【07】
現在俺の目の前にはルブシューニェとシュトレンが立っている。
シュトレンは結界を得意とし、攻撃手段を持ち合わせていない後衛特化型の種族王だ。
攻撃手段がないのに、何故種族王になれたのかと言うと……
どんな攻撃も結界の前では無意味。と言う事は、攻撃が当たらなければ、負ける事はない。と魔王に直談判したそうだ。
シュトレンの言葉を聞いた魔王は、全力かどうかは定かではないが結界に一撃を加え、シュトレンは見事魔王の攻撃を一撃だけ防いだのである。一撃だけでも防ぐ事が出来たシュトレンの結界の性能を気に入った魔王は、シュトレンを種族王に任命したのであった。
防御に関して最強を誇るシュトレン。そして、魔導師の中で最強の攻撃魔力を誇るルブシューニェ。
シュトレンの結界を壊さぬ限り、俺の魔法はルブシューニェには届かない。
……参ったな。
「……」
だが、どんな結界にも必ず隙はある……筈だよな?
そうだ、聖王樹にいたベーレが言っていた。
『シュトレンの扱う結界は素晴らしいものじゃ。だが、あやつの扱う結界には武器を用いて攻撃するのと、魔法を使って攻撃する時の結界の種類を分けておるようじゃ。その使い分けに多少の歪みが生じておるように儂には感じたのぉ。
リュウイ。お主も気をつけなければならん事がある。
それは、どんなに強力な魔力を持ち向かう所敵なし状態だとしても、どんな素晴らしい結界を持っていたとしても。魔法と言う存在そのものには、一つだけ欠点がある。
わかっておってもこの世界に住む魔族、誰にも扱う事の出来ぬものではある。だが、転生ハイヒューマンのお主には頭の片隅に留めて置いて欲しい。
魔力を流し込みながら六芒星が大地に絵かがれた時、全ての魔法は一時的に無効化するのじゃ……
この意味お主ならどんなに危険なものであるか、わかる事じゃろ?』
ベーレ、あなたの話はいつも長く、何が言いたいのか実は俺にはわからなかった。
でも今回ばかりは、あなたに感謝しています。さりげなく聞いていたの話しのお陰で、突破口が見つかりましたよ。
六芒星……
確かにこの世界の魔族たちにはわからないが、俺にはわかる。
あの形だろ? 星型の六角形……
「黙り込んじゃったけど、どうしたの? もう諦めたのかしら?」
「いえ。諦めたつもりは毛頭ないよ」
「そう? でも黙ったままでは、魔王様の所に行けなくてよ?」
「わかっているさ……」
減ってしまったMPをMPポットで全快させた俺は、まず手始めに魔力を地面に流し込みながら六芒星を、描かなくてはならない。それも二人にバレないようにしなければ、意味がないのだ。
よしっ、これでいってみるかな!
「フレアオーラ!!」
フレアオーラは己自身の身体に炎をまとわせる魔法で、フレアオーラに包まれている者に触れた場合には、たちまち炎に身を包まれて行く。
魔導師の魔法の中で、近距離から攻撃出来る魔法の一つだ。
更に俺はルブシューニェに悟られないよう、少しずつ杖にも魔力を送り込んで行く事にした。
「おい、ルブシューニェ。あれはなんだ?」
「フレアオーラよ。シュトレン、触れたら火傷だけじゃ済まないから、気をつけてね」
「ならば、結界を発動するまでだ!」
「結界を発動する必要はないわ。要するに近寄らせなければ、平気なのだから……」
炎をまとったまま俺は、直線的にルブシューニェへと突進して行く。
「連撃.メギドフレアボールっ!!」
ルブシューニェの杖から炎の塊が幾つも、俺めがけて降り注がれる。それを右へ左へとひたすら避けながら悟られないように、慎重にルブシューニェとシュトレンの周りに、炎の文様を刻んで行った。
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よし、出来た! 後は発動するのみ!
ルブシューニェの目にはフレアオーラを纏った俺は、連撃.メギドフレアボールを避けるだけで精一杯で近寄れずに見えていた。だが、俺の魔力が突如高まった事により、異変を感じ取っていた。そして、それはすぐに理解しルブシューニェの意思とは裏腹に無意識に発せられていく。
「こっこれは……!?」
流石ルブシューニェだ。彼女には、俺が何をやりたかったのか理解出来たようだ。だが、気づくのが僅かばかり遅い。
杖に魔力込めながら、魔法を発動させていく。
「ヘキサグラム!!」
俺の言葉と共に、杖から魔力は解き放たれ一筋のの炎となって俺が避けながら完成させた六芒星の形を一直線に描き始めていた。
「やるわね……」
魔法が発動出来ない状況にも関わらず、余裕の表情を見せるルブシューニェに一瞬大事な事を忘れているような気がしていた。しかし、思い出す時間もなく、六芒星が消え去る前に俺は決着を付けるべく魔法を発動させた。
「メギドフレアガン!!」
魔力に反応した六芒星は赤く光り輝き始め、地面から高く高く火柱のように一気に燃え上がっていく。
全てを飲み込み、焼き尽くす。
そんな威力を持っている魔導師の魔法のフレア系魔法の中で、広範囲では一番攻撃力を誇るのがメギドフレアガンである。
フレアオーラで描かれた六芒星に囲まれていたルブシューニェとシュトレンは魔法が使えないはずだ。
メギドフレアガンにはたっぷり魔力練り込んだから、威力は倍増している。幾らルブシューニェにと言えども無傷では済まないだろう。
火柱を見上げながら、俺はそう思っていたのだが……
最強の魔導師ルブシューニェは、そう簡単に俺を有利な状況にしてくれないようだ。
最初の異変に気がついたのは、ルブシューニェが立っていた場所を中心に、火柱は音を立てる事もなく静かに渦巻き上に形を変えはじめていた。
「マッ……マジかよ?」
全ての炎が一点に集まりきると、熱風が巻き起こった。
「うおっ!?」
無意識に手で顔を覆い、熱風がやんだのと同時に手を降ろすと……
そこには、背後に不死鳥を宿したルブシューニェがゆっくりと俺に姿を見せてきたのである。
「今のは実にいい攻撃だったわ。でも、一つ忘れているようね。私の得意とする魔法分野は炎……」
「……っ」
「炎の化身とも言われる不死鳥の前では、どんな炎の攻撃も効かないわよ」
「……そうだったな」
大事な何かは、これだったか……
と後悔しても遅かった。
ルブシューニェにもう一度六芒星をかけるのは実際不可能である。気がついた時点ですぐにもみ消されるか、逆に俺が六芒星に捕まってしまう可能性もある。もうこの手は使えなかった。
それに炎の化身でもある不死鳥が出てきてしまった以上、状況ははかなり不利だ。なんとかして、次なる手を考えなければならないのだが、ルブシューニェの魔力がどんどんと高まっていったのだ。
「お返しに、この魔法……プレゼントしてあげるわ……」
それは、見るからにルブシューニェが持つ本来の魔力とは桁外れの魔力であり、俺にはこの魔力自体ルブシューニェが制御出来るとは到底思えなかった。
「おぃおぃ……随分と魔力が、跳ね上がっているように見えるけど大丈夫なのかよ?」
「さぁ……私もどうなるかわからない……わ」
「ルブシューニェ、あんたが言った言葉だぞ。『身の丈以上の魔力を求めてはいけない。必ず身を滅ぼすと……』そう言っていたのに、求めるのかよ!?」
「だって素晴らしい魔力よ。むしろ光栄に思ってほしいぐらいだわ。この魔法は貴方が持ってきた古文書の中で、魔王様しか使えないとされる魔法の本一部。貴方が全力で放ったメギドフレアガンの魔力と、私の魔力を合わせて初めて魔王様の持つ魔力の片鱗に立つ事が出来たみたいよ」
「くっ……」
魔法が発動する前だと言うのに、この部屋一帯にとんでもない魔力が渦巻いているのが手に取るようにわかる。
これ程の魔力が集まっていて、魔王の持つ魔力の本の一部かよ……
「おっおいっルブシューニェ!!」
どうやって切り抜けたのかは知らないが、どうやらシュトレンも無事のようだ。
「シュトレン、今更後悔しても遅いわ。だから、助太刀無用と言ったのよ……」
「ってお前。その魔力、制御出来ているのか!?」
「最早……制御不可能みたいね。だから、シュトレンせめて自分の身は自分で守ってね」
「くっくそぉ……」
ルブシューニェを止める事も出来ずシュトレンに出来る事は、自分に被害が及ばないように己自身に結界を張る事のみだった。
そして………ルブシューニェが練り上げた魔力は、一気に不死鳥へと注がれていく。
「これは、マジでやばい……」
逃げ道など最早どこにもなかった。
唯一生き延びる術は耐え切る事のみ。
炎の攻撃には炎で緩和させるしかない。
魔力全開でフレアオーラを発動させた次の瞬間、ルブシューニェが超危険な魔法を唱えたのであった。
「アルモタヘルシャラーラ!!」
不死鳥の口から放たれる綺麗な煉獄の火花は、炎の塊とか氷の塊とかそう言った類いの魔法ではなかった。
言うなれば、暫く浴びていなかった懐かしく感じる太陽の暖かい光。
俺の身体を取り巻いていたフレアオーラは、太陽の光と共に瞬く間に消え去っていくのであった。




