ウノシルディス平定9
「梶 ゆう」の初回投稿です。
書きながら色々勉強して行きたいと思っています。
この物語のメインテーマは、『格好のいい男前なお嬢様』の物語。
皆が応援したく成る『お姉様』を書きたいと思います。
火曜日と金曜日に更新を行います。
私のウノ族併合、タカツ地方併呑の計画を聞いてもアクセレイは平然とお茶を飲んでいる。
(やはりに肝の座った御仁ね)
「アキム族は何人が戦死した?」
私も紅茶を一口飲んで尋ねる。
「およ3万、タカツ領にいる全アキム族10万の内の4万の男が出征しました。
アキム族の十二歳から五十歳までの戦える男の全てが動員され、生き残っているのは、ここにいる9千人とブルマイスターにいる500人だけです」
「その3万に攻撃命令を下したのは私だ。
しかし、現時点では敵の数が少なくなった事は歓迎するべき事である。
アキム族の恨みを持たれるならば兎も角も、私にそなたらの忠節を信じるべき理由は見当たらない。
最後に私に何か言う事はあるか?」
(自身の命と引き換えに一族の特別待遇を願い出るかしら。それならそれでいいけど、その程度の男にヒルダがここまで肩入れするかしら)
「ヒルダ様には、我らの降伏を認めて頂き、シルディア殿下への謁見までは命の保証をすると約束を頂き、その約束は果たされました。
それに、防御陣地への攻撃も防御施設を中心としたもので、人的被害は殆どありません。
きっとヒルダ様から何らかの連絡があり、手心が加えられたのでしょう。
クロスロード大公国の騎士はウノ族の王族と違い約束を違えられません。
われらアキム族もその是非は兎も角、ウノ族の王族と交わした契約に基づき一族の男が全滅するまで戦い抜きました。
この事を我ら一族の評価として、シルディア様の配下に加えて頂く訳には参りませんでしょうか」
私を見つめるアレクセイと二人の供の目に卑屈に私に媚を売る様な光は無かった。
「これは又、トンデモナイ論理が飛び出したわね。
敵として私達を最も苦しめた者が、それを評価して欲しいと言う事か」
(ヒルダがこの男を見込んだのはこれね。望まぬ契約であっても契約に従い全滅するまで戦った事、人的被害が無くてもアーレイの攻撃の中、一族を完全に掌握出来る長としての部下の信頼。ブルマイスターでのアキム族の戦いがヒルダやフローラ、ベルンに何かを感じさせる凄まじい戦いだったのだろう)
「自らの侵略行為を棚に上げて、蛮族が何を言うか!」
私の言葉を『否定』と受け取った軍監(其の1から其の8)の一人が叫ぶ。
私は無言でオベール伯爵の方を見る
「帝国軍人であるならば大将同士の会談に許可も無く発言をするな。見苦しい、去れ」
と発言をした軍監をつまみ出す。
(他の軍監が素直に従う所を見ると、アレクセイの言葉を聞いて戦場での戦いを想像出来ない軍人は帝国でも不要な軍人なのか。やはり帝国は侮れない)
「ブルマイスターには6000人の攻城兵が居たと聞く。
その中で生き残ったのは500人だけか」
ヒルダの事だから、味方の被害を出すのを恐れて、惜しげも無くアーレイを撃ちまくったに違いない。
「アキム族以外の兵が1000人いましたが、アキム族が500まで減ったのを確認した後に撤退を開始、視界外に消えたのを確認した上で、ヒルダ様に降伏いたしました」
淡々と語るアクセレイを私の幕僚が静かに見ている。
(アーレイの攻撃は普通の人間の精神に耐えられる様なものではない。この男は一族の男達が引き肉に変って行く様を見ながら、最適のタイミングまで耐えたのか)
◆ ◆ ◆ ◆
『我が一族の旗を掲げよ! アキム族の為に耐えよ』
『まだ、降伏は出来ない! あと少し耐えよ』
血の涙を流しながら、アーレイが作り出す赤い血潮の爆風と味方の断末魔が絶えない地獄の中で叫ぶアクセレイと必死に恐怖に耐えるアキム族の男達の姿がありありと想像出来た。
私の幕僚も同じ情景を想像したらしい。
私が視線をエリーやバルタザールに向けると静かに頷く。
後ろに立つクヌートを見る事は出来なかったが、何やら手を動かしている気配がする。
(泣いているのか?)
◆ ◆ ◆ ◆
「ウノシルディス解放戦の最後の時に部隊が既に壊滅した中、我が軍の騎士団長に一騎打ちを仕掛けてた者がいた、確か千人隊長のアキム・ロガチョフと名乗ったが知己の者か?」
「我が姉の婿、そこにいる者の息子にございます」
私は40歳半ばに見える供の方を改めて見る。
「鞘を投げ捨て決死の覚悟を示した上で名乗りを上げ、我が総騎兵隊長に見事、一騎打ちを挑まれた。
千人隊長として、アキム族の勇者として、見事な戦い、見事な最後であった。
ウノシルディス解放戦の詩の中で敵ながら尊敬すべき勇者として詠われている」
私の拙い言葉でも勇者の戦いが上手く伝わったらしい、アクセレイの供で息子の死に様を私から聞かされた男は、泣きそうな顔で笑っていた。
(私は部下に死兵など不要、生き残れと言い聞かせているけど、あの戦場の有様を見たら部下の死に責任を感じ一騎打ちを申し入れた敵将の気持ちは理解出来る)
「この上なき名誉な事であります。彼には一人息子がおります。この事を知れば、敵からも父が勇者と認められた事を誇りに思うでしょう」
「そなた達自身の口から勇者の息子に教えてやるが良い」
敵の武将を『勇者』と称えた私をアクセレイと二人の供が見つめ直す。
そして、私の言葉は聞こえはしたが、すぐには理解出来ないようだ。
「アクセレイ殿、一族を率いる長として貴殿の働きは良く判った」
私は、テーブルを挟んで、アクセレイと二人の供の正面に立つ
「クロスロード大公国公女シルディア・フォン・クロスロードは、アキム族の降伏を認める」
私の言葉にアクセレイと供の二人は椅子から飛び跳ねるように退くと両膝を地面に付き、額を地面に押し付ける。
「ありがたき幸せにございます」
「アキム族が治める領地の献上は不要であるが、今後私が占領するタカツ地方は全て私の領地とし、アキム族はその占領政策に際し先兵となる事をこの戦いで戦死したアキム族の戦士の名誉に掛けて約束せよ」
軍監共が何か言いたそうであるが、オベール伯爵が一睨みで封じ込める。
(これで、私は帝国の敵に決定ね。だけど、私は今1万の精鋭を手に入れたのよ。戦死したアキム族の戦士の名誉なんて何の担保にもならないと考える者は私の幕僚には居ない)
「「「アキム族の名誉に掛けてシルディア殿下に忠誠を誓います」」」
額を地面に押し付けたまま、顔を上げる事無くアクセレイ達は答える。
「それと今後は、私に限らず人の前で両膝を付いて頭を地面に擦り付けるその礼は禁止とせよ。
その礼は奴隷が行なうものだ、誇り高き戦士が行うものではない。
私はアキム族を奴隷にするつもりも、奴隷の主人になるつもりも無い」
「わかりました。
ですが、この礼は祖先の霊や神に行う礼でもあります」
「そうか、であれば、生者に対してその礼を行う事を禁じる。
私はまだ若い、この年で祖先の霊やら神にやらに奉られると、我らの神に私が恨まれる」
「かしこまりました」
と答えるとアレクセイは立ち上がると、額に右手を当てるヒルダが流行らしている敬礼を行うので私も同じ形の答礼で返す。
「単に年寄りぽく扱われるのが嫌なだけでしょう」と囁くエリー。
「女神様を奉りたくなる気持ちは、良く判る」と囁くクヌート。
「シルディ様とフローラ姉様の肖像がを手にいれなきゃ」と又一歩大人に近づいたアンゼルム?
「これはヒルダとシルディ様のどっちが釣り上げた事になるんじゃ」とバルタザール殿。
(みんな止めて、折角の名場面が台無しよ。ここはアキム族の神話として将来語られる、バケツ3杯泣かせるシーンなのよ)
「部隊に帰ったら、私に従う者全員に赤い布を右の肩に目立つ様に巻かせる様に」
「かしこまりました」
「赤い布が無い場合は、何かの白い布をこの様にすれば良い」
そういうと私は私の名前が刺繍された白いハンカチを取り出し、左胸に止めてある幅の広いナイフで私の左の手の平を軽く切り、血が広がるのを待って手を広げて血判を押した。
「これは私がアキム族の降伏を認めた証でもある。受け取れ」
アクセレイは何かぼんやりとして、私からハンカチを受け取る。
エリーとバルタザール殿が「あっ」て顔をしたけど、私また何か「やらかした?」
「ああ、それと、もう一つある」
「何でしょうか」
ぼんやりとして、私から受け取ったハンカチを仕舞う事もしないアクセレイ
「これもアクセレイ殿に預ける」
私はヒルダの手紙に同封されていたヒルダの髪の房をアクセレイ殿に手渡す。
アクセレイ殿は両手でハンカチと髪の毛を受け取ると額よりも上に捧げ
「このシルディア殿下のハンカチとヒルダ様の『乙女の命』、アキム族の宝物として、未来永劫アキム族がある限り守り伝えて参ります」
アキム族にとって自分よりも同位の淑女が自分の髪の毛を切って手渡す事は、ズバリ求婚になります。
ただし、遥かに高位の者である場合は、実際には結婚する事は出来なくても、心の中では一番大切に思っている事を示し、その者が相応しい者に成長する事を望んでいる事を示します。
ヒルダの場合はまさにこれですね。
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