忘却
それから二週間後、八月十日の火曜日。
忘れた。
いや、忘れそうだ。
しかし、それは忘れたといってもいいくらい、ほとんど忘れていた。
だからこれは“忘れた”なのだ。
ぼくらは夏奈さんのことを……完全に忘れそうになっていた。
夏奈さん?
夏奈、さん?
カナ、さん?
かな、さん?
…………。
あれ、誰だっけ……?
穏やかで優しげな顔をしているくせに、憎たらしげな「彼女」の名前……ぼくはほとんど忘れてしまった。
確かに「彼女」はぼくらの仲間だ。
仲間……そう、仲間だ。
…………。
……そう、仲間だ。
ならば、なぜぼくらは「彼女」にウソなんてついているのだろうか。
ウソ?
ウソ……ウソ。
…………。
あれ? なんでぼくらはウソなんてついているんだろう。
本当に「彼女」はぼくらの仲間か? 仲間なら、ウソなんてつかないんじゃないのか?
本当の仲間なら、「彼女」のことを忘れないはず。
思い出せるはず……!
でも、ぼくらは「彼女」のことを忘れたままだった。
決して思い出せない。
なぜなら、「彼女」はぼくらの仲間ではないからだ。
「そんなはずはない!」
そんな苦悩の日々が三日間も続いた。
ぼくらは苦しかった。
「彼女」も苦しそうだった。
確かにぼくらは「彼女」のことを忘れてしまったが、“あのこと”は決して忘れずに覚えていた。
八月十二日、木曜日の夜に起こるであろう、キセキを。
奈蔵川河川敷まで行き、流星雨となったペルセウス座流星群を見上げ、「彼女」を助けるというキセキを、哀れなぼくらは忘れていなかった。
感動のキセキを起こすまで、ぼくらの夏はまだ終わらない。
…………。
絶対に終わらせるものか。
何がなんでも、絶対。
ぼくらの夏を終わらせるものか。




