sect.23 探検
「ほんとにこんなトコまで来て大丈夫なのかな?」
研究所内をニーガ・ルージと探検するシュカヌ。
人気のない通路を、一人と一匹的な風貌の二人が進む。
「心配するな、お前も我輩もこの研究所の一員には違いない」
「そりゃ、ニーガ・ルージはいいよ。この辺をうろついていても猫が紛れ込んだって思われるだけだろうけど、僕はどうみても疑われるに決まっているもの」
「誰が猫だ・・・」
不満げにニーガ・ルージがぼやく。
二人がいるのはオートマタの開発・実験をおこなっていたトナム博士のセクションだった。今となっては主のいないセクションになってしまっていたが、その時のシュカヌとニーガ・ルージがそのことを知る由もなかった。
「なんだか薄気味悪いところだね・・・」
不安げにシュカヌがつぶやく。
「そうはいっても、我々はここで生まれたようなものだぞ」
「そうなの?」
「我々の体のベースとなる骨格は、ここで造られたオートマタだからな」
「ふ~ん、よく分からないや」
「・・・シュカヌお前、分かろうとする気がないだろう?」
「えっ!?そんなことは・・・ないよ?」
「まあいい、こっちだ遅れるな」
そう言いながらニーガ・ルージは、後ろを振り返りもせずに先に進む。
「どこに行くの?」
「付いて来ればわかる」
「ふーん」
辺りをキョロキョロ眺めながら、シュカヌはニーガ・ルージの後に続く。
そのとき彼の目に人影のようなものが映った。
「うわっ!?」
「どうした?」
「なんか人影が・・・」
「人ではない、おそらくオートマタだ。」
ニーガ・ルージの言葉通り、まもなくシュカヌの視界にメタリックな機械じかけの人形が入ってくる。
「心配するな、別にとって喰われたりはしない」
おどおどした様子のシュカヌに向かって、ニーガ・ルージがなだめるように言う。
「ここだ、ちょっと待っていろ」
やがて二人は裏口のような通路に設けられた扉の前につく。そこでニーガ・ルージが立ち止まり、じっと扉を眺めて止まっている。
しかしよく見てみると、彼の首輪が不思議な光を放っていることにシュカヌは気付いた。
しばらくして自然に扉が開きはじめる。
「何をしたの?」
「セキュリティシステムにアクセスして、扉を開いただけだ」
「そんなことが出来るの!?」
目を丸くしてシュカヌが問う。
「たいした事ではない。その気があるならお前にも可能だ」
「僕には、そんな力ないよ!?」
「ないのではなくて、知らないだけだ。お前の身体は、お前が思っている以上に大きな力を秘めている」
「ふ~ん・・・」
「ムダ話をしているヒマはない。先を急ぐぞ」
「・・・う、うん!」
納得しない様子でうなずくシュカヌを置き去りにして、ニーガ・ルージは歩き出す。
扉を抜けて外に出るとそこは、アリア博士の研究室があったセクションだった。
「ここは?」
「アリア博士の研究室だった場所だ。誰にも気付かれずにここへ抜けるには、この通路が最短の近道だからな」
ニーガ・ルージはシュカヌに説明するでもなく、独り言のようにつぶやく。
「この部屋だ」
そう言ってニーガ・ルージが立ち止まる。
そして何かを思い出したかのように、振り返りシュカヌと向き合った。
「よいか、時に現実を受け止めるというのは、誰にも過酷なものだ。だがお前はそれを乗り越えられる力を持っていると信じているからこそ連れてきた。決して目を背けるな」
「うん・・・?何のことか、よく分からないけど・・・」
そう言いながら二人は部屋の中に踏み込む。
部屋の中は無数のケーブルが散乱する、こじんまりとした空間だった。
そして狭い通路を進む彼らの目の前に、突如巨大な円筒形の容器が現れる。
その中には見慣れた人物の姿があった。
「かあさん!?」
巨大な円筒形の容器の中には、閉じ込められたアリアが浮かんでいた。
アリアの顔には生気がなく、眠っているというより死んでいるようにすら見える。
「かあさん!!」
ドンドンドン・・・
シュカヌは母親を呼びながら必死に容器を叩くが、彼女からは何の反応も返ってこない。
「ムダだ、返事は返ってこない」
ニーガ・ルージが冷たい口調で言い放つ。
「なんで・・・!?」
「彼女の魂はここにはない・・・。なぜならば、マザーシステムに取り込まれてしまったから」
「・・・まさか」
「そう、タマウツシのときだ。魂が無防備な状態で、マザーシステムを通じてお前の精神に介入したせいで、マザーシステムに引きずり込まれてしまった・・・」
「そんな・・・」
「あれからかなりの時間が経過してしまっているからな、完全にマザーシステムの一部として同化してしまっているのだろう」
ニーガ・ルージは悲哀のこもった声で、悲しい現実を伝えた。
「だが心配するな、そのために我輩がお前の元に遣わされたのだから」
ニーガ・ルージの言葉に、シュカヌは軽く戸惑いを見せた。
「ニーガ・ルージ、きみは一体・・・」
「タカネはアリア博士の助手だった男だ。我輩が造られたのは悪意に満ちたこの研究所から、シュカヌお前を助けるためだ」
「えっ!?」
「そしてもしもの時のことを考えて、タカネに指示を与え準備していたのは、お前の母親アリア博士だ」
「心の準備をしておけ、まもなくこの研究所で反乱が起こる。そして我々はその混乱に乗じてここを脱出するぞ」
「どうやって?どこにいくの?」
「全ての元凶であるエンゾを打ち倒すべく、アリア博士のもとで働いていた人々がすでに水面下で動き始めている。お前は何も心配することはない、アリア博士の部下だった者たちが準備を進めているから」
「・・・まあ、そういう事だ」
突然聞こえた背後からの声に、シュカヌが慌てて振り返るとそこに一人の男が立っていた。
「タカネさん・・・」
「残念ながらアリア博士を助け出すことは、俺達の力では無理だ・・・。だがアリア博士が必死で守ろうとした君だけは、必ず俺たちが助け出してみせるよ」
男はアリアの入った容器にそっと触れながら、静かに語った・・・。




