【03】
ウォルガフたちは、次の日の昼になっても帰って来る事はなかった。
食べる事が大好きなウォルガフがその日の内に帰って来ず、挙句に次の日になっても何の連絡もないなんて幾らなんでもおかしすぎる。
「何かあったのかな?」
不安になった俺は、装備を整え手がかりを掴むべくムーンフェイズの冒険者ギルドに赴く事にしたのである。
「あら? リュウイさん。一人だなんて珍しいわね?」
冒険者ギルドに入ると受付のお姉さんは、俺に話しかけてきたのである。
ウォルガフたちの行き先を聞こうと思ったのが、口ぶりからしてお姉さんはどうやら行き先を知らないように思えた。
ふと酒場の方にいるのではないか? と思い視線を動かすも、いつもの特等席にウォルガフの姿は見られず益々不安になる一方だった。
「どうかしたの?」
明らかにおかしな行動をとっている俺にお姉さんも違和感を感じたらしい。心配そうに俺の顔を見上げているのであった。
「ウォルガフが帰ってこないんですよね……行き先知りませんか?」
「知らないわ」
「……そう……ですか」
本当、どこに行ったんだろう?
「リュウイさん心配する事ないわよ。ウォルガフたちなら大丈夫よ?」
「むっ!?」
受付のお姉さんは、人の気持ちも知らずに無責任な言葉を言い放ったのである。
これには少しムッとなり眉間にシワを寄せ、睨みつけるとお姉さんは慌てて弁明するかのように口を開いてきたのであった。
「そんなに睨まないでよ……リュウイさん、とりあえず冒険者カードを見てみて」
「冒険者カードですか??」
お姉さんに促されるがまま冒険者カードを取り出すと、パーティ名の横に文字が刻まれていたのである。
パーティ名:『剣と魔法と魔王』
ウォルガフ:現在地…アルセフルの洞窟
リュウイ:現在地…ムーンフェイズ冒険者ギルド内
ロジェ:現在地…アルセフルの洞窟
グゥ:現在地…アルセフルの洞窟
こんな感じである。
因みにシャイターンポイントも、もう少しで溜まりそうだった。
「……なにこれ?」
「はぁ……冒険者ランクの高い人たちが3人もいて、何も説明してもらっていないのね……」
「一日以上別行動する事なんて今までなかったので……」
「まぁいいわ」
お姉さんは更に何かを言いたそうな素振りを見せながらも、横に刻まれている文字を教えてくれたのであった。
どうやらこれは、パーティが今いる場所。
即ち現在地を表示してくれるものであり、パーティが何らかの事情で別行動を取った場合、互いに現在地を把握する事が出来る物である。
冒険者カードを見る限り確かに俺は今、ムーンフェイズの冒険者ギルド内にいてウォルガフたちは、アルセフルの洞窟と言う場所にいるとの事だ。
なるほどね。
「俺も、その場所に行った方がいいですかね?」
「ん〜残念だけどリュウイさんには無理よ。まず冒険者ランクが低すぎるわ」
「……」
さりげない一言が突き刺さってきた。
お姉さん意外と口が悪いな……
「アルセフルの洞窟は、確か魔導書の報酬が多い依頼だったはずよ」
「確かに俺は魔導書が欲しいと言いましたから……」
「なら、妥当な所かしら」
「それでも、時間かかりすぎじゃないですか?」
「はぁ……リュウイさんは、なにもわかっていないわ」
「??」
「魔導書と言えば、それは魔法を扱う者にとって大切な物よね?」
「……はい」
「報酬の魔導書は、大抵高Levelダンジョン攻略なのよ」
「はぁ?」
「幾ら強いウォルガフたちでも経ったの一日。いえ、半日で依頼達成は可能だと思う?」
「……ウォルガフなら可能かと」
俺の言葉にお姉さんは、『確かに……』と言葉を漏らしながら納得していたが、要するにだ。ダンジョンと言う物自体が半日で攻略などまずもって不可能であり、ウォルガフたちのLevelを考慮するならば、最低でも3日はかかるとの事だ。
「でも、お姉さん。以前にウォルガフと行ったダンジョン。確か……魔導書が報酬の北の洞窟は半日で攻略出来ましたよ?」
「……どうせ、ワープゾーン使って最深部に行ったんじゃないの?」
「確かに行きましたね」
「ったく……帰り用だって言っているのに」
お姉さんはブツブツとそんなような事を呟いていた。
「……とにかくっ!! アルセフルの洞窟は高Levelダンジョンの中でも複雑な迷宮にもなっていて難関Levelとして有名よ。普通に考えて十日はかかるわ」
「そんなにですか……?」
「でも、ウォルガフたちなら五日ぐらいで戻って来るんじゃないかしら?」
「ふむふむ」
早くて五日か。
それまでの間、俺は一人で何をしていようかな?
シャイターンポイントが、まだ溜まり切っていないからLevelは50以上上がる事はない。
となると……魔法Levelを上げるべきか……?
それとも、職人Levelでも上げようか?
別に俺、職人になりたいわけじゃないしなぁ〜
職人は趣味程度で収まっていたいよな。
まぁ、気長に待っているか……
そう結論を出した俺は、冒険者ギルドを後にしマイホームへと戻る事にしたのであった。
マイホームに戻るとルシュガは引き続き、魔物部屋の建設に勤しんでいた。
それは、後数日中にでも完成するかのような勢いだった。
今俺が所持している土地は、マイホーム、職人の家。後は魔物部屋の三つである。
更地の空き地となっている土地に、立ちながら次は何を建てようかな? と考えていた。
ウォルガフたちが帰ってくるまでには、まだ時間を要する。
ならば、少しでも強くなる事。
今の俺には、それしか思いつかなかったのだ。
その第一歩として、『魔力を練る』事。
これをなんとかして身につけたい。そう考えたのである。
聖王樹で出会ったミトロヴァス族のご老人ベーレに魔力を練る方法を教えてはもらったが、あの時の俺は魔力を練る事は不可能で魔法力のバランスとやらが崩れていたらしい。
ウォルガフやロジェ、それにグゥの3人はベーレに教わりながら魔力を練っている間、俺がやっていた事と言えば洗濯だった。
この洗濯は変わっていて、魔力を送り込まないと回らない取っ手。
五日ぐらい永遠と回していた記憶がある。
そして、聖王樹の頂上でヒュドラと対峙した時に発動したフレアバースト。
最大魔力を込めたフレアストライク3発分。
3つの魔力を一つに纏めて圧縮。杖の中で魔力が暴れているのを、無理矢理押し込め一つに纏め上げると出来た魔法だ。
そして、同じ要領でリヴァイアサンに放ったライトニングキャノン。
二つ共魔導師の魔法なのだが、明らかに威力は違っていた。
違いはなんだろうか? とずっと考えていた。
属性の違いかな? とも思ったが、根本的に違うような気がしてならなかった。
ベーレの元でやっていた洗濯……
魔力を送り込まないと回らない取っ手。
フォス族のミュッケが言っていた言葉。
『コツは取っ手はゆっくり回しながら魔力を最大限送り込むと、もっと激しい渦が出来上がるよ』
そして、『魔法を発動する前から魔法力を渦状に作り出す事によって魔法力は蓄えらる。そして魔法を発動する時、一気に杖へと流れ込むのじゃ』と教えてくれたベーレの言葉。
魔力を練ると、洗濯は何処となく似ているような気がしたのだ。
だから、今の俺はもしかしたら体内で魔力を練る事が出来るかも? しれない。
そして………すぐ試し打ちをする為にも訓練所は必要だと思った。
訓練所があればウォルガフと、模擬戦闘とか出来るしな。
手加減してくれるかは微妙だけど……
「よしっ決めた!!」
と言うわけで、四つ目の土地は訓練所として使用する事にした。
外壁はあっても困らないが、なくても別にいい。
見た目の問題だから、ルシュガに暇な時にでも作ってもらおう。
早速更地の中央に立ち、意識を魔法力へと向けると……
胸の奥深くで魔法力を感じてきた。
前回は、魔法力ではなく俺の身体が時計回りに回っていたが、今回は違う。
洗濯で見た渦を思い浮かべながらも、魔法力をグルュングルュンと回して見た。
「おっおぉぉぉ!?」
俺の身体は、時計回りに回る事なく体内で魔法力が回っている感覚を覚えた。
っとなれば……
早速試し打ちをしなくなる。
周りには何もない。
闇雲に魔法を発動させ、マイホームに直撃し崩壊してしまう可能性だって少なからずあるだろう。
建築の材料で残った木材を持ってきた俺はそれを、地面に突き刺し的として立ち上げた。
比較的弱い魔法で、先程の木材目掛けて試し打ちを開始する事にした。
「大気に満ちし大いなる炎の塊よ…」
体内で練られた魔法力が、杖へと流れ込んで行くのがわかる。
発動する前から、これはやばいかも? と思ってしまうぐらいだ。
「我の言葉に従え……」
杖からキュィーンと高音の音と共に中にある宝石が、魔法力が魔力へと変換され凝縮していくのがわかる。
「フレアボール!!」
言葉と共に杖から炎の球が木材目掛けて発動される。
ボンッ!! と音がしたと思うと、瞬く間に木材は燃えカスになっていき何も残さず綺麗に消えて行くのであった。
「すっげぇ……」
いつものフレアボールの威力の比ではなかった。
フレアボールなのに、魔法使いで発動出来る最高火力フレアストライクよりも十数倍の威力があるようにも思えた。
「これが、魔力を練るか……」
確かに素晴らしい攻撃力を誇っている。
だけど、欠点もある事に気がつく事が出来た。
意識して魔力を練り、詠唱……魔法を発動する事が出来れば、最強だとは思う。
だが、実践ではどうだろうか?
前衛職であるウォルガフやロジェがいる時は、練る事は可能だと思う。
しかし……
一体一になった時……
敵が悠長に待っていてくれるはずがない。
「ふむ、詠唱しながら魔力を練り上げるしかないだろうな……」
試しに詠唱しながら魔力を練り上げる事は可能だったが、先程のフレアボールよりも見るからに弱い魔法が発動したのであった。
これは、訓練して実践Levelまで引き上げるしかないだろうな。
「よしっ!」
ウォルガフたちが戻って来るまでの間に、やるべき事は決まった。
後はひたすら詠唱しながら魔力を練り上げる。これを重点的に反復しながらウォルガフたちが、帰って来るまでの間にひたすらやり続けようと思ったのである。
◾︎◽︎◾︎◽︎◾︎◽︎◾︎◽︎
五日間後。
その間、ウォルガフは帰って来る事はなく、俺はひたすら魔法を発動し続けていた。
結果……
フレアボールだけ、最初に放った威力まで引き上げるまでに成長を遂げ、他の魔法も今までとは段違いに威力の向上する事が出来た。
「フレアボール!!」
発動と同時に瞬く間に目標としていた木材は、塵と化していく。
「いい感じだな!」
「うわぁ……強烈……」
ガッツポーズを取って満足していた俺に、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきたのである。
振り返ると、そこにはウォルガフとロジェ。そしてグゥがいたのであった。
「あっおかえり〜」
「リュウイたん、お腹空いたぁでちゅ〜!!」
ただいまも言わずに真っ先にお腹空いたと言うウォルガフ。流石だ。
「リュウイさん、今の本当にフレアボールなの?」
ロジェの言葉に俺は自信をもって頷くのである。
「へぇ〜明らかに今までのフレアボールと違うけど、リュウイさんなにかしたの?」
グゥの言葉に俺は、ベーレの元で出来なかった『魔力を練る』これが出来るようになった事を告げると、ロジェもグゥも『あぁなるほど〜』と口を揃えて言い納得してくれた。
ウォルガフはこの話自体興味はなく、新しく出来た訓練所を元気よく走り回っていた。
そして、突然の急停止。
どうしたのかな? と思っていたら、俺の顔を見ながら再度お腹が空いたとの事だった。
「じゃご飯食べようか」
マイホームに移動し、食事を食べ終える頃を見計らって俺は出来上がった三人の防具を渡す事にしたのである。
「ウォルガフは籠手が欲しい。って言っていたから、攻撃力アップが付加されているドラゴンの籠手だ」
「おぉぉぉぉ、ちゅごい! リュウイたんありがとでちゅ!!」
早速両腕に装着したウォルガフはロジェに『かっこいいでちょ』と言って見せびらかしていた。
ロジェの痛い視線を感じながら、慌てて取り出すのはロジェの為にも用意した物だ。
「ロジェには、服だ」
「俺、鎧って言ったはずだけど……?」
「鎧だとロジェの能力の足枷になると思ったんだ」
「?」
「格闘家は素早さ命だろ?」
「……まぁ確かに。でも俺……鎧が良かったな」
「鎧ではないけど、これだって素早くて、防御力もある防具。ミスリルの服だぞ?」
「!!」
ミスリルの服と聞いた途端ロジェは目を丸くして、凝視し始めた。そして、早速袖を通してくれるのである。
「おぉぉぉ軽いっ!! リュウイさん、ありがとなっ!!」
ロジェも大変喜んでくれた。
良かった……
次は俺たちの食べた食器を黙々と洗い続け、ひと段落しソファで飲み物を飲んでいるグゥだな。
「グゥさんにはロジェと同様に、ミスリル素材で出来ている杖を用意しました」
杖を受けったグゥはブンブンと振り回し、自分の手に馴染むかどうか確かめ魔法を発動していくのである。
「オーロラシールド X!!」
俺だけを対象として淡く光輝くドーム型の防護壁が展開されて行くのを見守ると、グゥは満足そうな笑みを浮かべ口を開くのであった。
「発動速度も速いし、消費MPもいつもより少ないわ。ありがとう、リュウイさん」
「いっいえそんな……」
グゥに面と向かってお礼を言われ、身体が火照っていくのがわかった。
嬉しくて照れてしまったようだ。
「じゃぼくたちからも、リュウイたんにプレゼントを渡ちぃまちゅ」
「これ取るの苦労したんだからなぁ」
「全くよっ」
「あぁ、確かアルセフルの洞窟って所に行ってくれたんだよな?」
「リュウイたん、なんで知っているのでちゅか?!」
「ムーンフェイズの受付のお姉さんに冒険者カードに、パーティの所在地が表示されているって事教えてもらったからだよ」
「冒険者カードにそんな機能が!? ぼくちらなかったでちゅ」
「……」
まっ……ウォルガフらしいな。
受け取った魔導書は、ギェクサグラマと言う魔法で魔導師の使える中では、一番の高火力を持つ物だそうだ。
ギェクサグラマ・フレア
ギェクサグラマ・ライトニング
ギェクサグラマ・アイシクル
この三つの魔法を手に入れた俺は、訓練場で早速試し打ちをしようとしたのだが……
ロジェとグゥに、ここら辺一体を焼け野原にするつもりか? と言われてしまった。
シャムス・ヴィルムを超える破壊力。試し打ちしたかったな。
「所でリュウイたん。もう準備する事はないでちゅよね?」
「……あぁ。準備万端だっ」
「わかりまちぃた。では明日の朝、魔王様の所にチラ見しにいきまちょう」
「おうっ!!」
ウォルガフの言葉にいよいよかと思うと流石に緊張している自分がいた。
魔王城に行って、もしかしたら封印されたクリスタルが目の前にあった時。
俺はどうするのだろうか……?
Level.50で覚えた【解放】を迷わず発動し封印を解くのだろうか?
その為に覚えたスキルだとは思うが……
一度使ってしまえば、俺がヒューマンだと言う事がバレてしまうのではないだろうか?
そうなれば……
沢山の魔族たちが俺を殺そうとしてくるのでは……
「ふぅ……」
今回は魔王をチラ見するだけだ。
解放が目的ではない。
無理をしてまで魔王に戦いにを挑む必要は今はない。
最も挑んだ所で、Level.50の俺では歯が立つわけがないんだ。
ヒューマンってバレないよな………
「……」
大丈夫。
……大丈夫!!
何度も大丈夫と自分に言い聞かせ、無理矢理眠りに着く事にしたのであった。




