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やって来た魔法たち(二、一人ぼっちの再会)

 璃久はおじさんの店のために何種類かの広告やメニュー、プライスカード、飾りのポップなど、取り敢えずは邪魔にならないものを何種類か作ってみて、日曜日におじさんに見てもらおうと考えていた。

 おじさんはほとんど一人でやってきていたので、メニューやプライスカードは手書きの『荒々しい』ものしかなかったし、店内を明るく見せるような飾り物も全くなかった。

 店頭に出す広告のようなものは、模造紙にマジックペンで描いたものを段ボールに貼り、時々入り口に出すぐらいだった。


 おじさんはたいそう清潔にやっていたし、毎朝早起きして作り出す惣菜のほとんどは上品な薄味の栄養バランスの良い上質のものばかりだったので、璃久はもちろん、さくらもここの惣菜の大ファンになっていた。

 商店街でも評判が良くなじみの客も多かったので、うまく広告を出したり、もう少し可愛らしい感じで店を飾れば若い人の興味を惹いたり、リピーターの数を増やせるのではないかと璃久はずっと考えていた。


 璃久は今日せっかくミキオや後藤というその道のプロに相談出来るのだから、もう余計な事を気に病んだりせずに、思いきり集中してやってみようと、すっかり覚悟を決めていた。


 璃久とさくらは一緒に十一時半過ぎに家を出て、会社には一時前に着いた。

 ミキオはもちろん後藤、咲子もわくわくしながら璃久を待っていた。トロさんは夕方に来ると言っていたが時間がはっきりしなかった。


 彼らは、佐倉が覚悟を決めて会社に出てくるまで、なんとか璃久を引き止めようと心に決めていた。


 作業室の机で、璃久は後藤やミキオにアドバイスを受けながら、まず簡単なメニューカードとチラシを作ってみた。

 ミキオは出来上がったものを見て感心しながら、

 「おばさん、なかなかいいよこれ!写真があればもっとよかったね。今度写真を撮ってきてくれれば俺が入れといてあげるよ」などど優しい声をだしながら、璃久のそばにへばりついて褒めちぎった。

 咲子はニヤついたミキオの顔を見て呆れていたが、璃久のほうはまんざらでもない様子でミキオに良い笑顔を返してやった。


 後藤は、参考になる広告や使える写真などを選んであげたり「少し休んだほうがいいですよ」とコーヒーを入れたりして親切にも気をくばった。


 さくらは彼らの様子を見て「ふん」と言って呆れ返り、思い切り笑ってやった。


 拡大コピーを想定して作らなければならない、月がわりや週がわりの広告を作る時は、後藤が付きっきりで丁寧にグラフィックソフトの使い方を教えてあげたので、素人が作ったとは思えない、面白い、いかした作品が出来上がった。


 璃久は大満足で「さくらちゃん見てちょうだいよ。後藤さんのおかげでこんなふうに出来たわ。おじさんが見たらびっくりするわよ『あんた、どうしたってんだ?こんなもん作れるってえのか?驚いちまうね、まあったく!』なんて言うわよきっと!」とおじさんの口まねを披露した。

 咲子は璃久の口まねが気に入り「私も偏屈ジジイに会いたい!」と言い出すし、

 後藤も「こんな行儀悪い女の子に会ったりしたら偏屈ジジイは卒倒するぜ『あんた、何もんなんだ?女みたいな格好するんじゃないよ』なんていうぜきっと」と、ご機嫌で偏屈じいさんの真似をしたりした。

 

 こんな調子で佐倉不在のその午後、そこにいる誰もが笑ったりふざけたりしながら楽しい時間が過ぎて行った。

 そのうちにうっかり今日の『目的』を忘れてしまったミキオ達は、璃久と一緒にチラシ作りにさらに夢中になっていった。

 二時を過ぎると、彼らは自分達が佐倉の登場を待っているということすらも完全に忘れてしまっていた。


 璃久の作業は手早かったし、ある程度自分で考えてきていたので、あっという間に目的のものを作り終えてしまった。

 それぞれを二枚ずつプリントし、それをデザインケースにしまうと、璃久は丁寧にお礼を言って「そろそろ失礼しますね」とにっこり笑った。

 そして「さくらちゃんは、これから私の代わりに皆さんのお手伝いをしてちょうだい。私には出来ない事だから、お願いね。私は今からおじさんに見せに行くつもりなのよ」と言って帰り支度を始めてしまった。


 ミキオや後藤達はびっくりして、慌ててこれを止めた。

 「璃久おばさん、もうちょっとだけいいじゃないか!そんなに急がないでよ、ね?」と、可愛げのある甥になったり「トロさんが会いたがってたのに!悪いよ」と軽く脅し付けてみたり、璃久を引き止めるためにミキオは結構頑張った。


 後藤は「じいさんとは約束した訳ではないんですよね?だったら週明けに見せればいいじゃないですか。土曜はお店も忙しいかもしれないし……せっかく来てくれたんだし、コーヒーでも飲んでもう少しゆっくりして下さいよ。もう少ししたらトロさんも来ますから」と、現実的だが優しい感じでやってみた。


 咲子は、デザインケースとバッグを隠して璃久を大笑いさせたがすぐに見つけられてしまった。


 結局三時半過ぎまで引き止められたが、ついに璃久がはっきり「もう行かなくちゃ」と真面目な顔で言ってきたので、みんなはあきらめるしかなくなった。


 佐倉はとうとう出てこなかった。

 さくら以外の誰もががっかりしてしまった。

 璃久は「本当にありがとうございました」と言って、さくらに「くれぐれもお手伝いをするように」と言い残して一人で帰って行った。


     ◇◇◇◇◇


 さて、佐倉は三時前には駅に着いていたのだが、なかなか思いきれずにいた。

 改札を出た後は、うろうろしたり缶コーヒーを買ったりして、本当に意味のない数十分を過ごしていた。

 時計を見てもう帰ってしまったか、あるいはもう帰る頃だろうかと悩んだあげく、佐倉はついに決心して会社へ向かって歩き出そうとしたところ、ちょっと先をトロさんが大きなケースを持って歩いていくのを見かけた。

 なんとなく誰とも話したくなかった佐倉は声もかけず、そのまま数メートル後ろをゆっくりと歩いて行った。


 ちょうど会社と駅の中間くらいの地点で、佐倉がふっと顔を上げた時、向こうからたった一人で『その人』が歩いてきた。佐倉にはすぐにわかった。


 璃久はアイボリーの立ち襟のブラウスに銀色のブローチを止めていて、柔らかい質感のクリーム色のスカートをはいていた。髪は濃い茶色に染めていて、ゆったりとパーマをかけていた。

 遠くから見ても璃久は昔と同じに――佐倉にはそれ以上に見えたが、優しげで美しかった。


 佐倉の歩みはゆっくりになり、横を向いてサングラスをしっかりと掛け直した。

 途中で一度立ち止まったが、決心を固めてまたゆっくりと歩き出した。


 佐倉はサングラスの内側から、じっと璃久を見つめていたが、ゆっくりと近づいてくる璃久が、ふわっと風を受けて髪を直した時に、優しい口元がそっと開いて「あっ」と言った。


 驚いたことに、璃久は右手を少し上げて、こちらに向かって微笑んだ。

 佐倉はまるで自分にそうしてくれたのかと思って、びっくりして立ち止まった。


 しかし、璃久は「友野さん?」と優しくトロさんを呼んだだけだった。


 璃久はトロさんに駆け寄ってきて、こう話しているのを佐倉は聞いた。

 「友野さん、さくらの……写真のことでは本当にありがとうございました。きっとイヤな思いをさせてしまったでしょうね。あの子は私と似て短気なんです。ついカッとなって馬鹿をやってしまうんです。さくらは本当に友野さんに悪かったって思っているんですよ。私もそれは同じですの。写真を預かって下さって感謝しています。私、忘れませんから!こんなにして下さったことを、絶対に!」


 璃久はまるでさくらのように、こみ上げた様子でトロさんにお礼を言った。目には涙が浮かんでいた。

 「今日はお会い出来てよかったわ。みなさんがもう少ししたら友野さんがいらっしゃるかもって仰っていたのですけど、私これから作ったものを持ってお店にいかなくちゃならないので、出てきたんですよ」 

 璃久は涙を拭いながら微笑んだ。


 トロさんは璃久の優しい話し方にうっとりしてしまって、最初は「いいえ、いいえ」と繰り返すだけだったが、璃久が涙を浮かべているのを見て、自分もぐっときてしまい、どもりながらもはっきりとこう言った。

 「喜んで下さった……のでしょうか?僕は、あの時は何も考えずにあんな事をしてしまって、本当に馬鹿をやったと反省してたんですよ。さくらちゃんは確かに傷ついていたのに無神経だったんです。でもさくらちゃんは僕の話を一生懸命聞いてくれて、ありがとうって言ってくれたんです。僕のほうこそ嬉しかったんです。あのアルバムを見ていつも寂しかったから。僕だってほんとうに嬉しかったんですから!」


 璃久はトロさんにこんなことを言われてジンときてしまい、何度も「ありがとうございました」と言いながらとうとう本格的に泣いてしまった。


 佐倉は少し後ろで立ち止まって、二十数年ぶりに璃久の涙を見た。

 そして、涙をそっと拭ってから昔のように、にっこりと優しく笑った顔もはっきりと見た。


 それはトロさんに向けられたもので、決して自分へのものではなかったけれども、佐倉はうっとりとサングラスの後ろからそれらを見つめていた。


 決心を固めた自分に、璃久のどんな表情が返ってくるのか恐ろしかったが、もしかしたら……ほんの少しだけでも温かい表情が返ってくるかもしれないし、お愛想で仕方なくでも笑ってくれるかもしれない、と佐倉は思った。


 佐倉が、まずトロさんに声をかけようと思って近づいた時、何気なく横を向いたトロさんのほうが先に声をかけてきた。

 「あれ?佐倉さん、やっぱり来たんですね。約束があったとか言ってましたよね、終わったんですか?」

 「ああ、もうすっかりね」

 「佐倉さん、こちらはさくらちゃんのお母さんですよ。今お帰りになるところなんですよ。お母さん、社長の佐倉さんです」トロさんはこう言って、運命の二人を引き合わせた。


 璃久は涙に濡れた顔を隠すようにやや下を向いて「いつも娘がお世話になっております」と言って深々と頭を下げてきた。

 佐倉はドキドキしながら璃久が顔を上げてくれるのを待っていた。


 璃久は優しい跡の残った顔をゆっくりと上げた。

 しかし、またすぐに下を向いてこんなふうに言ってきた。

 「すみません、私馬鹿みたいに泣いてしまって――娘が本当にお世話になっております。それに、社長さんには堀田さんを紹介していただいて、本当にありがとうございました。色々なことでご迷惑をおかけしてすみませんでした。娘もいつもお世話になってばかりで申し訳ありません。それに今日は、私のことでずうずうしく来てしまって」


 璃久はずっと謝ってばかりだった。佐倉の方をろくに見ようともしなかった。

 佐倉は、なんとかしっかりと自分を見てほしくて――それに璃久の方から自分に気が付いてほしくて、はっきりとした声で、璃久が好きだと言ってくれた自分の声をはっきりと出した。


 「佐倉と申します。こちらこそさくらくんにはお世話になっていますよ。大変な仕事を押し付けてしまって、それでも頑張ってくれてるんですよ。彼女はとても、素敵な娘さんですね」


 佐倉は璃久の返事を待った。そして、璃久はすぐに答えてきた。


 「ありがとうございます!娘はどうしてもこちらにお世話になりたいって言っていたんです。採用していただいて親子で喜んだんですよ。本当にありがとうございました。どうかこれからも、よろしくお願いいたします」

 こう言って微笑みながら、背の高い佐倉を見上げた。


 しかし璃久は全く気付かなかった。


 確かに佐倉はサングラスを掛けていたし髪型も変わっていた――当時は割と長めのスタイルだった。

 しかし、佐倉ははっきりとしゃべったし『目』以外の他のものは、ちゃんと表に出ていたのだから。


 佐倉は愕然としてしまい、ろくに返事も出来ないまま、傷つけられた気持ちのまま、璃久に深々と頭を下げて立ち去った。


 璃久は佐倉の様子がおかしいなどとは思わなかった。

 後に残されたトロさんに丁寧に挨拶をして別れを告げると、偏屈じいさんの店に向かって歩き出した。


 トロさんはすぐに佐倉に追いついて、そのまま一緒になって会社に向かった。


 佐倉は、もう打ちのめされていた。

 璃久があんなふうに自分を見て、ただ挨拶をして、微笑んでいたことは、密かに期待していた『激しい動揺や驚き』とは全く質の違う、冷たい軽蔑のようにさえ思えた。


 璃久はまるで青い国の女王のように、自分を取るに足らない追放者とみなし、さっと切り捨てた水色の羽を持つ者で――自分はいやらしい色のくせに何かを期待して待っていた、馬鹿な、みじめな落伍者であると指をさされて笑われた、情けない人間の男にすぎないことを、どうしようもなく理解した。


 佐倉は会社までの短い道程を絶望と共に歩いた。そしてすぐに、中にさくらがいることを思い出してゾッとした。

 そして、急に立ち止まり、トロさんに「写真屋に寄るのを忘れた」と言って引き返した。


 佐倉は、今の『たった一人だけの再会』をトロさんに見られてしまったので、どうしても会社に寄らねばならないことがわかっていた。

 自分が動揺しているところをミキオや後藤達に感づかれないように、まずは気持ちを落ち着かせようと絶望をぐっとこらえ、痛みに耐えた。


 そして、絶対にちゃんと笑って、さくらの顔を見ることが出来るはずだと、何度も何度もいやらしい色の自分に言い聞かせた。

 会社の裏手の大きな家の前で、佐倉は数分間そうして闘ったあと、完全に強い心を抱えたと信じて会社に向かって行った。


 先に中に入って行ったトロさんは『たった一人だけの再会』を明るい調子でみんなに伝えた。

 そして、最後に満面の笑みでこう言った。


 「佐倉さんはお母さんがあまりに素敵だから、きっとドキドキしてたんじゃないかな。僕は佐倉さんがあんなに深々と頭を下げたところを見たことがないよ。お母さんは写真のことで僕に色々言ってくれて少し泣いてたから、ちょっとばつが悪そうだったけど。でも挨拶出来てよかったよね、せっかく来てくれたんだし」


 咲子はびっくりして「あんた!それでどうしたの?なんかその……」と、先に続けてまずいことを言いそうになったが、後藤が肩をつかんでそれを止めた。


 ミキオはちょっと首をかしげて「佐倉さんはサングラスをとって挨拶したのか?」とトロさんに訊ねたが、トロさんが「まさか!ちゃんと掛けてたよ。それでじっくり美人を観察したんじゃない?あの人のことだから」と笑って答えた。


 ミキオはこれを聞いても『まあ、あの佐倉さんのことだから今回はしてやられたか』と思う程度で、さほどこの結果にがっかりさせられてはいなかった。


 しかしさくらは完全に、佐倉のように打ちのめされてしまった。

 『お母さんは木の上の人じゃなかったんだ!佐倉さんはお母さんの素敵だった頃の人じゃなかったんだ!』


 さくらは今、たった一人でその現実を受け止めた。

 そして美しい銀の箱に、もう何も入れたくなくなってしまった。

 水色の花びらの魅力は、あっという間に消えていった。


 そして、ついに佐倉が中に入ってきた。

 佐倉は決心した通りに、璃久の娘に優しく笑いかけようとした。

 「さくら、お母さんに下で……」と言いかけて、佐倉はぞっとして口をつぐんだ。


 さくらは一番奥の、佐倉がよく使う肘掛け椅子に座っていて、血の気が引いた顔を引きつらせ、ぴくりとも動かなかった。

 いつもの涙はなかったが完全に打ちのめされていることが佐倉にだけはわかった。


 そして、何も知らない馬鹿な連中が、佐倉に向かって慌ただしくこう言ってきた。


 「佐倉さん、さくらのお母さんに会ったんでしょう?ちゃんとふざけないで挨拶したの?」

 咲子は混乱してわけがわからなくなり、こんな聞き方をしてしまった。


 後藤は「帰ったのは今さっきなんですよ。もう少し早く来てくれたらここでゆっくり話が出来たのに。俺たちも引き止めたんですが」と、ありきたりなことを言って佐倉の様子を探った。


 ミキオは、してやってくれた憎ったらしい佐倉をやっつけようとしてまた余計なことを言った。

 「璃久おばさんはサクランボと違って綺麗でしょう?俺も身内だってのに言っちゃうけど、なかなかでしょう」


 誰も奥に座っているさくらの様子に気付いてやれなかった。

 それは、かえってよかったかもしれないが、皆は揃いも揃って佐倉だけを攻め続けた。


 「さくらのお母さんはあっという間にチラシを作っちゃって、なかなか上手にやるんですよ。俺はびっくりしましたよ!これなんですよ」と後藤はこう言って璃久の作ったチラシや広告を見せてきた。


 後藤は、佐倉の様子や変化についてはあまりよくわからなかったが、佐倉が美人に会ったというのに、いつものようにちゃらちゃらと陽気にしていないことだけはわかった。


 ミキオは「あとで『どっちがよかったか』をよろしくお願いしますよ」とずうずうしくも言ってのけた。どうせ憎ったらしい佐倉の様子など気にもしていなかった。


 さっきからずっと鋭い目で佐倉を観察していた咲子は、確実に、いつもと違う何かを感じ取った。

 ただ、それがどうしてなのかを考えると自分まで辛くなったので、何も言えずに佐倉を見つめることしかできなかった。


 「ごめん、あんなに手伝えって言われてたのになんか頭が痛いんだ。今日はちょっと、帰るね」

 さくらは静かに立ち上がり、佐倉の顔を見もせずにバッグを取りにロッカーの扉を開けた。


 皆は「大丈夫か?」と声をかけたが、さくらは頷いただけでわざとらしく頭を押さえながら「じゃあね」と言って帰ってしまった。


 佐倉はもうたまらない気持ちだった。

 さくらが自分と同じに、どうしようもなく傷ついてしまったことがはっきりとわかった。

 きっと、さくらはなんとなく期待してくれていて『もしかしたら』と漠然と夢を見ていたのではないだろうか――そう思うと苦しくてならなかった。

 

 佐倉は、あの時さくらが『もし佐倉さんがその人だったら、どんなに素敵かって思っただけなんです』と言ってくれたことを思い出した。

 そしてまだ二人だけは――自分とさくらの二人だけは温かく繋がっているのだと、こう思って傷ついた心を共に癒そうと決心した。


 「私も今日は帰るよ、ちょっと疲れてね。手帳を取りにきただけなんだ。まあよかったよ、ミキオの美人に会えてさ。確かに素敵な人だった。さくらみたいに泣いてたけどね」


 これだけ言うと、佐倉はすぐに出て行った。


 大急ぎでさくらを追って駅まで走ったが、さくらはもう歩いていなかった。

 佐倉は心配になり、駅のホームを端から端まで歩いたが見つけることはできなかった。

 きっともう電車に乗って行ってしまったのだろうが、あんなふうに真っ青になって泣くことも出来ずにいて、家に帰ってからどんなふうに璃久と向き合うのだろう?――佐倉はそう思うと、さくらがかわいそうでならなかった。


 月曜日に出社してきたさくらをどうやって迎えようかと考えながら、佐倉もまた、打ちのめされて軽蔑されたいやらしい色の自分を思って、孤独な家に帰って行った。


 お読みくださりありがとうございます。

 次回は『やって来た魔法達(三、佐倉の告白)』となります。

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