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涙の流星群  作者: 最上優矢
第五章 思い出の夏、後戻りはできない夏、ひび割れた夏

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幻想的な星空

 そこはどうやら皆伐された区画らしく、広さは体育館ほどだろうか、とにかく見通しがよかった。

 最初、ぼくらは満天の星を見られることに喜んでいたが、徐々に目の前の皆伐跡地が気になり出し、ぼくらはしっかりと手を合わせ、それから再び星空を見上げた。


 無数の星。

 そんな星たちを彩るのは、この地球が誕生したときからある宇宙オリジナルの色で、けれどこれはすべてが同色ではなく、そのすべてが違う色に見えた。


 幻想的な星空、だった。


 星空を見上げすぎて首が痛くなったため、ぼくは尻を地面につけ、仰向けになった。

 そんなぼくに倣い、夏奈さんも同じように仰向けになって寝転ぶ。

 そうしてぼくらはいつまでも星空を見上げていた。


「あのさ、翔くん。もしもね、わたしがさ……」

「わたしが、何?」

「……ううん、なんでもない」


 そこで初めてぼくは星空から目を離し、夏奈さんの顔色を窺った。

 が、星たちの光があるとはいえ、スマートフォンのライトを消し、薄闇の中にいる夏奈さんの表情を確認するには、いささか暗すぎた。

 なんとなく夏奈さんの言葉の続きが気になりはしたが、ぼくは彼女をそっとしておくことにした。


 ぼくは心を宇宙と一体化するように、心を無にし、再び星空を見上げた。

 それからしばらくして、隣にいた夏奈さんが「ありがとう」とポツリとつぶやくのが聞こえた。


 違和感。


 おや、とぼくは思わず眉をひそめたが、ちゃんと口では夏奈さんに返事をしていた。

 それを聞いた夏奈さんは、ケラケラと笑い……あれ、またもや違和感。

 何かがおかしい。


 たとえるなら、そう……夏奈さんは感情の音程を外している、とでも言おうか。

 まるで壊れたピアノみたいだ。


 もしかして夏奈さん、泣いている?


 ここまで気付いたのにも関わらず、これ以上考えることをぼくはやめていた。

 その代わり、こちらもわざと感情の音程を外して、夏奈さんと話すことにした。

 夏奈さんも夏奈さんで感情の音程を一層外し、ぼくとの雑談に挑んだ。


 なんともちぐはぐな感じだった。

 お互い、話し相手の異変に気付いてはいたが、それでも気付かぬふりをしていた。

 もしもそれをどちらかが指摘すれば、すべてが終わってしまうような……そんな気がしていたからだ。


 そんな状況が数十分続いたあと、いよいよぼくらは美楽湖ホテルに戻ることになった。


「帰り道、覚えているの?」


 すっかり感情の音程を元に戻したぼくは、そう夏奈さんに訊いてみた。

 夏奈さんも感情の音程を元に戻したようで、「任せなさい」といかにも自信ありげにうなずいてみせた。

 事実、夏奈さんは一度も森の中を迷うことなく、美楽湖ホテルまでぼくを導いてくれた。


 あとで知ったが、どうやら彼女は星空を見上げた際、こぐま座のα星ポラリス(現在の北極星)を見つけ出していて、その恒星を目印にし、広大な森から抜け出したらしい。

 ということは、行きも同じ方法で……?


 何はともあれ、冒険の一部始終を知った龍司さんと梓さんは、ぼくらを叱ることはせず、逆に「よくやった」と褒めてくれた。

 遙香さんはあきれ果て、徹は薄気味悪く笑っていた。


 さすがは心強い仲間たちである。


 こうして、ぼくと夏奈さんの思い出に残る冒険は幕を閉じた。

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