最後まで従う500の兵
「梶 ゆう」の初回投稿です。
書きながら色々勉強して行きたいと思っています。
この物語のメインテーマは、『格好のいい男前なお嬢様』の物語。
皆が応援したく成る『お姉様』を書きたいと思います。
火曜日と金曜日に更新を行います。
「ブルマイスター要塞にはちゃんと伝わりましたか?」
望遠鏡でブルマイスター要塞の城壁にの上からこの戦いを見ている城兵を観察しながら、私はフローラに確認する。
「はい、大丈夫です。作戦終了まで、要塞からの出撃はありません」
フローラも城兵を観察しながら満足げに答える。
「それで良いです。下手に出撃されて、乱戦になったら我が軍の機動力が生かせませんからね」
城兵達は完全に観戦モードで、もうすぐ始まる戦いの行方を見守る様だ。
「敵、動きました! ファランクス陣ではありません。これは、全軍挙げての散兵突撃です」
ベルンに反応して私もフローラも望遠鏡をそちらに向ける。
「上手く散開している。突撃を開始した距離も600メートル位とアーレイの射程を考慮している」
敵兵は川鎧を主体とした軽装だが、それなりに揃った装備をしている。
「はいヒルダ様。二回目でこれだけの対応をしてくるとは、正直意外です」
フローラは敵の指揮官の所在を調べている様だ。
「ヒルダ様、カチア隊、クリス隊、射撃状態に入ります」
ベルンに言われて望遠鏡を外し肉眼で確認する。
ブルマイスター要塞まで3キロ位。
敵軍の突撃に対して、戦場でも艶やかな真っ赤な上着に金モールをあしらった第一種生徒騎乗礼装(つまり軍服)を着た彼女らが、儀仗兵よろしく規律正しく一斉に動き、射撃状態に入ったカチア隊やクリス隊を見て、旗やら剣を突き上げて歓声を上げている様だが、流石に声は聞こえない。
(発射するのがアーレイでなければ、美しいの一言なのだけど、アーレイの威力は、神の怒りと言うにはチョッと美しく無いのよね)
「ライナー隊、フィッシャー隊は予定通り包囲網を閉じていません」
フローラが5キロ程離れた両隊の動きを望遠鏡で確認する。
カチア隊、クリス隊の放つアーレイの爆発音が聴こえて来る。
途切れる事が無い爆音は、斉射では無く交互撃ちを行なっていると言う事だ。
(儀仗兵なら一斉撃ちの方が綺麗だけど、直接敵兵を狙い撃つ交互撃ちの方が効果があるわ)
私とフローラ、ベルンは4メートル程の高さに組まれた櫓上にいるので、戦場となっているほぼ全域が見渡せる。
城壁の上の兵達は、初めて見るアーレイの攻撃の音と、空を舞う先ほどまで人であった朱に染まった物体にポカンと口を開けて歓声を上げるのも忘れている様だ。
「敵、方向転換、カチア隊に集中する模様、距離400にまで詰めました」
既に3回もアーレイの攻撃を見ている私達は、臓物をまき散らして二分する敵を見ても動揺する者はもういない。
馬でさえもうアーレイの音に慣れてキチンと隊列を作ったまま、待機している。
(これがお姉様が懸念されていた、戦う意味と慣れなのね)
「ヒルダ様、カチア隊に後退反撃を行わせます」
ベルンがカチア隊に伝令を向かわせる。
「ベルン。クリス隊に命令。カチア隊を追撃する敵の足が鈍った時に斉射一回。以降、敵を右方向へ押し込めろ」
「はいヒルダ様。右翼ライナー隊には交戦を避け敵の退路を開かせます」
「それで良い」
「ヒルダ様。敵の先に壊滅した部隊は、戦利品を抱えて南方向に戦場を離脱し始めました」
フローラは3キロ位東の一団を見ながら言う。
「結局、攻城軍は見捨てられた? それとも殿軍扱いだったのかしら」
「散開突撃が上手く行って、平行追撃の乱戦に持っていければ、我が軍の右側面を襲う予定だったのかもしれません」
フローラが作戦地図の戦駒を動かして、現状に合わせる。
「クリス隊が敵左側面より挟撃開始。敵主力、崩壊しつつあり。
クリス隊は、カチア隊の正面反攻と上手く連動しています」
私とフローラは、ベルンに言われて再び戦場を肉眼で確認する。
「あの二人の連携は完璧ね。
既に全軍崩壊していますが・・・何故か全面敗走には至りませんね」
私の二人への褒め言葉の方に複雑な表情を見せるベルン。
「崩壊した軍の中に500人程、まとまった部隊がいます」
私の疑問にフローラが答える。
「おそらくあれが、敵の中心です。
今まで無かった、何か部族旗らしき物が見えます」
ベルンも望遠鏡で確認する。
「しかし、兵をまとめても、もう立て直しは不可能。
あるとすれば、殿軍としての最後の戦いだけです」
フローラの言葉にベルンが頷き、戦駒の敵の残数を2000に書き直す。
私は1000単位で数字として計算される敵兵を見て呟いた
「全滅を承知で指揮官に最後まで従う500の兵か・・・」
私の呟きにフローラとベルンが何か言いたそうに私を見る。
「ベルン、カチア、クリス隊に命令。
アーレイによる攻撃を中止。
弓騎兵は現状で待機。
槍騎兵の突撃により敵の殿軍を殲滅せよ。
それと・・・もし敵の指揮官が降伏を申し出た場合は、本陣まで連れてくる事」
私の命令にベルンは不敵に笑い、フローラは微笑を浮かべてる。
「甘いか?」
私の問いには二人共、横に首を振る。
「いえ、直ちに命令を遂行致します」
ベルンが伝令に私の命令を伝える。
「お姉様が言われました『アーレイは、誰にでも使って良い武器では無い』と。
部隊の全滅を覚悟で残る指揮官とそれに従う者達には、それなりの敬意を持っべきだと思います」
「それは構いませんが、追撃は当初の作戦通り行ないますよ」
フローラが作戦の基本に変更が無い事を確認する。
「はい、そちらは作戦通りお願いします。
略奪品を持って逃げようとする者に掛ける情けはありません」
私の答えにフローラが頷く。
「人間の感情とは複雑な物です。
同じ敵を倒すのでも、馬蹄で踏み殺すのと、一騎討ちの後に倒すのとでは、敵に対する思いに大きな違いがあります」
ベルンが実戦経験から得られた思いを吐露する。
その姿はヒルダやフローラに遊ばれていたとは思えない、歴戦の強者であった。
「ベルン、一騎討ちで倒す前に敵の名前を聞いたらしいが、何故か聞いても良いか?」
「構いません。別に降伏を勧める気持ちや、相手を尊敬する気持ちはありませんでした。
ただ、これから自分が殺す相手が何者なのかを知りたかっただけです」
「では今回の降伏容認も、それに近いのかもしれない」
ブルマイスター要塞健在なり この情報によりウノシルディス解放の余韻に浸る間もなく援軍を組織。6万の残敵が健在な中、電撃的な騎馬による機動戦術の運用をシルデイは妹のヒルダと腹心の部下のフローラ、そして新しく総騎士団長に任命されたベルンに託した。
開戦から3週間余り、僅かな可能性に全てを賭けたクロスロード大公国でも前例の無い電撃作戦が発動する。




