【12】
ロジェがウォルガフと会う条件として話ししていた内容は、実に簡単だった。
今から五日後に、大規模なパレードが行わられるのである。
主役は勿論ウォルガフ。
パレードはウォルガフがフォス族の種族王着任十年目を祝うもので、沢山のフォス族たちが集まりこの日一日だけお祭りムードへと変わっていくらしい。
大好物のアップルパイも売りに出されるとの事だ。
パレード自体は、警備も頑丈でとても直接会って話すなど不可能に近い状況ではあるが、遠目からならウォルガフを見る事が出来るだろう。との事だった。
警備は厳重だが、パレードと言うだけあって音楽隊を従えて賑やかにウォルガフは、皆の目の前に現れドリームゼロの入り口からお城までの直線距離を歩くそうだ。
SSランクではない俺がウォルガフに会う為には、これしか方法はないらしい。
だからロジェは、そこからチラッと見てそれで満足してくれ。と言ってきたのであった。
最早気軽に会えない状態なってしまったウォルガフ。
俺は会って満足するのかどうか、それはわからない。
だが、それでも会いたいという気持ちに変わりなかった。
後はロジェにも見つからずに誰にもわからないように、ウォルガフに接近する作戦を立案するだけだった。
半日ぐらい悩んでいるとドラゴが自らの能力を発動するとのはどうだ?
との、事で話を聞き達成出来そうだったので頭を下げて懇願する事にした……
ドラゴは、竜貴石のお礼と言って了承してくれたのである。
作成が思っていたより早く立ててしまったので、手持ち無沙汰になってしまった。
残り四日間なにしているべきか……
「ドラゴは何かやりたい事ある?」
「そうだな……我は洞窟の最下層周辺にある宝石とやらを取りに行きたいのぉ」
「……Bランクにならなければダメらしいぞ?」
「ならば、ランクを上げるべく行動を移すなり!!」
ドラゴの決断と共に俺たちは冒険者ギルド支部へと赴き、パレードが始まるまでの日数を依頼を行いながらその日が来るのを待つ事にしたのであった。
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パレード当日。
朝からドリームゼロの街中、特に職人街は大盛り上がり状態になっていた。
職人街では普段武器や防具。宝石、道具などを売っているのだが、この日ばかりは店を閉め。その店先で露店をやり始めたのであった。
露店には軽く見てだけでアップルパイや、りんご飴、りんごジュース等といった物が多数並びフォス族が、長蛇の列を作っていた。
ってどれだけリンゴ好きなんだよ……
しかし、それも昼近くになると潮が引いたかのように誰もいなくなり、入り口からお城までの距離をフォス族で埋め尽くされていくのであった。
とてもではないが、俺にはあの中に紛れ込むのは不可能だった。
と言うか、踏み潰しそうで怖い!
「うわっ、絶景じゃのぉ〜」
絶世の美女に変身中のドラゴは、宿屋の二階。俺たちが寝泊まりしている窓から顔を出しそう感想を漏らしていた。
どうやら、俺だけの時は言葉使いを気にせず素でいくらしい。
まぁ他の人に迷惑をかけなければそれでいいよ。
「して、どうするのじゃ? 紛れ込むのかぁ? それとも、ここから眺めるか?」
ドラゴの言うとおり、わざわざ紛れ込まなくともここからでもパレードを見る事は十分にできる。
そして、俺の中には既にウォルガフと会う作戦は立ててある。
後は実行するのみ。
その作戦の中で無理してまで紛れ込まなければならない。と言う内容ではなかった。
だから、質問してきたドラゴに俺は首を横に振り否定してのであった。
ゴーンゴーンと鐘のなる音が聞こえると、パンパンッと花火の音と共に『剣と魔法と魔王』のOPテーマが流れ出し、フォス族の音楽隊が登場。
その姿は可愛いく、まるでお遊戯会を見ているようなぐらい微笑ましかった。
フォス族が大好きな魔族ならもう発狂してしまうかも? しれないな。
そして、音楽隊の後ろからゆっくりとウォルガフが現れたのである。
あの頃の姿となんら変わりないウォルガフ。
まん丸お目目に、ぷくっとした肉付きの幼稚園児体系。
更に細かく逆立った金髪の髪も健在だ。
沿道に立ってウォルガフの名を呼んでいフォス族たちにウォルガフは、嬉しそうに手を振りながらドンドンと進んで行くのであった。
「……始まったようじゃな」
「あぁ、じゃドラゴすまないが手筈通り頼むよ」
「うむ……先に話したいたが、忘れてはおるまいな?」
「五分が限界だったな」
「そうだ。忘れるでないぞ」
「わかった」
再確認を終えたドラゴは魔法を詠唱し始めて行く。
「ﻧﻮ ﻫﺎ ﺭﻭ ﻳﻮ ﻧﻮ ﻧﻴ ﻧﻴﺮﻭ ﺃﻭ ﻧﺎﺭﻱ……」
(我の名はドラゴ、時を操る精霊よ、螺旋の時間軸を一時我に身を委ねる事願う者なり……)
竜族語? なのだろうか? 理解出来ない言葉をドラゴは紡いでいた。
「ﺇﻳﻨﺴﻮﺗﺎﻧﺘﻮﺗﺎ ﻥ」
(インスタントターン)
次の瞬間、視界が一瞬ぶれたな。と感じたのと同時に、ありとあらゆる音は止み辺りは静まり返っていく。
そう、この五分間だけ全ての生物、種族。全ての物の時間は停止したのである。
これがドラゴの二つ目の能力『時間停止(5分間)』である。
ドラゴの能力によって今、この場で動けるのはドラゴと俺、そして……
時間が止まったのを確認した俺は、二階の窓から飛び降り駆け抜けて行く。
沢山のいるフォス族の間を縫いながら、ひたすら一直線にパレードの本隊を目指していた。
そして、屋根付きの階段を通り過ぎ、お城までの直線距離の真ん中辺りで停止したロジェとグゥがいたのである。
んっ? ロジェがここにいるのはわかる。
No.2で連隊長らしいからな。ウォルガフの側にいるのは理解出来る。
だが、なぜグゥさんがここにいるんだ?
グゥさんは相も変わらずウォルガフ、一筋なんだな。
きっとあの後も、ウォルガフの後を追いかけ回しているようだな。
おっと感心している場合ではない。
ウォルガフは……?
何が起こったのかわからないウォルガフは俺に背を向けながら、首を傾げ困り果てながら立っていたのであった。
いた。漸く巡り会えた……
「……ウォルガフ」
俺の言葉にウォルガフは、ゆっくりと俺の方へと振り返ってくるのであった。
そして、下からゆっくりと目線を上げて行き俺の顔を確認したのと同時にウォルガフは、俺の名を呼んでくれた。
「りっリュウイたん……?」
再会を喜んでいる場合ではなかった。
限られた時間は僅か五分。いや、既に五分も残されてはいない。
話したい事が沢山あったはずなのに……
何を言うべきなのか考えていたはずなのに……
いざこの場に立つと、頭の中が真っ白へと変貌していたのがよくわかる。
それでも何か話さなければ……
「久しぶりだな。ウォルガフ」
「クッ……クリスタルから脱出したんだね」
「あぁ、なんとかね」
「良かった……」
っておい、世間話をしている場合じゃない。
時間がない。
とわかっている筈なのに、ずっとこの時間が終わってほしくない。そう願ってしまう自分がいた。
「ウォルガフ、悪いんだけどこの空間あまり長い間維持する事は出来ないだ」
「リュウイたんの新たな能力?」
「いや、別な仲間がやってくれている」
「そうなんだ」
「……ロジェから全てを聞いたよ」
「うん」
会話を淡々としている中、ウォルガフがもう『でちゅ』言葉を使わなくなっていた事に俺は少し悲しなっていた。
以前ロジェは俺に言った……
『ウォルガフは身体はフォス族だけど、心はフォス族じゃない。だからいつまで経ってもウォルガフは『でちゅ』言葉から抜け出せないのではないか? 心と身体がフォス族になった時ウォルガフの『でちゅ』言葉はなくなるのではないかと俺は思っているんだ……』
その言葉を思い出し、ウォルガフはヒューマンではなく完全にフォス族になってしまったのだろうか? と疑問が脳裏をよぎりそれと同時に、十年と言う長い年月にウォルガフは今後俺と共に旅する事はないんだな。
と言う事を再確認させられてしまった。
僅かでもウォルガフと以前のように共に歩めると思っていただけに、悲しくなっていくのがわかった。
だが、それを見せてしまえば、ウォルガフは全てを捨ててでも俺と共に歩んでくれるかも? しれない。
でも、そうなればここにいる沢山のフォス族たち。ウォルガフの種族王を喜んでいる魔族たちから奪ってしまう事になる。
俺には、それは出来なかった。
だから、ウォルガフに気づかれないよう……
平然として話を進めるしかなかった。
「俺が自由になっても、ウォルガフ。お前が自由じゃない」
「そっそんな事ないよ!? 僕は……!!」
「ウォルガフ、立派になったな」
「リュウイたん……?」
「俺たちは離れ離れになっても、どこにいたとしても……長い年月が経とうとも……最終目的今も変わらないよな?」
「勿論でちゅ!!」
俺が掲げている最終目的。無論、魔王討伐である。
ウォルガフは、目を逸らさず真っ直ぐ俺の目を見て『勿論でちゅ』と答えてくれた。
それだけで俺はウォルガフは、先程の疑問は吹き飛んで行った。
ウォルガフはウォルガフだ。
姿はフォス族だけど、やはり最後の最後までヒューマンなんだな。と言う事を再確認する事が出来た。
「それだけ聞ければ十分だ。ウォルガフお前は今まで一生懸命頑張ってきてくれた」
「うん」
「今すぐは無理かもしれない。俺はこれからLevelを上げて更なる力を手に入れたいと思う」
「忘れてた。魔王様の呪い解かないとね」
「あぁそうだな、頼む」
ウォルガフはトコトコと俺の側に近寄り、人差し指で空中に丸い円を描きながら言葉を紡いで行った。
「フォス族種族王ウォルガフ。汝、リュウイにかかっている魔王様の呪いを解く!」
円はウォルガフの言葉に反応し、俺の中で小さく消えて行った。
「これで、大丈夫だよ」
「ありがとう。時間はかかるかもしれないけど、必ず目標は達成させる」
「うん」
「だから……後は俺に任せろ」
「うん、わかった。リュウイたんに任せるよ」
「おぅっ!」
時間ギリギリだな。と感じた俺はウォルガフに目の前に拳を突き出す。
「?」
「離れ離れになったとしても、いつでも俺とウォルガフは共に……」
俺の言葉にウォルガフは頷き、小さな手を握りしめ目の前に拳を突き出してきたのであった。
そして、俺とウォルガフの互いの拳が中央でコツン。とぶつかり合い俺は笑って歓声を上げているフォス族の中へと紛れ込んでいくのと同時に時間は動き出していく。
ワーッ!! ワーッ!! と歓声は響き渡る。
「ウォルガフ様〜」
「可愛い〜」
「こっち向いて〜」
どうやらギリギリだったみたいだ。
ウォルガフは何事もなかったかのように再び周りの魔族たちに手を振ったり、愛想を振りまきながら前へ前へと歩いていくのであった。
俺も踵を返し宿屋へと戻っていく。
互いが振り向き名を呼び合い再会を喜び合いたい事を必死に耐えながら、一度も振り返る事はなかったのであった。
歩み道は違えどもいつしか俺たちは、再会を果たすだろう。
でもその時は……
刃で語り合う事になるんだろうか?
俺は魔王を倒す者として……
お前は、魔王を守る種族王の一人として俺に立ち塞がるかもしれない。
だが、互いに負けられないよな。
去りゆくドリームゼロを、ドラゴの背に乗りながら俺は見下ろしていた。
「それまで元気で……」
ドラゴは、更に上昇を始めドンドンと街並みは小さくなっていった。
永遠の別れではない。
先ずは、誰にも負けない力を手に入れるべく俺はドラゴと共に旅に出た。
そして、月日は流れ五年と言う歳月が流れるのであった……




