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頑張ったのに悪女扱いは酷くないですか  作者: 梶 ゆう


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ブルマイスター解放戦10

「梶 ゆう」の初回投稿です。

書きながら色々勉強して行きたいと思っています。

この物語のメインテーマは、『格好のいい男前なお嬢様』の物語。

皆が応援したく成る『お姉様』を書きたいと思います。

火曜日と金曜日に更新を行います。


「ヒルダ様、連行しました。ゲール語は十分話せます」


降伏した敵将は側近の者3人と共に私の指揮台の下に跪く。


「直答を許す。(おもて)を上げよ。そなたの身分は?」

私は敵将と側近を見下ろしながら言う。


「初めてご拝謁の誉を頂きます。アキム族、族長アキム・アレクセイと申します。

ヒルデガルト・フォン・クロスロード殿下」

拝謁と言いながら、一度も顔を上げる事無く敵将は名乗る。

そして、自己紹介もしていないにも関わらず私の名前を正確に述べる。

アキムの名前にベルンが軽く反応する、何か関係があるのだろか。


「ほう、早速カードを切ってくるか。重ねて申す、(おもて)を上げよ。時間は貴重だ。言いたく無ければ何も言わ無くて良い。私が知りたいと思っている事を話せ」

ブルックと同じ位の年ね。背格好も(まと)う空気も良く似ている。

落ち着いた物腰は、私の無茶な問いかけに乱れる事は無かった。


「今回の略奪戦争には、我が部族は反対でした。

何故ならば、私とクルト殿は旧知の間柄であり、我が部族に連なる多くの者がウノシルディスに暮らしているからです。

しかし、その為に肉盾として前線に組み込まれ、略奪行為を行えない要塞の抑えを申し付けられました。

ですので命令通り、本格的な攻城戦は行っておりません」

社交辞令も捕虜となった卑屈さも無く、簡潔に報告近い形で滑らかに述べる。


()が、そなたと部下の命を助けた恩を何をもって返す」

捕虜の返済は金銭が普通だが、どう切り返えして来るだろうか、強調した「私」をどう理解するだろうか。


「我がアキム部族は、クロスロード大公国に忠誠を誓います」

淡々とした口調で相変わらず表情が読めない。

忠誠の対象はクロスロード大公国で、「私」ではないらしい。

もっとも、この程度の策に掛かってもらっては興ざめと言うものだ。


「その証は?」


「私自身が人質となります」


「それだけでは足りぬな。

アキム族には忠誠を示す為にクロスロード大公国の尖兵となってウノ族と戦ってもらう必要がある」

普通こう言われたら、怒りが湧き上がるはずだが。


「我らはウノ族ではありますが、今の族長への義務は果たし終わりました。

アキム族全てがウノ族と共に滅び去るまで戦う義理は御座いません」

アレクセイの言う事は、帝国従い参戦し父上や兄上、数多(あまた)のクロスロード大公国の騎士を失った私にはよく分かる。

私は、指揮台から降りてアレクセイの前に立った。

やはりアレクセイは、クロスロード大公国の公女として話をする価値がある人物の様だ。


   ◆    ◆    ◆    ◆


「その判断は早計であったかもしれぬぞ。

クロスロード大公国は貴様らウノ族の侵攻を受け、ウノシルディスの放棄を決定した。

我々はブルマイスター要塞のクルト殿の安否を確認し脱出させる為にここまで来た」

確かに私達はウノシルディス城の解放には成功したが、万が一お姉様がウノ族の残敵掃討に失敗したら、私達はクルト殿を説得して脱出させる必要がある。

つまり、全くの嘘ではない、お姉様がウノ族の残敵掃討に失敗する事などあり得ない事を除けば。


「それはあり得ません。

あの弓騎兵の放つ火薬を使ったと思われる()()()の射程と威力、笛一つで変幻に動く弓騎兵。

一瞬で死を覚悟して突進してくる槍騎兵の決断力と最後まで戦う覚悟。

そして、()()を大量に配備出来る生産力と技術力。

貴方の率いるこの軍だけでウノ族10万の兵は瓦解するでしょう」

()()()()()にフローラとベルンが反応してしまった。

初めて、アレクセイの顔が少し緩んだ様に見えた。

(二人とも、貴族相手の取引はだけはまだ私の方が上手ね。捕虜に余裕を持たせてどうするの)


「ならば、何故さっさと逃げ出さなかった」

そこまで判っていながら、判断に迷って味方に要らざる犠牲を出したとすれば、所詮その程度の男。


「あのような戦の在り様を根底から覆す革新的な技術を持っている事を我々は知りませんでした。

退口(のきぐち)があるのは解っておりましたが、ウノ族の下級王族が軍監として同行してたので、ウノ族を裏切らない証を立てる為に、彼が逃げ出すまで戦う必要がありました」

裏切りの口実を与えない為だけに味方を犠牲にする。

しかも退口(のきぐち)があるのを知っていながらそれを使わない。

それが指揮官にどれほどの精神的苦痛を与える事か。


「それはアリバイ作りの為に味方の兵を人柱にしたと言っている様に聞こえるが」

私はアレクセイの精神的苦痛をえぐる様な酷い質問をする。


「そう申し上げました。

しかしアキム族を守る為には必要な犠牲です。

私を含めて戦死した者もその事は承知致しております。

それに無為に死なせた訳ではありません。

貴方の軍に勝つ為に、私は実行出来る全ての戦法を行いました。

今の我等ではどうあがいても大公国には勝てません」

アレクセイは逃げ口上も自己弁護もしない、全力で戦い負けた事を素直に認める。

そして彼の部下は其の事を理解し、殲滅状態に成るまで、いや殲滅状態に成なっても彼に従った。


「確かにな。我らが言うのも妙な話であるが、初見で見事な対応であった」

さ~この褒め殺しには乗ってくるかしら。


「光栄なお言葉にございます」

そういうアレクセイの言葉には卑下も増長も口惜しさの気配も無い。

この精神的強さは、ブルック義理兄様(にいさま)と互角かもしれない。


「シルディア殿下は今回の出兵に際し、『捕虜は不要、蹂躙せよ、殲滅せよ』と宣言されている。その上で返答せよ。

アキム部族は何を持って()()()()()殿()()に忠誠を誓うか」

さっきの罠の「私」とは違うわよ。

私は『捕虜は不要、蹂躙せよ、殲滅せよ』と宣言したお姉様に忠誠を誓うかを尋ねたのよ。

クロスロード大公国が、ウノシルディスの放棄を決定した情報も与えた。

アレクセイの顔色が初めて見せる緊張に青白くなる。

彼の頭の中では凄まじい計算が駆け巡っているはず、嘘や誤魔化しは通じないわよ。


フローラとベルンも厳しい顔をして私を見ている。

しかし、口は出さない。

そう、これは私とアレクセイの真剣勝負。

誰にも、例えお姉様であっても邪魔はさせない。

アレクセイ、族長ならばアキム族の全てを賭けて私と戦いなさい。


「200年前に決着が着いたら領土問題を持ち出し、一方的な略奪戦争を仕掛けたのは、我がウノ族です。シルディア殿下のお怒りは当然のものと承知致しております」

極めて冷静に、落ち着いた口調でアレクセイは語る。


「続けよ」

お姉様の『捕虜は不要』を『怒の表現』と上手く受け流したか。


「その上で()()()()()殿()()がウノ族の殲滅を目指すと言われるのであれば、我がアキム部族は本国に残されたウノ族を率いて徹底的に戦います。

しかし、()()()()()殿()()が庇護を目的にウノ族の平定を目指すと言うのであれば、反対する勢力を殿下に従わせる戦いの先兵となりましょう」

演出とはいえ真っすぐに私の目を見つめて堂々と言ってのける。

でもね、私の目をそこまで見つめるのは、十分に不敬案件よ。

フローラとベルンが無意識に剣の柄に手を掛け、側近の3人は目を閉じた。

しかしアレクセイはそれを承知で私から目を逸らさない。

自分の命を最も高く売り、胴元の私に脅しを掛け借金までして一点勝負に出た。


「相分かった。アレクセイ、面白き男。

最終的な裁定は、シルディア殿下が下されるがそれまでの命は私が保証する。

もし、シルデイア殿下が処刑を命じられた場合には、ヒルデガルト・フォン・クロスロードの功績の全てをもってそなたと部下の助命を嘆願する事を約束しよう。

証だ受け取れ」

そう言って、私は愛用のサーベルを後ろに回し、一つに纏めた自らの後ろ髪を根本から切り落とし、アキム・アレクセイに与える。


「「あっ」」とアレクセイ、フローラ、ベルンが短い声を上げる。

短い声を上げたアレクセイは、両手で受け取った私の髪の毛を握りしめたまま、額を地面に音を上げて叩きつけ、擦り付ける。

随行していた3人の部下も主人と同様に額を地面に擦り付ける。


風が、戦場の血生臭いを一瞬吹き飛ばす。

私達は、動くのを忘れ、その姿勢のまま暫しの時が流れる。


「・・・望外の幸せの御座います。我がアキム族の忠誠を、『乙女の命』で買って頂けるとは思いも致しませんでした」

辛うじて絞り出したアキム・アレクセイの声は震えていた。


「それまでは、ブルマイスター要塞の外に宿営する事を許す。食糧も配給しよう。

その対価として、この戦いで亡くなった者の埋葬を行い弔う事を命じる」

私の口調は何故かお姉様に似ている気がした。

つまり絶望的に演技が下手でありながら、説得力だけは破壊的なあの口調である。


「有難き幸せ。

所持金や武具防具は()()()()()()様にお納め致します。

ただ、遺髪の回収だけはどうかお許しください」

アレクセイは私に納めると言った。

ワザとか、単なる間違いか、あるいは罠か。


「遺髪の回収については認める。

武具ついては、持ち主が判る物はそれを判る様にせよ。

扱いについてはシルディア殿下がお決めになる」


「有難き幸せ」

アレクセイは遺髪の回収については、礼を言うが、戦利品の事については言質を与えなかった。

しかし、その事は何故か私を不快にはしなかった。


「ブルマイスター要塞に出入りする事は許可出来ないが、警備は着けない。逃げ出したければ何時でも逃げるが良い。勿論追撃は行うがな」

色々と楽しませてくれるアレクセイについ冗談の一つも言いたくなる。

この時の私は微笑んでいたのかもしれない。


「我一族の命運は、既にシルディア殿下にお任せ致しております」

アキム・アレクセイはずっと顔を上げる事無く額を地面に付けたまま言う。

(そろそろ、私の髪の毛を仕舞ってくれないかしら)


「フローラ、後の手続的な事は任せて良いか」

そろそろ、お姉様の口調で喋るのに疲れてきた。


「はい、ヒルダ様、お任せください」

何故かいい笑顔で了承するフローラ。


「では以上だ。アレクセイ、後の事はこのフローラの指示に従え」


「かしこまりました。フローラ様宜しくご差配お願い致します」


「わかった。アレクセイ殿、ついて来られよ」

ブルマイスター要塞健在なり この情報によりウノシルディス解放の余韻に浸る間もなく援軍を組織。6万の残敵が健在な中、電撃的な騎馬による機動戦術の運用をシルデイは妹のヒルダと腹心の部下のフローラ、そして新しく総騎士団長に任命されたベルンに託した。

開戦から3週間余り、僅かな可能性に全てを賭けたクロスロード大公国でも前例の無い電撃作戦が発動する。

最初は2000文字位の内容でしたが、ヒルダが何を思ったか「乙女の命」を与えた事により、大幅に内容が膨らみました。

敵の指揮官は優秀かもしれないと言う伏線は意図せずに存在していたのですが、ヒルダの「証だ受け取れ」と言うセリフが全ての線を繋ないでくれました。



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