第三十四話 終末後の日常
少年院のスキルホルダー三人のうち一人を打倒してから数日が過ぎた。
「そろそろ少年院も警戒が強くなる頃でしょうね」
「戦力の一角を失った訳だしな。今頃、なんで帰ってこないのか話し合ってるはずだ」
「魔物か人に殺されたか、誰かに拘束されたか、逃げ出したか。どれもあり得る話だけに結論はでない」
「こういう時、詩穂ならどうする?」
「そうね……一番危険な可能性を警戒するわ。つまり、誰かに拘束されたと考えて対策を練る」
「殺された、じゃなくて?」
「殺されたならまだマシよ、嫌な考え方だけどね。でも、捕まったなら情報が漏れるわ。居場所、戦力、体制、食糧の残り。知られると不利になることばかりよ」
「なるほど……」
少年院にいる加西先生も同じ考えでいると思うべきか。
「まぁ、それらの情報はほとんどボイスが握っているのだけどね」
「だな。ボイス様様だ」
貴重な情報原である。
「お茶が入りましたよー」
「あぁ、ありがと」
「ありがとう、真央」
「どう致しまして―」
にこにこと笑みを浮かべて、真央は俺の隣りに腰掛けた。
「食糧庫にお茶請けがあってよかったですー。賞味期限、ギリギリですよー」
「ほんとだな」
せんべいを手にとって包装の裏を見てみると、賞味期限の猶予が数日とない。
食糧庫にある食べ物もすべて食べ切れる訳じゃないか。
「ただいまー」
「帰ってきたぜー」
せんべいを囓っていると、玄関が開いて狩りに行っていた二人が戻ってくる。
「なぁなぁ、焼き肉のタレってあったよな? 鳥も獲れたから焼き肉にしよう!」
「おー、久しぶりの焼き肉ですねー」
「サバゲーの練習帰りによく行ったわよね。たしか冷凍庫に古めの肉があったから、まとめて消化しちゃいましょうか」
「そうこなくっちゃ!」
「あと卵も見付けて来たよ。イヅナくん、朝ご飯に卵焼きが食べたいです!」
「わかった。卵焼き用のフライパンもあるし朝作るよ」
「やった! 甘くしてくださいね」
そんな他愛のない話をしつつ、焼き肉の準備に取りかかった。
冷凍庫の肉を解凍しつつ、鳥の羽根を毟って解体する。
ホットプレートは家電量販店から調達済み。
今朝、蓄電池に充電したから余裕で持つはずだ。
「わん!」
「なんだ、ミカン。腹減ったのか?」
「わう!」
「そうかそうか。じゃあ、お手したら食べさせてやるぞー、お手!」
「わん!」
ミカンはおすわりをする。
「なーんーでー!」
相変わらずみたいだな。
「間違えて憶えてしまっているのでしょうかー? お手」
「わん!」
今度はきちんと真央の手にお手をする。
あれ?
「なっ、ななななっ! なんで! あたしが何回やっても出来なかったのに!」
「なんででしょうー?」
「うー、ミカン! お手!」
「わん!」
またミカンはおすわりをする。
「うぅー……わざとだ! わざとやってるな! ミカン!」
「わん!」
「あ、逃げた! 待て-!」
逃げたしたミカンを追う咲希。
「犬におちょくられてる……」
「でも、楽しそうですよ。どっちも」
まぁ、本人たちが楽しいならそれでいいか。
「よし、準備完了よ」
「焼いていきましょー」
そうしている間にも準備は進み、焼き肉の時間が来た。
§
存分に焼き肉を味わった次の日の朝。
「さーてと」
冷蔵庫から藁束を三つ取り出した。
「おやようございまーす。あれ? なんですか? その藁」
「これ? 納豆」
「なっとう……作ったんですか!?」
「あぁ、ホームセンターに藁が置いてあったから作れるかなって」
作り方は気がついたら集めていた本の一冊に書いてあった。
「今日は納豆とご飯、味噌汁に」
「玉子焼き!」
「そう、玉子焼きだ。もうすぐ出来るから」
「はい! 顔を洗ってきますね」
洗面所に向かった凜々を見送り、朝食の準備を進める。
凜々に続いて続々と起床し、食卓に並べ終える頃には全員が席に着いていた。
「おー、今日は凄いですねー」
「まさか納豆が食べられるとはね」
「あたし納豆かけご飯好きなんだよなー。ありがと、イヅナ」
「どう致しまして」
「じゃあ、早速!」
手と声を揃える。
「いただきます」
こうしてまた一日が始まった。
§
「やあ、またキミ達に僕から協力要請。受けてくれるかな?」
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