第四章 流産の果てに——1511年〜1516年、グリニッジ
1511年、新年が明けた。
キャサリンは再び妊娠していた。医師たちはうなずき合い、占星術師たちは「男児の星の配置」だと宣言した。ヘンリーは前回の失望を忘れたかのように、彼女の腹を撫でながら「今度こそ王子だ」と繰り返した。
「キャサリン、名前はどうする。ヘンリーがいい。父上の名前を継ぐのだ。」
「……あなたのお好きなように。」
彼女は微笑んだ。その微笑みの奥で、彼女は祈っていた。神よ、どうか今度こそ——
その年は、素晴らしいものだった。
宮廷中が妊娠の知らせで沸き立ち、彼女は特別なケアを受けた。食事は最高のものが出され、休息は十分に取らされた。ヘンリーは毎日彼女の部屋を訪れ、彼女の腹に耳を当てては「心音が聞こえる」と喜んだ。
「王は立派な王子をお望みですぞ。」
侍女たちはそう言って笑った。キャサリンも笑った。その笑顔は本物だった。
1511年元旦、彼女は陣痛を始めた。痛みは激しく、彼女は何度も悲鳴を上げた。しかし彼女は戦った。歯を食いしばり、汗を流し、叫んだ。
「息んで!王妃殿下、もっと!」
助産婦の声が響く。キャサリンは自分の力を振り絞った。
そして——男の子が生まれた。
「おめでとうございます!男の子でございます!」
その言葉を聞いた時、彼女は涙を流した。
「……ありがとう……神よ、ありがとう……」
彼女はその子を抱きしめた。小さな指、小さな鼻、小さなまつげ。完璧な男の子だった。
「彼はヘンリーと名付けます。」
キャサリンはそう宣言した。ヘンリーの瞳が輝いた。
「私の子だ。私の後継者だ!」
彼はその子を高く掲げ、宮廷中に披露した。誰もが喜び、祝宴が開かれ、鐘が鳴り響いた。あのプロローグと同じように、街は祝福の声で満ちた。
しかし——その祝福は長く続かなかった。
二ヶ月後、幼い王子ヘンリーは突然の熱病に倒れた。医師たちは駆け回ったが、手の施しようがなかった。
1511年2月22日、その小さな命は、わずか五十二日で消えた。
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キャサリンはその夜、一人で泣いた。
彼女は自分の部屋に閉じこもり、誰も入れなかった。ヘンリーが来ても、侍女が来ても、彼女はドアを開けなかった。
「……なぜ。」
彼女は床に跪き、拳を握りしめた。
「なぜ、あなたは——私の子を、次々と奪われるのですか。」
答えはなかった。ただ、雨が窓を打つ音だけが聞こえた。
彼女はその後、三日間食事を取らなかった。ヘンリーが説得し、ようやく彼女は部屋を出た。しかし、彼女の顔には、もうあの少女のような輝きはなかった。
「キャサリン。」
ヘンリーが彼女の手を握った。
「私たちはまた、子を授かる。次こそは——」
「……ええ。」
彼女はうなずいた。けれど、その声には力がなかった。
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その後、キャサリンの体は、悲鳴を上げるように妊娠と流産を繰り返した。
1513年——彼女は再び妊娠したが、三ヶ月で流産した。
1514年——再び妊娠。しかし、またもや流産。
1515年——彼女は男児を死産した。その子はもう、形になっていた。小さな手、小さな足。彼女はその子を抱きしめ、三日三晩、泣き続けた。
「私の罪なの……? 神が、私を罰しているの……?」
彼女はクロムウェル宮殿の礼拝堂で、何度も何度も床に額を擦りつけた。祈り、懺悔し、贖罪のミサを捧げた。
しかし——妊娠は繰り返され、そして失われた。
「王妃殿下、お体を大切に。」
医師がそう言った時、キャサリンはわずかに笑った。
「私の体は、もうどうでもいいの。ただ——」
彼女は自分の腹を撫でた。
「——この子だけは、どうか……」
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1516年2月、キャサリンは再び陣痛を始めた。
今回は、妊娠期間が九ヶ月を超えていた。彼女の腹は大きく膨らみ、医師たちは「今回は無事でしょう」と楽観的に語った。しかし、彼女は信じなかった。信じられなかった。
「今回は……女の子でもいいから……生きて……」
彼女はそうつぶやきながら、息を押し出した。
「ううっ……! ああっ……!」
彼女の叫びが、宮殿中に響いた。
「見えた!頭が見えた!」
助産婦の声がする。
「もう少し!もう少しです!」
キャサリンは目を閉じた。神に祈った。
どうか——どうか、この子だけは——
「生まれました!」
その声が聞こえた時、彼女はすべての力を振り絞って、目を開けた。
助産婦が抱き上げた子は——女の子だった。
「…………」
キャサリンは一瞬、息を止めた。
だが、その子は泣いていた。大声で。力強く。生きている証に。
「……生きている……生きているのね……」
彼女は涙を流した。それは悲しみの涙ではなく、安堵の涙だった。
「女の子です、王妃殿下。」
「……ええ、わかっているわ。」
彼女はその子を抱きしめた。小さな体は温かく、彼女の胸の中で動いている。
「あなたの名前は——メアリー。」
彼女はそう言った。母イサベルの母の名。そして——愛する妹の名。
「メアリー……あなたは、生きて。必ず。」
その言葉は、彼女自身への誓いでもあった。
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ヘンリーが部屋に駆け込んできた。
「どうだ! 男の子か?」
彼の声は期待に満ちていた。
しかし——キャサリンが抱く子の姿を見て、彼の顔は凍りついた。
「…………女、なのか。」
その言葉には、すべての失望が込められていた。
「ヘンリー——」
「…………」
彼は何も言わずに、部屋を出て行った。
キャサリンは彼の背中を見送りながら、その子——メアリーを、さらに強く抱きしめた。
「あなたは、生きるのよ。誰が何と言おうと——」
彼女はその子の額に口づけを落とした。
「——あなたは、私の大切な子。」
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それから七年間、キャサリンは妊娠しなかった。
彼女は四十歳に近づいていた。医師たちはこっそりと「これ以上の妊娠は難しいだろう」とささやき合った。
キャサリンはそのことを知っていた。知っていたけれど——彼女は祈り続けた。
グリニッジ宮殿の礼拝堂で、彼女は一日に何度も跪いた。
「神よ、どうか——もう一度だけ。もう一度だけ、男の子を授けてください。私は、あなたのしもべとして、この国を——」
彼女はそこで言葉を止めた。
その時、彼女の耳に、母イサベルの声が聞こえた気がした。
「あなたは橋になる。たとえ雨に濡れても、風に吹かれても——」
「——折れたりしない。」
彼女はそうつぶやき、顔を上げた。
その目には、涙はなかった。
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