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マブイ【魂】プロジェクト  作者: °Note
Chapter Ⅱ 追憶の果て
19/120

sect.3 違和感

「ありがとうございました・・・」

「いえ、気にする事はありません」

そっけない物言いでエンゾが答える。


「それよりも早く行きましょう。行くと言って待たせすぎると、彼は機嫌が悪くなりますから」

「彼?」

「ここの機械工学セクションの責任者トナム博士ですよ。少し気難しい性格ですが、悪い人間ではないので気にしないように」

「はい」

この気難しい以外の何者でもないエンゾが気難しいと言うとは、一体どれほど偏屈な人間なのだろうかとアリアは思ったが、当然それを口に出せる彼女ではなかった。


二人は道なりに通路を進み、やや奥まった部屋の前に辿り着く。

人の流れのメイン通路から外れているため、ただでさえ人の少ない棟にあって周囲に人の気配はまるでなかった。


「ここです」

そう言いながらエンゾが部屋の前に立ち、扉をひらく。

室内に入るとそこは薄暗く狭い部屋で、アリアはその中に踏み入る事にためらったが、ここまできて入らないわけにはいかないので奥へと進む。

その部屋の奥まった場所で、ひとりの男が右目に円筒形の顕微鏡を装着して机に向かい作業をしていた。

「フン、遅かったな」

男はボサボサの頭を二人に向けることなく言い放つ。

「時間は指定していなかったし、それほど遅くなったとは思いませんが」

「・・・フン」


「で、そっちは誰だ?」

男は振り返ることもなく尋ねてくる。

「紹介します、トナム博士。こちら今日より配属された、生体金属の研究者アリア博士です」

「!?」

トナム博士はエンゾの言葉を聞いて慌てて振り返る。

雰囲気で他に誰かいるのは分かっていたが、それが女性だとは思っていなかったようだ。

「ここへ来るな!ここは、お前の来るところじゃない!!」

突然感情的になったトナム博士に、驚くアリア。


「何をそんなに、感情的になっているのですか?」

「フン、何故かはお前が一番判っているはずだ。なぁ、そうだろエンゾ」

トナムの言葉に、エンゾは苦虫を噛み潰したような微妙な表情になる。

「オレが話す事はそれだけだ。なんて言ったかな、アンタ」

トナム博士はアリアに向かって考えている。


「アリアです」

「アリア博士、この言葉を忘れるな!よく考えろ」

そう言われてもアリアにはわけが分からない。

「もう出て行け、エンゾ!これ以上余計なことを言われたくなかったらな」


エンゾはしばらく何かを考えていたが、アリアに向かって切り出す。

「行きましょう。これ以上ここに居てもメリットはありません」

「フン、お前にとってのメリットがな・・・」


「行きましょう!」

エンゾがそう言い、二人は逃げるように部屋を後にする。


「・・・気にしないで下さい」

「はい・・・。というか私の理解を超えていたので、気にする以前の問題で何がなんだか・・・」

エンゾの言葉に、アリアは率直な意見を返す。

「ちょっと変わった人間ですから。機械を相手に年中部屋にこもってしまうと、人間との接し方を忘れてしまうのでしょう。いや、人間との接し方を忘れてしまったから、いつも機械相手に年中ああやっていられるんでしょうかね?」

感情を抑えてはいるが、イライラした様子で皮肉を込めた言葉を出すところをみると、さすがのエンゾもあそこまで言われて腹が立ったのだろうか。


しかしこの研究所は、なぜこうも変わった人間が多いのだろうと、アリアは思わずにはいられなかった。


「次は少し歩きますが、あなたにも見ておいて貰いたい場所です」

「はい」

エンゾのもったいぶった物言いに違和感を覚えつつも、アリアは素直に従う。


言葉の通り二人は施設の奥へ奥へと進み、人の往来もなくなった通路を突き進む。

「この先がこの研究所の心臓部です」

「心臓部?」

「ここに全ての研究データが集まり、この研究所のシステム管理を行うメインコンピュータ、我々がマザーシステムと呼ぶ場所があります」

「マザーシステム・・・」

心臓部という言葉とは裏腹に、通路には巨大な黒い配線のようなチューブがはみ出るように露出した、雑な造りとも思える場所を二人は進む。


「こちらになります」

エンゾはNO ENTRY:入室禁止の表示のある扉の前で立ち止まる。

そして覗き窓のようなものを覗き、いつもの個体チェックを行うと、扉のパネルにPASS CODE?と表示された。

「ここは特に厳重になっていましてね・・・」

そう言いながらエンゾは慣れた手つきで、すばやくパスコードをパネルに入力する。


すると間もなく、重い扉がゆっくりと開き始めた。

「さあ、どうぞ」

「はい」

エンゾに続いて扉を抜けると、そこは混沌とした空間だった。


先程から通路にはみでていた、巨大な黒いチューブが室内に溢れかえり、それらが複雑に絡まりあっている。

まるでチューブのアーチを潜り抜けるように、二人は通路を進む。

しかしやがて通路を進むうちにチューブの数が減り、開けた場所に辿り着くのに時間はそうかからなかった。

そして通路から一段高い、壇上のような場所にそれはあった。


黒い半球体マザーシステム。


半球体には三本の太いチューブが刺さっている。

「あの三本のチューブから、情報がすべてマザーシステムへと送られています」

エンゾはアリアの疑問を見透かしたようにつぶやいた・・・。



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