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マブイ【魂】プロジェクト  作者: °Note
Chapter Ⅱ 追憶の果て
17/120

sect.1 終焉の始まり

時をさかのぼること200年前 ―


世間から隔離された、施設シュルナフ研究所。

その研究所に一人の女性の姿があった。

「・・・ようこそ。歓迎いたします、アリア博士」

大きな荷物を抱えて研究施設に到着したばかりの彼女を、無精ひげを生やした白衣の男が出迎える。男のひげには白いものが混じり、精悍な顔つきには少しやつれた様な印象を受けた。


「あなたは・・・?」

「これは失礼、自己紹介が先でしたね。この研究所で責任者を任されているエンゾと申します」

「ああ、あなたが!自律思考回路における研究成果の噂は伺っています。この度は共同研究のお招き、ありがとうございます。生体金属の研究をしているアリアです」

アリアは緊張を隠そうと、ぎこちない挨拶を交わした。


「堅苦しい挨拶は抜きにしましょう。これからはお互いの研究成果を共有しながらプロジェクトを推進しなければならないのに、堅苦しい関係は円滑なコミュニケーションを阻害しますから」

エンゾはそう言いながら苦笑いを浮かべる。

「そうですね」

エンゾの言葉に緊張がほぐれたのか、アリアにも笑顔がこぼれる。


「この後、急ぎの予定はあるのですか?もし時間があるのでしたら、施設内を軽く案内しようと思いますが」

「それはぜひお願いします。思っていた以上に広い施設で、着いたのはいいけど右も左も分からず、どうしようかと迷っていたところでしたので」

「了解しました。まずは・・・」

「はい?」

エンゾの言葉の間に、どうしたのだろうと疑問を感じるアリア。


「その荷物を、部屋へと運びましょうか」

そういったエンゾの視線の先には、アリアの持参した荷物が山積みになっていた。

「そうですね・・・」

アリアは答えながら、思わず笑ってしまった。



「まずは我々のプロジェクト“ゴーストシステム”の研究施設から案内しましょう」

「はい、お願いします」

二人は白衣を着た研究者が行きかう施設内を、エンゾの先導で進む。施設内は建物自体が新しいこともあり非常にきれいで、その雰囲気は研究施設というよりは病院を思わせるような風景だった。


二人はある部屋の前で止まり、エンゾは扉の前で覗き窓のような箇所に顔を近づける。

「ここではセキュリティーの関係上、共用エリアを除いてですが、個人識別チェックを受けなければ、全てのセクションの扉は開かないようになっています。アリア博士のセキュリティー登録も、今日中に対応するよう手配していますので後ほど・・・」

「はい、分かりました」

エンゾの説明を聞いているうちに、ポンと高い音を立てて扉が開く。

「どうぞ」


エンゾに促され部屋の中に入ったアリアは、不思議な光景を目にする。

そこには人の頭を模した機械づくりの頭部がテーブルの上に乗せられ、そのまえでコンピュータを操作する研究員たちの姿があった。

語りかける研究員の指示に従い、瞬きをしてみたり言葉のやりとりをしている機械の頭部に、気持ち悪さと驚きと興奮が入り混じった感情がわきあがるアリア。


「ここでの研究は自律思考回路の研究、つまりは人工知能で独自に判断して状況に対応できる思考回路の研究です」

「はい」

「機械工学で人型マシンの研究は実績を出しているので、そこに我々の研究する人工知能プログラム“ゴーストシステム”を実装して、作業環境の悪いところでの作業を人間に代わって行わせるというのが研究の中核です」

「環境汚染による被害の進行は、想像を超えるスピードですからね・・・」


「ご存知の通り、エナジークリスタによる結晶病の被害は日を追うごとに拡大して、今では保護マスク無しでは出歩けない地域が大半です」

「肺から侵入したエナジークリスタの微粒子が、人体の内部に蓄積されて、体内のエネルギーを吸収し結晶化していく難病。わたしも知人を何人か失いました・・・。」

アリアは悲哀を込めた表情で語る。そこには最愛の者を、その難病で失った怒りと悲しみが込められていた。


「とても残念です・・・。しかし、それだけでなく進行する砂漠化や、エナジークリスタの粒子を含んだ汚染雨の影響など、屋外で人間が活動できる範囲は日を追うごとに減少しています」

そう言いながら、エンゾは憂いを込めた目で研究室内を眺めている。


「汚染された世界が、食糧問題や物資の流通に与えている影響は計り知れませんね・・・」

「そうです。世界中で起こっている紛争や内乱のすべてに共通するのは、食糧とエネルギー・・・、つまりはエナジークリスタを巡っての利権争いです」

エンゾの言葉に、アリアは暗い表情で俯いてしまう。


「争いは嫌いですか?」

「・・・好きではありません」

即答するアリア。

「わたし達は戦争のために、研究をしているわけではありませんから・・・」

「確かに、それも一理あるが・・・」

「が?」


一呼吸おいてエンゾが答える。

「我々が研究を行うためには資金が必要です。利用価値のないものに、金を出す物好きはいない・・・。あなたは研究者としての能力は高いですが、マネージメントについて少し学ぶ必要があるようですね」

心の中にフツフツと沸きあがってくる嫌悪感を抑えて、アリアは黙ったまま頷くような仕草で答える。


「まあ、いいでしょう。あなたは余計な事は考えずに、研究の成果を出すことだけに集中してください。マネージメントはあなたに求めていませんから」

「そうですか」

アリアはこれ以上、この話題について議論をしたくないという思いで、会話を切り上げるように率直に答えた。


しかし戦争や環境汚染の被害者の助けになるようにと、生体金属を失われた器官や部位に活用できるように研究していたアリアを召集した目的は何なのか、不安と疑念を抱かずにはいられなかった。

「ここでの説明は、これくらいでしょうか。何か質問はありますか?」

アリアはこの場所を一刻も早く離れたい思いで、何も言わず頭を振った。


「よろしい。では、次にまいりましょう」

二人は部屋を後にして、次のセクションへと向かうべく、再び通路へと出た・・・。


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