ウノシルディス平定5
「梶 ゆう」の初回投稿です。
書きながら色々勉強して行きたいと思っています。
この物語のメインテーマは、『格好のいい男前なお嬢様』の物語。
皆が応援したく成る『お姉様』を書きたいと思います。
火曜日と金曜日に更新を行います。
「申し遅れました、帝国軍人としてこの度の戦いの総軍監を任されておりますアドリアン・フォン・オベール伯爵であります、シルディア・フォン・クロスロード大公国令嬢」
敵陣にアーレイが着弾する度に爆音が轟くこの状況で出世欲むき出しのコイツは何を言っている。
まだ青くなって吐きそうな顔をしている軍監の方が人間味がある。
それに今になって挨拶をするなど、私を相当に甘く見ている・・・・・いや、オカシイ。
帝国の総軍監がこれ程に無能なはずが無い。
するとコイツの狙いは私を怒らせる事か、だがそれだけでは帝国が私を糾弾する理由としては弱い。
(一つ乗ってみるか)
「それはご苦労な事である、アドリアン殿。
一つ質問なのだが、帝国と大公国の方針に逆らい自己の資格で私の軍に加わった彼らの今の公的な身分は何であるのか?士官候補生か?クロスロード大公国の騎士か?」
エリーは以前に一度だけ聞いた、クヌートとアンゼルムは初めて聞く私の声色に震え上がる。
(バルタザール殿だけは面白そうに見ているけど、アドリアン殿に悪意は持っていなさそうね)
「彼らは帝国と大公国の中央軍が下した方針に従わずに無断で出撃した事、士官学校の備品である馬を無断で持ち出した時点で士官学校は懲戒退学になっています」
「そうか、軍の決定に逆らっての無断出撃とあっては、退学となってもやむを得ないな」
(全員を学園の生徒として迎え入れ、私の騎士団に加える口実が出来たわね)
「但し、備品と馬の無断持ち出しの件については、グランド侯爵、アッカーマン伯爵、バーデン伯爵、それにウノシルディスに領地を持つ貴族らの嘆願と持ち出した備品と馬の保証の申し出により、シュナイザー大公国王から恩赦が出ております」
「シュナイザー殿下より直接『戦旗』を託された私の軍に加わった時点で、私が承認すれば大公国の備品と馬の無断持ち出しに付いては不問である」
クロスロード大公国で『戦旗』を掲げると言う事はそういう事。
国の存亡の危機にそれに優先する法や権利など存在しない。
軍の貴族の領地の通過も城や砦の接収や破棄、私財の接収も誰も止める事は出来ない。
逆らう者は逆賊よ。
「はい、そして抗命罪に関しても、シュナイザー大公国王から『戦旗』を拝命したシルディア殿下の軍に加わった事で軍に対する抗命罪には問われません。
従って懲戒退学では無く自主退学となり、今の彼らの身分はクロスロード大公国の騎士になります」
こいつは本当に帝国の意を含んだ総軍監なのか?
自分で喋っている事の内容を理解しているのであれば、帝国軍人である貴様が士官候補生の指揮を執る法的な根拠が無い事は明らかであろうに。
「なるほど、貴官は正直者の様だな。
さて、貴官の認識によれば、彼らはクロスロード大公国の騎士らしい。
であるならば、参戦を見送った帝国の軍人である貴官に、彼らクロスロード大公国の騎士への命令権は無いと思うのだが、違うかな」
エリーとクヌートが腰に下げたサーベルの柄に手を伸ばそうとするが私が視線で抑える。
(戦闘中であれば仕方ないがどうも私の幹部は血の気が多過ぎる気がする)
「アドリアン殿、シルディア殿下のおっしゃる通り、帝国は参戦見送りを決定しており帝国軍の軍人にクロスロード大公国の騎士への命令権はありません。
更に帝国では軍監に軍事作戦への指揮権は特例以外は認められていません」
唯一私に戦場での貴族の礼を行った軍監が私の発言を肯定する。
(クロスロードの貴族の様だけど若い、そして私の記憶には無い。後でエリーに確認しなきゃ)
「バーデン伯爵、ここは戦場である。戦場では勝つためで有れば多少の越権行為は認められる」
(バーデン伯爵の弁は正論だけれども、特例を盾に指揮権を奪った事は過去に何度もある)
「左様、バーデン伯爵、戦場に於いては勝利の為で有れば越権行為は認められる」
私は、あえて私の味方らしいバーデン伯爵に同意せずアドリアン殿に歩みよってみる。
(軍監に花を持たせて戦功報告に手心を求めるのも帝国では当たり前の話)
「流石、シルディア殿下は良くご理解しておられる」
おお貴族らしいイヤらしい笑いだが、少し演技過剰、これは私では無く後に立っている残りの軍監に対する演技か。
(このアドリアンと言う伯爵は無能では無い。問題は私の敵か味方かと言う事ね)
「但し、それは戦況が著しく不利であった場合や、指揮官の指揮が間に合わない場合に限られる。
アドリアン殿には、今のこの戦況が不利に見えるのかな?」
(さあ、返答次第では不敬罪。初見でアーレイの威力を見抜けるとすればやはり只者では無い。さー尻尾を出しなさい)
「いえ、そうは見えません」
あら、素直に自分の能力を認めて黙り込んだけど、後ろの軍監達は不満そうよ。
「・・・・そうか、であれば特例として士官候補生の指揮を任せる事は出来ない。貴官には軍監としての本来の責務を果たす様に」
さて、正面からバッサリ切ってやったけど、どうするのかしら。
私の正論に沈黙したアドリアン伯爵に我慢しきれなくなった、その他の軍監(其の1)が口を開く
「ですが、我々が彼らを率い戦う事でこの戦の勝利が納められれば、彼らの士官学校への復学に力を貸す事も出来ますし、シルディア殿下の功績も高く帝国で評価されましょうぞ」
アドリアン伯爵とバーデン伯爵を除く8人の軍監が厭らしい笑みを浮かべる。
私はサーベルの柄に手を伸ばしそうなエリーとクヌートを再び視線で押さえる。
(エリーまでもっと冷静になって。言葉の表面だけを見ていてはだめよ)
「無礼者! 彼らへの愚弄は、私が許さぬ。
彼らが命を掛けるは、クロスロードの騎士の誇りの為のみ。
クヌート、軍監殿を安全な観戦場所に丁重にご案内せよ」
私は、サーベル(指揮刀)を引き抜き地面に突き立てクヌートに命令する。
しかし、アドリアンは一目で私が引き抜いたサーベルが刃の無い指揮刀である事を見抜いたらしく、口元に余裕が見られる。
「イエス! シルディア!」
「本陣は間もなく移動を開始します。先に次の本陣が置かれる場所にご案内致しますので、こちらへどうぞ」
クヌートが私の命令に従い、私と軍監達の間に立つ。
「シルディア殿下!」
軍監達(其の1から8)がまだ食いつこうと悪足掻きをするが、私は顔も見ずに手で追い払う。
「愚か者が、指示通りに先に観戦場所で待機しておれ。バーデン伯爵は残る様に」
アドリアン伯爵が「邪魔しおって」と呟き、他の軍監に指示を出すと、軍監達(其の1から8)はクヌートに従い席を離れる。
帝国との決別を既に既定路線としている、シルディにとって軍監など邪魔者以外の何物でもありませんが、国内を完全に掌握するまでは、出来れば穏便に過ごしたいと思っていますが、どうでしょうか。
愚かな軍監であればシルディはまともに相手にする訳が無いので、かえって命拾いすると思いますが、有能な敵は厄介です。
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