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さよなら青い国 (四、二人のさくら)

 堀田に会った日の夜――璃久は今日のミキオとのやり取りをさくらに黙っていることに緊張してしまい、さくらに何を訊かれても口ごもってうまく言えなかった。


 それでもさくらが心配そうに気遣ってくるのでたまらなくなり、まるで素人が舞台の台本を読んでいるかのような状況説明のセリフを披露した。

 「社長さんのお友達の堀田先生はすごく感じのいい方だったわ。私達の苦しみとかそういうものを、いやらしい同情を無しに一生懸命に聞いてくれたのよ。今後私達が阿部の家に行ったり、会いたくない人間に無理して会わなければならないような、そういうことにならないように配慮して下さるから、その点でも安心だし近いうちに決着をつけられると思う、きっとね。だから安心してね」

 

 さくらのほうもとてもじゃないが口にできない秘密を抱えていたので、なぜか言い訳をしているような気分になりながら、さっきミキオから電話をもらい月曜に会う事になったがそういう相手なら安心だし自分も今までの辛い気持ちをぶつけてみる、と同じように下手なセリフを読み上げた。


 今日の二人はそれぞれが大変な時間を過ごしていた。

 璃久はミキオと共に過去を告白してまっさらになり、青い国に別れを告げた。

 そしてさくらは佐倉と大切な世界を共有し、佐倉の秘密の扉に優しく手をかけつつあった。


 璃久とさくらは互いを愛すればこその配慮から、しばらくは別の世界で多くの時間を過ごすことになるのだが、それはきっとお互いのために正しい事であり、扉を開いて箱を開け、それを満たす為にはどうしても必要な犠牲だった。この犠牲は青い国から旅立つ者が最初に掴んだチャンスに違いなかった。


 今ふたりは、それぞれがこっそり始めようとしていた。それは美しい作業であった。

 二人のまわりの優しい手がもうすぐ二人の肩に手をかけるのであるが、それにはきっとまた別の、優しい魔法が必要だった。


     ◇◇◇◇◇


 月曜の午前中、さくらは堀田に会う事で仕事時間を使ってしまうので、いつもより一時間以上早くに出社して自分の受け持つ仕事を大急ぎでこなしていった。とはいえ、金曜日にかなりせいてやっていたのでするべき作業が沢山あった訳ではなかったが。

 しばらくして佐倉と後藤がほとんど同時に出社してきた。

 佐倉は一目でさくらが早く来た理由を理解したので笑っていたが、後藤は「どうしたんだ?今日はのんびりやるんだぞ」と言って一休みするように誘ってくれた。


 さくらはまだ後藤が何かに気付き初めていることを知らなかったので、後藤が佐倉と話すたびにびくびくしてしまうのだった。

 しかし、後藤は佐倉の前で決して余計なことを言わなかった。

 後藤はなんとなく無意識のうちにさくらを思いやって、なにかしら手伝ってやったり気晴らしのスケッチが出来るよう配慮してやったりした。そうしているうちに、さくらもなんとなく後藤の気遣いに気付いて、互いに自然な形での思いやりが新たに生まれていた。


 さくらは十一時に堀田に会う予定だったが、十時くらいになると落ち着きがなくなってきた。

 肘をついて考え事をしたり、ミキオにちょっとした悪さをしたりしてイライラと過ごし、しまいに力が抜けてただぼんやりとしていたさくらは、無意識のうちに『さくら、さくら……』を歌い出した。


 秘(・)密(・)の(・)歌(・)を聴いた佐倉は驚いて立ち上がり、すぐにさくらの側によってきて耳打ちした。

 「さくらくん、あの歌のお返しは今日は無理だよ。お昼は堀田と昼飯に行くんだよ」


 さくらは自分がうっかりあれを歌った事にハッとして、佐倉にそうっと囁いた。

 「あっ違うんです、つい歌っちゃっただけなんです。だってあれは土曜日と決めたでしょう?土曜日以外でやる場合だって午後遅くじゃないと出来ませんよね」


 佐倉はうなずいて「わかった」と言ったが、ほんの数分後、突然お腹を抱えてげらげら笑い出した。


 ミキオ以外は全員大部屋にいたが、みんな佐倉がおかしくなったのかと思った。

 咲子は「佐倉さん!ちょっとしっかりして」と言いながら佐倉の肩を揺さぶるし、トロさんはあわててコーヒーをこぼしそうになった。後藤は深刻な顔で「俺はやっぱり心配だよ」と、さくらに囁いてきた。


 さくらは心配する彼らの気持ちを真剣に受け止めようとして頑張ったが、佐倉とうっかり目が合ってしまうと、やはり自分も吹き出してしまった。

 「ごめんなさい、私の歌のせいなのよ!佐倉さんが変になったんじゃないから」と言って、二人の『さくら』が肩を震わせてニヤつくと、呆れた咲子は「全くもう!」と怒って作業部屋に入ってしまった。


 思い出し笑いで二人だけで盛り上がっていたところに、とうとう堀田がやってきた。

 きっちりとスーツを着た堀田は、佐倉に「おう」と言って片手をあげた。

 堀田は機嫌良く笑っている佐倉に驚いたが、さくらを見つけるとすぐに近づいてきてにっこりと笑いかけた。

 「すぐにわかったよ、お母さんにそっくりの美人さん。今日はゆっくり君の話を聞くからね」

 堀田の話し方には温かみがあった。


 佐倉は急にむっつりして、堀田に「おい、わかっているな?仕事をするんだぞ」と釘を刺した。


 堀田は笑い出し「まだ言うのか?全くそんな怖い顔すんなよ、大丈夫だって言ってるだろうが」と言って、まるで自分の部屋であるかのように、佐倉の部屋へさくらを案内した。

 佐倉はどうしても心配になり、さくらに訊ねた。

 「一人で大丈夫?ミキオを呼ぼうか?」


 「ありがとうございます。大丈夫ですよ佐倉さん。私もう家のことは何にも気にしていないんですから。私には『首が曲がってとんでった』秘密もあるし本当に平気なんです」


 佐倉はもう笑うどころではなくなっていた。

 気持ちの中では既にさくらは実の娘以上のものであったから、自分以外の男が『ゆっくり話を聞く』という事が不快だった。

 佐倉は堀田に「少ししたら様子を見に行くからな」と言って、ぷいっと顎を上げた。


 堀田は扉を閉めるとどっかとソファーに座り込んだ。

 さくらにも「さあさあかけて」と優しくすすめると、にやにやしながらこう言った。


 「土曜日は君のお母さんに会ってあんまり美人なんでびっくりしたよ。佐倉にそれをちょっと言ったらさ、あいつ『私の立場を考えろ!人の顔をつぶす気か!』なんて言って、おっそろしいったらないんだから。今日は君にベタベタしないように監視するつもりなんだよ、あいつは」


 堀田はさくらをリラックスさせようと冗談を言ってみたり、安心させようとして「心配いらないから大丈夫」と何度も言ってきたりした。

 さくらはずっとにこにこしながら聞いていたが、璃久の言っていた通り、堀田が感じのいい弁護士であることを知りホッとした。

 しかし、さくらにはもう秘密を分け合う大切な相手がいたので、堀田に打ち明ける話といったら『やっつけるための証拠』であったり『有利にするための相手の弱み』ぐらいしかなかった。

 さくらもまた璃久と同じように淡々と話していった。


 堀田は巧みなやり方でさくらが話しやすいように上手い具合に相づちをうったり、時にはさくらが思いもしない方面から的確な質問を投げかけてきたので、あっという間に言うべき事や聞くべき事を要領よく話し合う事が出来た。


 堀田はさくらが気に入ったので、ひと通り話が終わった後もなんだかんだとさくらをからかったり、調子に乗って璃久の事を訊いてきたりした。さくらは困って苦笑いをしていたが、丁度『監視役』の佐倉がノックしてきたので二人の話はここで終わった。


 さくらは「仕事に戻ります」と言ってから、璃久から預かった相談料を堀田に渡そうとした。

 堀田はもう充分受け取っているからと返してきたが、佐倉が横から袋を取り上げて、堀田に無理矢理押し付けた。

 「何だよお前は!関係ないだろう」と言って堀田は袋をさくらに返そうとしたが、佐倉は「いいからちゃんと受け取ってやってくれよ」としつこく言って堀田を困らせた。

 もう堀田は面倒くさくなって、仕方なく袋の中から半分だけを受け取ってくれた。

 さくらは二人のやりとりに困ってしまい、さっと挨拶をすませて早々に仕事に戻った。


 正午になると、佐倉と堀田は約束通りに昼食へ出掛けていった。


 さくらは咲子から「さっき馬鹿をやってみんなを困らせた罰だよ」と言われ、みんなの分のお弁当を買いに行かされ、その間に作業室の中では『二人のさくら』の話で盛り上がった。


 「ねえ、佐倉さんとさくらって最近なんか妙だよ。訳のわからない二人の世界に入っちゃってさ。まああの子は完全な『お子様』なんだから、佐倉さんのそっちのほうの相手にはならないだろうけど……」

 咲子はかなり心配している様子だった。


 「あんた気味悪いこと言うなよ。サクランボと佐倉さんが、なんて不気味すぎて笑っちゃうぜ!そりゃ絶対にありえないんだよ、馬鹿言って全く。心配すんなって」

 逆にミキオは機嫌よくクックッと笑っていた。


 しかし咲子は本気だった。

 「私さ、あの二人見てると親子みたいに見えるんだよ。なんか目の感じが似てるんだよね、馬鹿な同類って感じで。だいたいいきなり笑い出したら誰だってぞっとするわよ!」


 トロさんも「全くあれは不気味だった」と言って笑っていたが、後藤は急に深刻な顔をして考え込んでしまった。

 後藤は「頭が痛い」と言って窓側の席でじっとしていたが、しばらくして言いにくそうにミキオにこう訊いた。

 「ミキオ、さくらのお父さんってさくらに酷くやったり……つまり暴力をふるったりとか、冷たかったり、やっぱりそんな感じだったのか?」


 ミキオははっきりとこう訊ねられて驚いたに違いないが、後藤の目つきがあまりに真剣だったのでつい正直に言ってしまった。

 「いいや、俺はサクランボがやられてるところは直接見た事はないよ。でも、あいつは最低の親父だったんだよ。サクランボが幸せだったはずはないんだ。おばさんも苦しんでばかりだったんだよ……俺は、それだけはわかってるんだ。だからもうすっきりさせるんだよ」


 「そうか、俺は……さくらがお父さんの事を話す時にとっても辛そうだから、それを見るのが辛いんだ。きっとお母さんだけがさくらの救いだったって思ったんだよ」後藤はこう言った。


 「そうね、さくらはきっと佐倉さんみたいな人がお父さんだったら、って……そう思ってんだよ。佐倉さんは優しい人だし、なんたってさくらを気に入ってるしさ、二人はお互い寂しい部分を持ち寄って慰め合っているのかもしれないね。佐倉さんにしたってさくらみたいなのが娘だったら、って思ってんだよ」咲子はしんみりと言った。


 さて――ここでトロさんがとんでもなく馬鹿な事を話し出した為にしばらくの間、後藤や咲子は見当違いの心配のために振り回される事になってしまった。

 トロさんはもちろん悪気無く言ってしまっただけだったのだが。


 「佐倉さんが父親か……僕はあの人が父親だったら素敵だと思うな。僕はあの人の隠れた優しさがとても好きなんだ。佐倉さんはカッコいいからかなりモテたらしいよ。僕はあの人の前の会社時代の同僚と一緒にいつもの店でごちそうになったことがあるんだよ。佐倉さんは昔からモテモテでさ、若い頃は美女をはべらせてうらやましかった、なんてその人は言ってたよ。その人は『佐倉の隠し子はたくさんいるかもしれない』なんて言ってさ、佐倉さんはいつもみたいに『冗談じゃないね!そんな図々しい女がいるはずないだろう』って怒ってたよ。まあ佐倉さんがそんな、女の人を泣かせるような真似をするとは思えないけどね」

 トロさんはちょっと懐かしい笑い話をするような、軽い気持ちからこの話を持ち出しただけだった。


 後藤はこれを聞いてハッとした。

 そして、なにやらブツブツつぶやいたかと思うとまたむっつりと黙り込んでしまった。

 咲子はただ笑っていて、その時はまだ何かに閃いた訳ではなか閃いた。


 しかし、さくらがお弁当を買って戻ってきた時に「佐倉さんと堀田さんはどこに食べにいったのかな」と嬉しそうに話している姿を見ているうちに、咲子は急に不思議な気持ちになって、何気なくむっつりしている後藤の方をそっと見た。

 後藤は咲子の目にあせってしまい、びくっとして立ち上がり、慌ててさくらに冗談を言って意味もなく笑い出した。

 不自然な後藤の態度を見ているうちに、咲子は咲子らしくピンときて、頭の中が跳ね上がった。


 咲子は後藤と一緒に恐ろしい秘密を発見したのだった。

 もちろんそれは『見当違いの心配』だったのだが、二人はこっそり見つめ合って、午後、作業室にこもって秘密の打ち明け話をするはめになってしまった。


 後藤はおしゃべりの咲子にうっかり感づかれたことを『しまった!』と思ったが、咲子の優しい気質は理解していたのでここは互いに協力することにしたのだった。


 取り敢えず二人は、さくらの家のことがしっかりと決着がつくまで余計な事はせず、ミキオやさくらにばれないように、温かく見守っていこうということを固く約束し合った。

 

 この二人の勘違いのおかげで、二人の『さくら』は今まで以上に二人の時間をスムーズに持てるようになった。

 後藤と咲子の『見当違いの心配』は何かが始まるその瞬間を迎える前に――“ちょっとくらい夢見る時間を与えてもいいじゃないか”――という猶予期間のようでもあったが、この先わりと苦しい真実を受け止める羽目になる恋人たちを、まわりが盛り上げて支えるための、真実のパズルのピース集めの作業に必要な時間をくれたのだった。


     ◇◇◇◇◇


 佐倉と堀田は車に乗り込んで出掛け、約束通り佐倉のおごりで昼食をとったが、堀田は性懲りもなく璃久の話を持ち出して佐倉をイラつかせた。


 「あの人が俺ににっこりした時どうしようかと思ったよ。話し方が素敵なんだ!あの可愛い甥っ子を『ミキオちゃん』なんて呼んでさ、あいつはほんとに彼女が大好きみたいだったよ。泣きそうな顔して『おばさん、大丈夫だよ』なんて言ってきて、可愛くて感じのいい奴じゃないか。まあお前が採る社員だったら悪いのはいないんだろうけどさ。とにかく彼女は最高だよ。ちょっとした仕草もセクシーでさ、結構いい体つきでさ、俺はほんとに、」と、堀田は恐ろしい事を言い出した。


 佐倉は「おい!」と言って堀田を睨みつけ、また大声で怒鳴った。


 「いやらしいことを言うんじゃないよ!体つきだなんて、何を言い出すんだお前は!そういう目で彼女を見るんじゃないよ、仕事をしろって言ったじゃないか。とにかく娘も母親の方も早くすっきり片をつけたいんだよ。今月中になんとかしろ。いやらしいこと考えてないでちゃんとやるんだよお前は!」


 堀田は笑い出して「お前、ずっとチャラチャラやってたくせに急にどうしたんだ?別にあの人や、あのかわい子ちゃんが聞いてる訳じゃないんだからそんなに心配すんなよ」と言った。

 そしてこの恐れを知らない男は、まだしつこく璃久の色々な部分を身振り手振りで褒めちぎって大変だった。


 「あんな人とせっかく結婚出来たってのに可哀相な男だよ。お前は見てないからわかんないだろうが、ほんとにいいんだよ。こう、首のあたりから腰までの丸みを帯びたラインがさ、すごく、」


 佐倉はもう大変な事になってしまった。

 「本当にいい加減にしないと、その口をひねりつぶすからな。いやらしい、そんなことをまだ言うんなら女性の弁護士に変えたっていいんだ!『いいんだ』とか『体つき』とか……もう絶対に言うんじゃないぞ!あの子にも手を出したりするんじゃないぞ!あの子は全くわかってないんだから!」


 佐倉はますます恐ろしい目で堀田を睨みつけ、店の中で人目を惹いていることにも気付かず言い続けた。

 「あの二人はずっと苦しんできたんだよ、私はあの子からも少し聞いていたから、ちょっと知ってるんだよ。あの子は傷つきやすい子だから心配なんだ。お前がお母さんに変な目を向けたりしたら心配して大変なことになるから、まわりで気をつけてやらなきゃならないんだ」


 堀田は佐倉の剣幕にぞっとさせられたが、それでも昔から佐倉の誠実さであったり温かみのある性格についてもよく理解していた。特に会社を始めてからは、社員に対する強い責任感から、もともと面倒見のいい性格がいいほうに強くなってきていたし、今回のケースでは佐倉が『娘の方』をかなり気に入っていることがわかったので、またなだめるように言い聞かせた。


 「わかったから静かにしろ。そんなになってお前は――ほんとにどうしたんだよ?相当さくらちゃんが気に入ってんだなお前は。全く、そんな変態みたいに俺のことを言うなって。何もしやしないって、阿部のおっさんってのは相当酷い奴なんだから、俺だって徹底的にやってやるから。がっぽり取り上げてやって、やっつけてやるつもりなんだよ。もうそんなギャーギャー言うんじゃないよ。お前こそいい年してあんな子供みたいなのにさ」


 「なんだって?私がさくらにどうこうって言ってるのか?馬鹿な事を言うんじゃないよ!そんなふざけたことを言い出して、お前は本当に何を考えているんだよ。冗談みたいな事言わないでくれよ」

 佐倉は完全に呆れ返っていた。

 堀田の方はこれ以上佐倉を刺激して、店の中でまさしく大(・)恥(・)をさらしたくなかったので優しく佐倉をなだめすかし『とにかく真面目にやる』と言い残して帰っていった。


 佐倉はイライラしたまま戻ってくると椅子にどっかと腰掛けて、口もきかずにむっつりしているだけだった。

 そのうち、さくらが璃久から預かってきたお菓子を持って佐倉の隣に座ると、後藤と咲子は目配せをしてさっと作業室に入り、トロさんを「手伝って」と呼びつけた。

 残されたふたりの『さくら』は昨日のように二人だけになり、思い出し笑いをしたり、一緒に仕事をしたりして、誰の目を気にすることもなく二人の世界を楽しんだ。


 「堀田さんはやっつけてやるって言ってくれて、もう心配いらないよって。私すごくすっきりしました。早く落ち着いてしっかりやるんです。それで色々なことをもっと良く考えて、きっと、大事なことを探し出します」


 「さくらはきっと大丈夫だよ。つまずいたって、みんながついてるんだよ」

 こう言った佐倉の声は鈴のようによく響いて優しかった。


 さくらが嬉しそうに頷くと、佐倉はそっと微笑んだ。

 「今度はちゃんと大きな木を探そう……丘の上にあって、すごく遠くが見えるような。それで、誰もこないようなところがいいな。別にさくらをあの人の代役にしようってんじゃないんだよ。またアレを歌ってもらっても楽しいと思ったのさ」


 さくらはじんときてしまい、つい泣きそうになってしまった。

 しかし、佐倉の目が少し潤んでいることに気が付くとたまらなく切なくなり「実はすごい詩が出来ましたよ!私って天才かも。誰もいないし今歌いましょうか?」と言ってわざとふざけたりした。 


 佐倉もまた同じで、少しばかり泣けてきてもさくらのためにすぐ笑うのだった。

 「またあいつらに気が狂ったと思われるよ。あれは合図の時だけにしようね」


 三時を過ぎてみんなが集まって来ると、二人はこっそり好奇の目にさらされたが、それには全く気付かない二人は幸せな気持ちのままだった。


 ここまでお読みくださりありがとうございます。

 切りのいいところで終わらせたくて『さよなら青い国』の最後の回を投稿しました。

 次回からは新しいエピソードで『トロさんの優しい写真(一、)』に入ります。

 また木曜日にぜひよろしくお願いいたします。

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