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マブイ【魂】プロジェクト  作者: °Note
Chapter Ⅲ 失われた過去からの使者
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sect.19 展望

「オヌシの帰りを永いこと待ちわびておった、友人を起こしておいたぞ」

ハザサがそう言い終わらないうちに、物陰から姿を現したその正体に、シュカヌが驚いて声を上げる。


「げっ、ニーガ!?」

「何が“げにーが”だ」

黒猫の姿をした声の主は、不満そうな声でそう言いながら続けた。


「まったく・・・。“ちょっと待ってろ”と言って、我輩をおいて出て行ったまま212年と63日。やけに早い御帰還ではないか、ええシュカヌよ?」

「いやぁ~・・・」

シュカヌはニーガ・ルージの皮肉に、頭をポリポリ掻きながら視線をそらしている。

そして一言。

「待った?」

「・・・お前というヤツは」


だがその場に少し気まずい空気が流れ始めたその時、突然ユマがニーガ・ルージのもとへと駆け寄り、その黒く小さな体を抱きかかえた。

「きゃあー、カワイイ!」

「なんだなんだ!?」

慌てふためくニーガ・ルージだったが、ユマはそれを気にするでもなく"カワイイカワイイ"と連呼しながら黒猫の顔に頬ずりしている。


「ねぇねぇシュカヌ、この子が前に話していたニーガちゃんなの?」

「(ニ、ニーガちゃん・・・)うん、そうだけど・・・」

シュカヌは驚いたような様子で答える。


「おいシュカヌ、この娘はいったい何者なのだ!?」

ニーガ・ルージはユマに抱きかかえられたまま、頬ずりされてイヤそうに顔を歪めてたずねた。

「えっと・・・。説明すると、ちょっと長くなるんだけど・・・」

「やれやれ・・・」

「ふおっふおっふおっ・・・、何やら騒がしくもあるが、賑やかになって良いではないかニーガ・ルージ殿」

「院長はそう言うが、我輩はこの娘が苦手だ」

ハァっとひとつため息をつきながら、ニーガ・ルージはハザサに向かって愚痴をこぼす。


「なんであたしの事が苦手なの?猫ちゃん」

「だから我輩は猫ではない!」

「へえ~っ、そうなの?」

そう言いながらユマはニヤリと意地悪な笑みを浮かべ、懐から猫じゃらしのようなボンボンを取り出した。

「じゃあこんな物になんか興味無いんだね」


ユマはそう言いながらボンボンをちらつかせて、うりうりと小刻みに動かしてみる。

「と、当然だ!そんなものに心踊らせる我輩では・・・」

たが言葉とは裏腹に、ニーガ・ルージの手はピクピクと反応している。

「うりうり・・・」

「不本意だ、不本意なのだ。我輩は小悪魔にそそのかされている!」

そう言うと猫の姿をしているがそうではないはずのニーガ・ルージが、楽しそうに全力でボンボンを追いかけ始めた・・・。



「・・・さて余興はこれくらいにして、何があったのか説明してもらおうか」

ユマが飽きたことでようやく解放してもらえたニーガ・ルージが、シュカヌの元へとやってきて本題に入るよう促す。シュカヌはゆっくりとその場にいる全員に向き合い、それぞれに欠けた情報を補うようにして説明を始めた。


「二百年前、"死せる都"こと廃都ハイネムにエンゾをおびき寄せる事ができた僕は、そこでの死闘の末にヤツを核の状態まで退化させることができた。生命体もいない、エネルギーの元となるものもない、まさに枯れた場所でヤツを退化させることで、破壊できなくても封じ込める事には成功したはずだったんだ」

「そうか、あんなバケモノでも生きているからには、エネルギーを吸収しなければ衰弱してしまうのか・・・」

ニトの言葉にシュカヌが無言でうなずく。


「でも地下深くの何もない場所で力尽きた僕にとってもそれは同じことで、互いに相打ちにはなったけど、誰にも邪魔されなければ風化して双方消えてなくなるだろうというのが当時の目論見だったんだけど・・・」

シャンネラたちは何と言っていいのか困ったような表情で、シュカヌを見つめている。


「でもそこには誤算があった・・・。二百年経っても、エンゾの生体組織が死滅しないほど根強いものだとは、誰も知らなかった。そしてまさかあの場所からヤツを発掘しようとする者が現れるなんて、あれほど苦しめられた二百年前の僕たちには思いもよらなかった」

「えっ、それって・・・」

「うん、ユマ。君と出会った、あの時だよ」

何か言いたげに反応したユマにシュカヌが答える。


「発掘隊が持ち込んだ熱と音のエネルギーで、わずかに体を動かすほどができるほどに回復した僕は、ヤツが地上に運び出されるのを阻止しようとしたのだけど、あの砂嵐の中で船から落とされてしまった。そのときダメージを受けた体を動かせずに、砂海で埋まっていた僕を助けてくれたのがユマだったんだ」

「ふむふむ・・・」

「そしてそれからエンゾを追いかける旅が始まり、途中で出会ったニトやシャンネラのオバさんの力を借りてハーデルマークまで行ったんだけど、その時にはエンゾが復活してしまっていた・・・」

「私どものところにも、ハーデルマークが崩壊したという情報は入ってきておりました」

ラガンナがキトトブの情報網で、そこは把握していたことを告げる。


「なるほどな・・・」

これまでの経緯を理解したようにニーガ・ルージがつぶやく。

「それで逃げたエンゾの情報を求めて、このハザサ院に戻って来たということか?」

「うん」


「キトトブの情報網って、そんなにすごいの?」

「キトトブは世界中にあるからね。僕たちも知らなかったけど、さっき見た装置にしても情報収集能力はかなり高いと思うよ」

「へぇ~、そうなんだ」

ヒソヒソとたずねるユマに、ニトが答える。


「・・・残念ながら、私のところにも逃げたエンゾの情報は入ってきておらん」

ハザサが虚ろな瞳で、シュカヌを見つめたまま答える。

「そうですか・・・」

シュカヌは希望がついえたように肩を落とし、その場をやりようのない沈黙が包んだ。


「次の満月はいつだったかな?」

「えっ?」

「今日はもう新月だから、たぶん15日後くらいじゃないかな?でもそれがどうしたの?」

突然話を聞いていたニーガ・ルージが誰に聞くでもなく問いかけ、それにユマが答える。


「そうか!」

「分かったか?」

「?」

突然何かが分かったようにシュカヌが反応して、ニーガ・ルージと言葉を交わしているが他の者には何の事だかさっぱり分からない。


「脱皮だ・・・」

シュカヌは一人つぶやくように言い、ニーガ・ルージがコクリと小さくうなずいた・・・。



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