ウノシルディス平定15
この物語のメインテーマは、『格好のいい男前なお嬢様』の物語。
皆が応援したく成る『お姉様』を書きたいと思います。
火曜日と金曜日に更新を行います。
又、本編で書ききれなかったお話を外伝として不定期で投稿致します。
カタリナが作ってくれた突破口から雪崩込み、敵の前衛を一瞬で突き抜ける。
敵の前衛は200メートル程の厚みがあるが、兵も少なくそして脆い。
先行した300騎程が易々と前衛を突破すると、敵本体まで100メートル程の空白地帯がある。
(敵のロングボウの射程は100メートルか。ここに罠がありますって看板を出してどうするの)
私が空白地帯の端まで来ると、何やら敵に前衛に動きがある。
「第一線はここにする。ここより前に出るな! 全軍を150メートル下げる」
私は素早く馬首を返すと、150メートルほど後退、敵本体との間に250メートル程距離を開ける。
(間違いなく敵のロングボウの射程は100メートル。騎兵なら5秒で走り抜ける。定石なら歩兵を前進させて騎兵を押さえ、弓兵を100メートルまで接近させて前線で戦う味方を撃たない様に後続の騎兵を狙撃するはずだけど)
「ここを取りあえず、本陣とする。
エッカルト、右翼の敵を掃討せよ。
ディートフリート、左翼の敵を掃討せよ。
左右に展開した部隊は、クヌートとエルンストに合流した後は、この両名の指揮下に入れ」
「了解致しました」
「貴様らが本隊から十分に離れた所で必ず敵に動きがある。
私を孤立させる為に何らかの方法、恐らく火計を仕掛けて来る。
しかし、奴らに大量の火薬は無い、精々油樽程度だから大した事は無い。
その場合、クヌートとエルンストの指揮に従い敵本体の側面を付け。
よし、行け!」
「はっ! 右に展開します。ヨーナス、カールハインツ、続け」
「ディートフリート、左に展開します。クルト、レオンハルト、付いてこい」
二人の敬礼に私も答礼して見送る。
「コンラートは第一線として、さっきの所に50騎の横隊突撃陣形を作れ。
第一線と第二線の間は150メートル。
それ以降の各隊の間隔は5メートル、6段で並ばせろ。
ただし、これは突撃するぞと言う見せかけだ。
突撃すると見せかけて場合によっては、全力後退もあり得る。
騎兵の用兵としては難しい事を頼む事になるが、『我が命に従え』、その事のみを全員に徹底せよ」
「イェス!! シルディア」
コンラートは敬礼を行い、前衛の編成の為に前方に向かう。
「バルタザール殿」
「捕虜の事でしょうか?」
「はい、捕虜達を後方に急いで避難誘導して下さい。
その後は、カタリナ隊に敵右翼に回り込ませ、ハイデ隊と協力して敵を挟撃して下さい。
敵は本隊を孤立させ、ロングボウで本隊のみの殲滅を図って来ます」
敵の罠は実に私の性格と騎兵の性質を良く知っている。
まず最初に捕虜を人質にする事で我が軍の主力兵器であるアーレイを封じる。
次に私が捕虜を見殺しに出来ない性格を見抜き、騎兵による攻撃を仕掛けてくる事を予測。
その時確実に私が自ら先陣を切る様に使者にわざと私を激高させた。
そして、これまでの所、私は奴らの思う通りに動かされている。
だが、この程度の策に私が策を弄する必要は無い。
奴らの最大の誤算は私とクロスロードの騎士を甘く見た事よ。
「かしこまりました、急ぎます」
バルタザール殿は敬礼もそこそこにカタリナ隊に急ぐ。
◆ ◆ ◆ ◆
「陛下、横隊突撃陣形の配置が終わりました。約300騎、6段の騎兵突撃隊形です。
陛下の直衛として、100騎を残します」
「ご苦労。それでコンラート、今の前線突破での我が軍の損害は?」
「敵がカタリナ隊の攻撃で総崩れでしたので、突破に際して戦死者も命に係わる重傷者もいません。
敵の損害は戦死者が1000人位、負傷者も1000人位、残りは本体に逃げ込みました」
「前衛は5000位いたと思うけど完勝ね」
「この後は、カタリナ殿に横隊突撃陣形のすぐ後ろまで前進して頂き、アーレイによる攻撃の後に全軍で突撃致しますか?」
「それでも勝てますが、折角敵が作った罠です。
私を餌にして敵を挟撃し、一気に形を付けてやりましょう。
カタリナ隊には右翼から敵を挟撃させます・・・ああ始まったわね」
左右300メートル、そして後方200メートル位の所から火の手が上がり敵の後衛まで延びるのU字型の炎の包囲網を作る。
「火の壁により、左右に展開したディートフリート隊、エッカルト隊との連絡が取れません。
左右から回り込んだクヌート隊、エルンスト隊とは合流出来た様です。
後方も火の壁により後退は不可能です」
「思っていた通りよ。
炎だけで始末出来るとか、随分とクロスロードも舐められたものね」
(先の大敗の研究はしたみたいだけど、火薬の情報は掴めなかった様ね)
「陛下、これはしかし、先の大敗と同じ状況です。
本体には400騎しかいません、数で押し切られます」
(候補生にも先の大敗の本当の情報は秘匿されている訳ね)
「いいえ全く違います。
敵は火薬を持たない。
我が軍の騎兵であれば、あの程度の炎の壁を越える事は造作も無い。
まあ、左右の壁は他にも仕掛けがあるかも知れないから、越えるなら後ろの壁だけどね」
「もし、敵が最終兵器として火薬を温存してる可能性はありませんか?」
「コンラート、火薬は決して極秘に大量生産出来る様な物ではありません。
生産する技術、その材料の調達、その全てを隠す事は出来ません。
そういった情報を集めるのもシルディ機関の仕事です。
武器の製造や鉄や機械の製造、交易だけをしているのがシルディ機関ではありませんよ」
◆ ◆ ◆ ◆
「ようやく、歩兵が前進を開始して来ました」
「コンラート、前線は60騎で維持出来るわよね」
「あんな戦意に乏しい兵など、問題ではありません。
それに炎の壁のおかげで敵も正面からしか攻めて来れません。
策士、策に溺れるとはこの事ですね」
(コンラートも冗談を言える様になりましたか)
「敵は歩兵が前線に張り付いたら、ロングボウ部隊を接近させるはずです。
そのロングボウ部隊が攻撃態勢に入ったら、第一陣は最後尾まで後退、第二陣は突撃を行い前衛の歩兵を蹴散らし戦線を再構築します。
最終的に騎兵の突撃が弓兵まで届けば我々の勝利です」
「了解です。
ですが歩兵と戦闘中の第一線にロングボウ部隊を接近させて撃って来ませんでしょうか」
「それこそが、私の狙いです。
ロングボウで精密狙撃を行うには40メートル以内に接近する必要があります」
「その距離は、騎兵にとって指呼の距離、一気に雪崩込んで、弓兵部隊を殲滅します」
コンラートが余裕を取り戻して答える。
(実戦不足なんだけど戦いの機を見る事も出来そうね)
「それで良い。弓兵は500人位だと思うが、その時には後続にも全軍突撃を行わせます。
投げ槍を上手く使え、突撃だけが騎兵の戦い方ではないぞ。
ただ、もし弓兵がそれ以上であったら一時退却します。
そこがこの戦いの勝負所です」
『一時退却』と言う言葉に何かコンラートは言いかけたけど、先に言った『我が命に従え』を思い出したらしく、何も言わなかった。
(中堅の指揮官としても優秀ね)
「あとは味方ごと撃ってこないかと言う事だけど、私が射程に入らない限りそれは無い。
一度でも味方ごとロングボウで攻撃したら、敵の歩兵は二度と前に出なくなるから」
「了解致しました。それでは、前線で奴らを足止めします」
(『私が射程に入らない限り』という言葉にビクッとしたけど、フローラやブルックみたいにそれをネタに私で遊ぶ余裕はまだないか。クヌートやエルンストあたりなら私で遊ぶ余裕はあるかしら)
「第六陣まで繰り返せ。
その間に側面から周り込んだ友軍が決着を付ける」
「かしこまりました! 陣頭で指揮を執ります」
コンラートが私に敬礼を行う。
「任せる! 」
私は少し微笑むと、コンラートを敬礼で見送った。
この時、私は私の部下の能力と忠誠心を少し過小評価していたらしい。
自分に新しく従った異民族をどれだけ正しく取り込めるかが、帝国の皇帝の力量になります。
帝国は、元々同族であったクロスロード大公国とは良好な関係を作る事が出来ましたが、
新しく加えてたゲートリング大公国に関しては併合に際し王族と貴族、騎士達に大きな不満を抱かせてしまい、結果としてスクルド王国を手引きして帝国の皇帝、皇太子、そしてクロスロード大公国の公王、公太子と騎兵兵力の大半を失うと言う大敗を招く結果となりました。
さて、シルディの作る新しい帝国はどの様な理念の基に誕生するのでしょうか。
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