第13話 久々の帰宅
「おいッ! 待てってッ‼ はぁ、はぁ」
俺は早々に教室を出て行ったリヒトを追いかけて、やっとの思いで追いついた。ったく、コイツどんだけ歩くの早ぇんだよ! 俺自身も遅くなってる気はするけど。
「ん?あぁ、アユムか。遅かったな? なんだ? 走ってきたのか?」
はぁぁ? なんでお前が首傾げてんだよ? さっきから待てって言ってただろ!?
「すぅ~っ、はぁ~っ、お前が歩くの早すぎんだよっ! つーか俺の声絶対聞こえてたろっ!?」
「は? ……あぁ、そうか、あの可愛い声はお前だったのか。俺の知り合いにお前みたいな可愛い奴いなかったからな。気付けなかった。悪い」
「か、可愛い? ……いやいやいや、声に気付いたんなら振り向けよッ!?」
「俺は振り返らない男だ」
「知らねぇよッ!? 人として振り向けよッ!?」
ったくブレないよな、お前。まぁいいよ、お前がそういう奴だって知ってるしな。
「つーかさ、やっぱ変わってるみたいだわ」
「何が?」
「周りの認識」
「それはあの童女の『力』の事か?」
「ん、だな。俺の事日比埜さんで通るし。つーか何故か優等生扱いされてんだけど?」
「まぁ、お前は元々優秀だったしな? 見た目がソレならありえるだろう?」
「見た目かよ……」
前の俺ってそんなに見た目悪かったか? 中身変わってねぇのに。
解せぬぞ?
……リヒトが美少女になっていたらアリかもしれないけど。それと同じ感じなのか?
「お前、変なコト考えるなら家でしろよ? 顔に出てるぞ?」
「は? ウソ、マジ?」
辺りを見回したけど特に誰も見ていないみたいだ。良かった。変な顔してたみたいだし。
つーか、俺って顔に出やすいタイプ? 今の顔だからだよな? 昔からじゃないよな?
「それで? 今日は帰るのか?」
「帰る? あー、……そうだよな。怖ぇけど行ってみるわ。認識変わってるみたいだしな?」
もちろん俺の家、だ。帰ったらどうなんだろうな? なんか変わってんのかな?
ちなみに夏休み中に一回だけ学生カバンとか取りに行ってる。そん時は真夜中に誰にもバレない様にしたんだけどな?
つーか俺の部屋不自然じゃねぇかな? 男物ばっかで服とかサイズが全部合ってねぇし。女物の下着もねぇしな? まぁ行ってみるしかねぇよな。
「じゃぁ無事を祈っててくれ」
「お前は戦地にでも行くつもりか?」
俺にとっては戦地だ。姉と妹の理不尽な暴力は俺の世の女性像を塗り替えたんだ。女性とは『力』だと理を知った。姉の力は単純な暴力。妹の力は精神への暴力。
(言っとくけど花野さんは違うぞ? 癒し力って思ってる。勝手に思ってるだけだけど)
だから俺は家に帰りたくない。そういう意味で、少しグレた。まぁ今はこの話はいいよな。
「……達者でなッ!」
「じゃあな」
つ、冷てぇ。はぁ~、しゃーねぇ。行くしかねぇか。
俺はリヒトと別れて、肩を落としながら歩き出した。自分の家という戦地へと。
~自宅~
俺の家は築50年の5階建てマンションの501号室。何回かリフォーム工事があって外観だけは綺麗だ。まぁ、外観だけはね。
キッチン以外は大概畳部屋だし。風呂は昭和かって感じだし。つーかこのご時世なのにエレベーターねぇし。愚痴ったとこで変わらねぇけどさ。
「あー、やだなーやだなー」
玄関前でカギを片手に躊躇してしまう。今は昼の3時くらい。多分妹という悪魔は……いる。現在は小学6年生。見た目だけ可愛い俺にとっての悪魔2号。悪魔1号はいない筈だからマシなんだけどな?
はぁ、帰るだけだ。俺ん家なんだ、行くしかないだろ。
そう考えて嫌々カギを開けた。
ガチャッ
地獄の扉が開いた音だ。もう逃げられないぞ? このまま逃げたら駄目だ。
逃げちゃダメだ。逃げちゃ……あ、コレダメだ。駄目な奴になっちまう。自分で災厄起こしちゃうフラグだ、コレ。
行かなきゃッ!
行かなきゃッ!
行かなきゃッ!
俺は行かなきゃいけないッ‼ 俺は……俺はッ‼
キィィィッ
考えてたら玄関の扉が開いた。なーんか、嫌な予感がするんだけど?
「あ、アユ姉だッ‼ きゃーっ」(ダキッ)
「……み、ミライ?」
地獄の門が開いた音に反応したのか突然現れた妹悪魔。その妹悪魔は俺を確認するなり拘束した。
……単純に扉を開けて抱き着いてきただけなんだけどな?
髪は黒髪ロングのお姫様カット。大きな瞳に小さい身長。見た目は小さなお姫様って感じだ。そんなお姫様が俺を見るなり抱き着いてきた。
おかしいな? ミライは今までこんな事したこと無ぇぞ? 出迎えてハグとか……嬉しいんですけど? これも認識の変化、なのか?
「アユ姉が帰ってこなくて寂しかったー」(ギュウッ)
「お、おー、ただいま?」
俺、久々に妹が可愛いって感じるわ。4歳くらいから可愛げなくなったからな。なんかツンツンしてたんだよコイツ。ツンデレのデレが無くなった上から目線の嫌な奴だったんだよ。
それが、こんなに、可愛くなってぇッ
「ミライ、大きくなったなぁズズッ」
なんだか嬉しすぎて泣けてきた。俺、帰ってきたんだ。ここにいて、いいんだ。って思って。
「アユ姉っ、早く入ってよ? 一緒にゲームしよっ?」
うわぁ、妹だぁ、ここに妹がいるよぅ。あー、紹介しまくりたい。こんな可愛い妹、兄として自慢しまくりたい。
「いいぞぉ! 着替えたら相手してやるからな?」
「じゃあ、早くぅ! ほらっ」
「あっ、ちょっ? ミライ引っ張んなって」
そんなに嬉しかったのかミライは俺の手を引っ張って玄関から俺の部屋へと連れて行く。つーか俺の部屋、違和感ねぇのかな?
なんて思ったんだけどなぁ……
「は?」
そこは女の子の部屋だった。家具の配置は前のまま。ただ、色味が全体的に白とピンクだった。
あれ? この間見た時は……いや、あん時は暗かったからな。色までは気付かなかったんだ、きっと。
だが、変だな? この部屋は妹に占領されたのか? 俺の部屋は黒って感じだった筈なんだが?
「早く着替えてよぅ?」
「ここ、お、俺の部屋だっけ? えっとぉ……ピンクになってね?」
「何言ってんの? アユ姉の部屋じゃん!」
そうか、俺の部屋か。ふぅ~、
知らん。
「ミライ? 着替えの位置変わってねぇよな?」
「ん~? そうじゃない? お母さんが変えてなければ」
そうか、変わってないか。
俺はタンスを引いて、見てみた。ふぅ~、
あら? 可愛い下着だコト。
「あっれぇぇぇぇ?」
おかしいぞ? 認識どころかこの部屋おかしいぞ? 俺の部屋じゃねぇ。
……俺が男に戻ったら男服全然ねぇじゃねぇかッ‼
「も~早く着替えてよっ! 脱がせちゃうぞッ! えいっ」
そんなに遊びたかったのかミライは俺のスカートを脱がそうとしてきた。
「あっ、ミライッ!? スカート引っ張んなって!?」
「ふぇ? いいじゃん? ここ家だし」
「い、家だけど引っ張んなって話だろ?」
「早く脱ぎ脱ぎしなさ~い!」
「ミ、ミライっ? なんでスカートだけッ!? (ゴンッ)痛てぇッ!? ちょっ、押し倒すなよッ!?」
どうせ脱ぐつもりだったからそんなに抵抗はしなかったんだが、ひっくり返されて頭を床にぶつけた。マジで痛てぇ。
結局俺は妹にスカートだけ脱がされてしまった。今はカッターシャツとパンツと靴下だけの残念な姿。妹の前だけど凄く恥ずかしいんだが?
俺は仕方なく、着替えを取り出そうとタンスに向かった。
「え~と、ズボンはー……ぅわぁっ!?」
「アユ姉、足綺麗だよね~白くてスベスベだし」
何故だかミライは俺の太もも周辺をムニムニ触ってきた。両手で囲うように触ってくるもんだから……その、内モモは、遠慮してもらいたいんだが?
「ちょ、ちょっとミライぃ!? 触るなってッ‼」
「足も細くて長いよね? モデルみたい」
「タイムタイムッ‼ 着替えるから出てけッ‼」
「い~や~」
「じゃ遊んでやんねぇ。また出てく」
「うー。ケチんぼ。じゃあ待ってるから早くしてね?」
「あーはいはい、すぐ終わるから待ってろ」
なんで女子ってこんなに俺に触りたがるんだ? これが普通、なのか?
俺は首を傾げながらも着替えた。
それにしても良かった。あの神様童女のおかげで家には普通に帰れそうだ。
あとは姉の反応次第かな?
俺の恐怖の時間は刻一刻と迫っているのだった。




