【16】
マイホームに戻った俺たちは、一先ず休息を取る事にした。
各自二階にある部屋に赴き、疲れを癒すかのように眠りにつくのである。
十日間フカフカのベットではなく、テントの中で寝ていたと言う事もあって疲れは蓄積されていたようだ。
三人はベットに一直線に進み、既に気持ち良さそうに寝ている。
そんな姿を見ながら俺も自分の部屋に足を踏み入れベットで寝転がるのだが……
目標であったLevel.50になった事が、余程嬉しいのだろう。
身体は休息を取りたいと感じている筈なのに、妙に気分が高揚し眠気が訪れる事はなかった。
「新しい能力か……」
天井を見上げシステムメニューを開きながら眠気が訪れるまでの間、早速追加された能力を確認して見る事にしたのである。
【転生者 II】
敵の攻撃によりHPが五分の一まで減少した際、一時的にゲーム時代の能力が解放されるパッシブスキル。
解放される能力は、以前の転生者よりも強く設定されている。
ふむふむ、確か以前の転生者はHPが三分の一になると発動していたな。
ん? と言う事は……今俺のHPから計算すると、HP108……ぐらいかな。
魔法使いは元々HPは低くMPは高めに設定されているから、三分の一だろうと五分の一だろうと対して違いはないかな?
【ラグナロク II】
通常能力の五倍から最大十倍とランダムに能力値は強化され高速八連撃を繰り返す。
直後は二十五秒間の硬直時間あり。
相変わらず使い所は考えなければならないが、結構いい感じではないだろうか?
二倍から最大十倍だったのが五倍から最大十倍へと振れ幅が減少しているし、更に回避不可能の高速五連撃が八連撃に変わった事これも大きい。硬直時間も少しだけ減っているけどこれは微々たる物だな。
次に新しく目覚めた能力を確認してみるかな。
【ヒューマンの誇り Level.1】
クリスタルに封印されているヒューマンを解放する事によって、Levelは上がり更なるステータス強化をする事が出来るパッシブスキル。
Levelを上げるには、封印されているヒューマンを千人解放する必要がある。
千人って多くないか?
いや、俺は真っ先に魔王に殺されたけどヒューマンはあの時何人いたんだっけ……
確か、ウォルガフの話では一万人だったな。
と言う事は全てのヒューマンを解放すると、最終的にLevelは10になるって事か。
ステータスがどれくらい強化されるかだな。
【解放】
クリスタルに封印された者たちを解放する為に必要なスキル。
使用方法はクリスタルに触れ、解放と唱えればヒューマンを解放する事が出来る。
尚、解放されたヒューマンの処遇については、よくある質問『強くてニューゲームについて』を参照する事。
との事で早速確認しようとしたのだが、まず先にヒューマンを解放しなければならない。とシステムメッセージは警告してきたのである。
なんなんだよっ……たく。
そもそも、ヒューマンは今魔王の元でクリスタルになっているだろ?
魔王に気づかれないようにクリスタルを、解放していけって事なのだろうか?
うむむむ……
と唸っている間に、眠気が突然襲いかかり眼を開けている事も叶わず。
その瞳を閉じていくのであった。
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「リュウイたん、お腹空いたでちゅ……」
気持ち良く寝ている俺に、ウォルガフは身体を揺らしお腹が空いたと言いながら起こしてきたのである。
「んぁ……」
少し寝ぼけながらも、上半身を起こし上げウォルガフの姿を確認するのであった。
「どれくらい寝ていたんだろう……?」
「うんちょ〜もうちゅぐ夜でちゅよ」
「そうか……大体二時間ぐらい寝たって所かな?」
ウォルガフの俺を見る目つきが変わった。それは以前、ロジェにされた目つきにもよく似ていた。
『なに言っているんだぁこいつはぁ?』
そんな目だった。
「違いまちゅよ。ぼくもみんなも丸一日中寝ていまちぃた。ぼくも少し前に起きたのでちゅが、今は次の日の夜でちゅ」
「へぇっ?」
なんと、そんなに寝ていたのか……
だから、よく寝たぁ。と思ったのか。
ウォルガフが、お腹を空かせているのも頷けるな。
「ふちゅ……お腹空いたでちゅ……」
「……」
極端すぎる。お腹が空き過ぎてウォルガフは、覇気と言うか元気がないようだな。
確かに、丸一日食べていないとなると当然お腹は空くけどさ。
「よし、約束通り宿屋汐音に行こうか」
「はいでちゅっ!! わ〜い♩一杯食べるでちゅ〜」
そう言ってウォルガフは俺の部屋を出て行き、一階へと降りて行くのであった。
しっかし、こんなに寝るとは思ってもみなかった。
あの十日間、夜はきちんと休息をとり身体を休めていたとは言え、今思えばハードだったんだな。
でも、そのおかけでLevel.50になった。
うん……
なんかこう……
達成感に満たされているかも。
「リュウイたぁぁぁぁん!! 早くぅぅぅぅぅ〜〜!!」
一階から響き渡るウォルガフの声に、大急ぎで身支度を整えた俺は一階ロビーへと向かうのであった。
「おはよう、リュウイさん」
飲み物を飲みながらソファでくつろいでいるグゥ。
「よく寝れたみたいだね」
準備運動なのか? 身体をほぐしているロジェ。
「早く。リュウイたん早く行こうでちゅっ」
腹ペコなウォルガフ。
「じゃ早速ムーンフェイズに行ってご飯食べようか」
「わーい♩」
「ちょっと待って。行くにしても、ムーンフェイズまで徒歩で行く気なのかしら?」
グゥの指摘通り今の俺たちには、ムーンフェイズに行く為には徒歩しかなかった。
ここから徒歩で行くとなると、近道を通ったとしても僅か数分で着く事はない。
腹ペコのウォルガフが、そんなに待てる筈がないのだ。
ならばどうするか?
ポータルの石は、ムーンフェイズに行かなければ購入する事は出来ず。そもそもポータルの石の存在を知ったのはつい最近であって、ムーンフェイズに行く事が出来るポータルの石を俺たちは今所持してはいなかった。
誰もが徒歩だな。と思っている中、俺だけ別な事を考えていた。
「グゥさん、徒歩でムーンフェイズには行かないよ」
「じゃどうするの? ムーンフェイズのポータルの石誰か持っているの?」
グゥの視線に俺やウォルガフ、ロジェが同時に首を横に振り持っていない事をアピール。
グゥは呆れながらも……
「じゃ、やはり徒歩しかないじゃない?」
「先ずは、ルシュガさんを探します」
「はぁっ?」
「まだ作業している筈ですから」
理解出来ない顔をしながらグゥは、マイホームから出て行く俺たちの後を『なんなのよ。ったく』と言いながら付いてきてくれるのいであった。
ルシュガは大量にある黒曜石を一生懸命積み上げていた。
ってか、手作業ですか!?
いくら平屋で天井は低いとは言え、ルシュガの職人魂は素晴らしいと思ってしまう。
積み上げられた黒曜石の外壁は、漆黒の黒でとても美しく綺麗。
更に、光の角度によって一部が虹色の綺麗な色にも見えたのである。
中にも入ってどんな内装をしているのか確認してみたい。
そんな衝動に駆られていた。
グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!
ウォルガフの腹の虫が鳴り響きハッと我に返るのである。
内部を見るのは、完成した時のお楽しみにしようと決めたのであった。
「ルシュガのおじちゃ〜〜んっ!!」
「おぅっ、ウォルガフじゃねぇか。相変わらず元気そうだな」
「うちゅっでちゅ」
「どうしたんだ? ゾロゾロと?」
追加の依頼か? と言いそうな顔をしながら、ルシュガは俺を見つめるのである。
「ルシュガさん、今日の作業は終わりですか?」
「あぁ……陽も傾いてきたし、そろそろ帰ろうかと思っていた所だ」
よしっ狙い通りだ。
「じゃ俺たちも便乗させて下さい」
「なるほどな。いいぞ」
そう言ってルシュガは、俺が以前に渡した帰還の葉を取り出していく。
「帰還」
言葉と共にマイホームからあっという間にムーンフェイズのルシュガの家の目の前に辿り着くのであった。
もっと早くこの事に気がつけば良かったよなぁ……
ルシュガにお礼を言った俺たちは、宿屋汐音に向かう事にしたのであった。
腹ペコ状態のウォルガフはもう待ちきれず『先に行ってまちゅ!!』とだけ言い残し、物凄い勢いで走り抜けていくのである。
やれやれ……
今日の食事代は覚悟するかな。
ムーンフェイズに差し込む夕陽は綺麗で、その夕陽を眺めながら向かうのもまた気分が落ち着いて良かった。
「あっ所でロジェ」
「んっ? なんだい?」
「ウォルガフもロジェも、なんでランクアップしなかったの?」
「……」
「ウォルガフに聞いたら、ロジェに聞いてくれって言われたんだけど」
「種族差と言うのかな」
「種族差……?」
ランクアップする最低条件として挙げられるのが、Level.200である。
そして、魔族四種族にも適正職業と呼ばれる物が存在している。
例えば、己の身体を鍛え力を得意とするガルヴァルデ族は前衛系。即ち剣士や武闘家、守護剣士。
魔法を得意とするムーンサン族は、魔法使い、僧侶、神官。
召還や遠隔操作、結界を得意とするデューンキーパー族は、召喚士、念動力士、結界士。
と種族によって適正職業が分かれているのである。
「あぁ、確かに前そんなような事を聞いたねぇっ。でもフォス族は他の種族の長所を全て引き継いでいるんだろ?」
「そうだよ。でもそのせいで俺たちはフォス族には適正職業ってのが存在しないんだよ」
「んっ? 存在しないとどうなるんだ?」
「適正職業でない場合、ランクアップする為に必要なLevelは300」
「まじかよっ」
俺はヒューマンなので例外だが、Level.200までは比較的上がりは良い。
グゥだってLevel.1から始めたのに十日間の三倍期間でLevel.100まで上がる事が出来た。
となると、Level.200を超えているウォルガフやロジェにとって今回の戦い果てして経験値効率は悪かったんだろうか?
なんとかLevel.300にする事は出来たけど……
それだって運良くなれたのかもしれない。
ゲーブングの街にいたヴァリエート。彼の言っていた言葉の意味。
『フォス族は弱い……』
なぜあの時そのような言葉を言ったのかはわからなかったが、Level.300にならなければランクアップ出来ない。と言う理由がわかった今、その言葉の意味を理解する事が出来た。
200と300では違いすぎだよなぁ。
「まぁウォルガフはLevel.300になったからランクアップするのかもね」
「ロジェも後10でLevel.300だろ?」
「まぁね」
「その10が途方もないんだよ」
「……」
「今もカルヴァ地域のサハギュインは、経験値倍だろ?」
「魔族たちがも一杯いる所には行きたくないよ」
「ふむ、そうか」
俺は、Level.50になった時点で勝手にランクアップして魔導師になる事が出来た。
ウォルガフも、フェイオンに行けばランクアップ出来る。
ロジェだけがランクアップ出来ないって事が俺には気に食わなかった。
どうにかして、ロジェをLevel.300にしたいな。
忘れないうちにポータルの石を購入した俺たちは、ウォルガフが待ちくたびれているであろう宿屋汐音へと向かうのであった。
この時間帯は、一日の疲れを癒すかのように酒や食事を楽しみながら魔族たちは談笑し賑わいに満ち溢れていくのである。
時には大騒動にはなるものの、ムーンフェイズの中でも宿屋汐音は人気店の一つだった。
だから、俺はこの時間帯は暫く待たされるだろうな。と思っていたのだ。
ウォルガフが大急ぎで駆け抜けて行ったのも、少しでも待ち時間が減らし早く食事にありつこうとしての算段だと思っていた。
なのに……
宿屋汐音は、賑わいに満ち溢れていなかった。
五.六人の魔族たちが、楽しそうに食事を摂っているだけで何時もの騒がしさはいずこへ? と言うのが久しぶりに足を踏み入れた第一印象だった。
ウォルガフは特等席で、既に大皿五枚はペロリと食べ終えていた。
「俺も食べる!!」
慌ててウォルガフの隣に座りロジェも食べ始めるのであった。
「よぉ、久しぶりだな」
と話しかけてきてくれたのは、厨房で汗だくになりながらも料理を作っている宿屋汐音の亭主だった。
「ったく冒険者たちが、こぞってカルヴァ地域に行ったかと思えば、フォス族のご来店だ。久々のゆっくりな休日がなくなってしまったわっ!!」
と皮肉を込めて言われてしまった。
どうやらムーンフェイズにいた魔族たちは、Level上げ目的でカルヴァ地域に赴いているようだ。
多分冒険者ギルドからの情報なんだろうな。
あっ冒険者ギルドと言えば、報告にも行かないとな。
「取り敢えず、腹ペコ二人組がいますのでよろしくお願いします」
亭主にそう言った俺もウォルガフの隣に座るのであった。
「……」
「おかわりでちゅっ!!」
「俺もぉぉ!!」
相変わらず食べっぷりは激しいなぁ。
口の周りはソースだらけ、消化に悪いからもう少し味わって食べようね。
◾︎◽︎◾︎◽︎◾︎◽︎◾︎◽︎
「ぷはぁぁぁ〜一杯食べたでちゅ〜」
再びマイホームに戻ってきたウォルガフは、そう言葉を漏らしていた。
大好物のアップルパイも食べれる事が出来たし満足してくれたようだ。
現在ロジェは、一人でお風呂に入り疲れたぁと言って先に布団に入り既に就寝中だ。
風呂の空いた後、グゥは懲りずにウォルガフに一緒に入ろうと誘いあえなく玉砕。現在一人で入浴中である。
俺とウォルガフは、マイホームの庭でルシュガが作ってくれたデッキチェアに横になりながら満天の星空を見上げていた。
ルシュガの作る物は実に素晴らしい。
このデッキチェアは、俺が渡した余り物の木材を利用して作成してくれたのだが、座り心地がとても良くリラックスできる完璧な出来栄えだ。このまま寝てしまいそうだった。
「綺麗な星空でちゅね」
「……あぁ、そうだな」
思えば、ゲーム時代星空が綺麗だとかそんな感情なんて全く芽生える事はなかった。
クリスタルに封印されなくて良かった。
ウォルガフと出会えて良かった。
素直にそう思えた。
「あっそうだ。ウォルガフ」
「うちゅ?」
「Level.50になったら魔法使いから魔導師に勝手にランクアップしたぞ」
「おぉぉぉぉぉ!!」
「更にサブ職業の剣士もランクアップしてた」
「なんとっ!!」
もっとも条件がLeve.50だとは思うけど、魔導師の場合魔法Levelとかもきっと関係しているんだろうな。
助かった事と言えば、グゥみたいに魔法都市フェイヨンにある建物の中に入りランクアップ手続きをしなくても、ランクアップ出来た事だ。
ランクアップする建物は、ヒューマン特定装置の可能性もあったし俺には願ったり叶ったりだった。
更に嬉しい事にグゥは僧侶から聖職者へランクアップをした時にLevel.1になってしまったが、俺は違った。
Levelは50のままだ。
またLevel.1に戻るのではないかと思ったが良かった。
Level.50……
そう当初の目標であったLevel.50になる事が出来たんだ。
「確か魔王に会うにはLevel.50からだよな?」
「でちゅ。でも末端の席からでちゅよ?」
「十分だ……」
きっかけは、ウォルガフと最初と出会った時。
俺は遠くからでもいいから魔王の姿を見て力の差を知りたい。そう言った。
……その思いは今も変わっていない。
ヒューマンの誇りと解放と言う追加スキル。
このタイミングでクリスタルに封印されたヒューマンを解放するスキルが追加されたって事は、近いうちに俺はヒューマンを解放するのかもしれない。
だから、俺は魔王にチラ見でもいいから行くべきなんだと思う……
「ふぅ〜〜」
空を見上げ、大きく深呼吸したのちにウォルガフを見つめ口を開く。
「ウォルガフ……」
「うちゅ?」
「俺を魔王の元に案内してくれ」
「……」
俺の言葉にウォルガフは無言で、力強く頷いてくれるのであった。




