ウノシルディス平定16
わくわくするお姉様の活躍を描いてみたい。
そんな作者の願望から始めた物語です。
この物語のメインテーマは、『格好のいい男前なお嬢様』の物語。
皆が応援したく成る『お姉様』を書きたいと思います。
火曜日と金曜日に更新を行います。
短編の外伝を作成しました。
こうれからも不定期で作成してまいります。
『主人公じゃないけど頑張ります』
https://ncode.syosetu.com/n1976mm/
「アレクセイ様、炎の壁です。シルディ様の本隊が敵中に完全に孤立しました」
シルディア様が居た辺りを囲む様に勢い良く黒煙が湧き上がっているのが見える。
「間違いないか?」
「間違いありません。紅の戦旗がありました。
本隊の左右と後方が炎の壁で囲まれました」
こうして喋っている間にも火の手は強まり3メートル程の火の壁と成っている。
「シルディア様の本隊にどれくらいの兵力が居たかわかるか」
「騎兵の上げる砂埃でしかとは判りませんが、突撃の時には2000騎はいなかったと思います。
左右に分かれた部隊も500騎位いるので、本体は1000騎程度ではないでしょうか」
「ウンガノの率いる本隊は恐らくまだ2万はいるはず。
なぜ、遠隔攻撃で完勝が出来るのに2000騎程度で危険な突撃を何故行なう?」
俺はシルディア様を見誤ったか。
先の見通せる方と思ったが、戦闘に酔いしれる方が本性であったか。
「突撃は、遠隔攻撃が一旦収まってから、相当時間を置いてから始まりました。
その間に何かあったのかもしれません」
それはそうであろうが、この陣地に引き籠り軍議にも出れない今の立場では、推測しか出てこない。
確かなのは、シルディア様が敵中に孤立して窮地にある事。
そして、我々にはウンガノの本隊を蹴散らし、シルデイア様を救出する兵力が有ると言う事だ。
(しかしこれは、我々の忠誠心を示す千載一遇のチャンスなのかもしれない)
「ハイデ殿と話をしてくるから、部隊長を集めておいてくれ。
許可が得られれば我々は全軍でウノ族の側面を突き、シルディ様をお助けする。
全員に右肩に赤い布を巻かせるのを忘れるな、徹底しておけ」
そう言い残すと、俺は50メートルほど前方にいるハイデ殿の所まで全力で走る。
◆ ◆ ◆ ◆
俺は剣を腰から外しハイデ隊の者に預ける。
「ハーゲン殿!」
俺はハイデ殿に声を掛ける。
「アレクセイ殿」
心配そうに戦況を見ていたハイデ殿が俺の方を振り向く。
「シルディア様のいる本隊が敵陣に孤立なされた。
炎が上がる前に紅の戦旗が見えましたから間違いありません。
これから我々は敵の側面を突き、シルディア様の脱出をお助け致します。
壕から出て出撃する許可を貰いたい」
俺の申し出にハイデ殿は何も言わずに考え込む。
(それはそだろう、さっきまで敵であった俺の申し出だ、警戒しない方がおかしい)
「ハイデ様、キリーが伝えた命令では、『本隊が敵の前衛と本隊を分断した後は、武器の制限無しに戦隊の判断で敵を徹底的に殲滅せよ』です。
ハイデ様には我が軍左翼の全指揮が任されています。
ですので、アレクセイ殿に敵側面を攻撃させる事自体は命令の範囲です。
それにアレクセイ殿の持つ歩兵9000は、この戦場での最大戦力です。
しかし・・・」
私の副官のアリーセが口ごもった理由は私にも良く解る。
(アクセレイ殿が再び裏切れば、さすがのシルディ様でも危うい。
勿論、裏切ったアキム族は許さない、一族郎党の全てを必ず殲滅する。
だけれど、成功すれば一気に勝敗は決まる。
シルディ様はアクセレイ殿を信頼された。
ならば当然、このアレクセイ殿の動きも織り込み済みと考えるべきか。
ウノシルディス解放戦の時と言いシルディ様は私の判断力の限界を試される。
・・・そうかあの時と同じか)
「分かりました。シルディ様が信頼した貴方を信頼します」
そう言って右手を差し出すと、アクセレイ殿は一瞬びっくりした様な顔をしたが握手をする。
ごつごつとした、武人の男の手だと私は思った。
「ハーゲン殿、ありがとう御座います」
「ハーゲン殿は止めて欲しい。ハイデでいい。アクセレイ殿は馬は使えますよね」
「はい」
「では私の替え馬を使って下さい。
私もアクセレイ殿と共に戦います。
私は私の個人的な理由で戦旗を掲げる者を自分の手で救い出したい。
それに、シルデイ様に説明を行う者も必要です」
(・・・そして、貴方を監視し、万が一の時には始末する者も)
私はおそらく、私に任された責任の範囲を越える判断をした。
この判断が間違や失敗した場合は、シルディ様の手を煩わせる事無く、命をもって謝罪するしか無い。
「分かりました。アキム族の忠誠を信頼して頂きありがとうございます。
アキム族の未来の為にシルディア様に勝って頂きます」
(この状況であれば、俺でも寝返ってた部族は使わない。
あの一瞬で判断が出来るとは、ハイデ殿は単なる戦隊長では無い。
シルディア様の有能な幕臣だ)
(私の疑念には当然気づいているはず。
だけど彼は自分の部族の未来の為にはシルデイ様の勝利が必要なのは確か。
戦いを勝利に導く決定的な戦功を上げたアキム族をシルディ様は篤く遇する事が出来る。
その戦功とシルディ様を救出した功績があれば、皆が納得する理由も出来る。
一体、何手先までシルディ様は考えているのだろう)
「その言や良し。
アキム族の未来の為に、シルディ様に勝利を捧げなさい」
私は腹を括った。
この決断に後悔はしない。
「はっ! アキム族の誇りに誓って」
ハイデ殿の命を掛けた決断の迫力に、俺は思わず膝を折って誓いを立ててしまった。
ヒルダ様にハイデ様、シルディア様に関係する女性は何故これ程の覚悟を持っているのか。
私はアキム族に向かうアクセレイ殿を見送りながら
「アリーセ。
私は10人程ロングボウ装備で弓騎兵を連れてアクセレイ殿と共に行きます。
今後の指揮は次席であるクヌート殿に任せます。
ただ・・・・もしアキム族が裏切った場合は、クヌートの命令の如何を問わずアキム族の殲滅を最優先とします」
「・・・腹を括られたのですね。かしこまりました。
シルディ様に勝利の褒美を共に貰いましょう」
「ええ、私の未来の夫を助け、褒美に陞爵してもらい子爵にしてもらいます」
私はアリーセと拳をぶつけ合った。
◆ ◆ ◆ ◆
「カタリナ殿」
救出した捕虜達に後方のエリー様の方に向かう事を指示してからバルタザール殿が近づいて来られた。
「バルタザール殿、命令の変更ですか」
「そうです。説明は後で行います。
まず全戦隊に敵右翼に対して展開する準備をさせて下さい」
「分かりました。
伝令、全戦隊第十戦隊の後ろに戦隊毎に突撃隊形を作れ、私も第十戦隊に移動する。
口頭でよい、急げ」
私の命を受け伝令が文字通り飛び出して行く。
「救出した捕虜達は、本陣のあった辺りに下がらせたのですね」
「そちはエリー殿に対応を任せます。
それよりも、敵の一連の行動はシルデイ様を前線まで誘き出す罠でした」
「罠ですか」
「そうです、アーレイの使用を躊躇わせ、騎兵の突撃を誘発し、激高したシルディ様が陣頭に立つ事を見込んだ罠です」
「あちゃ~~! 見事に罠に掛かっていませんか?
それともその方が面白そうだからと言う事は・・・シルディ様なら有り得る・・・・」
私の天を見上げて両手を広げる古典的リアクションは戦場としては緊張感が無さすぎたかも知れない。
「まさか・・・・そもそも騎兵と言う物は元々そういう兵種でもあるのです。
騎兵を止めるには重装歩兵のファランクスが必要で、倒す為にはロングボウか騎兵しかありません」
バルタザール殿もシルディ様なら後者の可能性が高いと思われた様子ではあるが、最後は年長者らしく穏便に綺麗に〆られる
「解ります、アーレイも基本はロングボウを同じ投擲武器の一種ですから」
さっきのアクションの反省に私も深刻ぶって話をバルタザール殿に合わせる。
「シルディ様は敵の思惑を見切った上で、自分を餌として敵を引きつけるおつもりです。
敵はせっかく上手くシルデイ様を罠に掛けたと考えているので、ロングボウの射程に入って来ないシルデイ様に接近する為に歩兵による攻撃を行います。
敵が囮となったシルデイ様に拘っている間に我々は敵の側面に移動して、これを殲滅します」
(『思惑を見切った上』と言うと格好良く聞こえますが、要は『その方が面白そうなので乗っかった』って事ですよね、バルタザール殿)
3カ所で同時発生している事を並行して描いていますので、場面展開が多くてすいません。
シルディが火計の罠に掛かりピンチに陥った時、それぞれの部下がどの様に対応するのかを書き分けて見たくてこの様になりました。
真面目なハイデは、真正面からピンチと考え悲壮な覚悟の元、自分の責任で裏切るかもしれないアクセレイ殿とアキム族を救援に向かわせます。
シルディとの付き合いが短いアクセレイは、部族の忠誠を見せるチャンスと意気込んでいます。
シルディの事を良く知るバルタザール殿とカタリナは、言葉は異なりますが共にシルディが罠と知りながらそこに飛び込み、それを利用する(遊ぶ)気である事を見抜いています。




