おもちゃ花火
時刻は午後八時過ぎ。
ぼくらは星空公園にやってきた。
最初に虫除けスプレーを体にかけてから、水入れバケツを公園の中央あたりに置き、周囲の地面に燃えるものがないか懐中電灯で確かめたのち、ぼくらはおもちゃ花火を始めた。
まずぼくが選んだのは定番のススキ花火だった。
缶に立てたロウソクで、ぼくはおもちゃ花火に火を付ける。
すると、ススキ花火は爽快な音とともに火を噴き出し始め、見る見るうちに火を強めていった。
地味だが、それでいて優美な花火だ。
みんなの様子をちらりと窺うと、彼らは花火を存分に楽しんでいるようで、きゃっきゃっとはしゃいでいた。
当然、それは父や母も同じだった。
皆、子どもになって楽しんでいるのだ。
それは悪いことではない。
むしろ、よいことだ。
やがて、一本目のススキ花火の火が消えた。
さてさて。
次にぼくが選んだのは、スパーク花火だった。
スパーク花火に火を付けると、これまた豪快な音がし、縦や横に火が噴き出した。
…………。
これぞ、夏の風物詩。
ぼくは満足げにうなずいた。
スパーク花火の火が消えたあと、ぼくは再びみんなの様子を窺った。
それで気付いたのだが、どうやらみんなは二人一組になり、花火を楽しんでいた。
遙香さんと夏奈さん、姉と海堂さん、父と母。
……あれ、ぼくは?
そう、ぼくは独りぼっちだった。
「……いいだろう」
ぼくは一人寂しく線香花火を始めようと、ロウソクのあるほうに近付く。
そのとき、不意に遙香さんと夏奈さんの会話が聞こえてしまった。
二人の声は小声だったが、それでも聞こえてしまった。
「え、じゃあ夏奈は徹くんのこと……」
「うん、好きかも」
「……そっか」
「うん」
「告白は?」
「えっと……うん、した」
「いつ?」
「ほら、あのときだってば。美楽湖のとき、わたしがあんたとケンカをしたでしょう? で、そのあとに……」
「したの?」
「まあね」
「で、どうだったの?」
「うん、それがね……」
そのとき、ぼくは誰かから頭を叩かれた――かと思えば、口を塞がれた。
こんな仕業をするのは姉しかいない。
姉はぼくの耳元でささやいた。
「こら、翔。乙女の会話を盗み聞きするなんて、漢らしくないわよ。
二人のこと、そっとしておいてあげて。ね?」
ぼくは小さくこくりとうなずく。
それでようやく、口は自由になった。
ぼくは後ろを振り返る。
案の定、そこには姉がいた。
姉はぼくの手を引き、遙香さんと夏奈さんのいる場所から離れる。
もうひとつのロウソクと缶を使い、そこでぼくらは線香花火に火を付けた。
パチパチ、パチパチ……。
なんて上品な花火なのだろう。
そんな線香花火には、何がなんでも生きようという意志が感じられた。
まるでそれは必死に生きようとする夏奈さんみたいで……ぼくは涙した。
そのとき、線香花火の火が消えた。
「……あ」
つまり、それは夏奈さんの命の火が消えたということ。
ぼくはたまらなく恐ろしくなった。
恐ろしさのあまり、ぼくは泣き出しそうになった。
しかし、
「……そんなことにはならない。ええ、絶対ね」
という姉の力強い言葉を聞き、ぼくは我に返った。
「信じましょう、キセキを。流れ星のキセキを……!」
ぼくは流れ落ちる涙をそのままに、「うん」と力強くうなずいた。




