sect.21 ニーガ・ルージ
「ちょっと待って!ワケがわからないよ」
シュカヌの話を聞いていたユマが、突然大きな声で叫んだ。
シャンネラやニト達は、シュカヌの話を頭の中で整理しているのか押し黙ったままだった。
「・・・わからないって?」
シュカヌが悲しそうな表情で、ユマにたずねる。
「なにもかもよ」
ユマは混乱の極致にいた。
「落ち着いて、ユマ。シュカヌは人間によく似た生体構造をしているけど、成形物質は人間とは異なるってことだよ」
やがて落ち着かないユマを気遣って、ニトがゆっくりと説明する。
「どういうこと!?へんな言葉を使わないで。難しくて、わからないよ!」
苛立ちを隠そうともしないで、ユマはニトに詰め寄った。
「つまりは、ヒトじゃないってこと・・・」
「・・・何で。ナンで!?」
泣きじゃくるユマに、ニトがそっと寄り添う。
「・・・それでアンタは、本当にシュカヌなのかい?」
しばらくして多少落ち着いてきたユマを横目で見ながら、シャンネラがシュカヌにたずねる。
「どういう意味?」
「ああ、ちょっと言い方がわるかったね。アンタは本当にシュカヌの魂なのかい?」
この質問にはシュカヌも一瞬驚いた表情をみせて答えた。
「わからない・・・。本当にシュカヌなのかもしれないし、シュカヌの知識をコピーされただけの人形が、自分をシュカヌだと認識しているだけなのかもしれない・・・。でもひとつ言えるのは、あのタマウツシが成功した時に、かあさん“アリア博士”と僕のオリジナルの身体は命を失った」
「そうかい・・・」
シャンネラは神妙な面持ちで話を聞いていたが、あることに気付いた。
「でも最初にあんたが言ってた“世界を滅ぼしたのは僕だ”っていうのと、ハーデルマークで出会った化け物を“エンゾ”って呼んでいたのには関係があるのかい?」
「うん、何から話せばいいのか。タマウツシが成功してその後に・・・。」
戸惑いながらもシュカヌは静かに続きを語り始めた。
・・・ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・
周期的に機械音が響く研究室。
タマウツシに成功したシュカヌは、医療セクションではなく研究室に保護されていた。
手術者用の着衣のような、簡素な布切れを身にまといベッドに横たわっている少年。
あのタマウツシから数週間、彼には何をやっているのかもわからない生体検査を幾度となく繰り返され、いいかげん自由のきかない生活に飽きがきていた。
「ねえ、かあさんはまだ来れないの?」
シュカヌが傍らでデータをまとめている研究員にたずねる。
「まだです。アリア博士はタマウツシでの干渉で精神障害が残ってしまって、別の部屋で精密検査を続けていますから」
「部屋から出られないの?」
「出られません」
シュカヌとの会話を拒絶するかのように、研究員はそっけなく短直に返答する。
「だったら、僕が様子を見に行くのは・・・」
「ダメです!今は誰とも面会謝絶です」
「そう・・・」
バタバタ・・・
部屋の外で人の往来の気配がしている。
「なに?またキトトブの人たち?」
「・・・・」
ここ最近、彼の周辺は非常に慌しかった。
法衣をまとったキトトブ教の関係者が、研究所内を行きかう様子をシュカヌは度々目にした。そして彼らは、いつも決まって第7セクションに向かって消えていく。
「あの人たちは何をしているの?」
シュカヌの質問は当然の疑問だった。研究所内を歩き回っている僧侶達の姿は、誰が見ても違和感を覚えずにはいられなかった。
「・・・・」
少年の言葉に、研究員は苛立ちを押し殺している。
「ねぇ?」
「ウルサイな、少し静かにしてくれないか?作業に集中できない!」
語気を荒げて研究員はシュカヌを睨みつける。
「・・・ゴメンナサイ」
「オイ、どうしたんだ?」
室内の騒ぎを聞きつけて、別の研究員が顔を覗かせる。
「ああ、タカネさん。なんでもないです、実験体がいちいち話しかけてくるものだから作業が進まなくて」
「おい、お前なに言ってんだよ!?」
「・・・ハイ!?」
語気を荒げて非難するようなタカネの物言いに、イラついていた研究員は焦った様子で反応した。
「この子にはシュカヌっていう名前があるんだろ!?実験体なんて呼び方をするなよ。なあ、少年」
そう言ってタカネは、シュカヌに微笑みながらウィンクしてみせた。
「うん・・・」
「そうだ君も一人で寂しいだろうから、プレゼントをあげよう」
そう言いながらタカネは、背後から取り出したバスケットをシュカヌに手渡す。
「これは?」
「開けてみな」
バスケットの中を覗き込んだシュカヌは、喜びと驚きが入り混じった声を上げた。
「猫だ!」
バスケットの中には赤い首輪をした黒猫が入っていた。
「失敬な!」
「!?・・・喋った」
黒猫が突然シュカヌを見つめながら言葉を発した。
「我輩をアノような、下等生物と一緒にされては困る」
驚いたシュカヌの態度に笑いをこらえながら、タカネが説明する。
「ハハハ・・・、彼の名前はニーガ・ルージ。君と同じようにオートマタの身体をもってるんだ。気をつけろよ、この猫ちゃんはものすごく口が悪いからな」
「・・・タカネ。貴様まで・・・」
そのとき自分以外の人間は、悪意を持った他人でしかなかった世界に、タカネさんが優しさと安らぎを与えてくれたんだ・・・。




