【10】
「疾風連脚っ!!」
ロジェは腰をひねりながら、小さい身体ごと回転させて行く。
疾風連脚は本来回し蹴りの連打スキルなのだが、三頭身の身体では蹴りだけではなく拳も交えた多重攻撃を繰り出す事が出来るみたいだ。
器用な事をするなぁ。と感心しながら、疾風連脚は身構えていた俺の両腕に直撃し激痛が走っていく。
「つぅ……」
ロジェは、スキル後に隙を見せる訳でもなく、次の攻撃体制へと身構えていた。
スピード重視型は次から次へと攻撃スキルを繰り出してくるからな。俺も魔法で応戦しないと、一方的な戦いで終わってしまいそうだ。
などと作戦を練っていたのだが、ロジェは攻撃を仕掛けてこなかった。
首を左右に動かし不思議な顔をしていた。
「ねぇ、さっきから思っていたんだけど、なんで耐え切れるの? 魔法使いにしろ、魔導師にしろ、身体を強化する魔法は存在しない筈だよね? だから、俺の攻撃を生身で防いでいる時点で、魔導師であるリュウイさんの両腕は、普通折れている筈なんだけど……?」
「知らないよ。ただ俺は両腕に魔力を集中させ、ロジェの攻撃を防いだまでだ。痛い事にはかわりないさっ」
「なるほど、普通の魔導師と認識しない方がいいみたいだね」
そう言いながら、再び直線的に突進してくるロジェに対して、杖を構え狙いを定めていく。
「メギドフレア……ボ……」
「遅いっ!!」
メギドフレアボールと唱える前に、ロジェの拳が俺の身体に直撃。
「ぐぅっ!?」
後方に吹っ飛ばされながらも、体制を整えて再び魔法を発動を試みる。
「なっ!?」
だが、ロジェの素早さの前に俺の魔法はついて行く事が出来なかった。
ロジェに狙いをつける事がなかなか出来ず、出来たとしても尽く魔法は潰され、発動する事すらさせてもらえないでいた。
「くっくそ……」
そもそも先程まで避ける事が出来ていたのは、俺に攻撃意識はなく避ける事に全神経を集中していたからこそ出来ていた事で、魔法を発動するとなれば当然避ける事への意識が散漫になってしまうようだ。
それでも、俺はロジェに勝たなくてはならない。
サブ職業が使えない今、魔法のみで何とかしなくてはならないのだが、いくら無詠唱とは言え魔法名を唱えなければ、魔法は発動しない。それをロジェは俺に一切させてくれなかった。
一方的なロジェからの攻撃を避けきれずに、窮地に立たされ始めていた。
「はぁはぁ……」
ロジェは、出会った当初から強かった。
あの時……
ウォルガルフが間に入ってくれたおかげで俺は殺される事はなかった。だが、もうウォルガルフは俺を助けには来てくれない。俺だけの力で、ロジェを倒さなくてはならない。
倒すにしても、魔法をロジェは発動すらさせてくれないし、はっきり言ってこれは困った。
杖で殴りつけるか?
攻撃力自体ない杖で殴りつけたとしても、受け止められそのまま折られてしまうのが、関の山だ。そして杖を失った俺は、何もかも手詰まり状態に陥っていく。
うん、辞めよう。
後、思いつくのは超近距離からの魔法攻撃。しかも魔法名を言わないでの発動。
今までやった事のない魔法発動方法だとしても、ロジェに勝つ為にはやるしかなかった……
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目の前で繰り出されたロジェの攻撃を辛うじて避ける事が出来た俺は、ここしかないと思った。
ロジェが、俺目がけて攻撃した後に出来た僅かな隙。
がら空き状態のロジェ胴体に俺は突進し、しがみついていく。
「はっ離せよっ!?」
ロジェの言葉が耳に響き渡る中、逃げ出される前に叫んでいた。
「ライトニングストライクっ!!」
雷が俺とロジェ諸共直撃。
「「ぐっ!!」」
HPが一気に減っていく。
だが、これしかロジェを倒す方法を俺は思いつかなかった。
ロジェの攻撃を避けながら、何度も何度も魔法の発動を試みていたが魔法名を言わないでの発動は、今の俺には無理だった。
だから、発動事態を邪魔されず、且つ避けられないように……
咄嗟の思いつきに賭けてみた。
そして、もう一発ライトニングを発動させていく。
「リュ……リュウイさん……?? 自滅する気か!?」
「ロッ……ロジェに避けられる以上これしか、魔法を放つ方法は思いつかなかったんでね。……それに一応この鎧は魔法軽減が組み込まれているから、ロジェよりは受けるダメージは少ない」
「くっ……だとしても、HP総量は格闘家の俺の方が遥かに上だぞ!?」
「それはどうかな? 俺だってかなり高いHPを持っているんだぞ。俺のHPが先に尽きるか、ロジェが先に尽きるか……運任せだ!」
「なっ!?」
「ライトニングっ!!」
「「ぐはっ!!」」
「そっそれに……はぁはぁ……ぺディリヴァやルブシューニェと戦っていた時に必ずと言っていい程、起こるんだよね」
「??」
「俺が絶好の機会と思った時に必ずヒューマン特定装置の時と同じ電撃が、落とされるんでね。この戦いに置いてもその可能性は充分考えられる事だろ? だから、雷には雷で対抗して見る事にした!」
「なっ……何をわけわからない事を……!?」
その後、ロジェを逃がさず抱きついたままライトニングを5.6発お見舞いした所で、状況は一変していく。
まだ、俺のHPはまだ余裕があり転生者IIの発動条件を満たしてはいなかったが、問題なのは俺のMPの方だった。
ライトニングを連発すれば、当然MPはその度に減っていき遂にMPは残り1となり魔法を唱える事は出来ず、かなりまずい状況に陥っていくのであった。
「くっくそぉぉぉ……」
幾らHPがあったとしても、MPが無ければロジェを握りしめている事もままならず、全身の力が抜けていく。当然その隙にロジェは、俺の腕の中から脱出していくのである。
最早、立っている事も出来ず辛うじて倒れる事はなかったが、指先一つ動かず立ち膝状態のまま、俺はロジェを見つめる事しか出来なかった。
アイテムボックスが使えたら、この戦法で勝てたのにな……
「はぁはぁ……後一発食らっていたら、危なかった。でも、この勝負……俺の勝ちだ……な」
ロジェは俺を見つめながら、勝利宣言をしてきたのであった。
「……」
MPを口渇させ敗北したルブシューニェの最後の時と、俺は同じ状況に陥っていた。
転生者IIは発動条件を満たしていないし、ラグナロクIIはルブシューニェの時に発動したばかり……
もう、俺にはロジェを倒すきっかけは何処にもなく、手詰まり状態だった。
なす術は、何もないのかよ……
諦めたくなくても、俺には諦める事しか出来なかった。
ルブシューニェの時はなんとかなったが、ロジェに勝つ事は無理だったか……
魔王……倒さないといけないのに……
「ロ……ロジェ……最後に頼みがある……」
力を振り絞りながら、俺は口を開く。
「……魔王様の所には行かせないよ」
「ロジェを倒せなかったんだ。諦めたよ」
「じゃぁ何……?」
あまり聞きたくない顔をしながらも、ロジェは聞いてくれようとしていた。
やはり、ロジェはいい奴だ。
敵同士になったとは言え、片隅にまだ仲間だったと言う思い出がある事に俺は嬉しかった。そんな気持ちが微塵も無ければ、俺の話なんか聞かずにさっさとトドメを指してきた筈だ。
「ロジェの一番強い攻撃で、俺のHPを一撃で0にしてくれ……」
「……」
ロジェの身体から大量の力と魔力が溢れ出しはじめていく。
最後の俺の願いを、ロジェは叶えてくれそうだ。
魔王には届かなかった。だが、俺は最後まで転生ハイヒューマンとして戦いきった。
最初は気がつけば全てが、魔物だらけの魔王が統治する世界。
色々な事があった。
出会いもあったし、死にそうな目にも何度もあった。
魔王の元に辿り着く事は出来なかったが、それでも俺はかつての仲間と全力で戦い、そして負けてしまった。Level.1の最弱だった俺がだ……
よくここまで辿り着けたと思う。
最早、悔いはない。ロジェの手で逝けるのだから……
「金剛餓狼崩牙っ!!」
ロジェが放った技は格闘家の技の中で、破壊力抜群の技だ。
ありがたい。その一撃は申し分のない一撃だ……
でも……それでも……悔いはないと思っていた筈なのに……
「悔しいな………」
消え入りそうな声で俺は涙を流しながら、無意識に呟いていた。
ロジェは飛び上がりながら、その小さい身体で身体ごと俺に向かってくるのだけども、何故かロジェの動きは遅くスローモーションのように見えていた。
しかし、それも本の一時の出来事。間もなくロジェの拳は俺に直撃しHPは0になる。
……
…………
筈だったのだが、身体の芯から力が溢れだしてくる。そんな感覚がしてきた。
先程まで話すのも辛く、身体を支えている事に精一杯だったのに突然、身体が軽くなったのだ。
一体何が……
疑問に思っていた事はすぐに理解する事が出来た。
点滅していたMP1は、一気に50から100へと増え続けていく。
どうやら、ロジェと話している間にドラゴンの超回復の発動条件である、30秒間の停止と言う条件を満たしたようだ。
なるほど……俺は最後の最後まで足掻く事が出来るようだ。
グッと拳に力を入れ始めていく。そして、ロジェの拳が俺に届く前に……
「はぁっ!!」
炎を纏った俺の拳は、ロジェのみぞおちを深く正確に捉えていた。
「グフっ……」
「!?」
それも、俺の放った拳はロジェとの戦闘中にずっとやりたかった、魔法名を言わないでの発動。
掛け声と共にメギドフレアボールはロジェに直撃し身体の内部から、炎の攻撃をおみまいしたのであった。
トドメをさせと言いながら、油断を誘ってしまった感じになってしまいロジェには悪い事をしたと思うが、形勢は逆転し一気にロジェのHPは瀕死状態へとなっていた。
ロジェの勝利ではなく、俺の勝利を意味していた。
「はぁはぁ……」
ロジェは大の字になったまま動かず、足先から徐々に光を帯びながら消え始めていく。
こうなってしまっては、ロジェ自身が回復手段を持ち合わせない以上、助かる道は残されてはいなかった。
「……」
決着が着いた時……
それが、俺の勝利だった場合こうなる事は最初から理解していた筈だ。
理解していたが……でも、俺はこの手でロジェを……
勝利の余韻に浸るわけもなく、涙を堪えながらもロジェを見つめる事しか出来なかった。
「ねっ……狙っていたのかい……?」
だとしたら策士だね……
とロジェは、小さな言葉を発していた。
「……はぁはぁ、いや実際諦めていた」
「良く……言うよ……」
「本当だ。実際あの時、ロジェに勝てなかった事実に俺は心底悔しいかった。でも、ロジェと真剣に戦った結果、俺は魔王の元に届かなかったのだと受け入れていたんだ」
「でも……最後の最後で奇跡が起きた」
「奇跡……か……実にリュウイさんらしい言葉だね」
「ロジェには、だまし討ちみたいな形で決着がついてしまったけど、どうやら魔王との対決は避けられないみたいだ」
「……そうかい。ならば俺と話し込んでいないで、もう行きなよ……」
ロジェの身体は既に膝まで消えてしまっている。
俺がこの広場から出る頃には、ロジェは光の粒となり消え去っていく。ルブシューニェがそうだったように……
「……」
行けと言われたとしても、俺は行きたくなかった。
ロジェをこのまま消え去っていく現実を俺は、認めたくなかった。
「いつ、ヒューマン特定装置と似た電撃が来るかわからないんでしょ? なら、さっさと行きなよ……魔王様が待っているよ……」
「くっ……」
認めたくなくとも、避けられないロジェの消滅。
これで魔王の元に行く為に邪魔する魔族もいない。後はカウントダウン前に魔王を倒すのみなのに……
俺はこの場から立ち去れなかった。
俺の中でロジェは、いつまでも大切な仲間なんだ。
例え敵同士になったとしても……
その大切な仲間が今、消え去ろうとしている。
ロジェを救う術に一つだけ心当たりがある。
でも、これは魔王との戦いにおいて切り札として使おうとしていた物だ。
切り札を使い魔王を倒したとしても、俺は何も出来ずに消えて行ったロジェの姿に絶対後悔する。
だから、後悔するとわかっているぐらいなら……
俺は迷う事なくこれを、今ここで使える。
貴重品アイテムの中で唯一の回復アイテム、聖王の息吹。
これを使えばロジェは死なずに済む。
聖王の息吹を取り出しロジェの身体に触れていくと、聖王の息吹光り輝き光の粒となってロジェの身体の中に消えていく。
それと同時にロジェの消滅も、止まったのであった。
「なっ!? 何を……して!?」
消え去る事を覚悟していたロジェは、俺の行動に理解出来なかったのだろう。
目を丸くしながら俺の姿を見つめていた。
「俺とロジェは確かに今は、敵同士だよ。助けるなんて間違っているとも思う。そんなのわかっているよ。何度も言うようだけど、何があろうとロジェは俺の大切な仲間なんだよ」
「……っ」
「俺には、仲間を見捨てる事は出来ないよ……」
「はぁ……リュウイさんはとことん甘いね。それが仇にならない事を祈るよ」
「……肝に免じておく」
それだけ言って俺はロジェの側を離れ、次に行くべく階段の方に歩き始める。
ふと、後ろを振り返ると既にロジェは元気そうだったが、再戦の意志はないようだ。
「リュウイさんと戦った感想だけど……リュウイさんの全魔力を使ったとしても、魔王様には敵わないと俺は感じたよ」
ロジェの言葉に黙って頷き、魔王のいる部屋を目指すべく螺旋階段を登り始める。




