意識って言ったっけ?ホントにこんな風船みたいなのでヌシが釣れるの?」
見るとユマたちの後方数メートルといったところを、大きな赤い風船のようなものがスライドボードに引っ張られている。
「うーん、どうなんだろう?確かに動物は自分の縄張りに侵入者がいたら、それを排除しようとする行動を起こすようだけど、その意識が特別強いヌシは必ず食いついてくるってランブーは言ってたね」
動物の習性を利用した作戦と、彼らの使う奇妙な道具で巨大生物のヌシを狩るというのが、彼ら"ヌシ狩りの民"のやり方らしかった。
そして今回の作戦は、この赤い風船のような囮でレヴナを刺激して、ここからほど近い雑木林に誘導する。ぞの後、その場所で待機しているヌシ狩りの民が罠を張り、レヴナの動きを封じて一斉に攻撃を仕掛けるというものだった。
つまりユマたちシャンネラ組に与えられた仕事はレヴナの誘導で、ユマの乗ったスライドボードで囮を引いているというのが今の状況なのである。
「まあ悩んでいても始まらないんだし、とりあえず当たって砕けろだね!」
「(・・・いやユマ、当たっても砕けちゃダメだよ)」
こぶしを小さく握りしめてそう言うユマの言葉に、そう心の中でつぶやくシュカヌだった・・・。
「ねえランブー、あいつらホントに信用できるの?」
雑木林の一角でレヴナを捕らえる罠を張りながら、チクリがランブーに問いかける。
「わからない・・・」
ランブーは作業の手を休めずに短く答える。
「また利用されて裏切られるんじゃないの?」
「・・・」
チクリに何も答えられないランブーがそこにいたが、彼女の言葉には訳があった。
およそ二年前ヌシ狩りの民に、ある事件が起こった。
山あいの山村ともいえる小さな集落。
そこで大蛇のヌシに苦しめられている民から討伐の依頼を受けたヌシ狩りの民は、その後自身たちも大きな損害を出しながらも、苦戦の末にヌシの討伐に成功した。
だが報酬を受け取る時になって、山村の民の態度が一変する。
最初に交わした契約の報酬が払えないと言い出したのだった。
この時の報酬は食料であったが、彼らも冬を越すために報酬を払う余裕がないと言い出した民にヌシ狩りの民は激怒した。そして止める村民を払いのけながら村中を捜索して出てきた食料は、ひと冬を越すのには十分すぎる量だった。
ヌシ狩りの民は村民たちに怒りを覚えたが、最初に交わした契約の食料だけをそこから受け取って村を後にしたのだった。
だが話はここで終わるはずだった・・・。
それからしばらくして後、ヌシ狩りの民は妙な噂を耳にする。
自分たちがならず者だと、あちこちで吹聴されているというのだ。
その噂の出所を突き止めると、それは例の山村の民の仕業であった。
この村民の汚いやり方についに我慢の限界がきた数人が、報復を求めていきり立つ。
当時のヌシ狩りの民の長は彼らを止めたのだが、血の気の多い若い男たちは長を振り切って山村へと向かってしまうのだった。そして彼らを止めようと後を追った長たちがそこで見たものは、無残に変わり果てた村民たちの姿だった・・・。
嘆いた長は村民に報復した若い男たちをヌシ狩りの民から追放したが、時すでに遅くヌシ狩りの民が村民を虐殺したという噂はどこからか瞬く間に広がってしまう。
そして信用を失ったヌシ狩りの民は、彼らの生きる術であるヌシ狩りの依頼が減って、その日食べるものにも困るほど追い詰められ今日に至っているのだった。
「たしかにシャンネラ盗賊団と組むなんて、以前なら考えもしなかっただろうね」
「でしょう!?」
そう答えるランブーにチクリが詰め寄る。
「だけど・・・。今までと同じことをしてたんじゃ、ヌシ狩りの民は滅んでしまう」
「う・・・」
ランブーの目には確かな決意がにじんでいた。
「でも生きるため、ヌシ狩りの民を変えるために僕が長に選ばれた以上、できることはなんでもやるつもりだよ・・・。たとえそれで皆から嫌われても」
「そうだよね、ごめん・・・」
自分より年下のランブーが民全体の事を考えて行動しているのに、自分は感情だけで話していることが恥ずかしくなってチクリは落ち込んでしまう。
「いいよ、気にしないで」
ランブーはシュンとなったチクリを横目で見ながら言う。
(そのためにも、ここで彼らを見極めなくちゃならない・・・)
ランブーは思いつめた表情で、作業を続けるのだった。




