【05】
「……ったく、これは困った……」
俺は今、魔王がいる塔の内部に侵入し魔王がいる場所に辿り着く為、螺旋階段をひたすら登り続けていた。
困ったと言うのは、先ほどのペディリヴァとの戦闘後に気づいた事だ。
ペディリヴァとの戦いは、後味の苦い勝利だった。倒さなくては魔王の元に行けないと、わかっていながらも、それでも俺は最後までぺディリヴァには死んで欲しくないと思っていた。
その甘さが……
一瞬の迷いが……
招いた結果なのかもしれない……
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俺の拳がペディリヴァの身体を貫いたのと同時だった。
ペディリヴァは、魔王を守る魔族四天王として……
残っていた力を振り絞るかのように、身体は突如光り輝き始めていく。
これは、やばいっ!
ぺディリヴァが何をしようとしているのか、すぐに理解出来た。すぐさまぺディリヴァから離れようとしたのだが、ペディリヴァは己自身の身体を貫いていた俺の腕を掴み取り逃がそうとはせずに、満足気に笑っていたのである。
「もっ……最早遅いな……」
「おいっ、ペディリヴァ。この技を使えばお前も……」
「だから、言っただろう? 殺るべき時に殺らないで、いつ殺るんだ? と……」
「くっ……!!」
ペディリヴァは躊躇する事なく、俺の目の前で爆発していった……
爆発と同時に逃げ場のない熱風。HPが根こそぎ減ってしまったが、それでもペディリヴァの最後の攻撃を辛うじて耐え切る事が出来た。
「いて……くそっペディリヴァの奴……」
ペディリヴァが発動した技は、格闘家の技の一つ『粉塵撃破』と言う技で体内に流れる力を瞬時に加速させ、自らもダメージすらも厭わない最強の爆発技だ。
……つまり、自爆。
爆発の衝撃により、ペディリヴァの姿は既にこの場にはなかった。爆発の衝撃に身体は耐えきれず、塵となって消えていってしまったのだろう。そして、近距離から粉塵撃破を喰らった俺も、流石に無傷と言う訳にはいられずHPが25と、かなり瀕死の状態だった。
「まずは、回復しないとな……」
現在、俺の回復手段は三つ存在している。
一つ目は、サブ職業を聖職者に変更し回復魔法の発動。
二つ目は、アイテムボックスの中から回復ポットを取り出しての使用。
そして三つ目が、新しく憶えたスキルによる回復。
スキルによる回復は、ドラゴが欲しがっていた『竜貴石』を五個集めた恩恵とも言える。
竜貴石が全て揃った時、竜の加護は新たな能力に目覚め元々あったブレス系の攻撃が全く効かなくなるスキルの他に、減ったHPMPは一秒間にHP100、MP50ずつ回復してくれるパッシブスキルが『ドラゴンの超回復』が追加されたのだ。
中々素晴らしいスキルだなと最初は思ったが、発動条件が30秒間停止した後に発動開始だった。
これでは、戦闘中では全く使い物にはならないし、俺のHPは今装備諸々込みで1万以上軽くを超えておりHPが全開するとなると、かなり時間がかかってしまう。即座に回復したい時には使えず、ドラゴには悪いがお守り程度として認識する事にした。
更に、回復ポットを使うとなると全快するのに5本程必要となる為、サブ職業を格闘家から聖職者に変更し回復魔法を唱えた方が、遥かに早くそして、簡単に回復する事が出来る。
はずだったのが……
何故か、システムメニューはエラーメッセージを表示する事もなく、サブ職業は消え失せメイン職業である魔導師のみしか表示していないのである。
「ちょ……どっどう言う事だよ?」
その後何度やってもサブ職業は、表示される事はなかった。
結局、HPポットを5本程消費させHPを全快にはしたが、メイン職業である魔導師のみしか使えないとなると、今後の戦いに覆いに支障が出そうだった。
魔導師は、後衛職だ。前衛職が、敵の注意を引き連れ初めて魔導師の破壊的な攻撃力が生きる、はずなのに……
「はぁ……参ったな……」
魔法を使う者同士の戦闘自体は、対して問題はない。互いの魔力総量に寄って勝敗は決まるのだから、特大の魔法を放てばそれで終わる。だが、前衛職との戦いとなればそうは行かない。
幾ら魔法発動が無詠唱とは言え、攻撃を避けつつも最善となる魔法を瞬時に判断し、放たなければならない。それにだ、前衛職もただ黙って魔法を受け止める筈がないのだから……
俺の今までの戦闘スタイルは剣で攻撃しつつ、隙を見つけて魔法をぶっ放してきたのだが、さてさて困ったな……
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螺旋階段を登り切ると、強烈な魔力の気配を感じながらもペディリヴァと戦った時の広場よりも少し小さな空間に出たのである。空間の奥の方には上に行く階段があったが、俺はすぐには行けなかった。この強烈な魔力の持ち主を、今から倒さなくてはならないのだから……
その者は俺が勘ずいている事を知っていながらも、今もなお姿を表さなかった。出方を気にしながらも、ゆっくりと中央へと歩いていく。
ヒュンッ!! 予想通り風きり音と共に、俺の目の前をフレアボールが通過していき壁に直撃。プスプスと煙りをあげていた。
「……」
この場にいる事が許され、あまつさえ魔法で挑発とも言える攻撃をしてくる相手など、誰だろう?と考えるまでもなかった。
「ふむ、外したみたいね……」
「ルブシューニェ……」
そう魔族四天王の一人、ムーンサン族の種族王ルブシューニェが俺の目の前に現れたのである。
ルブシューニェに俺は、幾つもの魔法を教えてもらっていた。
きっかけは、ドリームゼロで手に入れた古文書だった。古文書を解読しようと張り切って試みるのは良かったが、解読出来たのはこの古文書は、魔法書だと言う事しかわからなかったのだ。
何の魔法を唱える事が出来るのか、この魔法書には書かれているようなのだが、さっぱりわからず理解する事は出来なかったのである。
「ダメだ。魔法覚えられない。古文書を解読しないとダメっぽいなぁ〜なぁ、ドラゴはこの古文書解読出来る?」
「我には無理じゃな」
「だよなぁ〜この魔法書、絵からしてとても貴重な物だと思うんだけどなぁ〜」
「ふむ。そんなに解読したいのであれば、魔法都市フェィオンに赴いてみるか?」
「なんでまた、フェィオン??」
「彼の地は、魔法文明が優れていると聞く。その地を納めておる魔族ならば、簡単に解読出来る事じゃろ?」
「魔法都市フェィオンを納めている魔族って……ムーンサン族の種族王、ルブシューニか……会ってくれるかな……」
と言う事でドラゴの進言を聞き俺は古文書を解読してもらう為、魔法都市フェィオンに赴いた時だった。
俺が初めてルブシューニェと出会ったのは……
赤いレンガで作られた道を歩き、立派な作りをしている魔法学校と魔導学校を通り過ぎルブシューニェが住む屋敷へと歩いていく。屋敷は、魔法学校や魔導学校みたいな立派な作りではなかったが、それでも仮にも種族王が住む屋敷。それなりの建物をしていた。
木造や金属を使ったような作りではなく、何の材料を用いたのかはわからなかったが、屋敷全体に魔力は満遍なく巡っていると言う事だけはすぐに理解する事が出来た。
ルブシューニェに会う為にはまず、受付の魔族に名前と職業、そして会いたい内容を記入した後、待合室へと案内される。呼ばれるまでの間、ここで待機していなければならなかった。
待合室には、既に数人の魔族たちと俺とドラゴ。暫くすると後からも数人の魔族たちが入って来ていた。
どうやらルブシューニェは、人気者のようだ。
しかし、待てども待てども呼ばれる事はなかった。挙げ句の果てに、俺たちが来た後に待合室に入ってきた魔族たちも呼ばれたのである。
中々呼ばれないと、不安になって来る。ヒューマンである俺は、ルブシューニェとは会えないのだろうか? 待つ事自体は構わないのだが、散々待たされた挙句会えません。では、時間の浪費である。そんな不安を拭い去る為にも、再び受付の魔族に声をかけるのであった。
「あの……待合室に来てから暫く経つんですけど、まだルブシューニェさんには会えないのですか?」
「お待ちください」
「お待ちくださいって……俺たちよりも後からも来ていた魔族の方も呼ばれていますよね?」
「お待ちください」
「ぬぬっ……」
何をどう言おうが、受付の魔族は『お待ちください』しか言わないのだ。これではまるで決められた言葉しか言えないNPCみたいではないか。と思っていると、ルブシューニェが現れたのである。
「……今日の面会は以上なんですね?」
「はい、明日もまた面会予約が多数入っております。ルブシューニェ様」
「わかりましたわ」
秘書と話しをしながら階段から降りてくるルブシューニェと、受付の前に立っていた俺は目が合うのであった。
「……」
ルブシューニェは、長身に腰まで長い銀髪を垂れ流していた。ドラゴには是非見本にしてもらいたいぐらい、優雅かつ気品の持ち主であり見る者の心を奪うとは、正にこの事だった。
俺は、言葉を失いただ呆然と立ち尽くす事しか出来なかった。
「貴方が転生ハイヒューマンのリュウイね?」
「はっ……はい」
「お待たせしましたわ。どうぞ、こちらに……」
ルブシューニェに案内されたのは、ルブシューニェと会う為の一室ではなく六畳ぐらいの小さな部屋で、壁には魔力を封印する宝石が埋め込まられている、そんな場所だった。
「あっあの……なぜここに……?」
「この場所では、貴方は魔力を使う事は出来ません」
私は使えますけどね。と付け加えながらも、どうやら察するに俺は警戒されているらしい。
ルブシューニェとの会話で万が一、仲違いし戦闘になった場合にはすぐ様俺を捕らえ、魔王の元に連れて行く。と言われているような気がしてならなかった。
最も、この程度の魔力封印では俺には効かないし、何より元々戦うつもりで来た訳ではないのだが……
ルブシューニェには言えば理解はしてくれそうだが、隣にいる秘書は警戒心が物凄く強く、既に戦闘態勢に入っているから何をどう言った所で納得はしてくれないだろうな。
「確か……古文書の解読依頼との事でしたね?」
「あっはい……」
釈然としないが、解読出来なかった古文書を取り出しルブシューニェへと渡していく。
「ふむふむ……所でこの古文書、どこで手に入れたのですか?」
「ドリームゼロの洞窟内ですね」
「ランクは?」
「つい最近発見された洞窟の最下層にあったものですけど……?」
「それは、解読しがいがありそうね」
そう言いながら、ルブシューニェは古文書を解読していくのだが……
「ちょ……こっこれは? いや、そんな筈は……でも……」
突然ルブシューニェは、目の色を変えながら真剣に解読し始めたのだ。そして、古文書をパタンと閉じたルブシューニェは真っ直ぐに俺を見つめてくる。
「あっあの……解読は出来たのですか?」
「いえ、まだ解読途中なのですが、一つわかった事があります」
「はい?」
ルブシューニェの話し曰く、俺とドラゴが手に入れた古文書はゲーム時代からの産物で、全ての魔法について書きとめられている魔法全書みたいな物らしい。
「ほぉ魔法全書ですか……?」
これはいい物を手に入れる事が出来たようだ。引き続きルブシューニェに解読してもらおう。そして、古文書に書いてある魔法を全て使いこなせる事が出来たら……最高だな。
「……頼みがあります」
「へっ?」
ルブシューニェは、真剣な顔をしながら現在の魔法情勢と言う物を語り出した。
簡単に言うと、魔法使いは人気がないらしい。
理由として上げられるのが、その魔法取得方法だった。
俺も苦い経験をしたからわかるが、魔法はLevelが上がれば勝手に覚えて行く物ではない。魔法の書と言う物を使ってその系統を覚えなくては発動出来ないのであるが、その魔法の書自体貴重な書物であり店で売られる事はほぼないのである。手に入れる為には、魔物を倒して手に入れるか、冒険者ギルドでの報酬。または、先輩魔法使いから譲り受けるしか方法はなかったのである。
だが、この古文書を完璧に解読出来た時、魔法を使う者の情勢は一気に変わる。
古文書を原本とし、系統別に魔法使い、魔導師の分野に細かく分けた後に書物として大量に出版する事が出来れば、魔法に興味を持っていた魔族たちは本を手にする事だろう。そうなれば、もっともっと魔法使い人口が増える事だろうとルブシューニェは話した上で、俺に交渉してくるのだった。
「……この古文書、譲っては貰えないでしょうか?」
「はぁ!?」
「タダでとは申さない。この金額で……」
俺の全財産の二倍相当の金額をルブシューニェは提示してきたのであるが、大金をもらうよりも俺は新たな魔法を覚えたかった。だから断ろうとしたのだが、秘書の俺に向けられる殺気が跳ね上がっていた。断れば、今この場で殺す。そんな殺気を感じ取ってしまった。
「……」
この場で断り、秘書の狙い通り戦闘になったとしても古文書を持って逃げ出す事は可能だろう。だが、古文書はまだ完璧に解読された訳じゃない。逃げてほとぼりが冷めた後に来る訳にもいかず、結局ルブシューニェに譲った方がいいのかもしれないと結論を出したのである。
でも、お金はいらない。ならば、当初の目的を素直に言う事にしたのである。
「申し訳ないのですが、お金はいりません」
「……では、この古文書は譲らない。とそう仰るのですか?」
「持っていても俺には解読出来ませんからね。ルブシューニェさんにお渡しいたします」
「っ!?」
「お金はいらない代わりに、条件があります」
「無理難題で無いのでしたら……いくらでも」
「俺が今一番欲しいのは、沢山の魔法です。ルブシューニェさんが使える魔法全てと、解読出来た魔導師の魔法の中で高威力のある魔法を数個教えて頂きたいです」
「なっそれは……」
ルブシューニェが返答に困るのも頷ける。
魔王の恩恵によって俺をクリスタルから解放したと魔族たちに言ってはいるが、いつ俺が魔王に剣を向けるか分からないし、そのきっかけとなるかもしれない力を授ける事はないよな。
「……」
暫く悩んだ末にルブシューニェは、俺の提案に頷いてくれた。
こうして、俺は魔導師の魔法を数種類に増やす事に成功したのである。
他にもルブシューニェは、色々な事を教えてくれた。無詠唱の仕方、威力の高め方等など、結果今まで我流で使っていた時よりも遥かに効率は良くなった。
今の俺の強さを手に入れる事が出来た、その大半はルブシューニェのお陰とも言える。言うなれば、魔法の師匠とも言えるルブシューニェと俺は戦わなくてはならなかった……
「あれから、更に魔力を上げたようね」
「あぁ……」
「魔法を教え終わり貴方が旅立った後、暫くすると風と共に転生ハイヒューマンの名をよく聞くようになったわ。それは、教えた身としてとても嬉しく思っていた……」
「……」
ルブシューニェの銀髪が静かに揺れ始め、周りに俺が持つ最大魔力に匹敵する程の魔力が集まっていくのが、手に取るようにわかる。
「一つだけ問います。更なる力を手に入れた貴方は、本気で魔王様を倒すつもりなのですか……?」
「……」
その暴力的な魔力は俺の返答次第で、今後の行く末を左右するのだろう。いつ爆発するのかわからない魔力に、冷や汗は止まらなかった。
「答えて下さい……リュウイ」
「……」
だが、答えは決まっている。何を問われようが、俺の意思は変わらないのだから……
「魔王は倒す。ルブシューニェ、あなたを倒してでも……」
俺の言葉と共にルブシューニェの魔力は、爆発していく。
それに対抗するべく、俺も魔力を開放するのであった。




