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涙の流星群  作者: 最上優矢
第五章 思い出の夏、後戻りはできない夏、ひび割れた夏

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血棒の鬼女

 先ほども言ったように、夕食はバイキング形式だ。

 夕食会場に足を運んだぼくらは、数々の和洋をそろえた料理を見て喜び、興奮するほかなかった。


 考えてみてほしい。

 たくさんの料理が並べられているのを見て、それを「食べきれるぶんだけ、食べてもいいよ」と言われたとき、あなたは喜んだり興奮したりしないだろうか?

 無論、ぼくは喜ぶし、興奮もする。


 浮き浮きとぼくらは食べきれるぶんだけ、お皿に取り分け、いざ食事を開始した。


 うまいうまい。


「……いかんな。静かすぎる」


 龍司さんは独身生活の寂しい食事でも思い出したのか、そのように厳めしい顔付きでつぶやいた。


 龍司さんは梓さんの名前を呼び、

「オチがあるなら、なんでもいい。だから、何か話してくれや」

 と梓さんに頼み込んだ。

 そのとき、梓さんはグラスに入ったオレンジジュースを飲んでいたのだが、龍司さんの言葉を聞いてから少しして、彼女はそれを鼻で笑ったあと、すぐに無表情になる。


 なんだか知らないが、何かが始まる予感がした。

 その予感は的中した。


 梓さんはおもむろにオレンジジュースのグラスをテーブルに置くと、上機嫌な様子で話し出した。


「あたいさ、この美楽町にある『悦湖屋えつこや』っていうスーパーマーケットで働いているんだ。

 その話、前に龍司にも話したと思うけど……あんた、覚えているかい?」

「そりゃあもちろん、覚えているぜ。

 ほら、前におれと海堂がお前の家に遊びに行ったことがあるだろう? その帰り道、おれと海堂はお前の職場に挨拶しに行ったんだよ。みんな、お前の凶暴さにおびえていたっけな」

「へえ、そうなのかい? あたい、そんなにみんなを怖がらせていたっけか」

「嘘つけ、おれは知っているぞ。

 最近、お前ったら、同僚の由那ゆなちゃんをいびって泣かせたそうじゃないか」

「正確にはただのケンカだけどね」

「それだけじゃない。この前のお前は、クレーム客とケンカをしたそうだな。

 接客の際の笑顔が不気味だ、とかなんとか言われて……で、お前は何をした?

 売り場の卵パックを開封し、その卵をクレーム客に投げ付けた……そうだろう、梓? お前の悪行は、すべてお見通しだぜ」


 犯人を指差すときのように、龍司さんは梓さんを人差し指でビシッと指差した。


 本来、人は指を指されることに対し、強い不快感を示す。

 けれど、このときの梓さんは違った。

 どころか、快感と言わんばかり、彼女は身体を震わせた。


「さすがだよ、龍司。さすがだ。

 あたいはあんたがバカだということを見込んで、この話をしたのさ。見事に白状してくれたね」

「……なんだと?」


 今度は梓さんが龍司さんを指差す番だった。


「あんたはあたいの職場を訪れたとき、あざとい大学生の佐々木由那ささき・ゆなと親しくなった。

 おそらく、あんたは由那の電話番号やメールアドレスを聞いたんだろうね。

 だから、あんたはあたいの職場でのことを詳しく知っているのさ」


 最初、龍司さんは目をむいていたが、その動揺もすぐに収まった。


「ああ、そうだ。それに相違はない。だがな、それがどうした?

 そんなこと、どうでもいいじゃないか。なあ、梓?」


 わざとらしく、龍司さんは肩をすくめてみせる。

 しかし、梓さんの笑みはいやらしかった。


 梓さんは龍司さんを指差すのをやめると、一呼吸置いてから、

「あんたはオチがある話を求めた。だから、あたいはオチがある話をするだけだよ。

 すべて、あんたが墓穴を掘ったことが原因なんだ、龍司。すべてあんたが悪い」

 と梓さんは鬼のように怖い顔になって、龍司さんに真実を突き付けた。


「あたいと由那が対立しているのをいいことに、あんたはあたいの通り名を広めるよう、由那に頼み込んだ。

 そうさ、あたいの通り名は『血棒の鬼女けつぼうのきじょ』……別名、『ケツバットの鬼女』」

「……ははは、実に面白いな」


 面白いと笑い飛ばす龍司さんだが、その顔は引きつっている。

 誰が見たって、彼は痩せ我慢をしていると思うはずだ。


 最後、梓さんは「忘れた頃に復讐するから、そのときを楽しみに待っていなよ」と吐き捨てると、食事に専念する。

 思い出したように、ぼくらも食事を再開した。


 そのとき、遙香さんが食器を持ったまま、ぼくのところにやってきた。


「ほら、翔くん。あ~ん」


 遙香さんはポテトサラダを箸でつまむと、ぼくの口元の近くで待機する。


 あ~ん。

 って、ちょっと待て、と思う暇もなく、ぼくは遙香さんから「あ~ん」されてしまった。


 モグモグ……。


「よっ、このラブラブカップル」


 龍司さんの茶々のあと、不愉快そうに夏奈さんが「ふん」と鼻を鳴らす。

 徹は素知らぬ顔でウーロン茶を飲み、梓さんはにんまりと笑う。

 遙香さんはというと、いやに笑顔がわざとらしかった。


 はっきり言おう。

 最高で最悪の夕食だった。

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