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恋愛禁止魔女による、よろず恋愛事件簿  作者: 仁司方
【CASE.2 寒風雪華のハートチェイサー】
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2—1:創られた冬空の下で


 アルケイナ連邦の首都であるドラゴンハート市は、地理的には中緯度の温帯に属し、夏は暑くて冬は寒く、その中間である秋と春はすごしよい。


 ……といっても、アルケイナは魔法の国であるのだから、年中とおして快適な陽気を維持できないわけはないのだ。


 摩天楼街スカイスクレーパーエリアなんかは、地上から800メトラ以上ある巨大構造物の群れなわけで、平地に広がる都市のど真ん中にこんなものを建てたら、ふつうは周辺が吹き返しの風でひどいことになるし、日陰になる街区は昼間もほとんどまっくらというありさまになってしまう。

 そのあたりの問題を解決しているのは魔法の力であり、もう一歩進めば、市内全域の気象をコントロールしようとなるのも、そこまで突飛な発想ではない。


 しかしドラゴンハート市では四季の流れが自然に任されているどころか、むしろ強調されていて、夏はより暑く、冬は雪が降り、かつては低地を水びたしにしていた春の降雨季すら再現されている。

 さすがに、雨の日がつづくだけで浸水はしないそうだけど。


 どうしてそんな状況になっているのかといえば、五ヶ国が統合されて連邦が成立したさいに、お偉いさんたちが「おらが国の気候こそが標準」だと互いに譲らず、通年の気象安定計画がお流れになって、季節ごとにそれぞれの推し気候が再現されることになったから……だとかなんとか。


 都市伝説のたぐいだけど、ほんとうだったとしたら、バカなんじゃないの?って思う。



 【CASE.2 寒風雪華のハートチェイサー】



 ド田舎山奥の小村から、魔術師範学校に入るために都へ出てきたわたし、ペティカ=クルトが入居しているヌール寮は、いまのご時世としては古臭い、風呂トイレ共用の物件であった。

 だがしかし、師範学校から至近な上に、寮母ヌール夫人がとびきり美味しい料理を出してくれるので入居希望者は多く、競争倍率は高い。


 わたしは希少(レア)系統である心理術(エンチャント)の資質があり、推薦入学という名の強制収容処置を受けたために、かつて連邦軍のエースでもあったヌール夫人に預けられることとなった。


 そんなヌール寮の104L室、つまりわたしの部屋である104R室の向かいの住人であるリリベル=ウィンスクは、レッドフレイムの出身なのだが、なぜだか最近いつもにまして元気が良かった。

 もっとも、連邦西部のレッドフレイムはその名に反して、年中暑い灼熱の地というわけではない。お料理はスパイスの利いた辛口が名物なんだけど。


 かつてドラゴンハート市を年中夏の暑さにしようと主張したのは、南部ブルーアクアだと言われている。レッドフレイムは、四季的には秋の陽気担当だ。


 それでもリリベルにとって、本格的な冬ははじめてのはず。


 夜明け前からお昼すぎまで雪が降りつづき、あたり一面が真っ白になるほど積もった夕方のこと。リリベルはひときわご機嫌で、わたしの五歩さきをゆきながら新雪に足あとを刻みつけていた。


 同学年といっても、学校から帰るタイミングがそろうことはあまりない。今日はたまたま、七時限めの選択がかぶっていたので、わたしたちは寮への帰路をともにしていた。


「ベルさ、もしかして、雪がめずらしいからテンション高いの?」


 熱心に雪を踏むリリベルへ訊ねてみたら、あきれとともに非礼を咎めるジト目が返ってきてしまう。


「失敬やな。うちかてホワイトエアへ旅行に行った経験くらいあるわ。わんこじゃあるまいし、雪だけでそんなテンション上がらへんて」

「……そっか、この歳まで地元から一歩も出たことなかった田舎者は、わたしくらいか」


 同じお上りさんでも、格差ってあるものだなあ。


 北部ホワイトエア(の中でもきわめつけド僻地)で生まれ育ったわたしにとって、雪はごくありふれた厄介モノにすぎない。そして雪を見て郷愁(ホームシック)にひたるほど、まだ都に出てきてから月日もたっていなかった。


 吊り上げていた柳眉をすぐに機嫌の良いときの角度に戻し、リリベルは気分が乗っている理由について話してくれる。


「ここドラゴンハート市にはな、年に一度のお祭りがあるんや」

「へえ、そうなんだ」


 都の祝祭って、年に一度だけじゃないよね……? 収穫祭と謝肉祭はこのまえやったばかりだし。


 わたしは怪訝げな顔になっていただろう。リリベルは「あーこれだからシロウトは」って表情で、語に力を込めた。


「ただの祭りやないで。市内にコースを設定しての、エアリアル・グランプリや!」

「あー、なるほど。ベルも出場するってわけね」


 ようやく友人が血湧き肉躍らせている理由がわかった。都市圏には、ほぼすべての魔法を封じる魔術抑制結界アンチマジックフィールドが張られている。休講日のたびに郊外へ出かけては空中レースに興じているリリベルにとって、首都の空を合法的にかっ飛ばせる機会は見逃せないだろう。


「いかにも。うちが師範学校に進むと決めたんは、99割このためや!」


 ……口だけではなく全身で力みすぎたリリベルは、ふんわりと積もっている新雪に足を取られてすっ転んだ。

 柔らかな雪の上に突っ伏したので、怪我をする心配もなければ、まだだれにも踏み荒らされていない白一色のおかげで、泥まみれになることもなかったが。


「だいじょぶ、ベル?」


 リリベルを助け起こして、肩や髪についた雪を払い落としながら声をかけると、彼女はくわっと顔を上げてわたしのほうをにらむ。


「アホの子をあわれむような目で見んといてや! このけったくそな結界さえあらへんかったら、うちは……」

「飛んでるときのベルがすごいのは知ってるよ」


 実際、大地の(くびき)から解き放たれた彼女はまるで別人だ。規制結界外で空中競争(エアリアル・レース)に興じるリリベルを、わたしは何度か見ている。


「そうや、祭りの日にはな、ティカだけじゃなく師範学校の全員の目に、速く凛々しく美しい、うちの真の姿を焼きつけさせてやるよってな!」


 と言ってはいるものの、ハニーブロンドで蒼い目のリリベルは、ことさら気取らず飾らずとも外見は抜群に良い。灰色の髪に鉛色の目のわたしとは大違いだ。


 ……まあ、飛行魔術がないと、陸の上のアホウドリというか、氷上のペンギンというか、いわゆる「二種類めのかわいさ」だけど。


    +++++


 エアリアルレース・ドラゴンハーツ・グランプリ——


 生まれて15年がすぎるまで、超絶ド田舎(フロストピーク)から一歩も出ることなくすごしたわたしが知らなかっただけで、冬のエアリアル・レース大会は、アルケイナで開催される各種イベントの中でも最大級のモノのようだ。


 連邦の各地はもとより、外国からも飛行能力に覚えのあるレーサーが多数訪れ、観衆も10万人単位でやってくる。


 市内のホテルはこぞって移動式の臨時棟を牽引してきて、主館のとなりや上部へ接続し収容数を倍加させ、押し寄せる旅行客に対応していた。このあたりは魔法文明立国であるアルケイナの面目躍如だ。


 レース期間のあいだは魔術師範学校も講義は午前中のみの時短で、決勝戦当日は完全休講になるという。


 というのも、魔法文明の先進国として当然期待されているのは、表彰台の頂点にアルケイナ選手が立つことである。

 連邦空軍のエースや民間チームが勝つのもいいけど、アルケイナの将来を背負って立つ師範学校生が優勝してくれれば、それに越したことはないわけだ。


 つまりわが友人、リリベル=ウィンクスは魔術師範学校が推す有力選手なのか……といえば、べつにそんなことはないようで。


 初年生だからまだ実力を広く知られていない、というのもあるようだけど、リリベル自身が、あまりそのスピードをアピールしていなかった。

 彼女の外見に()かれて交際を申し込んできた男子生徒に、草レースで勝てたらおつき合いすると条件をつけては、休講日にぶっちぎっていたていど。もちろん、飛行能力がない男子は足切りで即お断り。


「どうしてエアリアル同好会に入るとか、飛行術の実技に出席とかしなかったの?」


 スピードスターとして目立つのが志望なら、これまでも機会があっただろうと思って訊いてみたら、


「グランプリでいきなり無名の新人が優勝かっさらうほうが、師範学校公認のホープより話題になるやろ?」


 というのがリリベルの答えであった。


 地元最速として魔術師範学校の推薦状を受け取ったときから、エアリアル・グランプリで優勝を飾って華々しくスターダムにデビューする——というすじがきで、リリベルはサクセスプランをひそかに温めてきたらしい。


 その自信のほどが正当なのかどうか。わたしには、あながち無謀だとも思えないのだけど。


 実際、わたしはリリベルより速く飛べる人を知らない。といっても、そもそも飛行能力者とか、都に出てくるまで数えるほどしか見たことなかった気もしてきた……。


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― 新着の感想 ―
魂が走り屋過ぎる…w
リリベルの自信家っぷりが素敵です。 ハニーブロンドで蒼い目もキュートだし、「二種類めのかわいさ」も魅力的ですが、それらを裏切るエアリアルの才能とそれに見合う気性、ファンになってしまいます。
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