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第三十三話 抜き身の短剣


 一斉に襲いかかってくる偽物たちに帯電刀を振るう。

 近くのものは焼き切り、遠くのものは雷撃で打つ。

 偽物たちは次々に霧散し、その都度新しく生まれてきた。


「や、やってられねぇ。そこで大人しくしてろ!」


 そう捨て台詞を吐いて、彼はどこかへと逃げようとする。

 一体一体は弱くても大勢いれば処理に時間が掛かってしまう。

 雷撃も偽物に混じる剣魔に吸われる。

 ここからでは追い付けない。

 けれど、それでも俺は微塵も焦ることはなかった。


「逃がさないわよ」


 血の結晶片が、水の弾丸が、風の刃が、火炎と冷気が、偽物たちを一掃する。

 食糧庫内で戦っていた皆が偽物を倒し終えて加勢してくれた。


「くそがッ」


 彼は新たに偽物を構築するが、それが出来上がる前に凜々に打ち砕かれた。

 もはや新たに偽物を作る暇もない。


「こ、後悔するぞ! 俺の後ろに誰がいると思ってやがる!」

「知ってるぜ。殺人鬼だろ?」

「な、なんでそれを」

「お前たちのことならなんでも知ってる」


 主にボイスが。


「とりあえず、眠れ」


 弱めの雷撃を放ち、彼の意識を奪う。

 その場に倒れ伏した彼の脈と呼吸を確かめて四肢を拘束する。


「中に仲間はいたか?」

「いえー、偽物しかいませんでしたよー」

「単独行動、自分のスキルを過信していたようね。たしかに便利なスキルではあったようだけど」

「だね。荷物運びとかもやってもらえそうだし」

「任意で味方を増やせるなら、単独行動も可笑しくないか。下手に味方がいると返って邪魔になりそうだし。まぁ、それが仇になったわけだけど」


 俺もスキルの過信はしないようにしないと。

 こんな風に足下をすくわれる。


「こいつも倒せたし、めでたしめだたしだけど。どーするんだ? 連れて返る?」

「このまま放置する訳にもいかないわね。とりあえず……イヅナくん、短剣を持ってるわよね?」

「あぁ」


 腰に固定した鞘から後ろ手に短剣を抜く。


「まずは彼からスキルを奪って、それからどうするか」

「なら、俺たちに引き渡してくれ」


 この場の誰でもない第三者の声が聞こえ、即座に振り返って身構える。

 目を向けた先には数人の男女がいて、一人はラジオを担いでいた。


「おおっと、落ち着いてくれ。味方だよ」

「証拠は?」

「それは僕が保証しよう」


 ラジオからノイズ混じりのボイスの声が響く。


「彼らは以前にも言った協力者だ。キミ達より広い拠点を持っていて即席だが牢屋もある。スキルホルダーを監禁できるような頑丈さはないが、ただの人間なら話は別だ」

「なるほど……」


 警戒を解いて帯電刀を鞘に納めた。


「あんたら全員、スキルホルダーなんだろ?」

「あぁ、そうだ」

「なら、そいつのスキルはうちの相坂あいさかにくれないか? 少年院を攻めるのに使うんだ」


 そう話す彼の隣りに同い年くらいの少女が立つ。


「はじめから彼のスキルを奪う計画が?」

「察しがいいな、ブラッド。あぁ、その通りだ。まぁ、僕が計画した通りに事は運ばなかったが、嬉しい誤算って奴だ」


 互いに意図せず手間が省けたって訳だ。

 短剣をこちら側が持っている以上、いつかは彼と戦うことになっていたはず。

 協力者からの信用とスキルの一石二鳥だ。


「なぁ? ちょっといいか? スキルってあたしのナイフみたいに二つ持てないの?」

「どうだろう、僕にも判断が付かないが、やめておいたほうがいい。人とナイフじゃ条件に違いがありすぎるし、なにが起こるかわからない」

「そっかー」


 スキルの二つ持ちか。

 ボイスの言う通り、試すにはリスクが高すぎるか。


「じゃあ、スキルを移そう」


 短剣を持って彼に近づき、剣先で傷が付かない程度に軽く肌を撫でた。

 魔物の解体をしていたこともあって、力加減は把握している。

 そうすると短剣が効力を発揮し、彼からスキルを吸い上げた。


「手を貸して」


 相坂の前に立って差し出された手の平に短剣を這わせる。

 すると、短剣に宿っていたスキルが彼女へと渡った。


「これで移ったはずだけど」

「相坂」

「はい」


 蚊の鳴くようなか細い声で返事をした彼女はスキルを発動する。

 両隣に光が集まり、魔物の偽物が構築された。

 短剣によって正しく移せたようで、今やスキルは彼女のものだ。


「ありがとう。あんたたちを疑ってすまない」

「疑って当然だ。だから、今度はそっちが俺たちを信用させてくれ」

「ははー、努力するよ」


 そう言葉を交わす間に偽物の一体が、スキルを失った彼を担ぐ。

 自分のスキルに連れ去られる気分はどんなものだろうか?

 聞きたくはあるが体験したくはないことだった。


「あと、これもお渡ししますね」


 凜々が隣りに来て分け与える分の食料を渡す。


「あ、ありがとう」


 それを受け取った相坂は、またか細い声でお礼を言った。


「そうだ、まだ名乗ってなかったっけ。筆崎健二ふでさきけんじだ」


 右手が差し出され、こちらも握り返す。


「神鳴イヅナだ」


 こうして今回の作戦はすべてが上手い方向に転がることで幕を閉じる。

 殺人鬼が配下にしているスキルホルダーはあと二人だ。

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