第二章 未亡人の冠——1502年、ウェールズ
結婚式からわずか四ヶ月が経っていた。
ルドロー城はウェールズの辺境にそびえ、冬の冷たい風が城壁を吹き抜ける。キャサリンは暖炉の前で、刺繍をしていた。白いリネンに金糸で聖母マリアの姿を縫い込む作業は、彼女にわずかな安らぎをもたらした。針を動かすたびに、スペインの母の顔が浮かぶ。母もまた、こうして刺繍をしながら祈っていた。
アーサーは隣の部屋で勉強をしていた。プリンス・オブ・ウェールズとしての責務を果たすため、彼は毎日ウェールズ語と法律の勉強を欠かさない。キャサリンは彼の真面目さを愛していた。愛——時間が育んだものだ。
「王妃殿下。」
侍女が部屋に入ってきた。その顔色が、やけに青い。
「どうしたの。」
「王子殿下が……」
「何かあったの?」
侍女はうつむき、声を震わせた。
「熱を出されました。高熱です。医師が呼ばれましたが——」
キャサリンは刺繍枠を置いた。針が指を刺す。血が一滴、白いリネンに落ちた。彼女はそれを見もせずに立ち上がった。
「連れて行きなさい。」
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アーサーの寝室は、薬草の匂いで満ちていた。暖炉の火が燃えているのに、部屋はなぜか寒い。彼はベッドに横たわり、顔を真っ赤に火照らせていた。息遣いが荒い。額には汗の粒が浮かんでいる。
「アーサー——」
キャサリンは彼の枕元に跪いた。彼の手を握る。その手は熱く、か細かった。
「キャサリン……」
彼はかすれた声で彼女の名を呼んだ。
「大丈夫よ。すぐに良くなるわ。」
「……俺は、もう……」
「そんなこと言わないで。」
彼女は強く彼の手を握った。彼の指が、かすかに彼女の手を握り返す。
「……君は、美しい……あの日、港で……」
「アーサー。」
「……俺は君を、ちゃんと愛せていただろうか。」
その問いに、キャサリンの目から涙が溢れた。
「ええ。あなたは私を愛してくれた。私も——」
「……それで、いい。」
アーサーは微笑んだ。それは十七歳の青年の、最後の微笑みだった。
「……君は、強くなれ……イングランドは、君のような……強い王妃を必要としている……」
彼の目が閉じられた。
医師が駆け込んできたが、すでに遅かった。
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彼が死んだのは、1502年4月2日のことだった。
風が吹いていた。春の嵐がウェールズの山々を叩き、城の窓を震わせる。キャサリンはその嵐の中、一人、礼拝堂に跪いていた。彼女は泣かなかった。もう涙は枯れていた。
「神よ——」
彼女の声は、嵐の音に消された。
「あなたはなぜ——なぜ、私から彼を奪われたのですか。」
彼女は母イサベルの顔を思い出した。母が言っていた。「あなたは橋になる。」
しかし——橋の片方が、もうない。
「私は……何のために、ここにいるのでしょう。」
彼女がそうつぶやいた時、礼拝堂の扉が開いた。入ってきたのは、ヘンリー七世の使者だった。
「キャサリン王女。国王陛下からのご命令です。」
「……何です。」
「あなたはただちにロンドンへ戻り、王太后マーガレット・ボーフォートのもとで生活されるように。そして——」
使者は一呼吸置いた。
「……今後の処遇は、改めて決められます。」
キャサリンは顔を上げた。彼女の瞳には、すでに涙はなかった。
「……処遇。」
「はい。あなたはもはや、プリンス・オブ・ウェールズの未亡人です。イングランドはあなたを——どう扱えばいいのか、判断に困っております。」
「…………」
「スペインへ帰られることも可能です。ですが、その場合——」
「結構です。」
キャサリンは立ち上がった。その背筋は、すべての高官たちよりもまっすぐだった。
「私はイングランドに残ります。この国は、私の夫の国です。そして——」
彼女は胸の十字架を握りしめた。
「——私は、この国の王妃になるために、ここに来たのです。」
使者はその言葉に、わずかに息を呑んだ。十六歳の少女の口から出たとは思えないほどの、確固たる意志がそこにあった。
キャサリンは礼拝堂を出た。嵐はまだやんでいなかったが、彼女はそれを気にしなかった。雨が彼女のドレスを濡らし、髪を乱す。それでも彼女は歩き続けた。
私は橋になる。
たとえ片方が折れても——橋は橋だ。
私は渡らなければならない。
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ロンドンに戻った彼女を待っていたのは、厳しい現実だった。
ヘンリー七世はキャサリンを冷たく扱った。彼女の持参金の支払いをめぐる交渉が難航し、彼女は宮廷で肩身の狭い思いをした。使用人は減らされ、居室も小さなものに変えられた。時には食事さえも、質素なものになった。
「王妃殿下、本日のお食事はこちらでございます。」
侍女が差し出したのは、パンとチーズだけだった。
キャサリンはそれを受け取り、微笑んだ。
「ありがとう。十分よ。」
彼女はそれを食べた。一口一口、味わうように。そして、心の中で祈った。
神よ、あなたが私にこの試練をお与えになったなら——私はそれに耐えてみせます。
しかし、彼女の孤軍奮闘は続いた。宮廷では噂が流れた。「呪われた王妃」「不吉な未亡人」「スペインの女は、イングランドに不幸をもたらす」——彼女はそれらの言葉をすべて聞いていた。決して表情には出さず、ただ黙って耐えていた。
ある日、彼女が廊下を歩いていると、後ろから二人の侍女が話している声が聞こえた。
「ねえ、あの未亡人、いつまでここにいるのかしら。」
「国王様は早く追い出したいみたいよ。持参金の支払いを渋ってるんだって。」
「可哀想に。でも、自業自得よね。王子様を死なせたんだから。」
キャサリンは立ち止まった。振り返りたい衝動にかられたが——彼女はそれを抑えた。
私は橋になる。橋は、誰の悪口も聞かない。ただ——渡る者のために、そこにあるだけだ。
彼女は歩き続けた。その背中は、誰よりもまっすぐに。
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その夜、彼女は一通の手紙を書いた。父フェルディナンドへ。
「拝啓、父上。私はロンドンにて、日々を過ごしております。イングランド国王のご厚意により、質素ではありますが、生活は保たれております。
しかしながら、私はこの状況に満足してはおりません。私はアーサー王子の未亡人であると同時に——イングランドの王妃となるべく、この地に嫁いだ者でございます。
どうか父上、私のためにイングランドと交渉してください。私はこの地を離れるつもりはありません。たとえ何年かかろうとも——私は必ず、イングランドの王妃になります。
娘 キャサリン」
彼女はその手紙を書く間、一度も手を止めなかった。涙も流さなかった。
キャサリン・オブ・アラゴンは、十七歳になっていた。そして——彼女はすでに、自分が何をすべきかを知っていた。
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それから七年が過ぎた。
キャサリンは二十三歳になっていた。未亡人のまま、ロンドンで静かに暮らす日々。父フェルディナンドは、時折イングランドと交渉したが、決着はつかなかった。イングランドの若き王子——ヘンリー(後のヘンリー八世)は、まだ幼かった。彼は兄の死後、プリンス・オブ・ウェールズとなり、父ヘンリー七世の庇護のもとで成長していた。
キャサリンは彼を見ていた。宮廷の祝宴で、彼が笑い、踊り、女性たちを魅了する姿を。彼は美しかった。兄アーサーよりも背が高く、たくましく、そして——傲慢だった。
「キャサリン王女。」
ある日、彼が彼女に声をかけてきた。彼はまだ十四歳だったが、その瞳にはすでに王としての光があった。
「なぜ、あなたは結婚しないのですか。」
「……私は、結婚しています。あなたの兄と。」
「兄はもういません。」
彼はそう言って、彼女の手を取った。その手は温かく、力強かった。
「あなたは、イングランドの王妃になるべきです。兄ではなく——私の妻として。」
キャサリンは彼の手をそっとほどいた。
「……あなたは、まだ若すぎます。」
「年齢は関係ない。」
「あります。」
彼女は微笑んだ。その微笑みは、彼の心を揺さぶった。彼女の目は、彼が今まで見たどの女性よりも、深く澄んでいた。
「私は待ちます。あなたが、本当に結婚を望む日まで。」
「……それはいつですか。」
「あなたが父上を乗り越え、あなた自身の意志で決断できるようになった時です。」
キャサリンはそう言って、その場を去った。彼はその後ろ姿を見送りながら、初めて、この女性に惹かれている自分に気づいた。
彼は知らなかった。この瞬間が、彼の人生を——そしてイングランドの歴史を、大きく変える始まりだということを。




