第三十二話 偽物
「食料、水、武器、女。全部置いてけ。そしたら生かして返してやるよ」
「五体一だぞ、よくそんな大口が叩けるよな」
咲希の言葉を彼は鼻で笑う。
「人数差なんて俺には関係ないんでね。たとえ、お前らが全員スキルホルダーでも勝ち目はない」
相当、自分に自信があるらしい。
そう言えるほどのスキルを持っているということか。
「さぁ、早く決めろよ」
彼は俺のほうを見る。
「話し合う必要もないよな」
みんなから異論も出ない。
「お断りだ」
「そうかよ。あーあ、死んだぜ、お前」
そう薄ら笑いを浮かべ、彼はスキルを発動する。
彼の周囲に光が集まり、形を成していく。
それは半透明だが輪郭は禍々しくて凶悪だ。
爪先から頭の先まで出来上がったそれは、まるで人型の魔物。
それも俺たちの間に転がる剣魔そのものだった。
「イミテーション。それが俺のスキルだ! それも一体だけじゃないぜ!」
風魔、氷魔、水魔が複数体になって現れる。
数の有利は一気に覆り、こちらが俄然不利となった。
「命乞いならもう遅い! お前は八つ裂きだ!」
偽物たちが一斉に駆けて襲い来る。
それに対抗するために、俺たちもスキルを発動した。
§
食糧庫の壁に新たな大穴を開けて、外へと転がった。
「チッ」
すぐに体勢を立て直し、刀を抜いて帯電させる。
それとほぼ同時に壁の奥から剣魔の偽物が跳んできた。
腕の剣が大きく振るわれ、一撃を見舞われる。
「――ッ」
振るわれた一閃を反射的に躱し、帯電刀で胴を抜く。
稲妻の一閃は剣魔の腹を引き裂いて絶命へと追いやる。
偽物に命があるのかどうかはさておき、致命傷を負ったそれは掻き消えるようになくなった。
「へぇ、こりゃ凄い。よく動くもんだ」
大穴から二体の偽物を連れた彼が現れ、拍手を送られる。
「まぁ、無意味だけどな」
新たに二体、剣魔の偽物が作られた。
「抵抗は無駄だ。さっさと諦めて死ねよ」
「悪いけど、諦めが悪い方なんでね」
帯電刀を構えて二体に備える。
偽物を作るスキルということは、本人に戦闘能力がないということ。
襲ってくる偽物をどうにかして本人に肉薄できれば簡単に拘束できるはず。
雷撃で感電させて意識を奪うでもいいが、奴は常に護衛の偽物を置いている。
上手く行かないだろうな。
「頑張るねぇ。無駄なのに」
彼に付き従い、駆ける偽物たち。
それに合わせてこちらも動き、二体同時に相手取る。
繰り出される剣撃を帯電刀で焼き切ってはね飛ばし、一体目を引き裂く。
すぐさま二撃目を打つ準備をし、二体目の剣魔の腕を跳ねて首を落とす。
「おっ?」
そのまま彼に迫り、肉薄する。
帯電刀の間合いに踏み込むと同時に、護衛の剣魔が割り込んできた。
身を挺して帯電刀を受け止め、稲妻を帯びた鋒が彼の目と鼻の先で止まる。
「このッ!」
焦ったような顔を浮かべて、追加で更に三体の偽物を増やす。
流石に分が悪くなって後ろに何度か跳んで距離を取る。
偽物たちは彼を守るように、俺を追っては来なかった。
「そのスキル、仕組みがわかってきた」
「なに?」
「量産できる代わりに本物より随分弱い」
たぶん、その辺にいる狼の魔物よりすこし強いくらいだ。
でなければ、こうも簡単に何体も剣魔を倒せるはずもない。
「何体出て来ようと関係ない」
帯電刀を突きつけ、雷撃を見舞う。
空から落ちた稲妻は偽物たちの刃に引き寄せられるように落ち、三体ともを焼き払う。
本物の剣魔なら今のでも耐えていた。やはり本物より劣っている。
「勝ち目がないのはどっちだ?」
「ぐっ……てめぇ!」
彼は懲りずに大量の偽物を作り出した。
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