逆波彼女
「あんた、面白いな」
「そう?お前もな」
変人の級友達に先制パンチを喰らわせた涼だが、命知らずにも話しかけた道善を皮きりにどんどん人が集まり、クラス全員とにこやかに談笑していた。敬語を捨て去り素の乱暴な言葉使いになった涼は意外にも級友達に好感を持たれたようで。梶原は流石変人集団だなと内心舌を巻いた。
「梶原!」
「な、なんですか顔近いですよ五郎丸主将」
合気道部主将である五郎丸が、がははとむさ苦しく笑いながら涼を囲む輪から外れて、傍観していた梶原に声をかける。ああ、なんで俺合気道部に入っちゃったんだろう…涼にお使いを頼まれることの次に彼の悩みの種だった。いい奴だか暑苦しいため梶原は五郎丸が苦手だ。
そもそも合気道部に入ったのは武道を嗜んで涼に言い様にされない精神力を身につけ、あわよくば涼の暴力をいなせる様になりたいという目論見だった。しかし主将が変人F組の五郎丸であるためか、梶原がへたれであるためか、涼に合気が通じる気配はなかった。
「最初は驚いたがなかなかいい子じゃないか涼ちゃんは!まさか梶原と幼なじみなんてな〜隅に置けないな〜がはは」
「好きで幼なじみになった訳じゃないですけ、づあッ!」
言い終わらないうちに梶原の頭に固いなにかがヒットする。硬質な音を立て床に落ちたのは筆箱(缶ペン)だった。
「涼とはいい友達になれそう! 今のコントロールだったら甲子園行けるよ〜」
「私もそう思う!今度はあそこのムサい五郎丸に当てちゃえ〜」
予想通り。梶原が顔を横に向けると腕をまるで何かを投げた後のように振りながら涼がにこりと微笑む姿が目に入った。早くも打ち解けた女子達がはやし立てている。
何故か五郎丸がシンパシーを込めた瞳で見つめてくることだけが引っかかったが彼は頭をさすりながら一安心した。どうやら殴られるようなことにはならなそ、
「笹原涼さんいますか~?」
うだよね、と考えていた彼の頭に入る好奇心を押し殺しもしない声。
ばっと梶原がそちらに顔を向けると"病弱の美少女"を見に廊下に大勢の生徒達が集まっていた。カメラを持っている者は放送部の部員だろう。
涼の本性を先ほど見せつけられたばかりのF組の級友達は生徒達に訝しげな視線を向けていた。
先制パンチを喰らっていない生徒達は涼の本性を知らない訳だから仕方がない。と自分や涼に言い聞かせることもできるのかもしれない。だが梶原は不快だった。彼は涼にぱしられたり殴られたりするのは嫌いだが、涼が嫌いな訳ではないのだ。ただただ彼女が怖いのである。
百歩譲って同情ならいい。それならよほど機嫌が悪くない限り涼は受け流すことができる(その後梶原は八つ当たりされるが)。でも彼らは涼をつまらない日常を壊す面白い存在として捉え、ただ興味本位で近づいているだけだ。だから腹が立つ。
しかし梶原は自分が生徒達を追い払おうとは全く考えていなかった。彼が意気地なしだからではない。彼は長年彼女と過ごしている為知っているのだ。
「……何の用?」
お節介をやく必要なんてないことを。
「お涙頂戴話が好きならク●ールでも放送しろ。感動できること間違いなしだから。ク●ールの育ての親との別れから観晴は号泣だったしな。私は観晴の情けない顔見て爆笑だったけど」
すっくとあからさまにうざったそうな顔で涼は立ち上がり、怒りによる男口調で廊下の生徒に言い放った。彼らはおとなしそうな少女の豹変ぶりに目を丸くする。
「もう用はないだろ? あと三秒以内に消えなかったら、ここにいる地味の権化梶原観晴早生まれなので誕生日はまだまだ先の16才が17才になる日を迎えられないようにしてやるよ」
「早くどっか行って下さいお願いします本当に!俺を助けると思って!」
死にたくないと追い払う梶原の必死の形相に引いたらしく集団はすぐにいなくなった。
「チッ! 暇人共が…」
涼は吐き捨てて、
「いった! 何すんの!」
「観晴の地味な顔見たら苛ついた」
「ただの八つ当たりだろ!?」
脱力していた梶原の背中を指でつねったのだった。勿論理不尽だと彼は抗議するが涼に聴く耳があるはずもなく。
「五月蝿いよサンドバ、…いや観晴」
「涼~うざい奴らも消えたしクラスメート紹介するよ!」
「ありがと〜椎ちゃん! クラスメートはもうみんな知ってるから学校の施設紹介してもらってもいいかな~……今度過ぎた口のきき方しやがったら安全ピン刺すからな」
涼は低い声で梶原に釘を刺すと和やかな雰囲気の級友達の所に行ってしまった。もう名前で呼び合い完璧に変人クラスに順応した様子を見て早すぎるだろと妙な疎外感を感じながら背中をさする。
彼の体から痣や傷が消えることは当分ないだろう。




