ブルマイスター解放戦3
「梶 ゆう」の初回投稿です。
書きながら色々勉強して行きたいと思っています。
この物語のメインテーマは、『格好のいい男前なお嬢様』の物語。
皆が応援したく成る『お姉様』を書きたいと思います。
火曜日と金曜日に更新を行います。
まるで、私がフローラに命じた後退の合図『3点』引き鐘を合図にしたかの様に、敵が布陣していた辺りの土が舞い上がる。
屋根にしていたらしい盾を跳ね上げ、カモフラージュしていた土を跳ね除けて敵兵が飛び出す。
伏兵は地面の中に潜んでいたらしい、その数500余り。
しかし、先頭の弓騎兵まで100メートル位、必殺の間合いではない、まだ距離がある。
本当は、もう少し潜んでいる予定であったのだろう。
私が臆病風に吹かれて鳴らした鐘の音を聞いて『策がバレた』と勘違いして飛び出したらしい。
だけど、臆病風でも勘違いでも何でもいい、僅か数メートル、数秒の違いが戦場での運なのだから。
「『3点』引き鐘。反転、急速後退」
『3点』引き鐘に反応した部隊長の命令に弓騎兵は、一斉に訓練通り騎馬を棹立ちさせ、その場で一点反転させる妙技を披露し全力で後退を開始する。
一方、弓騎兵の直衛に付いていた槍騎兵40騎は、引き鐘を無視し、躊躇する事なく突撃を開始する。
彼らの頭には『敵を倒す』事しか無い。
一番近い敵まで100メートル弱。
ロングボウにとって完全に射程距離内、必中を期待出来る決戦距離。
弓騎兵を狙った200人は、80騎の弓騎兵の馬が一斉に棹立った姿を『馬が怯えた』と勘違、静止目標となった騎兵に対して一斉発射を行う。
しかし、馬が棹立のは、一点反転を行う為の予備動作であり、その後全力で後退している。
放たれた矢が急速後退の動きを追従するわけがなく、矢は放たれた時は弓騎兵がいた地面に突き刺さる。
一方、自分達に突進して来る槍騎兵を脅威と判断した300人は、素早く狙いを定め、矢を放つ。
300本の矢が襲い掛かるが、槍騎兵は構わず突撃し、槍で矢を払い落とす。
しかし、すべての矢が防げる訳がなく、十騎ほどが落馬する。
敵と落馬した騎士の距離は50メートルあまり。
歩兵の突撃でも10秒で届く歩兵の間合い。
「「「ウラーーー!!」」」
落馬した兵に向かって、弓を捨て槍を構えた敵が歓声を上げて吶喊する。
落馬しなかった30騎は倒れた味方に構う事無くこちらも全力で突撃する。
僅か30騎の突撃だが馬まで殺気立ち、目から火花、口から炎を吐くかの如き鬼神となった槍騎兵。
突撃の正面に立った者が、その気迫に対抗して正気を保つのは難しい。
槍を捨てその場に這いつくばり、突撃を避けようとする。
しかし、上から致命傷となる一突きに容赦なく貫かれ、悲鳴を上げ絶命する。
稀に勇気ある者が、蛮勇を振り絞って立はだかる。
鬼神となった槍騎兵は躊躇う事無く、馬ごと体当たりされ骸となって吹き飛ぶ。
上手く横に回り込んだ者も、槍騎兵の槍で殴り倒され、別の馬蹄に踏みつぶされる。
まともに槍を受けた者が、その後ろから突進していた者と一緒に纏めて串刺しにされる。
勇気と運だけでは絶対に逃れられない圧倒的破壊力に歩兵は次々に殲滅される。
しかし、500対30の劣勢は如何ともし難く、落馬した10騎に騎兵の攻撃を生き延びた10倍の数の敵が突進する。
「「「シルディス万歳!」」」
落馬した騎士は誰もが直ぐに手当てをしなければ、生命に関わる程の重傷の傷を負っている。
だがそんな事は覚悟を決めた騎士にはどうでもいい。
「騎士の本懐」
残された己の命をこの戦いに燃やし尽くす事のみ。
体を貫通した矢を抜く時も惜しみ、一人でも多くの敵を道連れにせんと槍を構える。
◆ ◆ ◆ ◆
「引き鐘止めろ! 短笛、3回! 全力攻撃! 勇者を救え!」
私はフローラに命令。
フローラが鋭く『ピッ・ピッ・ピッ』と短笛を響かせる。
200メートルも離れれば、的に当る事自体が奇跡に近い。
故にお姉様は、アーレイの開発を命じられた。
だけれど、私達は少しでも命中率を上げようと日々訓練を重ねる事を忘れなかった。
急速反転、全力疾走、そして再び急速反転。
馬の息は上がり、馬体は大きく揺れる。
それは死の淵からかろうじて脱出したばかりの彼女達も同様。
恐怖と安堵感に、呼吸が乱れ、心臓の鼓動が聞こえる程に高鳴る。
長距離での狙撃を行うには最悪の条件。
「「「反転! 全力攻撃! 通常ボルト! 援護射撃! 各個に撃て! 鍛えしは今の為ぞ!」」」
だが、全力攻撃の私の命令に彼女達は即座に反応する。
私達は軍隊では無い。
私達は、騎士、そしてクロスロード大公国の貴族。
自分達を逃がす為に身を捨てて戦う味方を見捨てて騎士を名乗れようか。
私と同じ思いは彼女達の思い。
誰にも恥じる事のない、クロスロード大公国の騎士の戦いをする。
射程外まで退避した弓騎兵が再び一斉に馬を棹立たせ一点反転させる。
素早く射撃体勢を取り『通常ボルト』をセットする。
『百年鍛えしは、今この時の為ぞ』
その成果が今試される。
目標まで200メートル、並みの技術で狙撃が出来る距離では無い。
射撃体勢に入り、呼吸を整える乗り手に合わせて、馬も息を整えようとする。
人馬一体となり、味方の槍騎兵が突進する隙間を貫いて必殺の矢が放たれる。
矢を放つやいなやその行方も確かめず、彼女達は懸命にアーレイ発射機のグラインダーを巻く。
強力なアーレイを放つ発射機の再セットには、早い者でも30秒、それを少しでも短めたい。
髪を振り乱し、顔を真っ赤にして、グラインダーを巻く、巻く、巻く。
額から埃を含んだ黒い汗が滴り落ちる。
しかし、それを拭う事に時間を割く者はいない。
「汗と埃まみれで淑女からは程遠い酷い顔。でも貴方達は最高に美しい」
私は最初に彼女達が放った80本の通常ボルトが見事に60人程の敵を葬るのを確認した。
「カチア隊、クリス隊が両翼から突撃開始」
フローラに言われて左右を見ると、カチア隊、クリス隊が槍騎兵を先頭に左右から伏兵を挟撃する様に突撃を開始している。
「私は両部隊に攻撃命令を出してはいないけど、『全力攻撃』の命令に反応したのかしら」
「そうかもしれませんが、伏兵がいた事、弓騎兵の急速後退の後の反転攻撃を見て独自に判断したのかもしれません。何しろベルン総騎士団長が先陣に立って突撃を開始しましたから」
「確かにそうねフローラ。いずれにしても絶妙のタイミングだわ」
「そうですね、ヒルダ様。ですが・・・」
「私達はまだ運に見放されていません」
「はい、ヒルダ様」
弓騎兵は伏兵の200メートル手前で停止、素早く射撃体勢を取る。
槍騎兵は頭を下げて、馬に抱き着く様な姿勢で突撃を行う。
誤射を恐れて躊躇う者は、私の騎士団にはいなかった。
ブルマイスター要塞健在なり この情報によりウノシルディス解放の余韻に浸る間もなく援軍を組織する事となります。 6万の残敵が健在な中、戦術的には不味い作戦が開始されます。




