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涙の流星群  作者: 最上優矢
第五章 思い出の夏、後戻りはできない夏、ひび割れた夏

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美楽湖遊覧船

 翌日――七月十八日の日曜日。


 午前八時に朝食バイキングを食べ終えたぼくらは、売店でお土産を買ったあと、午前九時にホテルのチェックアウトを済ませ、美楽湖ホテルをあとにした。


 ぼくは車の窓から、空の様子を何度も確かめた。

 が、何度確認してみても天気は曇りで、それだけはどうしても変えようがなかった。


 どうやら曇り空の中、ぼくらは観光地を回ることになりそうだ。

 天気予報では晴れだったのに、どうしてこうも現実は残酷なのだろう。


 見るからにぼくが不満そうにしていると、助手席に座る徹が「まあ、そんなに気にすることはないさ。なぜって、おれたちにはおれたちなりの楽しみ方があるのだからな」とこちらの無念の分だけ、快活に笑ってくれた。


「そっか……それもそうだな」


 単純にも、それでぼくは立ち直った。

 そのとき、隣に座る遙香さんが「よしよし」と言いながら、ぼくの頭をなでた。

 ぼくは顔が火照るのを感じた。


 いくら人前でイチャイチャするといっても、これはさすがに違うのでは?

 そうぼくが疑問を抱いたとき、後ろの席にいた夏奈さんが「えへんえへん」と咳払いをした。

 遙香さんは眉をひそめると、ぼくの頭をなでるのをやめた。


 なんだろう、少し気まずくなってしまったようだ。


 そんなぼくらの気まずさに気付くことなく、夏奈さんの隣にいた梓さんが「のど飴でもなめるかい、夏奈?」と夏奈さんに訊いていた。


「あ、うん。欲しいかな」


 これまた気まずげに、夏奈さんは梓さんに返事をする。

 夏奈さんは梓さんからのど飴をもらったのか、「ありがとう」とお礼を言い、のど飴をなめたようだった。


 そのとき、運転中の龍司さんは大きなあくびをしてから、後部座席にいるぼくらに向けて叫んだ。


「お前ら、美楽湖みらくこ遊覧船まで、あともう少しだぜ。

 ふん、楽しみに待っていやがれってんだ」


 龍司さんは荒々しく、けれど頼もしそうに言ってみせた。


 こうしてぼくらはひとつめの観光地、美楽湖遊覧船の駐車場にたどり着いた。


 ここからは梓さんの役割で、彼女は美楽湖遊覧船のみならず、美楽町のことはなんでも知っていた。

 もちろん、ぼくと夏奈さんが冒険した「美楽の森」のことも……すべて。


 梓さんを先頭にし、ぼくらは美楽湖遊覧船の乗り場まで向かった。

 乗り場はこぢんまりとしていて、白を基調とした清らかな建物だった。

 梓さんはきっぷ売り場で乗船券を購入すると、待合室の椅子にどかりと腰を下ろした。


「次の便は午前九時四十分だから……うん、あともうすこしで乗れるね」


 ぼくらも椅子に腰かけ、次の便まで思い思いの時間を過ごしていた。

 それから数分後、ぼくらは「天下一てんかいち」という緑色の遊覧船に乗り込んだ。


 遊覧船「天下一」には一階船内客室と一階後方席のほか、二階デッキ席があり、ぼくらは二階デッキ席のほうに陣取った。

 ぼくら以外にも二階デッキ席には十人ほどの乗客がいて、それぞれ彼らはスマートフォンやカメラで景色を撮影していた。


 運航まで、あと十分。


 待っている時間を有意義に使うため、梓さんは美楽湖遊覧船「天下一」についての説明を始めた。


 梓さんによると、この遊覧船が造られたのは、ざっと十年前だという。

「天下一」の定員は百二十名で、一年間で一万人ほどの乗客が訪れるらしい。

 美楽湖といえば、この遊覧船が有名なのだと、梓さんは教えてくれた。

 地元民である梓さんも、この「天下一」にはよく乗るらしい。


「『天下一』に乗って美楽湖を眺めると、気分が和むんだよ。これも自然の力なのかね」


 梓さんは愛情に満ちたまなざしで、この広大な美楽湖を眺める。


「あたいがこの町に引っ越してきた理由はね、そこに自然があるからさ。

 そこで心を落ち着かせることができるからさ。

 都会の暮らしが合わないことに気付いたあたいは、すぐさま美楽町に引っ越したよ。

 そしたら、あっという間に馴染んでね……今や、あたいは旅行の案内役さ」


 梓さんはクスリと笑い、ぼくらはニコリと笑った。


 そのとき、遊覧船のアナウンスが響き渡った。

 アナウンスを聞くと、どうやら運航予定時刻らしい。


 それから一分も経たないうちに、遊覧船は運航のために湖を進み始めた。

 それからはあっという間に時間が過ぎていった。


 絶妙な雲と山と湖の景色は、ぼくらの目を釘付けにした。

 船内アナウンスをよく聞くと、美楽湖の歴史や観光情報を乗客のぼくらに伝えていて、それを聞いたぼくは冒険心がくすぐられるのを感じた。

 湖の香りだろうか、濃い水の香りがする。


 昨夜は森を冒険。

 きょうは遊覧船で湖を冒険。


「……向かうところ敵なし、だな」


 ぼくは小さくつぶやくと、ふっと笑った。

 それからぼくは大きく伸びをし、自然の空気をたっぷり味わった。


 至福の時間、だった。

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