幻想的な星空
そこはどうやら皆伐された区画らしく、広さは体育館ほどだろうか、とにかく見通しがよかった。
最初、ぼくらは満天の星を見られることに喜んでいたが、徐々に目の前の皆伐跡地が気になり出し、ぼくらはしっかりと手を合わせ、それから再び星空を見上げた。
無数の星。
そんな星たちを彩るのは、この地球が誕生したときからある宇宙オリジナルの色で、けれどこれはすべてが同色ではなく、そのすべてが違う色に見えた。
幻想的な星空、だった。
星空を見上げすぎて首が痛くなったため、ぼくは尻を地面につけ、仰向けになった。
そんなぼくに倣い、夏奈さんも同じように仰向けになって寝転ぶ。
そうしてぼくらはいつまでも星空を見上げていた。
「あのさ、翔くん。もしもね、わたしがさ……」
「わたしが、何?」
「……ううん、なんでもない」
そこで初めてぼくは星空から目を離し、夏奈さんの顔色を窺った。
が、星たちの光があるとはいえ、スマートフォンのライトを消し、薄闇の中にいる夏奈さんの表情を確認するには、いささか暗すぎた。
なんとなく夏奈さんの言葉の続きが気になりはしたが、ぼくは彼女をそっとしておくことにした。
ぼくは心を宇宙と一体化するように、心を無にし、再び星空を見上げた。
それからしばらくして、隣にいた夏奈さんが「ありがとう」とポツリとつぶやくのが聞こえた。
違和感。
おや、とぼくは思わず眉をひそめたが、ちゃんと口では夏奈さんに返事をしていた。
それを聞いた夏奈さんは、ケラケラと笑い……あれ、またもや違和感。
何かがおかしい。
たとえるなら、そう……夏奈さんは感情の音程を外している、とでも言おうか。
まるで壊れたピアノみたいだ。
もしかして夏奈さん、泣いている?
ここまで気付いたのにも関わらず、これ以上考えることをぼくはやめていた。
その代わり、こちらもわざと感情の音程を外して、夏奈さんと話すことにした。
夏奈さんも夏奈さんで感情の音程を一層外し、ぼくとの雑談に挑んだ。
なんともちぐはぐな感じだった。
お互い、話し相手の異変に気付いてはいたが、それでも気付かぬふりをしていた。
もしもそれをどちらかが指摘すれば、すべてが終わってしまうような……そんな気がしていたからだ。
そんな状況が数十分続いたあと、いよいよぼくらは美楽湖ホテルに戻ることになった。
「帰り道、覚えているの?」
すっかり感情の音程を元に戻したぼくは、そう夏奈さんに訊いてみた。
夏奈さんも感情の音程を元に戻したようで、「任せなさい」といかにも自信ありげにうなずいてみせた。
事実、夏奈さんは一度も森の中を迷うことなく、美楽湖ホテルまでぼくを導いてくれた。
あとで知ったが、どうやら彼女は星空を見上げた際、こぐま座のα星ポラリス(現在の北極星)を見つけ出していて、その恒星を目印にし、広大な森から抜け出したらしい。
ということは、行きも同じ方法で……?
何はともあれ、冒険の一部始終を知った龍司さんと梓さんは、ぼくらを叱ることはせず、逆に「よくやった」と褒めてくれた。
遙香さんはあきれ果て、徹は薄気味悪く笑っていた。
さすがは心強い仲間たちである。
こうして、ぼくと夏奈さんの思い出に残る冒険は幕を閉じた。




