予定の確認
スタッフとともに、ぼくらはエレベーターで十二階まで昇ると、一二〇七号室と一二〇八号室付近で、スタッフの説明を受けた。
スタッフの説明を終えたぼくらは、いざ男性と女性に分かれて部屋に入ろうとした。
だがしかし、
「ちょっと待ちな」
と、ぼくらは梓さんから呼び止められてしまった。
龍司さんはコミカルにずっこけ、そのはずみで彼は壁にぶつかった。
これは痛い(イタい)。
「ちょっと、一体あんたは何をしているんだい? 本当、あきれたねぇ」
あきれたというよりは、龍司さんに殺意を向ける梓さん。
いかにも情けなさそうに、龍司さんは右手を頭の後ろに当て、「とほほ」と口にした。
この現場をホテルのスタッフに目撃されなくて、本当によかった。
仲間のぼくでも、これはちょっと恥ずかしい。
龍司さんは気を取り直すように咳払いをし、それから梓さんに元気よく訊いた。
「で、どうしておれたちを引き止めるんだよ、梓。あれか、そんなにおれと一緒にいたいのか?」
そんなことを訊いた龍司さんは、すぐさま梓さんからゲンコツを頭に食らい、さらに靴の底で太ももを蹴られる。
ぼ、暴力反対……。
そんなことを思ったぼくは、すぐさま梓さんからにらまれる。
あわてて、ぼくは梓さんから目をそらした。
ごめんよ、師匠。
つまらなさそうに梓さんもぼくから視線を外すと、肝心の用件をぼくらに伝えた。
「冗談はさておき……きょうとあすの予定がどうなっているのか、一応確認しておきたいのさ。
あたいがあんたから色々と聞いたとき、あたいは仕事の真っ最中だったからね。
そう、だから念のためだ。もう一度、あたいに教えてくれるかい?」
「任せなさい」
龍司さんはいやに偉ぶると、きょうとあすの予定をぼくらに伝えた。
きょうはこのリゾートホテル内で好きなように過ごし、夕食はバイキング形式の料理を好きなだけ食べる。
あすは朝食バイキングを堪能したあと、しばしの休憩をしてから、ホテルのチェックアウトを済ませ、観光地へと向かう。
そんなところだろう、と龍司さんは話をまとめた。
「チェックアウト後、梓は観光地の案内役で大変になると思うが、まあ最後まで協力してくれや。
なんだかんだ言っても、ガキどものうれしそうな顔を見るのは悪くないだろう?」
この龍司さんの天真爛漫な発言を聞いた梓さんは、ふっと笑った。
「そうだね、悪くないよ。何せ、仲間のための思い出作りの旅行だ。
もしもそれに“不純物”が混じっていたとしたら、このあたいが許さないよ」
だろう? とこちらを振り向く梓さんの笑顔が、ぼくの心を針のように突き刺した。
どうやらそれは遙香さんと徹も同じらしい。
ぼくらは揃いも揃って、気まずそうにしていた。
心が痛い。
そんなぼくらの気持ちなど露知らず、さらに梓さんはぼくらの心を大きな針で傷つけた。
正確には、ぼくと遙香さんの心を。
「そういやあんたたち、カップルだったね。
地味なカップルといえども、今回の旅行であんたたち二人を一緒の部屋にいさせることは、あたいたち大人が許さないよ。
ほら、イチャイチャしすぎて、いつの間にか赤ん坊ができたら、それはそれでまずいだろう?
悪いけど、恨むのなら未成年の自分たちを恨むんだね」
梓さんはそう言うと、カラカラと笑った。
ぼくと遙香さんはというと、曖昧にほほ笑むことしかできなかった。
すると、ここぞとばかり、夏奈さんが「よっ、このバカップル」と茶々を入れてきた。
すかさず、遙香さんは夏奈さんの足を踏みつけ、それにより夏奈さんはもだえる。
「遙香……あんた、あとで覚えていなさいよ」
恨めしそうな目で夏奈さんは遙香さんをにらむが、一方の遙香さんは「それじゃあ、とりあえずは解散ですね」と満面の笑みで、一二〇八号室の中に入っていった。
夏奈さんは獣のようにうなると、それから猫が威嚇するような声を上げ、身体をブルブル震わせた。
いや、お前は猫か。
徹は咳払いをすると、「遙香の言うとおり、とりあえずは解散にしましょうか。それではみなさん、また夕食のときに会いましょう」と優雅に一二〇七号室の中に消えていった。
「どれ、おれたちも部屋に入るとするか」
「そうですね、師匠」
ぼくと龍司さんは夏奈さんと梓さんに軽く別れの挨拶をしてから、一二〇七号室のドアを開け、そそくさと中に入った。




