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マブイ【魂】プロジェクト  作者: °Note
Chapter Ⅱ 追憶の果て
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sect.2 後悔

通路に出たアリアは、あまり言葉も交わさずに先を進む。

というのも先程エンゾと交わした言葉が、どうしても頭から離れなかった。


確かにここでの研究施設には巨額の資金が使われているのは、先程見たゴーストシステムの研究で最新鋭の設備を整えていることからもわかるし、この広大な建屋を建設するのにどれほどの金が使われているのか想像すら出来ない。

彼女がここへ招かれるまで在籍していた研究所は、こことは比べ物にならない小さな研究所で、設備にしても古いものを使いまわしでやりくりしていたほどのものだったので、あらゆる全てにおいて以前在籍していた施設とは比べ物にならない。


しかしここは国家主導のプロジェクトを推進する、国の管轄の研究所のはずなのに、責任者とはいえエンゾはマネージメントにまで関与しているのだろうか?

この研究所は、営利を目的とした企業ではないはずだが・・・。


・・・もしそうなら利益を得る為の、技術の供給先は国だけではないのだろうか?

なにか腑に落ちないモヤモヤしたものを、アリアは感じずにはいられなかった。


そうこうする内に、二人は連絡通路を通り、隣の棟にさしかかる。

「いいですか?こちらです」

考え事をするアリアの意識を呼び戻すように、エンゾが立ち止まりアリアを待っていた。

「あっ、ハイ」


「ここから先は機械工学のセクションで、オートマトン・・・つまりは機械人形の研究など、つたない言い方をするならばロボットですか?を設計する研究を行っています」

「さっきの“ゴーストシステム”の研究施設で見かけた、機械じかけの頭のようなモノですか?」

「そうです。あれは頭部の部分だけでしたが、本来は全身のモノがあって、その一部分だけを我々は使用しています」


「機械人形ですか・・・」

いまいち理解できない様子で、アリアが尋ねる。

「まあ主に人型をしているものが多いというだけで、その形状は多岐にわたりますよ。実際のところ、作業環境においては人型でないほうが効率のいい時もありますから」

「人の代わりに、作業を行わせるためにですか?」

「そうです」

他に何があるんだと言いたげな表情で、エンゾが答える。


「中へ入ってみましょう。我々が行くことは伝えてあります」

「はい」

アリアは誰に伝えてあるのだろうかと思ったが、それは口に出さずにエンゾの後に続く。棟の入り口となる扉を抜けると、そこは先程までの研究所の雰囲気とは違っていた。

ゴーストシステムを研究している棟では、通路を研究員たちが行き交っていたが、ここではメタリックな人型の機械オートマトンの姿がいたるところにあった。


オートマトン達はどこへ向かっているのか判らないが、通路を歩行していたり、得体の知れないものを運んでいる。

「あのオートマトン達には、我々が開発しているゴーストシステムのテストサンプルを実装しています。なのでここで実際に作業を行わせたりして、動作チェックをしています」

「彼らは自分の意思で行動しているのですか?」

驚いた様子でアリアが尋ねる。

「そうです。ある程度の指示は出していますが、どういうプロセスでそれを行うかは、彼ら自身の判断で行動しています」


「すごいですね・・・」

「まあ、まだ不完全な部分が大半ですがね」

謙虚にというよりも、うんざりした感じにエンゾが答える。


自らの意思で行動する機械、それを目の前にしてアリアはふとある思いに行き着く。

「彼らには心があるのですか?」

「・・・心とは研究者らしからぬ、いや女性らしい意見ですね」

そう言いながらエンゾは、やれやれといった感じに話を続ける。


「この議論をする前に、ひとつ質問をいいですか?アリア博士」

「はい、何でしょう」

「アリア博士にとって、心とはなんですか?」

この時になってアリアはしまったと気付いた。何気ない一言であった質問が、面倒くさい議論に発展してしまったことに後悔したが、もういいですと言うわけにもいかないので少し考えてみる。


「そうですね・・・、何かを感じて気持ちが高揚したり、行動を行うときに何を選択して動くか善悪の判断だったり優先順位の個性ですかね?すみません、深く考えていなかった軽はずみな質問でした」

「そういう何気ないところに、本質は隠れているものです。我々研究者はそういうところにもっと目を向ける必要があると私は考えているので、あなたが謝る必要はありません」

そう言いながらも、エンゾは冷めた顔つきで淡々と話を続ける。


「まず経験をすることでの感情の高ぶりですが、彼らはこちらの問いかけに答えることはできます。しかし感情の高揚をあらわす声の強弱や、発音テンポの変化はありません。常に一定の声質での応答となります。顔もごらんの通り、メタリックな骨格なので表情もありませんし、そこまで研究も進んでいないというのが現状です。よって表面的には心と感じ取れるものはないでしょう」

「そうですか」

何気ない質問をしてしまった事を、改めて後悔するアリア。


「次に個性ですが、行動の優先順位は短時間でいかに効率的に目標を達せられるかが、すべての個体の行動指針です。そこで得られた経験などは、まだ反映させていません。人間は得られた情報を必要だと判断すれば継続的に憶えていますが、必要ないと思えば忘れてしまいます。そうしなければ得られた情報が頭の中に蓄積され続け、パンクしてしまいますからね。しかしこの情報の取捨選択を行うシステムはまだ構築できていないので、敢えて得られた経験を記憶して積み上げるというプログラムは実装していません。よってゴーストシステムを実装した時点から能力が変化することもありません」

「はあ・・・」

アリア博士はわけが分からないと思ったが、さすがにそれを口に出せる空気ではなかった。


「よって個性と呼べる違いがあるのは、常にバージョンアップが進むゴーストシステムのどのバージョンが個体に実装されているかという事でしょうか」

「ありがとうございました・・・」

様々なものに対して、何か申し訳ない気分になったアリアは心から礼を述べるのだった・・・。




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