第八章 戴冠と誕生——1533年、ウェストミンスター
1533年6月1日。
鐘が鳴っていた。ロンドン中の教会が一斉に打ち鳴らす音は、1509年のあの日と寸分違わぬはずだった。だが誰も、それを祝福とは呼ばなかった。
石畳を叩く雨上がりの匂い。群衆の間からは歓声よりも、囁きの方が多く聞こえた。
「——あれが、あの女か。」
「王妃を追い出した、あの女か。」
アン・ブーリンはその声をすべて聞いていた。聞こえないふりをしながら、赤い絨毯の上を歩いた。白と金のサテン。胸には真珠。頭には——キャサリンが二十四年前に戴いたのと同じルビーのティアラ。奪った冠。それを、奪った女の頭に載せて、彼女は歩いていた。
両側に並ぶ貴族たちは頭を垂れる。だがその角度は、キャサリンの時より、ほんの少しだけ浅い。アンはそれに気づかないふりをした。気づかないふりをすることに、もう慣れていた。
祭壇の前。カンタベリー大主教トーマス・クランマー——彼女がここに立つために、教皇の代わりに用意した男——が、聖油の器と金の冠を掲げて待っていた。
「跪きなさい。」
膝が石に触れた瞬間、冷たさが背筋を駆け上がった。
*私はここまで来た。妹に夫を寝取られた父の娘として。姉が王の情婦として捨てられるのを見てきた女として。*
*すべてを賭けた。教会を割った。国を割った。友を失った。*
聖油が額に垂れる。冷たく、粘つく感触。冠が頭に降りる。その重さに、彼女は一瞬よろめいた。誰も支えてはくれなかった。
*この重みを、誰にも渡さない。渡すくらいなら——*
その先を、彼女は考えないことにした。
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腹の中では、すでに命が育っていた。
「男だ。」ヘンリーは毎夜、彼女の腹に耳を当ててそう呟いた。祈りというより、命令のように。「占星術師も、医師も、皆そう言っている。男だ、アン。おまえは私に、王子を産む。」
彼の声には、もはや愛の言葉というより、契約の確認のような響きがあった。
「ええ。」アンは微笑んだ。だが夜、一人になると、彼女は自分の腹に手を当てて考えた。
*もし違ったら。*
*キャサリンは五度、それに失敗した。私は——違う女だと、証明しなければならない。*
その考えが夜ごと彼女の眠りを削っていった。
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9月7日。グリニッジ宮殿。産室の窓は分厚い布で覆われ、蝋燭の火だけが揺れていた。
三日の陣痛。アンの喉は嗄れ、シーツは汗で重く湿っていた。
「王妃様、あと少し——もう少しです!」
助産婦の声すら、遠くから聞こえるようだった。痛みの波が引くたび、アンは天井を睨みつけた。*耐えろ。耐え抜けば、王子が生まれる。*
そして——引き裂かれるような一瞬の後、静寂が破れた。
赤ん坊の泣き声。
産室の空気が、凍りついた。助産婦たちの間に、一拍の沈黙があった。誰も、すぐには口を開かなかった。
その沈黙こそが、答えだった。
「……女の子で、ございます。」
天井を見つめたまま、アンは動かなかった。喉から込み上げるものを、飲み下すことすらできなかった。
*女——*
腕に、小さな重みが載せられる。真っ赤な顔、皺だらけの手足、そして——黒い瞳。父ではなく、母に似た瞳だった。
見つめているうちに、不思議と喉の奥の何かが解けていった。
「……あなたは。」
声が震えた。
「エリザベス。私の母の名を、あなたにあげる。」
その時、扉が乱暴に開いた。
「どうだ! 王子は——」
ヘンリーの声が、途中で止まった。彼の視線が、アンの腕の中の小さな塊に落ちる。
沈黙。
長い、長い沈黙だった。
「……女、か。」
たった一言。だがその一言に、アンは自分の運命が音を立てて割れるのを聞いた。かつてキャサリンが、この同じ部屋の、この同じ響きを、何度聞かされてきたか——今、彼女はそれを、自分の耳で聞いていた。
「ヘンリー。この子を、見てください。あなたの娘です。」
彼は振り返らなかった。
「……次だ。次こそは、男を産め。」
足音が遠ざかり、扉が閉まった。
アンはしばらく、その閉じた扉を見つめていた。それから、腕の中の温もりに視線を落とした。
「……誰が何と言おうと。」彼女は囁いた。「あなたは私の宝物よ。」
その言葉を口にした瞬間、記憶が刺のように蘇った。かつて盗み聞いた、キャサリンがメアリーに囁いた言葉と——あまりにも似ていた。
*私は、あの女とは違う。*
そう自分に言い聞かせながら、彼女はエリザベスを強く抱きしめた。まだ知らない。この腕の中の赤子が、いつか自分の名誉を取り戻し、この国そのものになることを。そして自分自身は——その代償として、三年後にこの寺院からそう遠くない場所で、首を落とされることになることを。
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二年後。
「また、身籠ったの?」ヘンリーの声には、期待と、それを上回る疲労が滲んでいた。
「ええ。今度こそ——」
「今度こそ、男だ。」
その目に、かつての情熱はもうなかった。彼の視線は、すでに部屋の隅に控える一人の侍女に向いていた。
ジェーン・シーモア。控えめで、従順で、金の髪。アンとは対極にある女。
「陛下、お茶を。」
「……ジェーンか。ありがとう。」
その短いやり取りを、アンは見ていた。何もかも見えていた。だが、口を挟む資格が自分にあるとは思えなかった。かつて自分が、まったく同じ場所で、まったく同じことをキャサリンにしたのだから。
「アン。」ヘンリーが言った。「近頃のおまえの態度は、気に入らん。もっと——大人しくしていろ。」
アンは笑った。乾いた、刃のような笑いだった。
「大人しく? 私が? ——私は教皇と戦い、国を二つに割り、すべてを賭けて、あなたの隣に立ちました。それが、私という女です。従順な女が欲しかったのなら——」
「——だから、何だと言うのだ。」
ヘンリーの声から、温度が消えていた。
「おまえは私の妻だ。それ以上でも、それ以下でもない。」
その一言が、六年前この寺院で彼女の頭に載せられた冠よりも、重く彼女の上にのしかかった。
その夜、アンは一人、暗い部屋で座っていた。涙は出なかった。ただ、窓の外に沈んでいく夕日を、いつまでも見つめていた。




