ブルマイスター解放戦1
「梶 ゆう」の初回投稿です。
書きながら色々勉強して行きたいと思っています。
この物語のメインテーマは、『格好のいい男前なお嬢様』の物語。
皆が応援したく成る『お姉様』を書きたいと思います。
火曜日と金曜日に更新を行います。
私は任された3個戦隊の指揮を執る為にベルンから分かれる。
任された3個戦隊は、弓騎兵が60人位、槍騎兵が180人位と人数的にはこれまで指揮をしていた200人の弓騎兵部隊とあまり変わりはない。
ただ、これまで遠隔攻撃主体であったのが、槍騎兵による近接攻撃も出来る様になったのが一番違う。
それに伴い直衛だけでなく、殲滅部隊として槍騎兵の指揮も執る必要がある。
(直衛以外の槍騎兵は私の直轄に置いた方が弓騎兵の指揮に専念出来ると思いますが、実際ベルンの部隊はそうしているみたいですし、まあ、実戦での結果次第ですね)
「カチア隊長、本陣の信号旗が変りました。『赤』です。攻撃開始です」
観測長が本陣からの指示を報告してくれる。
「了解です。伝令長、命令『各戦隊、速足で敵左翼、左側面400メートルに回り込み、攻撃開始指示を待て』」
私は伝令長に各部隊への命令を伝える。
勿論、部隊付き伝令も同じ事を傍で聞いているが、命令は伝令長が伝える手順になっている。
「了解致しました。伝令、『左に迂回、敵左翼側面、距離400、速足移動、各戦隊距離を取り、攻撃開始指示を待て』」
伝令長が部隊付き伝令に命令を復唱する。
私はそれを横で聞きながら命令に過不足が無いかを確認している。
(ベルンから命令の手順を遵守する用に注意を繰り返し言われたけど、この方法は良いわね)
「伝令長、われわれも第2戦隊の後方に前進する」
私も護衛の10人程の槍騎兵と共に前進する。
(名前じゃ無く、役職で呼ぶと軍隊ぽいわね。今後はこういう事も増えて来るでしょう)
敵軍は全軍で4千人位の歩兵が千人位に分かれて、ファランクス陣形で進んで来る。
広い牧草地帯であるので、左右どちらにも隙があり、ウノシルディス解放戦の時の様な圧迫感は全く無い。
訓練された騎兵の機動力の前に、歩兵のファランクス陣形など止まっているのと変わりがなく、私達は自由に行動する事が出来る。
(騎兵に自由に動かれた時点で、勝敗は決まったのに、敵の指揮官は命の無駄使いをしたいのかしら)
この機動力を最大に生かすのが今回の戦いのポイントだとベルンは力説していた。
(冥途の土産に笛一つで陣形を変える私達の学園の妙技を披露して上げましょう)
「カチア隊長、全部隊配置完了。敵陣に動きがあり」
敵味方関係なく気が付いた事を報告するのが偵察長の仕事である。
敵の陣に動きがある事は私も見ていたが、人によっては違う物に見えるかもしれない。
偵察長は慣れない事であるだろうに、キッチリ仕事をしてくれる。
(それにしても、もう少し役目のネーミングは変えたいわね、この件に関してはシルディ様もヒルダ様も期待出来ないから、私達で考えた方がよさそうね)
「その場で部隊では無く個人で90度回る事で一応、私達に正対する陣に変更したようですね。
しかし、陣としての厚みが薄すぎる」
(号令一つで陣の変更が出来るとは、敵の指揮官は中々出来るらしい。乱れのない動きも見事な物ね)
「おっしゃる通りですね。あれは槍騎兵突撃を警戒した守りの陣です」
偵察長が観測ばかりではなく、職務外の分析を報告してくれる。
言ってしまってから、『あっ』という顔になった。
「構いません、思った事は言って下さい」
(偵察長より作戦参謀の方がしっくりくるけど、この程度の戦隊で作戦参謀は、ちょっと大袈裟ね)
「かしこまりました」
偵察長は右手の親指を立てて頷く。
「よろしい。伝令長、交互射撃用意」
伝令長が、『短・長』の後に『短・長・短』の笛吹く。
各部隊の動きが止まり、部隊指揮官が私を見る。
「伝令長、交互射撃始め!」
伝令長が再び、『短・長』の後に『長・長・短』の笛吹く。
(大声を出さなくても良いのが助かります)
敵までの距離は400メートル、普通の矢ならば射程圏外だが、弓よりも遥かに長いアーレイの射程に敵の左翼部隊はスッポリ収まっている。
各部隊から一斉にアーレイが発射されるが、早くも命令の齟齬が発生する。
私が命じたのは、弓騎兵部隊3分の1ずつの交互射撃であったが、第3戦隊は全部部隊の一斉射撃を行ってしまったらしい。
まあ、撃ってしまったものは仕方がない。
私も偵察長も伝令長も矢の行方を追った。
30本ほどのアーレイがファランクスに襲い掛かる。
敵は木製の盾を頭上に掲げて防御態勢に入る。
(ウノシルディス解放戦で見せた敵と同じね。あの時の敵は正規軍だったけど、同じ対応を取るとは中々動員兵も侮れない。それとも指揮官が優秀なのかしら)
「盾で防御しても無駄だけど・・・・」
私の呟きに『無駄ですか』と返したのは偵察長なのだろうか、伝令長なのだろうか。
「ええ、無駄よ」
私は数秒後に出現する私達が作り出す地獄を確信してそう言った。
アーレイが放物線の最高点から落下し始める。
(しまった、音に注意を喚起していなかった。部隊長が注意していてくれれば良いけど・・・)
そんな私の思索を台地を揺らす振動と爆音が吹き飛ばす。
先にアーレイの爆発する光が見えたと思う。
爆煙がファランクス全体を覆い、砕け散った盾の破片が空に吹き上げられる。
ただ、幸いな事に煙に隠されて人が砕け散り、血飛沫を上げて小間切れ肉と成る姿は見えない。
その直後に爆音と共に人の上げる断末魔の叫びが固まりとなって押し寄せて来た。
「「「馬をおさえろ!」」」
前衛に配置している槍騎兵の馬が嘶き、半数が竿立つ。
解放戦を要塞から見ていたらしいが、音についてはこれ程のものとは思っていなかったらしい。
まして、馬にとっては恐怖以外の何物でもないであろう。
「「「暴走させるな、絶対に前に走らせるな、暴走するなら後ろにしろ」」」
各部隊で鎮静に躍起になっているがこれは、慣れさせるしかない。
その証拠に弓騎兵隊の馬は1頭も騒がず落ち着いているので、次の攻撃には支障はない。
第1戦隊から第2射目の6本が発射されるが、第2戦隊は目標が爆煙で見えない為か射撃が遅れている。
一斉射撃してしまった、第3戦隊は当然まだ射撃準備中である。
「伝令長、第3戦隊に伝令『第3戦隊は交互射撃に変更せよ』」
攻撃による爆音、興奮した馬を鎮める声、そして敵の悲鳴しか聞こえない中で命令を伝える。
「カチア隊長、ここは全戦隊に伝令を送り、改めて交互射撃の命令を徹底させるべきです」
伝令長が命令に異議と言う程でも無いが、訂正を求める。
「うん? 命令を間違えているのは、第3戦隊だけだが・・・解った全戦隊に命令を徹底『攻撃は交互射撃で行え』」
私は伝令長の提案に疑問を感じたが、直感的に伝令長の意見に従う事とした。
「了解致しました。
伝令、『攻撃は交互射撃で続行せよ』」
部隊付き伝令が各部隊に向かう。
「伝令長、なぜ正しく攻撃を行っている部隊まで、伝令を送る必要があった?」
第2、第3戦隊が沈黙しているので、今攻撃を行っているのは第1戦隊だけであるので、爆音は少し散漫となっている。
しかし、それ故に煙も少なく、アーレイの直撃を受けて体が血と臓物を撒き散らしながら胴体が上下に引き裂かれる様子がよく見える。
「それは、正しい攻撃を行っていた第2戦隊まで、命令の取違をしたと勘違いした可能性があったからです」
伝令と言っても各部隊は100メートルも離れていないので馬ならば10秒もかからない。
そして、伝令が到着した直後に第2戦隊の攻撃が再開された。
「・・・なるほど伝令長。第2戦隊は、命令を取違えたと錯覚してしまっていたわけか」
私の言葉に伝令長は頷く。
「戦場の空気に飲み込まれた興奮状態では、正常な判断を下す事は困難です。それに・・・」
伝令長の指差す先には赤黒い小さな塊が幾つも作られていた。
目を凝らせば、その山の中にはかすかに動いている物もある。
風がほとんど無いので臭いがこちらに来ないのがせめてもの救いである。
「あれを見て、平常心でいる事の方が異常でしょう」
伝令長は目を伏せた。
(そうかな~ 槍に串刺しにされて徐々に死んでゆく半殺しよりも、五体バラバラでも即死の方が残酷じゃ無いと思うのだけど)
「伝令長、最後の言葉は良く聞こえなかった。戦場で意見する場合は、明確に述べる様に。
それと、先ほどの提案は助かった。今後も宜しく願います」
私は、褒める所は褒め、戒める所は、今は有耶無耶にした。
しかし、二度目は無い。
「無神経でした、気を付けます。こちらこそ宜しくお願いします」
伝令長は、正確に私の意図を推し量って答えてくれた。
今はこれでいい。
「それにしても、貴方の部下は流石ウノシルディスの精鋭騎兵ですね。あの音による混乱をもう乗り越えられた」
「有難う御座います。お褒めを頂き部下達も喜びます」
「知ってますか?シルディ様とフローラ様は、ウノシルディス解放戦の時、優雅にお茶を飲みながら指揮を取っていたらしいですよ」
「それは初耳です。流石シルディア様、フローラ様です。カチア様もそうなされますか」
私の司令部も大分余裕が出てきたらしい、20秒毎に18本発射されるアーレイに50人単位で敵兵がバルハラに直行するか、出発の順番待ちをしているのを眺めつつ、呑気な話をしている。
「・・今は辞めておきましょう。婚約者が悪女では、ベルン殿が可哀想です・・・さて、敵がそろそろ戦意を失いました。交互射撃を前進交互射撃に変更します。一射毎に10メートル前進させて下さい」
「はっ!かしこまりました。伝令! 前進交互射撃に変更。1射毎に10メートル前進」
伝令に伝えた内容に私が頷くと伝令が一斉に走りだす。
ブルマイスター要塞健在なり この情報によりウノシルディス解放の余韻に浸る間もなく援軍を組織する事となります。 6万の残敵が健在な中、戦術的には不味い作戦が開始されます。




