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涙の流星群  作者: 最上優矢
第五章 思い出の夏、後戻りはできない夏、ひび割れた夏

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ケンカ

 遊覧船を降りたあと、次にぼくらが訪れたのは美楽湖安鳴山みらくこ・あんめいざんロープウェイだった。


 どこまでも高く高く……高く。

 ぼくらはロープウェイに乗り、展望台のある駅まで昇っていった。

 標高一〇〇〇メートル以上の展望台から眼下に見ることができる絶景は、ぼくの目頭を熱くさせた。


 しばらくのあいだ、ぼくらは展望台付近を散策したり、写真を撮ったりしていた。

 それに満足すると、ぼくらは来た道を戻り、今度はロープウェイでどんどん駅まで降りていった。

 そのあともぼくらは色々な観光地を回ったし、昼食にはおいしいうどんやそばを食べたり、デザートにはソフトクリーム屋でソフトクリームを食べたりもした。


 すべてがうまくいっている。

 すべてが順調にいっている。

 ぼくらの思い出作りはうまくいき、何もかも順調だ。


 そのはずだった。

 だが、その認識は甘かった。

 ひたすら甘かった。


 美楽町の散策を終え、そろそろ車に戻って帰ろうか、というとき、不意に夏奈さんが言い出したのだ。


「じゃあさ、そろそろみんなはわたしに本当のことを教えてくれてもいいんじゃない? って、わたしは思うけどな」


 …………。

 ドキリ。


「……なんのことかな、夏奈。わたしたち、何も夏奈に隠し事なんてしていないよ」


 夏奈さんの隣にいる遙香さんは、緊張した声音で“事実”を否定した。


「それ、ウソだよね」


 ずばり、“事実”を指摘する夏奈さん。


「ウソだよね」


 言い逃れは許さないとばかり、夏奈さんは畳みかけた。


「遙香たちはわたしにウソをついている。……ねえ、もうやめにしない? てかさ、みんながつくウソはバレバレなんだよね。

 だってさ、おかしいじゃん。翔くんは遙香と付き合っているのにも関わらず、恋愛反対運動の古参メンバーなんだよ? みんなが言うことと矛盾しているよね。

 それをわたしが気付かないとでも思った? わたし、そこまでバカじゃないんでね」

「そ、そんなこと――」

「嘘つき」


 今や、夏奈さんは静かに怒っていた。


「おいおい、いきなりどうしたんだよ、夏奈。というか、ウソってなんのことだ?」


 見かねてケンカの仲裁をする龍司さん。


 だが、ぼくには分かる。

 もう手遅れだ。


 そのぼくの予想は当たってしまった。


 夏奈さんは遙香さんの胸ぐらにつかみかかると、そのまま押し倒そうとする。


 悲鳴。

 怒声。


 遙香さんはよろめいたかと思えば、すぐさま体勢を立て直した。

 そして反撃とばかり、遙香さんは夏奈さんに突進した。

 遙香さんと夏奈さんはぶつかり合い、二人ともそれぞれ地面に倒れる。

 最後には、二人ともわんわんと泣き出してしまった。


 それらは一瞬のことだった。


 とりあえず、遙香さんと夏奈さんにケガはなかったみたいなので、ぼくらは二人をなだめることに徹した。


 最初に泣きやんだのは夏奈さんだった。

 そんな夏奈さんは徹の手を引き、「カラオケボックスに行きたいから、歩いて探そうよ」と徹とともに歩き出してしまった。


 その頃には遙香さんも泣きやんでいた。


「お前らがどんなウソを夏奈についているのか、全部話せ。そこでもウソをついたら、おれは容赦しないからな」

「……事情を聞かせてもらおうじゃないか」


 怒るほどに真剣な表情の龍司さんと梓さんの言葉に、ぼくと遙香さんはすべてを二人に白状した。


 遙香さんがついたウソによって、夏奈さんが不完全な死者になってしまったこと。

 それでも、ぼくらは夏奈さんにウソをつき続ける道を選んだこと。

 それなのに、彼女のために思い出作りをしようと決意したこと。

 恋愛反対運動のことも……全部全部、二人に白状した。


 最初、龍司さんと梓さんはあっけにとられていたが、やがて二人は、

「お前らよ、お前らのしていることはな、仲間はずれだ。それも、あたかも仲間のように見せかけた仲間はずれだ。

 クソガキども、それを分かっているのか?

 ――あぁ、くそ……そのことを海堂の野郎が言っていれば、おれもサポーターになんかなっていなかったのによぉ」

「あたいも思うことがあるよ。……そんな茶番を続けていて、一体誰が幸せになるっていうんだい?

 これには悪魔も悪いことをしたと反省するね」

 と、それぞれぼくと遙香さんを叱った。


 このとき、ぼくは龍司さんと梓さんに反論することができなかった。

 知り合いの大人から説教を受けることが、こんなにもつらいことだとは思わなかったからだ。

 それはたぶん、遙香さんも同じなのだろうと、ぼくは勝手に想像した。


 それから数十分後、夏奈さんと徹がこの場所に戻ってきた。

 カラオケボックスで歌を歌ってきた割には、二人は帰りが早かった。

 夏奈さんいわく、帰りが早かったのは「近くにカラオケボックスがなかったから」なのだそうだ。


 気まずい雰囲気の中、ぼくらは車に戻った。

 梓さんはトランクの中にある自分の荷物を取り出すと、「じゃあ、あたいは家に帰るよ。みんな、お疲れさま」とぼくらに別れを告げ、にこやかにその場から立ち去っていった。


 腕時計を見ると、時刻は午後五時過ぎ。

 今から車で家に帰るとなれば、家に着くのは夜になるだろう。


「さて、帰りますか」


 そのように夏奈さんは明るく言うが、その胸の内は分からない。

 けれど――。


「ああ、帰ろう」


 ぼくもまた明るく言ってみせ、みんなとともに黒塗りのワゴン車に乗り込んだ。


「それそれ、レッツラゴー」


 行きと同じように、徹ははっちゃけてみせる。

 そんな徹の声を聞きながら、このようにぼくは思った。


 思い出の夏……それはきっと後戻りはできない夏。

 ひび割れた夏。


 そう思ってしまった。

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