シルディの騎士団9
「梶 ゆう」の初回投稿です。
書きながら色々勉強して行きたいと思っています。
この物語のメインテーマは、『格好のいい男前なお嬢様』の物語。
皆が応援したく成る『お姉様』を書きたいと思います。
火曜日と金曜日に更新を行います。
昨日の戦勝祝賀舞踏会でエリー様と踊ったあと、何人かの学園の生徒達をダンスに誘った。
伯爵家次男である事を伝え、来るべきウノ族の討伐戦では俺の騎士団が必ず君たちを守ると約束したのに社交辞令的なダンスに終わり、ロマンスの種は生まれなかった。
そして、今朝も何時もの侍女に起こされる事になる。
「おい! クヌート。昨日は一人で良く寝く眠れた様だな」
朝の挨拶から皮肉の効いた悪友のエルンスト。
「そういう貴様は、どうせ妓館で馴染み女に慰めて貰っていたんだろう」
返事の無い所を見ると、どうやら図星らしい。
(服装からして伯爵家の次男が着る服じゃ無い。いい所が商店の若旦那だな)
「俺は、15人と踊ったんだぞ、その中にはエリー様やハイデ嬢やカタリナ嬢も居たんだ。
言っておくが俺もお前もウノシルディス領に3つしかない伯爵家の次男で、帝国の士官学校を卒業した一応エリートだぞ」
まあ、エリー様はいくら何でも高望みしすぎだ。
お互い上位貴族なんだから家の利益に関係なく、自分の好みだけ夜明けの紅茶を楽しむ相手など見つけられる訳が無いさ。
「性格も悪くないし、顔も悪くない、一応伯爵家の次男だし、見合い話なら山程来ているけどな」
一応伯爵の次男と自分で言って腹が立って来た。
俺達は二人とも帝国の士官学校を卒業しているが実戦経験は無い。
(もっとも、普通に卒業した俺達の同級生は先の大敗でみんな戦死してしまったが)
「これは、これは、若旦那達、折角朝早くに起きたのに、急がないと良い席が無くなってしまうぞ」
俺達が振り向くと、割とラフな格好のブルックハルト先輩(次期侯爵家当主)が立っていた。
「「おはようございます! ブルックハルト先輩」」
俺とエルンストはブルックハルト先輩に帝国式の最敬礼する。
(商人の若旦那が大通りで帝国式最敬礼をしている様は違和感がありすぎる)
「昨日の先輩とシルディア殿下のファーストダンスは見事でありました」
俺は真っ先に昨日の舞踏会でのファーストダンスを褒める言葉を述べる。
「最早、舞踏会の社交ダンスでは無く、剣闘士同士の剣の舞よりも見ごたえがありました」
負けじとエルンストが誉め言葉を言うが、それは誉め言葉になっているのか?
「お前達も俺の妹のエリーと踊った後、とっかえひっかえ二人で20人近くと踊っていた様だが、成果は・・・まあ、無かったようだな」
案の定、手痛いしっぺ返しをもらう。
(エルンスト、俺を巻き込むな)
「恥ずかしながら、自分はエリー様達には全く相手にして貰えませんでした。
先輩はあの後は・・・・いえ、何でもありません」
俺は、余計な事を言いそうなエルンストの踵を蹴って黙らせた。
「クヌート、良くやった。
お前がやらなければ、エルンストに貴族の話術をこのクソ忙しいのに再教育しなければならなかった。
褒美にお前には俺の隣の特等席で今日のシルデイの演習を見せてやる」
冷酷な笑いを見せるブルック先輩が怖い。
(このご機嫌具合から察するに、先輩も昨日の晩はシルディア殿下に振られたに間違いない)
「エルンスト、お前の親友が何やら良からぬ事を考えている様だ。
クヌートが今度良からぬ事を考えたら俺に報告しろ。
褒美の前渡しだ、お前にも良い席を確保してやる」
「はい、先輩。ありがとうございます」
背筋を伸ばしてエルンストが答える。
「あ~ちなみに昨晩、俺は全身キスだらけにされたが、見るか?」
冗談なのに死刑宣告をしているとしか思えない。
「「いえ、結構であります」」
首筋に赤い跡がいくつか見えるが俺達には見えない、断固として見えない。
19歳にもなる伯爵家の次男が大通りの真ん中で直立不動で最敬礼していた。
◆ ◆ ◆ ◆
「ここだ、良い席だろう」
ブルック先輩に案内された席は確かに良い席だった。
そう、シルデイ様が指揮を執る弓騎兵の動きを見るにはとても良い席だった。
命の危険さえ無ければ。
「あの先輩、ここって的の直ぐ後ろではないでしょうか」
俺は恐る恐る確認する。
「クヌート、先輩の確認するまでも無い。的の20メートル後ろの防壁の上だ」
親友のエルンストが俺の希望を打ち砕く。
「安心しろ、的からは20メートルも離れた高さ15メートルの防壁の上の観測室の中だ。
彼女達の腕前なら、400メートルの距離で、5メートル大きさの的を外す事などあり得ない。
おまけに今日は演習だから通常ボルトしか多分使わない。
丈夫な石で防御された一般人や普通の貴族は入れない特等席だぞ」
全然安心できない事を先輩は言う。
周りを見れば、俺達と同じ様に今度の掃討作戦でシルデイ様の旗下に配属される予定の男爵達が20人程、直立不動で先輩の前に整列している。
(クロスロード大公国の経済を支える侯爵家の次期当主と男爵家の次男、三男では立場が違う。おまけに命の保証は口約束程度の効力しか無いとすれば、当然か)
「あの先輩、ここに私達を集めた意味は?」
俺がおずおずと尋ねると
「クヌート、良く聞いてくれた。
ここにいる皆にも説明するから良く聞いていてくれ」
ブルック先輩に一同の視線が集まる。
「お集まりの諸君、今日この場所に諸君を集めたのは他でもない、敵の立場になってシルディア殿下の軍の攻撃を体験してもらう為である。
何しろ、シルディア殿下の軍の攻撃を受けて生き延びた人間はまだ居ない。
喜べ、お前達は、これから人類初の体験を楽しめる事となる」
何とも言えない動揺が一同に走る。
(今の先輩の言葉の何処に楽しめる要素があると言うのか。さすがシルディア殿下の婚約者は考える事がエゲつない。そして我々には拒否権は無い)
「ブルック先輩、自分はウノシルディス解放戦での彼女達の戦いを見ました。
彼女達の使う炸裂弾はここならば効果が無いのでありますか」
俺はここにいる一同が一番聞きたい事を代表して尋ねた。
(どうか、少しでも安心させて下さい。じゃないと、みんな天国への門を開いてもらう為にこの場で神に懺悔し出しますよ)
「クヌート、さすが俺の手伝いで3日徹夜して試験で眠らなければ士官学校を主席卒業出来たはずのエリートなだけある」
(よっ幻の首席どの)とエルンストが合いの手をいれる。
(エルンスト、俺はお前のその恐怖を感じない鋼の心臓が羨ましいよ)
「はっ。そのお陰で卒業が3か月遅れ、戦死を免れました。ありがとうございました」
俺は、皮肉と本心が入り混じった複雑な心境。
(もし、ブルック先輩が卒業試験の3日前にあの仕事を押し付けなかったら、俺もエルンストも主席と次席で卒業して、その1か月後のあの大敗で戦死していた。その事実が判明した時から俺とエルンストは先輩に頭が上がらない。もっとも白紙の答案を提出した後に先輩が助けてくれるまで地獄を見たが)
「あの炸裂弾は『アーレイ』、そこのクヌートとエルンストが基礎研究開発を行った武器だ。
最大射程800メートル、熟練者なら1分間に3発の発射が可能、炸裂の有効範囲は半径5メートル。
5メートル以内に居る人間は鎧を着ていようが即死する」
(先輩、火薬の製法技術を整理しただけで、基礎研究開発は盛りすぎです)
「それでは、的からは20メートルも離れているここは、安全なのですね」
エルンストが先輩にわざとらしく確認を取ろうとする。
「その通り、ここは安全だ・・・・(多分)
それに実弾は使わない様にシルディア殿下に昨日の内にお願いしてある・・・・(ピロトークで)
演習で何か不都合な事が起きない限り大丈夫・・・・・(俺がここにいる事は言ってあるし)
万が一の時でも、小窓から離れて身を伏せれば大丈夫だ・・・・・(この小屋を直撃しない限りは)」
ブルックの発言の端々に裏音声が入るのが気になる。
「あの先輩、何が不都合に成るかと言うのは具体的にはわかりますか?」
不安にかられた俺も確認を取ろうとする。
「そうだな、騎馬連携が乱れたり、命令の聞き落としや齟齬などがあったら、それらを無かった事にする為にシルディアなら最後にドカンとやるかもしれないと言うか、必ずその時はやる」
先輩、その断言は恐怖以外の何物でも在りません。
「これから我々がお仕えするシルディア殿下とはそういうお方なのですね」
俺は、ここにいる皆の思いを代弁して締めくくった。
(諦めろ、命を預けろ、それがクロスロード大公国の軍人だ)
「そうだ、それがシルディア・フォン・クロスロード殿下だ」
クヌートとエルンストはブルックの1年後輩です。
18歳で帝国士官学校を卒業したブルックは成績上では主席であった事、クロスロード大公国の侯爵家の次期当主であった事から比較的安全な帝国の情報部に任官しゲートリング大公国の裏切りに関する暗号を入手しました。
情報部内部にゲートリング大公国の内通者がいる事が明らかであった為、内部の者に協力を依頼する事が出来なかった為に暗号解読を後輩のクヌートとエルンストに依頼。
卒業試験を三日後に控えた時期ですが、国の大事を優先した二人は暗号の解読に成功しますが、卒業試験で爆睡して白紙答案を提出すると言う大事件を引き起こしました。
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