第1部 スペインの雌獅子——キャサリン・オブ・アラゴン 第一章 アルカサルの乙女——1485年、スペイン
彼女はまだ五歳だった。
五歳の少女が、自分の結婚を決める瞬間に立ち会おうとは、誰も思わなかった。だがキャサリン・オブ・アラゴンは、カトリック両王の娘であった。早熟であることが求められたし、早熟であることが当然だった。
アルカサル・デ・セゴビアの玉座の間は、冬の冷気を閉じ込めていた。石造りの壁に掛けられた織物がかろうじて暖かさを保っているが、足元の床は氷のように冷たい。キャサリンは母イサベルの足許に小さな脚を折りたたんで座っていた。声を立ててはいけない。母がそう言ったからだ。
「……以上が、我々の提案でございます。」
イングランドからの使者は、緋色のベルベットの外套をまとい、片膝をついて頭を垂れている。彼の声はスペイン語に訛りがあった。それでもキャサリンには十分に理解できた。彼女はすでにラテン語とカスティーリャ語に加え、ポルトガル語も少し話せたからだ。
母イサベルは答えなかった。彼女は美しかった。いや、美しいという言葉では足りない。彼女の存在そのものが威厳であり、正義であり、神の意志だった。キャサリンは幼いながらにそれを感じ取っていた。母はただ座っているだけで、部屋の空気が変わる。誰もが息を潜め、その口が開くのを待つ。
父フェルディナンドが口を開いた。
「イングランドの王子アーサー……確かにおまえたちの言う通り、彼はプリンス・オブ・ウェールズだ。だが、我々の娘をただの政略の駒と見るわけにはいかない。」
その言葉に、キャサリンは母の裾を握る手を強くした。
「父上——」
彼女の声が、玉座の間に響いた。決して大きくはなかったが、あまりに澄んでいたので、誰もが振り返った。
母イサベルが初めて、娘の方を向いた。
「キャサリン。」
「娘も、イングランドに参りたいと思います。」
フェルディナンドが眉を上げた。イングランドの使者も、驚きで目を見開く。しかしキャサリンはひるまなかった。彼女は立ち上がり、小さなドレスを整えて、母の前に立った。
「イングランドと聞きました。霧の国。海を越えた先にある島。そこには大きな川があって、城があって——そして王子がいる。」
「おまえはアーサー王子に会ったことがない。」フェルディナンドの声にはわずかな呆れが混じっていた。
「会ったことはありません。でも——」
キャサリンは母を見上げた。母の瞳は、彼女の瞳を映す鏡だった。同じ黒檀の髪、同じ澄んだ焦げ茶色の目。ただ、母の目には深い知恵があり、娘の目にはまだ純粋な光が宿っていた。
「母上は、父上と会う前に愛し合っていましたか?」
その問いに、玉座の間が凍りついた。イングランドの使者は居心地悪そうに咳を一つした。
イサベルは微笑んだ。それは娘にだけ向けられた、誰も見たことのない微笑みだった。
「キャサリン、愛は時間をかけて育つものよ。最初からあるものではない。私たちの結婚もまた——」
「政略でした」とキャサリンが続けた。「でも、今は愛し合っていらっしゃる。だから娘も、きっと大丈夫だと思います。」
フェルディナンドが深く息を吐いた。彼は娘の頭を撫でるために、玉座から身を乗り出した。
「おまえは本当に——われらの娘だな。」
その日、イングランドとスペインの間で予備的な婚約が結ばれた。キャサリン・オブ・アラゴン、五歳。アーサー・チューダー、プリンス・オブ・ウェールズ、三歳。
二人が初めて会うのは、まだ十六年後のことだった。
---
それから七年が過ぎた。
キャサリンは十二歳になっていた。アルカサルで過ごした少女時代は、彼女の内面を形作った。母イサベルの信仰——カトリックの守護者としての厳格な信心。父フェルディナンドの政治——レコンキスタを成し遂げた現実主義。そして何よりも、彼女が生まれ育ったこの国、スペインの誇り。
「キャサリン、もうすぐおまえはイングランドへ旅立つ。」
母がそう告げたのは、彼女の十二歳の誕生日の朝だった。アルカサルの塔の上から、雪を冠した山脈が遠くに見える。
「心の準備はできているか。」
「できています。」
彼女は迷わず答えた。しかし母はその答えに満足しなかった。イサベルは娘の手を握り、その瞳をまっすぐに見つめた。
「嘘をつくことは罪よ、キャサリン。おまえはまだ子どもだ。不安でないはずがない。」
キャサリンは唇を噛んだ。母には何も隠せない。いつもそうだった。
「……怖いです。」
「何が怖い?」
「イングランドが遠いこと。言葉が通じるかどうか。そして——」
彼女は一呼吸置いて、最も深い恐怖を口にした。
「もし、あの王子が私を好きじゃなかったら、どうしましょう。」
イサベルは娘を抱きしめた。その腕は強く、温かく、スペインの大地そのもののようだった。
「あなたはカスティーリャの王女よ。誰が好きになろうと、あなたの価値は変わらない。覚えておきなさい——あなたが嫁ぐのは王子のためではなく、二つの国を結ぶ架け橋となるためだ。」
「架け橋……」
「そう。あなたは橋になるのだ。たとえ雨に濡れようと、風に吹かれようと、その橋は決して折れてはならない。」
キャサリンはうなずいた。母の言葉はいつも胸に刻まれる。その後の三十年間、彼女はその言葉を何度も思い出すことになる——まさにその通りだったと。
しかし、この時はまだ知らなかった。架け橋が重すぎる荷物を支えきれずに、いつか崩れ落ちる日が来るということを。
---
1501年、秋。
イングランドのプリマス港は、この日を待っていた。港には群衆が詰めかけ、桟橋にはイングランド王室の高官たちが整列している。緋色の外套、金色の鎖、羽根飾りのついた帽子。すべてが「国家的な行事」であることを物語っていた。
沖に、一隻の船が現れた。
それはスペインのガレオン船だった。帆を張ったその船体は、白と金の紋章で飾られている。カトリック両王の紋章——くびきと矢束。そしてアラゴンとカスティーリャの紋章が組み合わされた盾。
船が桟橋に接岸する。舳先に立っていた少女が、イギリスの灰色の空を仰いだ。
キャサリン・オブ・アラゴン。十六歳。
彼女は群衆の歓声に驚かなかった。母に教えられた通り、優雅に微笑み、手を挙げて応える。ドレスはスペインの最新の流行——黒いベルベットに金糸の刺繍。彼女の黒檀の髪は顔の輪郭を柔らかく包み込み、その肌は南国の日差しでわずかに色づいている。
「なんと美しい方だ……」
誰かが息を呑む声がした。キャサリンはそれを聞き流した。彼女は船の最後の階段を降りる時、一瞬だけ足を止めた。そして、イングランドの土を踏みしめた。
これが——私の新しい国。
彼女はそう思った。空は灰色だが、それが悪いとは思わなかった。スペインの青い空も好きだが、灰色の空にも美しさがある。母が教えてくれたのだ——どこの土地にも、神は等しく恵みを注いでいる、と。
「キャサリン王女、ようこそイングランドへ。」
迎えたのは、若い騎士だった。背は高く、まだほほに陰影のない、清潔な顔立ち。赤褐色の髪が、潮風に揺れている。
「私は——」
「ご存知です。あなたがアーサー王子ですね。」
キャサリンは微笑んだ。彼女は彼の前に跪こうとしたが、アーサーがそれを遮った。
「いえ、あなたは王女だ。私がお目にかかるべきです。」
彼は優雅に片膝をつき、キャサリンの手を取った。彼女の指輪に口づけを落とす。それは儀式通りの完璧な所作だった。
しかし——キャサリンは気づいた。彼の手が微かに震えていたのだ。
緊張。恐れ。それとも単に冷たさか。
彼女にはわからなかった。わからなかったが、その瞬間、何かが彼女の中で引っかかった。この若い王子は、彼女と同じくらいの歳。同じくらい——この結婚に戸惑っている。
「キャサリン王女。」
アーサーが顔を上げて彼女を見る。彼の瞳は澄んでいたが、どこか悲しげだった。
「あなたをイングランドにお迎えできて、私は本当に——光栄に思います。」
その言葉は完璧だった。あまりに完璧だったので、キャサリンは微笑み返すことしかできなかった。
彼は私を好きではない。
そう感じた。まだ三秒しか経っていないのに。
しかし——彼女は母の言葉を思い出した。
愛は時間をかけて育つものよ。最初からあるものではない。
キャサリンはその夜、プリマスの城で一人の部屋に与えられた。侍女たちが荷物を解き、暖炉に火を入れる。彼女は窓辺に立ち、イングランドの海を見下ろした。
波は荒れていた。スペインの地中海とはまるで違う。白い泡が岩に砕け、音を立てる。
「キャサリン王女、夕食の準備が——」
「あとでいい。」
彼女は侍女を下がらせた。そして、ひとり、小さな声で言った。
「私は橋になる。たとえ雨に濡れても、風に吹かれても——」
涙がこぼれた。彼女はそれを拭わなかった。誰も見ていないから、今だけは泣いてもいい。明日からは王妃として、笑顔を絶やさずにいなければならない。
「折れたりしない。」
そうつぶやいて、彼女は自分の涙の味を確かめた。それは塩辛かった——海の味がした。
---
その夜遅く、彼女は一通の手紙を書いた。母イサベルへ。
「拝啓、母上様。イングランドに無事到着いたしました。海は荒れておりましたが、神のご加護により、私は無事に陸に上がることができました。
アーサー王子にお会いしました。彼は立派な方です。背が高く、誠実そうな瞳をしております。私は彼の妻となることを、心から喜んでおります。
……母上、私は母上のように強くなれるでしょうか。母上のように、国と信仰を守り抜くことができるでしょうか。
どうかお導きください。私はまだ幼く、弱く、ときに涙を隠すことすらできないのですから。
追伸:イングランドの雨は、スペインとはどこか違う香りがいたします。なぜか、土の匂いがいたします。不思議な国です。いつか母上もご覧になれることを願って——»
キャサリンは手紙を封蝋で閉じた。そして、それを枕の下にしまった。
明日、この手紙はスペインへと運ばれる。しかし彼女が母の返事を受け取ることは、二度となかった。
イサベル・デ・カスティーリャは、その三年後に病に倒れる。彼女が最後に娘に宛てた手紙は、海の底に沈んだか、あるいは誰かの手の中で燃やされたか——その行方は、歴史の闇に消えた。
キャサリンは知らない。母が死の床で何を考えていたのかを。
ただ一つだけ——彼女はこの夜の涙を、生涯忘れなかった。




