ウノシルディス平定13
「梶 ゆう」の初回投稿です。
書きながら色々勉強して行きたいと思っています。
この物語のメインテーマは、『格好のいい男前なお嬢様』の物語。
皆が応援したく成る『お姉様』を書きたいと思います。
火曜日と金曜日に更新を行います。
使者が完全に離れたタイミングで
「本当に敵を人質ごと殲滅するのですか?」
エリーが万に一つも私が選ぶはずの無い選択を聞いて来る。
「このまま攻撃を行えば味方の犠牲も無く奴らをこのウノシルディスから叩き出す事が出来のに、5000人の平民の為に出さなくても良い3000人の騎士の犠牲を出す訳には行かない」
エリーの言葉を否定しない私の言葉にアンゼムルは能面の様な表情の無い顔になる。
アンゼムルだけで無く同席している士官候補生達も表情を無くす。
「シルディ様、それを行えばこの戦いには勝っても、クロスロード帝国には騎士の誇りも正義も無くなってしまいます」
アンゼムルは必殺に私に訴え、士官候補生達も縋る様な目で私に再考を訴える。
私がそんな事をする訳が無い事を知っているエリーは澄ました顔をしている。
(エリーの悪戯に純真なアンゼムルや士官候補生達が掛かってしまった、だけど私の人と成りを知ってもらうには良い機会を作ってくれた。さすがエリー)
バルタザール殿はと見ると、私の剣が無意識に切り飛ばした敵の残した白旗の竿の切り口を見て
「刃の無い指揮刀でこの見事な切り口。素晴らしい。儂でもこうはいかぬ」
と別世界でしきりに感心しているご様子。
「その通りよ、アンゼムル。そんな帝国なら私達が新しく作る必要は無いわ」
アンゼムルと士官候補生達に漸く表情が戻った。
「エリー! 一番信頼出来る伝令を3人呼んで。命令を口頭で伝える」
さっきまで話に無関心に切り口をもていたバルタザール殿もこっちの世界に戻って来た。
「マチア、キリー、アンナ」
エリーが即座に私も良く知る3人を呼び出す。
「3人とも良く聞いて、本隊はこれから敵陣に対し正面から敵陣を強行突破、その後に背面展開を行い、敵の前衛と後衛の分断を図ります」
3人の伝令、エリーにアンゼムル、バルタザール殿も緊張に唾を飲み込む。
「マチア、カタリナ隊に命令。
カタリナ隊は私が突撃する進路上の敵を通常ボルトで掃討する事。
本隊突入後は前衛部隊を精密狙撃にて排除せよ」
「キリー、ハイデ隊は、後方の部隊を通常ボルトによる精密狙撃で足止めをする事」
「本隊と突撃騎兵が敵の前衛と本隊を分断した後は、武器の制限を解く。
戦隊毎の判断で敵を徹底的に殲滅せよ。
尚、人質については最大限の保護を行う事。
日頃の訓練の成果を私に見せよ」
「アンナ、クヌートに命令。
突撃騎兵を二隊に分け1隊をクヌート、もう一隊をエルンストが指揮を行い、前衛部隊を左右から回り込み殲滅、背面展開を行った本隊と合流、以降協力して敵本隊と前衛部隊との分断に努めよ。
攻撃のタイミングは私の本陣からの出撃に合わせる事。
人質については最大限の保護を行い、西方向に退避させよ」
「ご命令、了解致しました」
3人の伝令は綺麗に揃った敬礼を行ない、舞う様に美しく愛馬に騎乗し一斉に駆け出す。
◆ ◆ ◆ ◆
「バルタザール殿、士官候補生達と話がしたい」
「かしこまりました、用意は整っております」
私はバルタザール殿が用意した演説台の上に上がる。
私が台に上がると10人程先の会談の場にいたリーダーらしい候補生が
「総司令官、シルディア・フォン・クロスロード殿下に敬礼」
とえらく気合の入った号令を掛ける。
1000人あまりの士官候補生が一人しか居ない様な一つの音で私に対して見事な敬礼を行う。
風以外の音のしない静寂の中、私は答礼を行いながら全体を見渡す。
私の横にアンゼルムが私の『戦旗』を掲げ、当然の様に立つ。
「クロスロード大公国公女、シルディア・フォン・クロスロードである」
身じろぎ一つしない候補生達を見ながら、私の言葉が皆の心に浸み渡るまで待つ。
「クロスロード大公国の未来を担う士官候補生達よ。
敵は3万、味方は2千、しかし、このままアーレイによる遠距離攻撃を続けていれば、味方の損害無く勝利を掴み奴らをウノシルディスの土地から完全に駆逐する事が確実に出来る」
私はわざと敵の数を多く、味方の数を少なく言うが、完勝への道筋が見えている事も知らせる。
「しかし、敵はウノシルディスの住民、女子供ばかりを5000人の人質を肉の盾としてた。
普通であればその様な戦術に意味は無い、捕虜と敵を区別して攻撃する事が出来るからだ。
だが、アーレイによる遠距離攻撃には捕虜と敵を区別する事は出来ない。
敵はそこに目を付けて、アーレイの使用を停止するを申し入れて来た」
周りの候補生に同意を求め視線を動かすのは、今の私の言葉だけで状況が理解出来たらしい。
「敵にはまだ我らの15倍に匹敵する戦力が残っている。
今の段階で槍騎兵による突撃を行えば、相当数の戦死者が出る。
それに対し、人質を無視してアーレイによる遠距離攻撃に徹すれば味方に損害は出ない」
「前者を選んだ場合、
「安っぽい同情心から5000の平民を救う為に貴重な騎士の無駄な犠牲を招いた軍司令官としては愚か者」
とこの場にいない者は私を評価するであろう。
そしてその評価は軍司令官としての戦術論として正しい」
士官候補生としての教育を受けた者であれば、訓練をうけた騎士と平民の女子供の命の価値の違いは承知しているだろう、そして軍事的に見た時の正しさも。
「だが、諸君! 敵に攫われ1か月を過ごした捕虜達の絶望を想像して欲しい。
敵と戦っている我々騎士は、彼らにとって故郷に帰れる唯一希望の光だ」
士官候補生達は私だけを見つめ、私の言葉だけを聞いている。
「我々が損害を恐れ戦いを中止すれば、我ら騎士団は、彼らにどう見えるであろうか。
アーレイによる遠距離攻撃で敵を捕虜ごと殲滅したら、彼らは死ぬ時に何を思うであろうか」
ここで再び言葉を区切り、候補生一人一人に考える時間を持たせる。
彼らは兵では無い、私と共に新しい帝国を築く軍の士官になる者達、その場の単純な損得勘定や安っぽい同情心やヒロイズムだけの判断では困る。
「私のクロスロード帝国の未来を創る騎士達よ!
皇帝である私に教えて欲しい」
皆の表情が変わった。
「捕虜の命を顧みず、このまま遠隔攻撃で敵を殲滅、完勝する事が我等の正義か?」
(その通り、それが戦術的には最善の選択よ。だけど・・・・)
静かに風の音だけが聴こえる。
「千騎の損害を覚悟で攻撃を行い、捕虜を助け出す事が我等の正義か?」
(これに賛同する者は命の価値の違いも判らない私と同じ愚か者よ。だけど・・・)
「我等は正義を行う!」
「救い出します!」
幾人かが叫ぶ。
「戦います!」
「皇帝陛下のお心のままに!」
更に多くの者が叫ぶ
声は嵐となり
千人の思いが爆発する。
(ここにいる候補生達は、死処の意味を知っている騎士の様ね)
私は右手を軽く上げて歓声を静まらせる。
「諸君!」
「これから諸君が流す血は、命の無駄使いでは無い!
これから流す諸君の血と命が、騎士の誇り、民の誇りとなり帝国に安寧をもたらす!」
騎士同士がお互いの目を見て頷き、静かに拳をぶつけ合う。
それは騎士の誓いであり、騎士の別れの挨拶。
「私は、これより敵前衛中央に対して突撃を行う。
敵陣を食い破り突破、背面展開を行い、敵前衛を殲滅、人質を解放する。
私は最高司令官では無く、クロスロード帝国皇帝として皆に命じる。
栄光ある帝国の騎士達よ、我に続け!」
「うおーーーーーーーー」
騎士達の雄叫びが響く中を私は演台を降りる。
「シルディア皇帝万歳! 」
「遅れるな! 陛下に続け!」
「陛下の御前で戦うは騎士の本懐! 」
「陛下の前で醜態を晒すな! 」
「総員騎乗! 騎乗! 騎乗! 急げ! 」
「陛下の盾となれ! 鉾となれ!」
「我が隊こそが先陣に立つ。 総員6列縦隊! 突撃隊形を整えろ! 」
ついにシルディがブチ切れました。
秘匿するはずだった帝国創立の野心もむき出しに15倍の敵陣に突撃を行います。
しかし、これこそが劣勢にいるウノ族の罠です。
罠と知っていながら敵陣に突撃を決意したシルディの決断は英雄の決断なのか、匹夫の勇なのか。
誰にも分かりません。
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