【09】
ルブシューニェとシュトレンを倒す事が出来た俺は、螺旋階段の途中で座り込んでいた。
このまま突き進むよりも、まず先にルブシューニェとの戦闘で減ってしまったHPとMPの全回復に専念するべきだろう。と考え立ち止まった俺はアイテムボックスをいつものように使おうとした時、初めて使えなくなってしまった事に気づかされた。
「……まじ!?」
ぺディリヴァとの戦闘後にはサブ職業の選択が不可能となり、ルブシューニェとの戦闘後にはアイテムボックスが使えなくなっていたのだ。
原因として考えられるのは一つ……
「あの電撃が、原因なのかな……?」
一番いい所で邪魔が入る、嫌らしい電撃。
少し前までは平気で使えたサブ職業の変更やアイテムボックスが、電撃後から突然使えなくなってしまっている。
……思えば、あの電撃はヒューマン特定装置と同じような気がする。一気に意識を刈り取られそうな電撃を、一日に二度も味わう羽目になるとは思っても見なかった。
「はぁ……参ったな」
座り込みながらドラゴンの超回復は、時間をかけながら減っていたHP.MPがゆっくりと回復し始めていく。
取得した当初はお守り程度として認識していたが、今置かれているこの状況下ではドラゴの欲していた竜貴石を面倒くさがらずに手に入れて良かったと思ってしまう。
ドラゴンの超回復がなければ、ここから先の戦闘は万全の状態で戦う事なんてのは不可能だっただろうな。しかし、発動条件が30秒間停止した状態の後に発動開始ってのは、なんとかならないのだろうか?
「まぁ、文句を言っていても仕方が無いな。ドラゴには感謝だな……」
不満を言ってた所で、これが唯一俺に残された回復方法だ。ありがたく使わせてもらおう。
HP.MP共に徐々に回復し始めてはいるが、全開までにはもう少し時間がかかりそうだった。時間つぶしと言うわけでもなかったが、一先ず現在の状況を整理して見る事にした。
まず、選択できる職業はメイン職業である魔導師のみ。
当然、魔法は魔導師しか発動出来ず、サブ職業のスキルは使用不可。
唯一出来たのは、転生者IIが発動中にのみ剣士が使用出来たが、ルブシューニェとの戦闘で使用してしまった為、暫くは使用不可だ。
次にアイテムボックスの中に入っている、大量にあるHPポットやMPポットといった回復アイテムは、使用出来なくなり当然真・聖王剣も取り出せなくなっていた。
どう言う基準なのかはわからないが、詳しく調べて見た結果アイテムボックスと貴重品アイテムボックスは別扱いされているらしく、貴重品ボックスに入っているアイテムはどうやら使えそうだった。
と、言っても貴重品アイテムボックスの中に、入っていたるアイテムは世界地図とか、ゲーム時代に使っていた重要アイテムばかりで、この世界では全く意味がないアイテムばかり。
しかし、その中で一つだけ使えそうなアイテムがあった。
それは、聖王樹の頂上で手に入れた聖王の葉。それを加工したアイテム、聖王の息吹だった。
なぜ、これだけアイテム扱いではなく貴重品扱いになっていたのかはわからないが、聖王の息吹を使えば戦闘不能、HP、MP、SP等と言った物全てが瞬く間に回復するのである。
「これは、本当にやばくなった時……生きるか死ぬかの瀬戸際に使うべきだろうな……」
と言う訳で大事にとっておく事にした。
後、俺の強さの底上げをしてくれているパッシブスキルや、転生者II、ラグナロクII、ドラゴンの超回復と言ったスキルの類いは今の所機能を失ってはいなかった。
これは、かなりホッとした。
パッシブスキルが機能をしなくなると、ステータスはかなり激減。
スキルに至っては、決め手の一撃にかけてしまう。スキルが使えなくなるって事は、魔王に勝つ事が不可能になってしまうって事なのだが……
次にあの電撃を浴びて使用不可能になるとしたら、魔法かスキル、もしくはステータスのどれかだと思う。
「あの、電撃……マジで厄介」
厄介と思っていても、俺には防ぐ術は持ち合わせてはいない。なにせ突然電撃が降り注がれるのだから……
でも、避けれる物なら避けたいから対策は考えないとな。
「よしっ!!」
簡単に対策は思いつかなかったが、状況を整理している間にHP.MP共に全快になった俺は、立ち上がり再び螺旋階段を走り始めた。
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螺旋階段を登り切ると、再び広間へと辿り着いた。
ここにいるのは当然最後の魔族四天王の一人、フォス族だ。
中央には三頭身のフォス族らしき人影が、何やら無意味に動きまわっていた。
何やっているんだろ……?
不思議に思い近づいて行く。
中央まで歩いて行くと、漸く何をやっているのか理解度出来た。
「うぉぃちにぃ〜さんしぃ〜、ごぉ〜ろぉく〜なぁなぁ〜はちぃ〜」
「……」
どうやら準備運動中らしい……
夢中になりすぎて、俺がすぐ後ろに来ているっと言うのに全く気がついていない。
ここで後ろから特大の魔法を放てば、一発で勝負は決まるのだとは思う。でも、かつての仲間に対して俺はそんな事出来る訳がない。出来るならもっと早く魔王の元にたどり着いていると思う。
それに、真剣に準備運動をしている後ろ姿はとても可愛く、俺には何を言われようが邪魔する事は出来なかった。
五分後……
「ふぅ〜」
溢れ出す汗をタオルで満遍なく拭き拭きした所で、俺の存在を察知したようだ。
「うおっ! リュウイさんいつの間に……!?」
クルッと慌てて振り向きながら口元はやや再会を喜ぶかのように少し緩んでいた。
「五分ぐらい前から来ていたよ」
「おかしいな? 全然気がつかなかった」
相変わらず変わらない奴だな。と少しだけ安心していると、突然目をキリッとさせ俺を睨みつけ始めていく。
「……っと、やばいやばい。気を入れ直さないと」
「??」
「お互い、馴れ合っている場合じゃないからね」
「……」
拳を俺の方へと突き出し、三歳児並みの背丈しかないフォス族は戦闘体制へと身構え始める。
やはり、ロジェとの戦いは避けられないのだろうか……?
一年と半年前に新しい魔王が誕生したのと同時だった。
フォス族の種族王が、ウォルガフからロジェへと代替わりしたと聞かされたのは。
種族王を守る親衛隊のままでいてくれたら、どんなに良かった事か……
種族王にさえならなければ、今この場で俺とロジェは戦わないで済んだ筈なのに。
「なぁ、ロジェ。俺はお前と戦いたくないよ。だから、道を開けてくれないか?」
「リュウイさんの目的は、魔王様との一騎打ちだよね?」
「あぁ……」
「なら、道を開けて欲しいと言うのは、無理な話だね。どうしても魔王様の所に行きたいと言うのなら、リュウイさん。俺を倒して行きなよ」
「……くそぉ……」
ロジェはぺディリヴァと同じ職業、格闘家だ。ぺディリヴァはその種族の特色に合わせたパワー重視型だったが、ロジェはその身に合わせて、パワー重視ではなく手数勝負。即ちスピード重視型だ。
パワーとスピード、これだけで違った戦法を繰り出してくる。
戦いたくないと言っている俺の言葉に、ロジェは耳を貸す事はなく直線的に突進してくる。それを難なく避けていくのだが、避けた所で再びロジェは突進。
これをロジェは愚直に繰り返してくる。しかし、直線的な攻撃は反撃しやすいのも事実。だけど、俺にはロジェを攻撃するなんて出来なかった。
共に戦い、共に生活していた仲間……
ロジェが、あの時どう思っていたのかわからないが、少なくとも俺は今でもそう思っている。
「ねぇ。なんで、攻撃してこないの?」
ロジェの拳が空を切り、再び拳が俺に迫って来る。そんな中、ロジェは質問をしてくるのだ。
「出来ないよ……」
当然だ。あの時、楽しかった光景を今でも鮮明に覚えている。かつての仲間を俺は敵と認識する事が出来ない。いや、心の中でフォス族と戦うとなれば、戦いは避けられないだろうとわかっていた。わかっていたなりに、覚悟も決めていた。
だけど……
実際、久しぶりにロジェと対面し言葉を少し交わしただけで、嬉しかった。
出来る事なら、あの時みたいな生活を俺は送りたい。
ロジェとウォルガフが肉の取り合いをしている中、俺とグゥはそれを笑いながら見守る。
洞窟に行きウォルガフが敵を真っ二つに斬りさく剣技を見せつけ、ロジェが負け時に格闘技を披露し自分の方が強い。と言い争っている中、俺の魔法が二人をフォローしていく。傷つけばグゥの回復魔法が俺たちを救ってくれるんだ。
「くそっ!!」
魔王の元に行く為、立ち塞がる魔族は何が何でも倒して行く。そう覚悟していた筈なのに……
ロジェの顔を見た時からぐらつき始めていた。
「なら、マイホームに帰って平和な日々を過ごしなよ!! 崩翔拳!!」
崩翔拳は己の持つ攻撃力を五倍にして繰り出す聖拳突きであり、武闘家のスキルの一つだ。
片手で抑え込もうとすれば、簡単に弾き飛ばされる程の威力を持っており、当然ロジェに追い打ちをかける隙を生じてしまうが、俺は両手でがっちりとロジェの拳を抑え込んで行く。
「……それは、出来ない」
「あのさっ、俺に攻撃出来ないのに、魔王様を倒す。なんてよく言えるよね?」
少し呆れ気味なロジェではあるが、再び攻撃の手を休める事はなかった。
ロジェの攻撃を右へ左へと避け続けながら、俺も言葉を繋げて行く。
「魔王は倒す。何があっても……」
「なら、僕は魔王様を守る魔族四天王の一人として、それを阻むだけだよ!」
「…っ!」
「リュウイさんもう俺たちは、もう敵同志なんだよ!! ……連牙通打っ!!」
ロジェの拳がすくい上げるかのように湾曲の軌跡を辿る。言うなればアッパーをジャンプしながら振り上げてくるのを、少しだけ身体を後ろに逸らし避けていくと、すかさずロジェはもう片方の拳を思いっきり振り下ろしてきたのである。
「それでも俺は……」
ロジェの振り下ろされた拳を、杖で受け止める。俺とロジェの間で杖はギリギリと音が響き渡る中……
「お前たちと過ごした日々を俺は忘れられないんだ。そんな大事な思い出を沢山共有していた者を……出来ない……」
「……」
一瞬、ロジェの中で戸惑いのような物が見えたような気がした。しかし、それは腹部の衝撃と共に消し去って行く。俺の気の緩みをロジェは見逃さなかった。
「グフっ!!」
距離を取られる形で、後方へと蹴り飛ばされてしまった。
「悪いけど、何を言っても無駄だよ。魔王様を倒すと言っている以上、リュウイさんは倒さなくてはならない、敵だ!」
「しかしっ!」
「もう俺たちは、仲間じゃないんだ!!」
いい加減、理解すれよ。
そんなロジェの心の声が、聞こえたような気がした。
「……ロジェ……」
ロジェの周りにうっすらと魔力が集まり出して行くのがわかる。
ぺディリヴァと違いロジェは魔力を練る事が出来る。
近接戦闘系の魔族でも魔力を練れるのと、練れないとでは力の差は圧倒的に違ってくる。
その破壊力は当然魔力を練る方が遥かに強く、ぺディリヴァ魔族四天王の名に恥じない力と強靭な肉体を持っていたが、俺はロジェの方が強いと思っている。
かつての仲間に対して、躊躇いもなく魔力を練り出していくロジェの本気度は俺に伝わってきた。
本当に本当に……
魔族四天王の一人として、ロジェは一切の手加減もなく俺を倒そうとしている。
「最早何を言っても、聞き入れてくれないんだな?」
「くどい……」
俺の声は、何があってもロジェには届かないようだ。
目を閉じれば、楽しかった光景が鮮明に浮かび上がっていく。
だが、俺はここで退くわけにはいかなかった。
残り時間は後僅か。それまでに魔王は倒さなければならない。
ぐらついていた覚悟を、無理矢理修正して行く。
目の前にいるフォス族は、俺を魔王の元に行かせないとする最後の魔族四天王だ。何が何でも、倒すぞ。
俺も腹を括る事にした。
「わかった……」
ロジェを見据えながら、杖に魔力を送り込んで行く。




