シルディの騎士団2
「梶 ゆう」の初回投稿です。
書きながら色々勉強して行きたいと思っています。
この物語のメインテーマは、『格好のいい男前なお嬢様』の物語。
皆が応援したく成る『お姉様』を書きたいと思います。
火曜日と金曜日に更新を行います。
「シルディ様、追撃開始を5日遅らせる事にどの様な狙いがあるのですか? 時間を与えれば、物資や家畜が持ち去られるだけだと思うのですが。
それに8日から9日後に会敵しなければならない理由が解りません。
もし、物資や家畜に拘らないのであれば士官候補生にも3日程の訓練を行い11日から12日後の会敵でも良いのではありませんか」
矛盾する私の対応にさすがのカタリナも理解が追い付かなくなったらしい。
貴族とは言っても男爵家の令嬢に上位貴族の腹黒い行動様式が読めなくてもで無理も無い。
「カタリナ、幾つか理由はあるのだけど、一番大きいのは士官候補生にも3日程の訓練をしていると、公都から騎士団の軍監が来る事かしら。
士官候補生の一団を追いかける様な形で帝国の息の掛かった軍監が必ず来ます。
大公国令嬢である私が指揮する以上は作戦には介入させませんが、アーレイやロングの性能が帝国に明らかにされ、現物の提供を求めて来るでしょう」
軍監が来ると言われてもカラリナにはその影響を理解する知識が無い。
しかし、アーレイやロングの性能が明らかになるリスクは理解出来た様だ。
一方、(ありそうな話だね)とブルックが囁き、(そうじゃな)とバルタザール殿が頷く。
私の首脳部は軍監の厄介さを当然、理解している。
「一番可能性が高いのが士官候補生の統制を行なうという名目での参加だろうな。
そして戦闘に間に合った場合、こちらの作戦を無視して敵軍に突撃を行う可能性が高い。
我々が援護しなければ、全滅した士官候補生の責任を押し付けて来るだろうし、そして可能性が最も高いのが、『ウノ族をウノシルディスから追い出したのは大公国と帝国だと』宣伝して、我々の援護で勝利した結果を自分達の手柄にするだろうね」
さすがブルック、情報操作が十八番のシルデイ機関の長官、良く判っていらしゃる。
「それであれば尚の事、兵達に多少の無理をさせても、直に出陣するべきではないのですか」
普通ならば、ハイデの指摘は正しい。
「そうすると、まともに6万の敵と対峙する事になるから、残敵掃討戦が長引く可能性が高くなわ。
長引けばそれは私達の落ち度となり、それも又、軍監に付け込まれる隙を与える」
ハイデとカタリナにはこれから上級幹部としての教育が必要になりそうだけど、二人の会話は楽しいから苦では無い。
(いっその事、戦闘部隊の指揮は別の部隊長を昇格させて、二人を私の秘書にしようかしら)
「どういう事ですか」
前のめりになって来たハイデを右手を軽く上げる事で制して、私は侍女を呼んで皆にお茶を入れ直させる。
◆ ◆ ◆ ◆
「ハイデ、貴方が敵の司令官だったとしたら、10万で侵攻しながら、主力を含む4万を失ったらどうします?」
紅茶の良い香りで満たされた会議室で先ほどの議論を別の切り口から再開する。
「全軍の速やかな撤退です」
躊躇う事無く答えるハイデ。
「手に入れた物資や家畜は」
「勿体ないですが放棄です」
この答にも迷いは無い。
先日のウノシルディス解放戦の後半で攻撃のタイミングを任されたハイデは少々遅れはしたが自らの判断で作戦を変更して見事に敵の出鼻を挫くことに成功した。
それが彼女に自信と成長を促したのだろう。
出陣以前は私の質問にこれ程明確な形で回答を言い切る事は無かった。
「そう、そうすると貴方は本国に戻ったら処刑よ」
まさかの私からの死刑判決
(味方の損害を抑えたのに死刑)と落ち込むハイデ。
(気にしないで、あれは例え話でウノ族の考え方だから)と慰めるアンゼルム。
あれ? 18歳と12歳の年の差、侯爵と男爵なのに何かいい雰囲気。
(真実の愛って奴? とすると私の立場は、男爵を虐める悪の公爵令嬢・・・ふむ、見た目は合っている)
「カタリナならどうする」
何かいい空気が漂わ始めたハイデとアンゼルムからは戦略的撤退を行い、今度はカタリナに尋ねる。
「偵察を放ち追撃軍の動向に注意し全軍が撤退出来るギリギリまで物資と家畜の輸送を行ないます」
ハイデが答えている間に自分でも考えていたのだろう。
「そうね、偵察と連絡さえ確実ならば手堅い作戦ね」
「偵察の結果、2日間動きが無くそのあと練兵を始めたらアンゼルム君ならどうする」
ハイデが落ち着いたらしいので、アンゼルムに話を振ってみる。
「追討軍が動き出すま、一週間から10日位は掛かると考え一先ず安心します。
ですので、物資と家畜の運搬を優先させ、軍の撤退は後に回します」
アンゼルム君はその答えが戦術的に間違えているのを承知で、敵軍が常識的に行うと思われる行動を答える。
「多分それが普通ね、残敵6万が舟でタマ河を渡河して撤退するには6日は掛かると私は見ています」
「何か根拠は有るのですか?」
「一艘に10人、1日に10回往復で1日に100人。
それが100艘で1日に1万です。
攻め込んだ時の兵の増員数とウノ族の工業能力からの逆算です」
「敵が最初から略奪目的であったとすれば、多少の増減はあってもそれ程変わりはないだろうな。
ウノ族の造船能力はそれ程高くない、作戦開始から全ての船を総動員しているはずだ」
攻め込んだ時の増員数を算出したのはブルックだから、その根拠も示して説明する。
「その能力では私が与えた5日間では略奪した物資や家畜の1割も運べません。3週間前の侵攻直後から休みなく動かしていたとしても、本国に運べたのは3割と言う所でしょう」
「そして接敵までの3日間では、軍の半分程度しか撤退出来ませんね」
兵站や輸送のプロであるエリーの推測は私の推測よりも説得力がある。
「その通り、そして殿軍と言うか見捨てた兵を置いて、ウノ族は撤退。
残されたのは、捨兵として放棄された兵のみ。
この残敵を撃破すれば、ウノシルディスでの戦闘行動は終了です。
軍監の出る幕はありません」
私はこの戦争の終わりをこの時初めて一堂に描いて見せた。
「そして、軍監の前で残された物資と家畜に確認を行ない、約半分が持ち去られた事を確認させる」
「それを根拠に帝国と大公国から保証を引き出す交渉材料にするわけですね」
ハイデの言葉に私は頷く。
(やはり飲み込みが早い、学園で交渉術や契約の基礎を教えた甲斐があったわね)
(良かったね、今度は正解だったね)と囁くアンゼルム。
(ええ、ありがとう)と微笑むハイデ。
ちょっとまって、ハイデ。
貴方はアンゼルム君の見た目の貴族的な優しさに騙されているのではなくて?
相手は12歳といっても、あのバルタザール殿の孫でフローラの弟、そして侯爵家の次期当主なのよ。
純粋な男爵家の小娘を惚れさせるなんて、チョロイ事かもしれないわよ。
大体、私の目の前でハイデにチョッカイを出すとは良い度胸しているじゃない。
「だが、帝国が素直に支払う事は無いぞ」
バルタザール殿の発言は私に向けてのはずなのに視線にはハイデとアンゼルム君を捉えている。
(ほら、バルタザール殿も気づいた。アンゼルム君責任は取ってね。私は知らな~~~い)
「そうでしょうね。それは構わないのです。
復興資金が必要である事が証明されれば、それで良いのです。
侵略されても兵も出さない、復興する為の資金も出さない。
帝国とクロスロード大公国の信頼は地に落ちるでしょう」
(頭の中ではハイデにチョッカイを出した事を考えているのに、発言内容が非常に真面目な私)
「シルディ様、地に落ちるのはシュナイザー殿下、いえ即位式をしていないだけで実質的にはシュナイザー公王とそれを支える貴族達の信頼ですよね。
そうであればシルディア殿下にとって、望ましい事では無いですか?」
アンゼルム君は中々に良い線をついてくるが、良いとか悪いとかそんな単純な問題ではないのよ。
(でもハイデもカタリナはここまでの推測も出来てないから、やっぱり彼は優秀ね)
「私としては、民の犠牲は極力防ぎますが、帝国や大公国の介入は避けたい。
その為に民衆の私への支持を高めて、騎士や貴族の賛同も取り付けておきたい」
私が言わなくてもバルタザール殿は私のこの戦争に加わった本当の目的を薄々感づいている。
(ブルックやエリーには話してあるし、ハイデやカタリナはまだ気づかなくてもいい)
「シルディア殿下、貴族や騎士の支持を高める理由をお話願えないでしょうか」
アンゼルム君が真正直に私に尋ねて来た。
(こういう所は、まだお子様なのよね。でも断ると私が虐めの様だし少し困ったわね)
「アンゼルム殿、これは乙女の秘密です。
乙女が自ら語らない事を尋ねるには、貴族的には対価が必要よ。
対価が必要で無いのは、軍議に置いては私の部下のみ。
アンゼルム殿、何か対価を用意出来る?それとも私の部下になる?」
結構抑えて言ったけど、周りからは、やっぱり子供を虐めている様にしか見えない?
それにハイデが私を睨んでいる。
(ハイデ、これは虐めじゃない、アンゼルム君を教育する愛のムチよ)
これまで民を救うためにスピード重視で突き進んで来たシルディにしては、この5日間の停滞は不自然ですよね。
その不自然さを感じさせない様に、一般的常識の慣例を取り入れて5日の停滞を行うのに苦労しています。
その主目的は軍監の介入を阻止する為と言うのが泣かせますが、中世において軍監の報告によって戦果が奪われたり、罪を捏造された例は枚挙に暇がありません。
日本では源 義経などがその餌食になった代表者ですね。
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