sect.26 交渉2
「いいよ、話し合いのテーブルには着こう」
「え~っ!?それって、ただスタートラインに立っただけなんじゃ・・・」
それを聞いて不満そうに洩らすユマを、シュカヌがそっと手で遮る。
「それで、じゅうぶんだ」
シュカヌはきっぱりと答え、ランブーはそんなシュカヌの瞳を見つめたまま無言でうなずく。
「ちょ、ちょっとシュカヌ・・・」
ユマは戸惑うが、少年には届かない。
「それじゃ、こっちへ。あまり立派ではないけど、打ち合わせ用のテントへ案内する」
そう言いながらランブーは歩きだし、その後をシュカヌたちが付いていく。
その道すがら幼い子供たちが、彼らを好奇心に満ちた目で眺めているが、どの子供もとても裕福には見えない。
「なんだか聞いてた噂とは感じが違うね・・・」
囁くように語りかけてくるユマに、ニトは複雑な表情で首を縦に振った。
やがて数分歩いてたどり着いたテント周辺は、物々しい雰囲気に包まれていた。
テントの前で数人の者たちが直立不動で出迎えるが、その誰もが触れれば切れるようなアブナイ空気を滲ませた戦士の顔をしていた。だが逆に言えば、これから大事な話し合いが行われるというのに、これだけの人数しか集まっていないとも考えられる。恐らくここでは戦闘能力の高いものが、一族の決め事の決定権を持っているのであろう。
「これが"ヌシ狩りの民"か・・・」
ニトが小さくつぶやいた。
「こっちへどうぞ」
ランブーに促されるまま、テントの中へと進む一行。
中は二十人ほどが入れそうな、ここでは比較的大きなテントだった。そこに大きな円卓が部屋を占有するかのように据えられている。
「へぇ、中は結構広いんだね・・・。ヒャッ」
キョロキョロと部屋を見渡しながら独り言を言うユマに続いて、テントの前に立っていた戦士たちが入ってくる。
「彼らもこの話し合いに同席させてもらう」
「もちろん構わないよ」
そう言ったランブーに、シャンネラが答える。
「じゃあ、どうぞ座って」
その言葉に従って、それぞれが思い思いの席に腰掛ける。
「まずはその依頼の内容を詳しく聞こうか」
シュカヌはヌシ狩りの民たちにハーデルマークで起こった出来事、生命体のエンゾが二百年前に世界を滅亡に追い込んだ一因であること、その生命体を倒すために15日後に起こるであろう脱皮を狙っていてキトトブの協力を得られたことなどを、かいつまんで説明した・・・。
「なるほど・・・」
両サイドを戦士たちに囲まれたランブーが小さく言い、戦士たちは顔色一つ変えず話を聞いている。
「それからさっきの報酬の話だけどね・・・」
シュカヌに続いて、話を繋いだシャンネラの言葉にランブーがピクリと反応する。
「20万ゴルヂでどうだい?」
それがどの程度の金額なのかシュカヌには分からなかったが、それを聞いたランブーや戦士たちの様子から並の金額ではないことは想像に難しくなかった。
「・・・支払いは?」
「依頼を受けた時点で半分、依頼終了と判断したところで残りの半分を」
猜疑心のこもった表情で聞くランブーにシャンネラが答える
「ふん・・・」
だが、小さなオサは黙り込んでしまう。
「それから・・・。もしアンタらが望めばだけど、"鉄骨の町エルノマ"の一角にアンタら"ヌシ狩りの民"の拠点を提供してもいい」
これには今まで無表情で話の行く末を傍観していた戦士たちの顔色が変わった、そしてそれとは対照的にニトの顔色が悪くなる。
「ちょっと待ってオババ、大丈夫なの!?」
ヌシ狩りの民をまだ信用していないニトが不安を込めて問う。
その言葉に含まれる意味を理解していないシャンネラではなかったが、ニトに黙るように告げると聞く耳持たぬといった態度を示し、ニトはそれ以上何も言えなかった。
「ちょっとだけ時間をもらえるかな?」
そう言うとランブーは、戦士たちと小声でやり取りを始める。
最初に彼が長だと名乗った時には、罠ではないかとも訝った一行だったが、大人たちを相手に話をまとめる少年の姿は、紛れもなくリーダーとしての風格を持ち合わせていた。
「(戦闘民族って聞いて、どんな厄介な連中かと思ってもいたが、どうやら話が通じない相手ではないようだね・・・)」
シャンネラ自身も彼らを信用したわけではなかったが、手探りで相手との交渉を通じて"ヌシ狩りの民"が信用に足る相手なのかを見極めようとしていたのだった。
やがて戦士たちとのやり取りを終えたランブーが、ゆっくりとシャンネラに向き合う。
「こちらからの要求が二つある」
「なんだい?言ってみな」
「僕たちは、ここで受けたレヴナを倒すという依頼を遂行中だ。この依頼を途中で放棄したら、僕たちの民は信用を失うことになる」
「そうだね」
「そこでまず一つ目は、レヴナを倒すという依頼を優先させてもらう。つまりタイムリミットの15日以内にレヴナを退治できなければ、事実上そっちの依頼は受けられない」
「なるほど、それで二つ目は?」
「二つ目は・・・。そっちが僕たちを信用できないように、ヌシ狩りの民としてもシャンネラ盗賊団を信用していいものか判断に迷っている」
「それで?」
シャンネラは顔色一つ変えずにランブーに問う。
「・・・レヴナを狩る手伝いを頼みたい。理由はそっちが信用できる人間か試させてもらうのが一つと、その巨大生物と戦うのにそっちがどれだけヤレるのか戦闘能力を見極めたい」
ランブーの申し出は当然と言えば、当然の申し出であろうと思われた。
見ず知らずの相手と組んで、いざ窮地に追い込まれたときに自分たちを囮にされて逃げられては、たまったものではないだろう。
さらにはシャンネラたちが、ヌシ狩りの民に恨みを持っている何者かからの依頼を受けて、自分たちを壊滅させようと近づいてきた可能性も否定もできない。またその可能性を否定できないだけの理由が、彼らにはあった。
「なるほどね・・・。だってよ、どうするねシュカヌ?」
シャンネラがシュカヌの方に向き直ってたずねる。
ポン!
その時、ユマの服の中からニーガ・ルージが顔を出す。
「おおお!なんか出たぞ!」
それを見て、ヌシ狩りの民の戦士たちが一瞬動揺した。
「うろたえるでない、ヌシ狩りの民よ!」
やけに偉そうな口調でニーガ・ルージが叱責するが、ユマの腹のあたりから顔を覗かせるその姿ははっきり言って"マヌケ"な事この上なかった・・・。
だがニーガ・ルージはそんなこと気に留める様子も見せずに話を進めた。
「フン、ヌシを倒す手伝い?そんなこと聞くまでもない、なぁシュカヌ」
その場にいた全員がシュカヌに注目する。
「うん、やるに決まっている!」
シュカヌはきっぱりと言い放った・・・。




