【02】
魔王城に行く為には、二つの道が存在している。
一つは、魔族四天王が居る各街にあるワープゲートを使う事。
確かにワープゲートを使えば、あっという間に魔王城に行く事は可能だ。だが、ワープゲートを使用する為には、種族王の使用許可が必要だった。
各街の中でワープゲートを最も使用しやすいのは、ガルヴァルデ族の種族王ぺディリヴァである。
彼は『冒険者ランクがA以上の者なら手続きは不要、自由に魔王城に赴いても可』と公約しているからである。
幾ら通行しやすいとは言え、俺が魔王城に行きたいと言えばいくら面倒事が嫌いなぺディリヴァでも、その目的に詮索が走ってしまう事だろう。
そして、その場で戦闘になってしまう事だって十分に考えられるし、もしぺディリヴァが通行を許可したとしても、魔王に刃向かえないように何かしらの誓約をつけてくるのが妥当かと思う。
そうなれば、魔王と対峙したとして実力も出せずに敗北は目に見えている。その結果、カウントダウンはゼロを迎え俺はゲームクリアする事は出来なく強制退出させられてしまう。
もう一つは、伝説級の魔物が徘徊する山道、深い谷、幻惑の森と様々な難関を潜り抜けて行くか。
今の俺の実力をフル稼働させれば、伝説級の魔物だとしても一撃で倒せるとは思うが、深い谷や幻惑の森などが存在している以上、魔物自体に時間を取られるのではなく、その道すじに時間を取られそうだった。
俺には時間が限られている。辿り着いた時にはタイムリミットでした。では、本末転倒である。
だから俺は、二つの道どちらも選ばなかった。
ドラゴの背に乗り、空から悠々と魔王城に侵入する作戦を試みたのだ。
空から行けば魔物に出会う事もないし、ワープゲート並みに時間は短縮。正に一石二鳥だった。
そして、目の前には立派な漆黒色に染まった魔王城を視界に捉える事が出来た頃、俺の中で再び緊張感が走っていた。そんな中、ドラゴは羽を羽ばたかせたまま前進を止めたのである。
「んっ? ドラゴ、どうした?」
「うむ……リュウイよ。空からの侵入は無理かもしれんのぉ」
「どう言う事だ?」
「魔王城一帯に強力な電磁波が、張られておるのじゃよ」
「……」
「ここは無難に降りて進むか、遠回りになるが一番近い街に戻ってワープゲートを使うかしかないかもしれん」
「……」
「どうする?」
「いや、ドラゴ。そのまま進もう」
「なっ!? 何を言うておる。このまま進めば、我もお主も電磁波にやられて丸焦げじゃぞ?」
「大丈夫。俺が電磁波を破壊するから」
「破壊すると簡単に言うておるが、お主破壊すればどうなるか、わかって言うておるのじゃな?」
「あぁ……」
迷いのない目で俺は、ドラゴを見つめていた。
魔王が作り出した強力な電磁波。これを破壊する事自体俺には難しい問題ではなかった。ドラゴが言いたかったのは、その先の事だった。
当然俺が電磁波を破壊した瞬間、魔王城にいる魔族たちは何事かと感づく筈だろう。そして、まず彼らは空を見上げる。その瞬間にヒューマンである俺が、魔王城に降り立ったとしたら……
俺が魔王を倒しに来たのか? と思ってしまうわけだな。
「ドラゴ、俺は……魔王を倒すと決めた時」
「……」
「全ての魔族たちの敵になる覚悟も決めたよ」
「……わかった。ではお主に任せよう」
「あぁ」
電磁波は魔王城をドーム状に囲っており、最大出力の魔法を使えば簡単に破壊出来そうだったが、何も完全破壊するのは、俺の目的ではない。
ドラゴが通れる道を作り出せば、その隙にドラゴは侵入してくれる。
だが、中途半端な魔法攻撃を行ったとして電磁波が破壊出来ずに、魔王城にいる魔族たちに察知されこの場に来られる方がよっぽど困る。ドラゴの背に立った俺は、魔力を練りながら詠唱を開始していく。
「ふぅ……狙え、魔力一滴枯れ尽くすまで……突き刺され、焔の楔……」
詠唱と共に五本の灼熱の楔が、目の前にはある電磁波に深く突き刺さっていく中、俺は最後の言葉を紡 紡ぐ。
「弾け飛べ! シャムス・ヴィル!!」
灼熱の楔は爆し轟音と黒煙。更には魔王城にまで届く程の衝撃を与えていた。
黒煙が周囲に巻き上げて行く中、電磁波には一箇所。穴が空いている筈だ。
「ドラゴっ!!」
その言葉にドラゴは、構わず黒煙の中に突き進んで行く。
この一撃で魔王には俺が来た事に勘付いただろう。魔族四天王も俺を返り討ちにさせる為、戦闘準備に入る事だろうな。
「ふぅ……」
無事に電磁波を通り抜けたドラゴは、魔王城目指して飛行を続けていた。
眼下に見下ろせる位置まで来た時、ドラゴは次なる指示を俺に求めてきたのである。
「……で、どこに降りるのじゃ?」
「そうだな……」
空高くそびえ立つテラスに直接降りれば、今すぐにでも魔王と対峙する事は出来る。それでも良かったのだが、魔族四天王を倒さない限り魔王と対決中に邪魔される事だって十分に考えられた。多勢に無勢、負ける気はしないが失敗は許されない以上、確実に魔族四天王は倒してから魔王に挑もう。と結論を出した俺は、ドラゴに中庭に降りてもらうように話ししたのである。
バサバサッとドラゴは優雅に庭に降り立つ魔族の姿へと変えていく。男性にも変身出来るのに何故かドラゴは女性姿になるのを好んでいた。
「して、この後どうするつもりなんじゃ?」
「……」
緊張感のないドラゴ声ではあったが、あっという間に俺たちは魔族に取り囲まれていた。
「リュウイ? きさまなのか? 魔王城を取り巻いていた電磁波を破壊したのは?」
ムーンサン族の男が剣を握りしめながら俺を睨みつけていた。彼とは何度かダンジョンなどで共に行動をした事があり、知らない仲ではなかった。
「あぁ……」
「何をしに魔王城に来た!?」
「無知な質問をしないでくれ。俺は転生ハイヒューマンだ。目的は一つしかないだろ?」
「その言葉の意味わかって言っているのか? リュウイ!?」
「あぁ……」
「魔王様の恩恵を仇で返すつもりか!!」
「……あぁ」
「思い直すつもりは……?」
「悪いが……ないな」
俺とドラゴを取り囲む魔族たちは、殆ど見知っている魔族たちばかりであった。
掛けられる言葉は、今なら間に合う、思いなおせと言わんばかりの言葉だった。
俺の決意は本物なのか? と試されるかのような質問に、ぐらつきそうな己に気づいてしまった。決意した筈なのに、まだ……心の奥底に迷いは、あったのだと感じとっていた。
だから、その迷いを振り払うかのように俺は腹の底から叫ぶ。それこそ、魔王に聞こえるぐらい大きな声で……
「俺はヒューマン最後の生き残りとして、魔王を退治しにきたぁぁぁぁぁぁぁ!!」
言葉と同時に俺の本気を……
魔族たちに示すかのよう、魔力全開にし威圧。そして、魔力を垂れ流していく。
「「リュウイ!!」」
魔族たちにしてみたら、俺の言葉も行動も信じられなかったのだろう。
そりゃそうだ。この五年間俺はそんな素振り、何一つ見せなかったのだから。
「本気なんだな……?」
「あぁ、本気だ」
共に死線をくぐり抜けただけに魔族たちも、俺の行動に戸惑いを隠せないでいた。
なぜ? と言い疑問も少なからずあるだろう。 それは、先制攻撃を仕掛けるのには好都合な状況だった。
垂れ流していた魔力を杖に集中させる中、ドラゴとアイコンタクトを送り魔法を発動させていく。
ドラゴも俺のアイコンタクトの意味を理解し、攻撃の準備を始めていた。
魔導師の使う魔法の中でも、一番火力があって広範囲の魔法を発動すれば簡単に魔王城、諸共蹴散す事だって可能だった。だが、魔導師の魔法はとにかくMP消費量が半端なく多いのだ。
ゲーム時代から貯めていた大量にあるMPポットを使えば簡単に回復するからさしたる問題にはしていないが、俺があの時から新たに覚えた魔法がある。と言う事を魔王にも魔族四天王にも認識されるとそれなりの対策を考えてくるだろう。
それに、魔法使いの代表格とも言えるフレイムストライク。俺がフレイムストライクを発動すれば、ステータスと魔法Level。更には装備などの補正値の恩恵も受け、それは魔導師が使うフレアバースト並みの威力を与える事が出来る。
だから、それで十分なのだ。
杖から極大のフレイムストライクが現れ、魔族たちに向かって放たれたと同時だった。
ドラゴが得意としている炎のブレスが周囲を吹き付け、魔族たちの逃げ場を失くしていく。当然火の海と化し極大にの炎の塊か落ち、この場にいる魔族たちは全滅すると思われた時。
一筋の剣筋が火の海を斬り裂き散開。直撃するかと思われたフレイムストライクすらも簡単に吹き飛ばしていく。
「ふむ……」
「……」
成り行きを黙って見守っている中、魔族たちは助かった事に信じられないと言った言葉を発していた。
「たっ……助かった……」
「……いっ生きてる……?」
回避不可能な魔法攻撃に魔族たちは俺の本気を感じ取り、殺られた!! と感じとっていた筈だ。そんな絶望的な状況を守り切った救世主的な存在の魔族は、悠然と俺たちの元へと歩み始めた。
魔族たちは、その場で跪き道を開けていく。
そして、俺の目の前に現れた魔族は、不敵な笑みを浮かべていた。
その人物はあの時……
魔王城に来た時、一番最初に俺の存在に気がついていた男……




