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涙の流星群  作者: 最上優矢
第五章 思い出の夏、後戻りはできない夏、ひび割れた夏

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チェックイン

 一目見て、ぼくは彼女が白石梓しらいし・あずささんだということに気付いた。

 彼女の肩まで届く黒髪には、個性的な赤色と銀色のメッシュが入っていて、龍司さんが言ったとおり、梓さんは少々目付きがおっかなかった。


 今から大量殺人をすると言わんばかりのおぞましい目付きに、龍司さんを除き、ぼくらは立ち止まった。

 裏を返せば、龍司さんは立ち止まらなかった。

 あろうことか、龍司さんは(おそらく)不機嫌そうな梓さんに向かって、

「おっ、ケツバット女が立っていらあ」

 と彼女を挑発した。


 思わずぼくは呼吸を止め、梓さんの顔色を窺った。

 それから数秒後のことだ。


「……何か言ったかい、バカ龍司」


 梓さんは手元のスマートフォンをジーンズのポケットに仕舞い込むと、ロビーのベンチからゆらりと立ち上がった。

 彼女はニタリと笑うと、一歩ごとに怒りを噴き出しながら、龍司さんの前にやってきた。


 あ、これはやられる。


 そうぼくが思った矢先、梓さんは龍司さんの頬を平手で打った。

 本来、そういうときの擬音語は「パーン」なのだろうが、そのときの音は「パァン」だった。

 たとえるなら、それはまるで銃声のようであり、広いロビーではよく響いた。


 あわててぼくらが龍司さんに駆け寄ると、彼は「……おれは銃で撃たれたのか?」と涙目で、こちらに確認してきた。


 夏奈さんは龍司さんに哀れみの目を向け、

「なんだか、かなり痛そうだね。てかさ、この凶暴な人が梓さん?」

 と、これまた龍司さんに確認し、ヘラヘラと梓さんを見る。


 恐る恐る梓さんを見ると、彼女は不快そうに眉をひそめていた。


「それはあたいのことを言っているのかい? だとしたら、本当に礼儀知らずなメスガキだね。

 一度、痛い目に遭ってみないと分からないのなら、あたいが調教してあげてもいいんだよ。

 平たく言うとだね……あたいに殺されたいか、このモンキー娘」


 最後、梓さんは“凶暴”な口調で、夏奈さんを脅した。


 なるほど、夏奈さんの言うとおり、なかなか凶暴な人だ。


 怒りのためか、夏奈さんは顔を引きつらせ、けれど同時に恐怖で顔を青ざめてもいた。


 あの生意気な夏奈さんを一発で黙らせるとは……恐るべし、梓さん。さすが、梓さん。

 あっぱれだ。


 ガクガク、ブルブル……。うう、恐ろしい。


 が、次の龍司さんの言葉を聞いて、ぼくらは呆然とした。


「梓、お前……さては機嫌がいいのか? しかも、やけに上機嫌だな」


 呆然。


 しかも、この龍司さんの言葉を梓さんは「おっ、よく分かっているじゃないか、龍司。さすがだよ。あんたも伊達にあたいと付き合っていたわけじゃないね」と否定しなかったため、ますますぼくらは呆然――いや、驚愕した。


「えっと……龍司さんの言葉どおり、本当に梓さんは上機嫌なんですか?」


 信じられない、というように遙香さんは目をまん丸くし、梓さんに質問した。

 梓さんは遙香さんをキッとにらみつけ、「そうか、あんたはあたいの言葉が信じられないと? あたいがウソをついている、そう言いたいんだね」と今にも遙香さんをにらみ殺そうとする。


 遙香さんはぶるんぶるんと首を横に振り、「とんでもありません、めっそうもありません!」とオーバーに否定した。


 ぼくは遙香さんをフォローするため、梓さんに「すみません、彼女は少しバカなんです。許してください」と代わりに謝った。


 すると、ここぞとばかり、徹は梓さんの名前を呼ぶと、ニカッと笑った。


「申し訳ない。少々、この二人は言い方がオーバーで、人の気持ちも分からない人間のクズの代表でしてね。

 安心してください、あとでおれがこいつらを叱っておきますよ」


 徹はそう言うなり、笑顔のまま、ぼくと遙香さんの耳を引っ張った。


 痛い、痛い痛い痛い!


 ぼくは耳を引っ張る徹を恨むと同時に、遙香さんの耳を引っ張ることができる徹を羨んだ。

 というか、それができる徹の神経を疑った。


「……お前らも機嫌がいいな」


 ぼくらのはしゃぎぶり(?)を見た龍司さんは、心なしか引いていた。


「元気がいいのはいいことだよ。

 そのままくたばってくれると、こちらとしてはありがたいんだけどね」


 物騒なことを言い出す梓さんだが、その表情は明るかった。


「さて、チェックインするよ、あんたたち。

 あたいだって、部屋から見渡せる風景を早く見たいんだ。

 ほらほら、ボサッとしていないで、フロントに行くよ、人間のゴミクズども!」


 梓さんは言うが早いか、早速フロントに向かった。

 あわててぼくらはそのあとを追いかけたが、その表情はやはり明るい。


 こうしてぼくらはホテルのフロントでチェックインを終えると、スタッフの誘導で、スタンダードルーム――一二〇七号室と一二〇八号室に向かった。

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