【10】
あの時、魔王城で起こった事が今、俺の眼下で繰り広げられていく……
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テラスに現れた魔王は魔法を上空へと放つべく、魔力を溜め込み始めていた。
魔王が溜め込んだ魔力の光は、一筋の光線となって真っ直ぐに空を突き破り拡散。
幾つもの流星になって流れ落ちていく。
その光り輝き庭から見ている魔族たちは、魔王の底知れぬ魔力に歓喜をあげていた。
鳴り止まない歓喜の声の中、ただ呆然と空を見上げている事しか出来ていない四人組の前にイブルカルフは静かに……そして、気絶したと言う事を本人たちには自覚させないスピードと勢いをもって、その者たちを気絶させていくのであった。
イブルカルフはそのまま他の魔族たちに気づかれる事なくその者たちと共に、姿を消していくのである。
テラスから戻った魔王は、目の前にいるイブルカルフの行動に対して明確に顔には出さなかったが、密かに驚いていたのであった。
気絶した四人のうち、フォス族の魔族が二人に、ムーンサン族の魔族が一人。
そして、もう一人は明らかに魔族とは違う種族の青年であった。
一番乗りに気がついたのは、フォス族の一人ロジェである。
周りの状況を確認せずにロジェは、隣で気絶している他の三人を心配しながら声をかけていたのである。
すると、二人の魔族ウォルガフとグゥもロジェの声に反応し、目を覚ますのであった。
「ふむ、どうやら目覚めたようだな」
そこで魔王は漸く口を開くのであった。
三人は、その声の主の姿を確認し驚愕していた。
「まっ魔王様!!」
魔王がなぜこの場に……とも思ったのかもしれない。
だが、魔王の姿を確認した三人は直ちに頭を下げ跪くのであった。
魔王はまだ目覚めぬ者に目線を一度だけ向けながらも、三人に言葉をかけていくのである。
「お主たち、この者が何者なのか理解しておるな?」
「……」
三人は、頭を下げたまま沈黙していた。
だか、魔王に対して質問された事に答えない。と言う事は、反逆に捉われる可能性を秘めていた。
ウォルガフは、既になんとかしてこの場を切り抜けようと頭をフル回転させ打開策を見つけようとしていたが、そうはさせないとイブルカルフは、密かにウォルガフを牽制していたのであった。
そして、誰も答えない状況に見兼ねたロジェは、拳を握りしめながらも魔王に対して……
「はい」
と答えたのである。
「そうか、ではお主たちは我の勅命を果たした者として褒美を贈らねばならぬな。別室で待機していろ」
魔王の言葉にロジェやグゥは『リュウイには悪いが、こうなってしまっては致したがない』と受け入れてしまったのである。だから、素直に従いその場から去ろうとしたのだが……
ウォルガフだけはその場から動こうとはせず、跪いたままであった。
「どうした? もういいぞ?」
再度、魔王の言葉にもウォルガフは微動だにせず、変わりに口を開こうとしたその時だった。
青年のリュウイは、ゆっくりと目を覚ますのである。
「っ!!」
魔王とイブルカルフの目の前にして、リュウイは何も出来ず只々硬直する事しか出来なかった。
「これか? イブルカルフ……お前が言っていた探し人来たりとは?」
「えぇ。魔王様は確か生き残りの最後の一人、ヒューマンを探していたのですよね?」
「……確かにな」
青ざめて、戦意も失っているリュウイを目の辺りにした魔王は呆れてしまった。
久々に高揚するぐらいの戦闘が出来ると思っていただけに、リュウイの態度は魔王を落胆させるのには充分な理由であった。
だが、魔王にとってリュウイをクリスタルに封印する事は積年の願いでもあった。
戦闘が叶わぬ以上、最早リュウイはいらない存在。
ただクリスタルに封印する作業を行うだけであった。
魔王は、玉座からゆっくりと立ち上がりリュウイの元へと歩み寄り、魔力溢れた右手を持ってしてリュウイの頭を鷲掴みしていく。
「さらばだ、最後のヒューマンよ。これでこの世界は完全に我の物となる」
魔王から放たれた光に包まれ、リュウイは簡単に……
瞬く間にクリスタルに封印されるのであった。
「これで魔王様の目標が叶いましたね」
「あぁ、これで面倒だった毎日の儀式もしなくて済むな」
目の前に現れた一つのクリスタルを前にして、ウォルガフは叫び声をあげていた。
「リュウイたぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」
一連の流れをウォルガフは、何も出来ず見ている事しか出来ずにいた。
そして、魔族の血がウォルガフを跪かせ、ヒューマンとしてのウォルガフの意志を無理矢理押さえつけていたのだが、クリスタルと化してしまったリュウイを目の辺りにして、ウォルガフの中で何かが弾け飛ぶのであった。
ウォルガフを取り巻くオーラは、ドス黒く禍々しい物へと変わっていく……
「ウォルガフちゃん……?」
それは、樹海の上空でシュトレンと対峙した時に見せたオーラと酷似していたのである。
「リュウイを……元に戻せぇぇぇっ!!」
「ちょとまてっ!! ウォルガフッ!!!」
ロジェの静止を無視し、ウォルガフは魔王の大剣を持って魔王に飛びかかるのであった。
魔王の大剣が素早く力強く振り下ろされ、魔王の右腕に触れたのと同時にウォルガフは後方へと弾き飛ばされ豪快に壁に激突。
すぐさまイブルカルフに拘束され、身動き出来なくされるのであった。
だが、ウォルガフの眼光は鋭く魔王を今だに睨みつけているのである。
小さくか細くウォルガフは『元に戻せ……』と呟くのであった。
「魔王様反逆罪として、この場で処刑しますよ。いいですね?」
イブルカルフの言葉にロジェは思考を巡らせていた。
それはロジェにとって、ウォルガフの死はあってはならない不測の事態でもある。
リュウイは仕方がない事とは言え、ウォルガフが死んでしまえばフォス族にとってミクロスに変わる種族王が不在となってしまうのである。
ロジェはミクロスの護衛に戻らず、ウォルガフと共に今まで過ごしていた。
それは、密かにウォルガフの手助けをするようにとミクロスから命令をされており、ウォルガフの死はどうしても避けたかったのであった。
「おっお待ち……「まて」下さい……」
ロジェの言葉を割って入ってきたのは魔王であった。
「イブルカルフよ。その者は殺すな」
「はぁ? 何故ですか? 立派な反逆罪ですよ?」
魔王はイブルカルフに右腕を見せていた。
それは先ほどのウォルガフの攻撃によって、傷つけたと思われる一筋の擦り傷を舐めまわし喜んでいた。
「こいつは一時な感情とは、イブルカルフよ。お前の魔力すらも超えたぞ」
「なっ!? そんな馬鹿な!!」
「フハハハハ!! 面白いではないか? 実に殺すには惜しい人材だ。そう思わんか?」
「でっ……ですが!」
「確かに我に刃を向けたのは事実。処分はフォス族のミクロスと決めなければならんな。それまでの間、その者たちは別室に閉じ込めておけ」
「……魔王様!?」
「イブルカルフよ、今のお前に我を傷つける事が出来るか?」
「グッ!!」
「勅命だ。誰もその者を殺す事は許さぬ」
クリスタルに封印された、リュウイを残しウォルガフは無理矢理その場をから退出させられるのであった。
そして、出て行く最後までウォルガフは、リュウイの名を呼び続けていたのである。
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別室に連れて行かれたウォルガフが大人しく待っている事はしなかった。
今すぐにでもこの場でから脱出しリュウイを助け出そうとしていたのである。
「ウォルガフ、落ち着けって」
「落ち着け? 落ち着けるわけがないでちょ? 何言っているんでちゅか、ロジェたん……」
「リュウイさんには悪いけど、諦めるしかないよ。俺たちにはどうにも出来ない事なんだから」
「ぼくにはそれは、それは出来まちぇん。ここにいるのならいて下ちゃい。でもぼくの邪魔はしないでほちぃでちゅ」
そう言ってウォルガフはドアを無理矢理こじ開けようとするドアの前に歩みよろうとするのだが、グゥがウォルガフの前に立ちふさがったのである。
「グゥたん、どいてくだちゃい」
「どかないわ。今更ウォルガフちゃんがリュウイさんの元に行ってどうなるの? 助けられるの?」
「……ぼくなら助けらまちゅ」
「どうしてそう言い切れるの? ウォルガフちゃん、リュウイさんが絡む事になると異常になるのは何故?」
「……」
「それは俺も気になっていた。ウォルガフのリュウイさん対する拘りは異常だからな」
「……」
ウォルガフはそれだけはどうしても言えないと言い張り、それならばロジェもグゥもここから出したくはないと平行線を辿るのであった。
ガチャリ……
平行線を辿っている中、ドアが開いた瞬間ウォルガフは部屋から抜け出そうと猛スピードで駆け抜けようとしたのだが、当然抜けだ去る筈もなく入って来た者に捕まってしまうのである。
「離ちぃて下ちゃい!」
「……ったく、諦めの悪い奴じゃのぉ」
「ミクロスのじぃじぃ!!」
ウォルガフたちの目の前に現れたのは、フォス族の種族王ミクロスであった。
流石のウォルガフも逃げる事を諦めざる得なかったのである。
「お主たちの行動に対する魔王様と話し合った結果が出たのじゃが……」
「……」
「はっきり言おう。ウォルガフよ」
「ぶちゅっ」
「クリスタルに封印されたヒューマンはもう諦めろ」
「!!」
「そして今から言う言葉は、魔王様からの勅命だ。お前に拒否権はないぞ」
「……」
「三日以内にウォルガフはドリームゼロに帰還。そして、フォス族の種族王として着任し、儂の跡を継ぐ事。それまでに必要とされる儀式を全て済ませておけ」
「いっいやでちゅ!!」
「だから、拒否権は存在しておらん。魔王様に歯向かっておきながら殺されなかっただけ感謝じゃっぞ!!」
「うぅぅぅ……」
「ロジェ。お主は新しく着任する種族王の補佐じゃ」
「はい」
「グゥさんと言ったな。お主には魔王様からの勅命はないのだが、どうする……?」
「なら、私はウォルガフちゃんの秘書がいいわっ!!」
「わかった。そのようにムーンサン族の種族王、ルブシューニェに言っておこう」
「感謝致しますわ。ミクロス様」
「以上。直ちに行動開始しろ」
そう言ってミクロスはその場を退出していくのであった。
ウォルガフは、種族王になりたくないと最後まで駄々をこねていたが、ロジェが尻拭いの行動に走ったのである。
種族王になる事はもう決定事項である。
これは何があっても覆る事はない。
そして、種族王になれば今までのような行動は制限されてしまう。
だから、ロジェはウォルガフに三日間と言う猶予の中で、その間にやりたい事をするようにウォルガフを説得したのである。
ウォルガフは、ロジェの出した提案にクリスタルに封印されたリュウイに会う事を絶対条件として、渋々納得したのであった。
そして、その提案をミクロスは魔王に頼み込み、了承させたのであった。
監視の元、ウォルガフはマイホームへと舞い戻り身辺整理を行っていく。
半べそをかきながら……
そして、孵化器にある卵に言葉を残しマイホームを後にするのであった。
ドリームゼロに帰還したウォルガフは、フォス族の種族王になる為の儀式を行い瞬く間に三日間は過ぎ去り、着任式。難しい言葉が種族王同士で交わされていく中、ウォルガフは懸命に変わっていくのであった。
そして、約束でもあるクリスタルに封印されたリュウイの元に赴く事が出来たのは、それから一年後の事である。
「すまんな、ウォルガフ。遅れてしまった」
「いや、いいでちゅよ……ロジェたんは約束を守ってくれまちぃたちぃ」
「その言葉……」
いい加減直せよ。とロジェは思ったが、この言葉はロジェとグゥがいる時にしか使わず、普段は使ってはいない。だから、ロジェは聞き流す事にしたのである。
「ロジェたん、ここからはぼく一人でお願いちぃまちゅ」
「いや……でもよぉ……」
「大丈夫。悪い事はしまちぇんから……」
そう言ってウォルガフは、ロジェを置いて一人でクリスタルが置かれている部屋に進んでいくのであった。
ヒューマンたちは静かに、クリスタルに封印されていた。
9998人を無視しウォルガフは迷わずに進んでいく。
それはまるでどこにいるのかが、わかるかのような足取りでウォルガフはリュウイの目の前に、立つのである。
身動き一つせずにクリスタルの中にいるリュウイを、見上げながらウォルガフは呟く。
「リュウイたん。ごめんなちゃい……ぼくはリュウイたんを守りきれまちぇんでちぃた……」
「でもいつか必ず、ぼくはリュウイたんをクリスタルから解放させてみちぇまちゅ」
「……だから、だから……」
「それまでの間、待っていてくだちゃい」
大粒の涙を流しウォルガフは、それだけ言ってクリスタルの部屋を後にしたのである。




