シルディの騎士団7
「梶 ゆう」の初回投稿です。
書きながら色々勉強して行きたいと思っています。
この物語のメインテーマは、『格好のいい男前なお嬢様』の物語。
皆が応援したく成る『お姉様』を書きたいと思います。
火曜日と金曜日に更新を行います。
「さて、到着しました。ご存じの様にウノシルディスのこの地域には温泉が出ます。
この温室はその温泉の熱を利用しています」
二重に成った扉を抜けると、真夏とは行かないものの、それに近い熱気で包まれる。
「かなり暖かいわね。天井も高いしそれに広い」
私の第一印象としては、温室とは思えないほど広い。
それに浴場にも使われていたけど、天井のガラスは学園で作られた物よりひずみも少なく大きい。
(フローラも知らなかったと言う事は最近出来た技術ね)
「バラは分かりますが、育てているのは観葉植物だけではありませんね」
ハイデ、貴方目の前にある立派なランを褒めず、何故に遠くに見えるバラを褒めるの?
それに『やっぱりバラか』と妙に嬉しそうなアンゼルム。
「イチゴやメロン、ブドウに薬草類、珍し所では最近コーヒーなんかも育て始めました」
何か食べ物が多いけど、ひょっとして自分で食べる為の温室栽培かしら。
(育て出したと言う事は種か苗木を手に入れたと言う事ね。アンゼルムの力じゃ無い。バルタザール殿の腕は私が考えているよりも相当長いようね)
「コーヒーですか、素晴らしい。凄く実用的な温室ですね」
カタリナの感想は貴族の温室を褒めてる事に成るのだろうか?
(気づいて胡麻化しているのなら、大したものだけど、恐らく気づいていないわね。まあ、今はそれでいいけど、やっぱり二人には幹部教育が必要ね)
「こちらへどうぞ」
招かれた先には、東屋と休憩用であろうか、ベンチとテーブルが置かれていた。
「少し失礼しますね」
私は、断りを入れて上着を脱いで椅子に引っ掛かけて座る。
淑女にあるまじき行為にハイデとカタリナが戸惑うが結局、同じ様に上着を脱いで椅子にすわる。
「本当に臨機応変なんですね」
透けたりはしないけど、アンゼルムは、白いシルクのブラウスだけになった私達を正面から見つめる事はしない。
「あら、あきれた? まあヒルダがいたら怒られたかもね」
実はブラウスの下にさらに2重の下着を付けているのだけれど一般的な下着ではないから、アンゼルムはブラウスの下は素肌と思っているのかもしれない。
「滅相もありません。合理的だと思います」
「熱い飲物よりも冷たい飲物の方が良いですよね」
そういうと地面から突き出たパイプの蓋を開け
「レモンジュースを4つ頼む」
と言うと
「かしこまりました」
と、少しくぐもった声で返答が返ってきた。
「面白い仕掛けですね」
ハイデは、ブラウスのまま立ち上がり不思議な管をのぞき込む。
必然的にアンゼルムはハイデのブラウス姿の後ろ姿をまじかで見せられる事になる。
(ハイデってこう言う仕組みを分析するのは得意なのね。しかし、ハイデはベージュ色の下着でしょう。それだと何も知らないアンゼルムは貴方の背中が透けていると誤解しちゃうわよ。まあ、ドレスでも背中は大胆に腰まで開けるから問題はないか)
「地中を銅で出来た管で侍女の待機室まで繋いでいます。
一旦待機室で纏めた後、待機室から必要な所へ連絡します」
「アンゼルム、この仕組みを考えたのは?」
「うちの侍女頭です」
「素晴らしい、何かきっかけがあったのかしら」
「雨樋の詰まりを掃除していた時に屋根の上でヒソヒソ話している声が下の方から聞こえたらしいです」
「成る程ね、でも素晴らしいのは、そんな侍女の話を真面目に取り上げるウノシルディス家の家風よ」
まああのバルタザール殿が仕切っている家だから、抜け目があるはずもないが。
「そうですね、普通の家ならそんな話が当主の所に上がって来る事はありません」
ハイデもウノシルディスの異常な風通しの良さが判った様だ。
「あら、ハイデの所はお兄達が自ら牧羊犬の世話をしてるじゃない」
カタリナの発言はハイデ援護なのか、単なるアンゼルムへの家族紹介なのか。
「それは、うちが特殊なのです。
普通の男爵家では当主が犬の世話などしません。
使用人に任せます」
このままだと、ハイデの内輪話で終わってしまいそうね。
茶飲み話ならいいけれど、ちょっと今は時間が惜しいので、話を進めさせてもらう。
「そうね、でも私が作りたい国は、そういう埋もれた才能が生かされる仕組みを持った国よ」
「国ですか」
狙い通り、アンゼルムが真っ先に反応した。
やっぱり若い男の子はこういう大きな話が好きよね。
「そういう国です。
女性が家督を継げないとか、ギルドが新しい商人の邪魔をするとか、貴族の男性以外にはまともな教育は受けさせないとか、そう言う不公平が無い国です。
勿論、その代わりに義務も生まれます。
今、私達がしている様に、戦争に参加するとかね」
私は、カタリナとハイデを見る。
「確かに戦争は好きではありませんが、敵を跳ね除ける力は必要です。
学園の入らなければ、乗馬も読み書き、算術を学ぶ機会はありませんでした。
それが今の私達は守られるだけでは無く、民を守る力があります。
そして、本当に私達1000人の力で4万人を殲滅し、10万の敵を退け、ウノシルディスを守れました。
それは私達の誇りです、素晴らしい事です」
その言葉にハイデも『そうです』と力強く頷く。
カタリナ達は戦に巻き込んだ私を非難する事無く、誇りとまで言い切ってくれた。
(彼女達の感覚では、殲滅したのは4万人で人扱い、敵は10万で単なる数字なのね)
「シルディア殿、やはり貴方の発想力と実行力は素晴らしいです。
今回の戦争が無くても貴方と貴方の学園の生徒はこの大公国の有様を変えていたでしょう」
他の貴族が言ったならば、右から左に聞き流すお世辞だけど、私に自らの領地を差し出すと言い出したアンゼルムの言う言葉ならば、信じられる。
「有難う。本当の目的は別にあったので、別に戦争の為に準備していた訳ではありませんが、本当に準備していて良かったとしか言いようが無い状況になってしまったわね」
「ここだけの話ですが・・・「アンゼルム殿、その先を言ってはいけません」」
アンゼルムの発言をハイデが遮る。
「お二人の会話を遮り、申し訳ございませんでした。
しかし、止めた方が良いと考えましたので失礼いたしました。
お怒りは如何様にもお受けいたします」
ハイデが私とアンゼルムに深々と頭を下げる。
(本当にハイデ、貴方は人間的に凄く成長したのね)
「ハイデ、私に代わり良くアンゼルムを止めました。
アンゼルム殿、その先を言う事は私が禁じます。
ウノ族の侵略が無くてもクロスロード大公国の有り様は彼女達を中心に変わって行ったはずです。
ウノ族の侵略により、死傷者は1万人を越えます。
その落とし前を付けさせるだけでは足りません、ウノ族には私達の幸せの生贄に成ってもらいます」
これまで見せた事の無い強い私の口調にアンゼルムは真っ青になる。
「申し訳御座いません。私の思慮不足でした」
アンゼルムは私が態度を変えた理由を理解したのか頭を下げる。
すると、やっぱりアンゼルムと同様に真っ青になったハイデも頭を下げる。
(うん? 良く止めたと褒めたのに、何故ハイデが頭を下げる? やっぱり惚れちゃった?)
「ハイデ様、少し僕は調子に乗っていた様です。
侵略者から領民を守れなかった者が言って良い言葉ではありませんでした。
良く止めて下さいました、感謝致します。
それとハイデ様、お願いです。次に又調子に乗る様な事があれば遠慮なく蹴飛ばして下さい」
アンゼルムはハイデにも頭を下げる。
(侯爵家の次期当主が男爵家令嬢に謝罪するとか頭を下げるとか私の幹部連中は貴族の秩序を無視しすぎる)
そうさせている元凶である事は棚に上げ、私は思った。
「分りました。アンゼルム様のお願いであれば仕方ありません。
アンゼルム様が調子に乗った時には蹴り上げて差し上げます」
「お手柔らかに」「はい、勿論軽くです」「少し楽しみです」「もう調子に乗っているのですか」
等と言いながら笑い合うアンゼルムとハイデ。
首を横に振りながら見つめ合う私とカタリナ。
(男爵令嬢が侯爵家次期当主を蹴り上げるのは、二人っきりの時だけにして下さい。シルディからの真剣なお願いです。じゃないと私の胃が持ちません。)
「今は無理でも、二人が伯爵と子爵となった将来であれば、釣り合いは取れますか?」
ピンクの世界を作り出した二人は居ない者として、カタリナが私に囁いてくる。
「そうなれば、全く問題は無いわね。祝福される結婚よ」
「実績次第でたかが男爵令嬢風情が、伯爵家当主と祝福されて結婚できる。素晴らしい世界ですね」
「壊すだけじゃなくって守る事も有るから、万人に素晴らしいかどうかは判らないけど、努力が正しく評価される世界にはしたいわね、カタリナ」
「はい、シルディ様」
侯爵家の当主が男爵家の令嬢と婚姻するなどという事は、この世界では有り得ません。
何故ならば、貴族的には侯爵家に何のメリットも無いと貴族的には見做されるからです。
愛人に出来るのに、わざわざメリットのない結婚を選択する侯爵家当主は貴族としての資質に疑問を生じさせます。
シルディ達の嫌いな貴族的価値観ですね。




